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ジャンル:等倍プリズムスコープ
SWAMPFOX社のコンパクトな等倍プリズムスコープ。その実力をPrimary Arms社のライバル機「SLx 1X」と徹底比較していきたい。
検証人数:3人
実弾射撃評価:有り(Benelli – M2、Type89、Minimi)
執筆時期:2024年1月
※2024年10月:後編にてマグニファイアを用いた評価を追加。
※本製品の購入等に協力してくださいました、デザートカウボーイ様に感謝いたします。本製品はデザートカウボーイ様にて購入可能です。
●デザートカウボーイ様公式サイト
●SWAMPFOX – Raider 1×20 Micro Prism 販売ページ
https://desertcw6.com/products/detail.php?product_id=5350
●比較に用いたPrimary Arms – SLx 1X MicroPrismのレビューは下記へ ↓ ↓
SPECS | 性能諸元(公式)
メーカー名(メーカー国・製造国) | SWAMPFOX(アメリカ合衆国・中華人民共和国) |
サイズ(全長×全幅×高さ) | 65mm×52mm×58mm(ローマウント時) |
重量 | 224グラム |
対物レンズ径 | 20mm |
倍率 | 1倍 |
視野(FOV) | 70.7ft / 100ヤード:21.5m / 100m |
レティクル | BRC(本製品)、6MOAドット |
イルミネーター | 緑色LED:10段階調光(内3段階は暗視装置用) |
使用電池(電池寿命) | CR2032リチウム電池(35000時間) |
防水性能 | IPX7 |
耐衝撃性能 | 1200G |
価格(国内価格) | 279ドル(2024年、5万円代で販売) |
Pros & Cons | 一長一短
※ここはあくまで、KUSEMONO TACTICALが想定する使い方、視点から見た一長一短です。
※一長一短をわかりやすく表記しているだけであり、項目の数や内容、順番による採点評価ではありません。
優れている点 | ✓T1やT2系のフットプリント |
✓近接戦闘で素早く狙いやすいレティクル | |
✓300ドル以下とは思えないクリアで歪みの少ないレンズと高い耐久性 | |
✓余裕のあるアイリリーフとアイボックス | |
✓ARDが付属している | |
改善を要する点 | ✘光源を背にした際に目障りなゴーストが出やすい |
✘イルミネーションが対物レンズからよく見える | |
✘イルミネーションは日中で使うには光量が足りない | |
✘電子スイッチ式なのにバッテリーコンパートメントの出っ張りが大きい |
沼地の狐、プライマリーアームズを襲う
前回までのあらすじ……極々一部の需要しかなく、日の目を久しく見なかった1倍率プリズムスコープ。だがPrimary Arms社が手掛けた、コンパクトで見やすく、手ごろな価格で高い完成度なSLx 1X MicroPrismの誕生により、このジャンルとしては異例のヒット商品となった。そんなSLx 1xを、コロラド州在住の沼地の狐が襲い掛かるタイミングを見計らっていた……
SWAMPFOX(スワンプフォックス:直訳すると沼地の狐。会社の正式名称は、SWAMPFOX OPTICS)社は2018年にできたばかりの、米国コロラド州に拠点を置く光学照準器メーカーである。KingslayerやSentinel等のハンドガン向けダットサイトで一部人気があるが、米国でもまだまだ認知度の低いメーカーだ。日本国内でこのメーカーを知ってたる人はなかなかのマニアだ。
→スワンプフォックスという社名の由来は、アメリカ独立戦争時代の軍人でありゲリラ戦の父とも言われているFrancis Marionの別名「Swamp Fox」から。
→精密射撃スコープも販売しているが、基本的にはCQBやホームディフェンスに重きを置いた設計の光学照準器を多く出している。
そんなSWAMPFOXが、プライマリーアームズ社の人気等倍プリズムスコープ、SLx 1Xを意識・対抗して作ったと思われるのがこのRaider 1×20 Micro Prismである。似通っている点もあれば、正反対の点もある。そこで、今回はSLx 1Xと比較しながらレビューをしていきたいと思う。果たして沼地の狐はプライマリーアームズを喰うことができるのか?
→Raiderは「侵略者」や「襲撃者」の意味。
→そう言えば似通っている一面として、Primary Arms – SLx 1Xにはその前身とも言える「SLx Compact 1x20mm」という一周りほど大きな等倍スコープがあったが、このSWAMPFOX – Raiderにも同じく前身のような「Blade 1x25mm Prism Scope」という兄がいる。
まずは外観の比較からしていこう。
●SLx 1xのコロンと丸みを帯びた形状と比較して、RAIDERは少し角ばって一皮大きな印象を持つ。
●それ故か、少しレトロで懐かしい外観をしているSLxと比較して、RAIDERは近未来でSFな光学照準器な印象を受ける。
●ボディ素材は光学照準器に多いアルミニウムではなく、亜鉛ダイカストでできており、公式ではそのことを自慢気に宣伝している。亜鉛ダイカストは、アルミニウムと比べて頑丈で安く、複雑な形状に作りやすい特徴がある。
●少しさらっとしていたSLxの手触りと比べ、RAIDERには少しざらつきがある。
プライマリーアームズ SLx 1Xのレビューでは、ダットサイトとの置き換えができるのか?というテーマで行っていたので我が研究会のダットサイト代表であるAimpoint Micro T-1も連れてきてのサイズや重量比較をしてみた。
●やはり角ばってちょっと大きく見える印象通り、全体の大きさは他2者とくらべて一皮大きい。
●もちろん重量もサイズに比例しており、SLxより22グラム重く、T1より107グラム重い。T-1系の小さなダットサイトと比較すると重いが、ホロサン HS512C(246グラム)のような大型ダットサイトやホロサイト系(300グラム前後)と比較すると軽いイメージだ。
→重量は付属のローマウントと電池込みの重量。
●RAIDERの224グラムという重量は、公式重量であると共に、後述するレンズカバーを装着した重量だ。上の写真のようにレンズカバーを外した状態では217グラムである。
ここからはRAIDERの各部詳細を見ていこう。
●対物レンズは青や緑系、接眼レンズには少し緑系のコーティングが施されている。
●RAIDERの対物レンズ径は20mm、Primary Arms SLx 1xは公表されていないが、ざっと計測する限りはほぼ同じだ。
●接眼レンズ径はどちらも公表されておらず、こちらで計測する限りではRAIDERが22mm、SLx 1xが23mm。
●SLx 1xのイルミネーション操作が側面のバッテリーコンパートメント兼ロータリースイッチだったのに対し、RAIDERは本体上部にあるシリコンカバーで覆われた電子スイッチとなっている。
●電源ON&輝度アップボタンは少し飛び出しており、電源OFF&輝度ダウンボタンは凹んでいる形状をしている。わかりやすいようにこのようにしたのだろうが、手袋をしていると後者の感覚がわかりにくい。
●この電子式のイルミネーションスイッチの指へのフィードバックそのものは、プコっ、プコっとわかりやすい部類。ただ、似たような上部電子スイッチだと、SIG SAUERのRomeo 4シリーズのほうが押しやすい。
●この電子スイッチだが、電源を切る前に点灯していた明るさを次も保存して点灯してくれるのは良いのだが、やはり今何段階目の明るさに灯っているのかがわかりにくい。個人的には、Slx 1Xのようなロータリースイッチ式のほうがわかりやすく好みではある。
●ちなみに、今回の使用で2度ほどスイッチを押しても反応が無かった不具合があった。
●接眼レンズ後方にある視度調整ダイヤルの件だが、恐ろしく硬かったSLx 1xの視度調整ダイヤルと比べて、こちらは少し硬めなだけで問題なく動く。視度調整ができるため、ダットサイトやTrijicon ACOGと比べてより多くの人の視力に合わせた調整が可能だ。
●問題点として、せっかくイルミネーションのスイッチ操作を上部に集約しているにも関わらず、SLx 1xのようにロータリースイッチ機能のあるものよりも大きく出っ張ってしまっているバッテリーコンパートメントが気になる。
●これはレンズを覗いた時により大きく感じる。接眼レンズ縁からバッテリーコンパートメント端までの長さは、SLxは13.5mmに対して、RAIDERは15mmとなっており、それ故レンズを覗いた際により大きく出っ張っていると感じやすくなっている。
●それに加え、SLx 1xが丸みを帯びた無駄の少ない形状に対して、RAIDERはポテっとしており各部が角ばっているデザインであることも要因のひとつだろう。
●SLx 1x同様、むき出しのウィンデージ&エレベーションダイヤル(レティクルの上下左右調整)は、カチッカチッとフィードバックもわかりやすく、SLxより更に良い印象だ。
●ダイヤルの最大移動量は90MOAとSLx 1Xの120MOAよりは少なめ。1クリックの移動量は1MOAと同様なので、ここは両者もう少し細かく動いてくれれば尚良かった。
●ウィンデージとエレベーションダイヤルの印字は一見するとSLx 1Xと似ているようでところどころ違う。
→このRaiderがそれに該当するかどうかは別として、低価格帯の光学照準器は、製造元が中国の同じ工場だったりすることがよくある。そのため、全体や各部位が似ている光学照準器は多い。
ここからは付属品類やマウントの話に移ろう。
●ちょっと話は逸れるが、SWAMPFOXは「50000発保証」という製品保証を設けている。当然、厳密に50000発以上の射撃をしていないかどうかはチェックされるわけではなく、遠回しの生涯保証ということらしい。(LEDは10年保証)
●説明書はカラーで見やすい。各種操作方法やレティクルの説明も簡潔でわかりやすく書いてある。
●また、レティクル各部位のサイズが表記されている点は好感が持てる。レティクルのサイズがわかると、様々な射撃に応用が効く。
●付属工具は2種類付いてくる。手前の行司が持つ軍配のようなのが本体とマウントを繋ぐネジとダイヤル類を調整するための工具。奥がマウント用のT25トルクスレンチ。
●軍配に似た工具の側面の丸い出っ張りは、エレベーション&ウィンデージダイヤルに差し込んで調整するためにある。ここは樹脂製なので、ダイヤルが傷つきにくくて良い。
●付属の樹脂製レンズキャップは、左側面のバッテリーコンパートメントへ繋がっている。電池蓋を取り外すと脱着させることが可能だ。
●このレンズキャップ、射撃時にはそのままバッテリーコンパートメントに付けることが可能なのだが、より大きく左側面が出っ張るので視界の邪魔になりかねない。
●また、銃の反動や藪漕ぎや装備に接触することにより外れ、ブラブラと邪魔にもなる。それ故に早々に取り外した。
●嬉しい付属品として、ARD(Anti Reflection Device:反射防止キャップ)が付いてくる。SLx 1xでは別売りオプション品だ。
●その名の通り、周囲の眩しすぎる光源を抑え、こちらのイルミネーションはやレンズの反射を軽減することが可能だ。
●また、レンズを大きな異物から保護することもできるため、サバゲーマーにとっても良い付属品だろう。
●付属の20mmピカティニーマウントは、レール上部からレンズ中央部までの高さが1.1インチ(27.9mm)となるローマウントと、1.6インチ(40.6mm)になるハイマウントの2種類が付属する。ここで大量の嵩上げライザーが付属するSLx 1Xと比較するのはあまりにも罪なのでやめておく。
●普通のオプティクスはこれくらいで十分だし、そもそもRAIDERはエイムポイントT1、T2系のフットプリント設計なので巷には無数の対応マウントが溢れかえっている。よりどりみどりであり、好きなものを選びなさい。
→プライマリーアームズ SLx 1XのフットプリントはTrijicon ACOGの小型モデルと同一。サードパーティ製の数はRAIDERのT1系のほうが圧倒的だ。
●マットな銀色のマウントネジは、チタニウム製のトルクスネジ。サイズはT25であり、これもSLx 1Xと同様。
●ライフルや散弾銃に多い、トラディショナルなストックの銃器に付ける場合、ローマウントは本体側の嵩上げ分をもう少し薄くして、さらに低くマウントできればより良かった。この点は、同じくローマウントが1.1インチであるSLx 1Xも同様。
●こちらの写真は1.6インチハイマウント。マウントの強度や精度は少し質が悪いかなといった印象。今回のレビューをするにあたり、5.56mm弾から12番ゲージスラッグ弾等様々な銃器や弾種で射撃を行い、脱着を繰り返したが、マウントの傷つき具合やゼロインのズレが少し目立った。
●致命的とまでは言わないが、せっかく巷に星の数ほど溢れ返るT1系フットプリントなので、私ならより質の良いマウントに買い替える。
●ちなみに、別売りオプション品としてより高い1.9インチ(48.2mm)の純正ハイマウントもある。
レティクル │ BRC(Bullet Rise Compensation)
レティクル中央から下に連なるように点だの小さな線だのがちょこちょこと表記されている場合、そのほとんどはBDC(Bullet Drop Compensation:距離による弾道落下予測)機能があるのだと思うことだろう。だが、このRAIDERは違う。距離が離れることによってどれほど弾道が落下するのかを表記するBDC(Bullet Drop Compensation)ではなく、距離が近づくことでどれほど弾道が上がっていくのかを表記するBRC(Bullet Rise Compensation)機能が付いている。それでは、RAIDERのBRCレティクルについて順を追って説明しよう。
●中央部は上を向いた矢印型レティクルとなっている。この矢印レティクルの線の厚みは2MOA。
●その周囲を取り囲むように、外径102MOAの大きめの馬蹄型サークルレティクルがある。このサークルレティクルの線の厚みは6MOA。
●さて、そして中央矢印型レティクルの下に連なるように6MOAのドットが印字されている。これらがBRCとしての機能となる。
●BRC機能を使うには、まずセンターを50ヤード(45.7m)もしくは200ヤード(183m)でゼロインを行う。すると、矢印最底辺部で15ヤード(13.7m)、その下のドットで10ヤード(9.1m)、一番下のドットで5ヤード(4.5m)の距離でのBRCとなる。
→このBRC機能は、5.56x45mm弾を用いたAR-15ライフルに最適化されてはいるものの、ボア(銃身内部)と照準器の高さが同じであれば、22LR弾から.308弾まで同じく機能すると公式では言っている。
●Primary Arms – SLx 1xがBDC機能を用いて中距離にも対応しているのに対し、こちらは完全に近距離射撃、CQBを想定した設計にして、明確な違いを出している。
●想定される使用状況はどうだろう?15ヤード以下における精密射撃や、人質を取られたり銃を向けあった状態での睨み合いでの射撃だろう。私を含め、今回検証を行った3人の研究員の意見としては、小さなターゲットを狙う射撃競技を除き、基本的にはこのBRC機能はいらないかなという意見ではある。BDC機能や、その他機能、もしくは何も無い方がシンプルで良いとのこと。
こちらの写真はPrimary Arms – SLx 1XのACSS CYCLOPS G2レティクル。
●同じ馬蹄型サークルレティクルでも、RAIDERと比べて外径が小さい。距離によってターゲットと被って邪魔に感じることもあったため、RAIDERのように大きなサークルレティクルは歓迎だ。
●ただ、中央の逆V時型のシェブロンに関しては、RAIDERよりも細くて精密射撃が行いやすいサイズだ。
●イルミネーションは、サークルレティクルとシェブロンのみが発光するSLx 1Xと違い、RAIDERは全体が発光するタイプ。
●特にCQBを想定したレティクルなので、こちらはこれで良いだろう。
●イルミネーションは10段階の明るさに設定可能で、そのうち下から2段階は暗視装置目的となっている。
●今回は緑のイルミネーションだが、他にも赤がある。また、6MOAドットのみのレティクルもラインナップがあり、こちらはもっと小さなドットであればより面白い製品となったかもしれない。
●イルミネーションについては、SLx 1xと同様に自動で電源が切れる機能を備える。無動作状態が225 秒続くと、イルミネーションを完全にオフし、振動や動作を検出すると電源が入る。
●これはSLx 1Xも同様だが、光源を背にした際、接眼レンズ部にゴーストが出やすい傾向にある。写真は左斜め上からの光源に対して、接眼レンズ左下にゴーストがぼんやりと出ているのが見て取れるだろう。
●基本的にはレンズの左右斜め下に出るため、照準への大きな邪魔にはならないが、キラキラと光って目障りに感じることはある。SLx 1Xと比較すると少しましには感じる。
●レンズの色温度は少しだけ暖色傾向に映す。SLx 1Xと比較すると暖色傾向は抑えている。
●写している方眼紙までかなり近い距離のため、少し拡大して見えている点は仕方ないが、不自然な歪み等は無く価格(2024年希望小売価格:279ドル)からは想像できないほど優秀であろう。
アイリリーフとアイボックスに関しては、SLx 1X同様に大きく余裕がある。
→アイボックスは焦点の合う上下左右のエリア、アイリリーフは焦点の合う前後のエリア。
●公式ではアイリリーフは9cmとあり、こちらで計測すると実用的な範囲は3.8cm~13.5cmであった。9cmは一番美味しいスイートスポットっといった感じだった。
●SLx 1Xのアイリリーフ範囲は4.6cm~14.3cmとRAIDERよりさらに一回り大きい。どちらにしろ十分余裕のある長さだ。
●アイボックスについても両者懐が広い。SLxと比較するとほんの少し狭くかんじるが、大きく差が出るほどではない。そのため、よりダットサイト感覚でのラフな姿勢からの射撃がやりやすい。
→もちろんだが、プリズムスコープなので、ダットサイトと違いアイリリーフとアイボックスが存在する以上は、基本的な銃器の構えや頬付け等ができていることが前提となる。それさえできていれば、SLx 1XもこのRAIDERもダットサイトからの置き換えはすんなりできるだろう。
●先ほど、アイリリーフの実用的な範囲は3.8cm~13.5cmと言ったが、離そうと思えばもっと遠くに引き伸ばすことも可能だ。レンズの視界内にプリズム体が端に見え隠れするが、写真のようにハンドガンの照準器として腕を伸ばしての使用もできないことはない。現に公式では拳銃にマウントさせている写真もあるほどだ。
では、机上や数値上での背比べはここまでだ。後編では、当研究員達が様々な実弾射撃や訓練等でSLx 1Xと同時使用、同時検証を行った内容をお伝えしよう。後編は下記へ ↓ ↓