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ジャンル:スコープ、プリズムスコープ

米陸軍や海兵隊が採用し、トリジコン社の代名詞となったプリズムスコープ

執筆時期:2019年10月

→TA31-CHを提供してくださったY氏に感謝いたします。

→TA31F-Gを提供してくださったT・M氏に感謝いたします。

→TA31Fを提供してくださったI・K氏に感謝いたします。

※追記1:2019/10/13、Bindon Aiming Conceptに追記。

※追記2:2022/07/20、レティクル及び照準写真にTA31Fを追記。

SPECS | 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) Torijicon (アメリカ合衆国)
全長 14.7cm
重量(TA51マウント装着時) 415グラム
ボディ素材 6061-T6アルミニウム
対物レンズ径 32mm
倍率 4倍
視野 (FOV) 7度
レティクル 多数あり
アイリリーフ 1.5インチ(3.81cm)
イルミネーター  集光ファイバー&トリチウム
価格 モデルによって1447ドル~1779ドル

アメリカ軍のシンボルオプティクス


私にとって最初にトリジコン ACOGを触った印象は良くないものだった。そもそも初めてで慣れないプリズムスコープに触れたというのもあるが、非常に短いアイリリーフのせいで覗きにくく、厚手のゴーグルを装着していたこともあって、射撃の度にゴーグルと接眼レンズが接触していた。これでCQBもできるゾ!というトリジコン社の宣伝文句を考えた、マーケティング部門責任者の顔が見たかったものだ。この件に関して、私が無知蒙昧だったと思い知らされたのは数年後のことだ。

とある海兵隊との合同訓練の休憩時間に、メンバーで唯一光学照準器(Leupold VX-R Patrol 1.25-4x20mm)やら何やらをゴチャゴチャと付けていた私に、話しかけてくれた人がいた。そこから彼と光学照準器の話で盛り上がり、意見交換を行った。そこで聞いた話は、私がそれまで勝手に作り上げていた固定観念とは違うACOGの正式な使い方だった。その使い方も含めてACOGのレビューを始めよう。


と、その前にまずはザッとACOGシリーズのお話から始めよう。とっととTA31のレビューを見たい人は端折ってくれていい。

米軍が採用しているACOG 4倍固定倍率のプリズムスコープに関しては、1989年にアメリカ陸軍主導による、小銃の命中精度向上や近代化改修等を目的としたACR(Advanced Combat Rifle)計画の一環で試験運用されたのが始まりだ。そこでトリジコン社のACOGは好評価を受け、TA01NSNがレンジャーやシールズ等の特殊部隊からジワジワと運用され、エルサルバドルやパナマ、イラク等の特殊作戦や戦地で実戦運用されていき、陸軍や海兵隊が正式採用したことから、アメリカ軍の代名詞のような光学照準器の地位を獲得した。

ACOGはAdvanced Combat Optical Gunsightの略称である。


Trijicon ACOGシリーズのラインナップは、倍率やイルミネーションシステム、レティクルの違いまで含めると100種類を超える多種多様なバリエーションが存在する。現在(2019年10月)展開されているバリエーションを簡単に書き出してみると以下の通りだ。

4x32 ACOGシリーズ(4倍率)

TA01シリーズ:1987年に誕生した、現存する最初期のACOGシリーズ。4倍率固定プリズムスコープで、イルミネーションは無い。

TA02シリーズ:集光ファイバーを排し、LEDイルミネーションを組み込んだモデル。トリジコンらしく、電装系の信頼性は改良後もあまり良くないとのこと。

TA31シリーズ:トリジコンの代名詞と言えばこのモデル。米陸軍や海兵隊等が採用しているTA31-RCO-M150CPやM4CPもこのシリーズの派生系。

その他の倍率

TA44シリーズ:1.5×16の低倍率モデル。

TA45シリーズ:TA44の大型レンズモデル(1.5×24)。

TA47シリーズ:2倍率モデル(2×20)。

TA50シリーズ:3倍率モデル(3×24)。

TA33シリーズ:TA50の大型レンズモデル(3×30)。

TA11シリーズ:3.5倍率モデル(3.5×35)。こちらもTA31同様にイルミネーションを排したLEDモデルも存在する(TA110シリーズ)。

TA55シリーズ:5.5倍率モデル(5.5×50)。

TA648シリーズ:6倍率モデル(6×48)。このモデルだけ、同社のAccu Pointのように接眼レンズ鏡筒上部に集光ファイバーを設置している。

倍率やレンズ径の違いをあげただけでもこんなにある。さらにレティクルの違いや、プライマリーアームズ等の他社コラボレーションシリーズまで入れると膨大な数になる。

今回紹介するのは、ACOGシリーズの代名詞であるTA31である。


これがTA31TA31-CH)だ。

ACOGシリーズのレンズは、通常のライフルスコープより全長を抑えることができるプリズム構造のスコープなので、TA31は15cm以下とコンパクトに収まっている。また、全長だけでなく全体として凹凸やクビレが多いデザインなので、スリムだ。

ボディ素材は6061-T6アルミニウムで、同社のMRO等の他製品と同じく、マットでサラッとした塗料やコーティングをしている。

ところで、ボディ側面に製品管理用のQRコードや、シリアルナンバー等がゴチャゴチャと書かれているが、その中に「JN8:12」という表記がある。

このJN8:12は、キリスト教のヨハネの福音書第8章12節を意味し、内容はこうである。「わたしは世の光です。わたしに従う者は、決して闇の中を歩むことがなく、いのちの光を持つのです」

トリジコン社はACOGのみならず、他の製品にも聖書の引用を示す記号を、戦地や修羅場に向かうキリスト教の兵達を支える言葉や、会社信条や信念としてポコポコと印字している。

さて、このキリスト教的な記号が、アメリカにおいて国内問題となった。非キリスト教、特に米軍が現在多く派遣され、銃火を交えている中東地域に多く分布される、イスラム教徒からの反発が強い。

無理もない話だ。殺傷兵器に取り付ける器具にこのような宗教的なモチーフがあれば、非キリスト教からすると、あまり気分の良い話ではないだろう。宗教戦争や、改宗を示唆しているのかと言った苦情が出ている。

米国自由民主党や、国防総省からも懸念や批判があがり、トリジコンは改修を余儀なくされた。トリジコン社としては、これらの一節を選んだ理由として、後述する光ファイバーやトリチウムをイルミネーションの発光源にあてることにより、いついかなる時でもイルミネーターが光り、不安になることは無いという意味合いだというが、グローバル社会において、このような製品にこのような宗教的意味合いを付与するのは、非常にデリケートで危険な問題に発展しかねないことは認識すべきであっただろう。


重量は、付属のTA51マウントを装着した状態で415グラム程度なので、一般的な1-4倍ショートスコープとマウントの組み合わせよりも軽量だ。


TA31で一番目を引くのは、やはりこの集光ファイバーだろう。

TA02等のLEDモデルを除き、ACOGのレティクルを光らせるイルミネーションには電池は使われない。代わりにこの集光ファイバーで周囲の光を集めてレティクルを発光させる。

電池を使用しないという点は良いが、影や暗い建物、逆に暗い場所にいるターゲットに対してこちらが日光や照明で明るい場所にいる場合は、レティクルが暗くなりすぎたり、明るすぎたりという現象になる。手軽にイルミネーションの調光や、オフにすることができない点に注意したい

また、透明なアクリル樹脂を使用した集光ファイバーは目立ちやすく、隠密さが求められる状況では集光ファイバーにテープ等を巻いて遮光している隊員も散見される。

この集光ファイバーは、劣化してくるとヒビ割れ等が発生する。公式ではこの集光システムの寿命は、このTA31-CHのような赤色タイプで10年、後述するTA31F-Gのような緑色タイプで12年と言われている。

集光ファイバー先端はガードされているものの、本体上部に長く横たわっているだけあって、ぶつけやすい。目立ちにくさや破損防止のためにももう少し側面等をガードしてほしいところ。


対物レンズ部

レンズ径は32mm、レンズのコーティングは水色や緑系だ。

特に対物レンズ周辺の鏡筒部は、スパッと斜めに切られたような特異な形状をしていることもあり、通常のバトラーキャップ等は装着できない。レンズを保護するには、同社オプションパーツのキルフラッシュ「TA91」や、GG&G社製のフリップアップレンズキャップ一体型マウント「GGG-1240」等を装着することをおすすめする。(ただ、これらを装着すると両者とも全長が長くなってしまうが…)

ちなみに、米陸軍採用のTA31-RCO-M150CPにはフリップアップレンズキャップやキルフラッシュのみならず、レーザーフィルターまで付いてくる豪華仕様。


対物レンズから内部を覗くと、プリズム構造体が見える。

暗所でイルミネーションを明るく照らしても、レティクルの発光は対物レンズ側からはほとんど見えないので安心だ。


こちらは反対側の接眼レンズ部

一般的なスコープ類と違い、ACOGシリーズには基本的に視度調整ができない。これは、後述するBAC機能を有効的に使えるようにするためでもあるとのこと。引き換えに、ごく一部の人にはレティクルが見えにくかったり等、光学性能に影響が出る。

また、接眼部にアイピース等の目を保護する緩衝材はなく、ボディのアルミむき出しなので、射撃をする際はゴーグル等のアイプロテクションは必須である。ただでさえアイリリーフが短くなりがちなプリズムスコープの中でも、TA31シリーズはずば抜けてアイリリーフが短いので、ぜひとも何らかの対策は欲しいところ。

同社オプションで「TA35」ラバー製アイピースもあるので、不安な人は装着しておいた方がいいだろう。


接眼レンズ部鏡筒側面にある、ネジ穴付きの出っ張りは、写真のようにMS12マウントを装着し、同社RMR等のバックアップや接近戦用のダットサイトを装着することができる。

写真のダットサイトは、RMRの前身でもあるMS04


ウィンテージ&エレベーションノブは、接近戦にも対応したプリズムスコープらしく、ネジ式のカバーがある。

ノブは固めで、たまにクリック感が曖昧になる時がある。

1クリックの移動量は100ヤードで2インチとかなり大きい。


付属しているマウント(TA51)はピカティニーレール用で、六角ネジ二本で付いている。このマウントを装着した場合、レールからレンズ中央までの全高は概ね3cmほどで、Absolute Co-witness(AR15用アイアンサイトの高さがレンズ中央に来る位置)の位置となる。

このマウントに関しては、LaRue社(LT100)やARMS社(TA12)等、サードパーティ製も多いので、選択肢が広がる。


付属品にいこう

専用保護ケース、取扱説明書類、ロゴシール、レンズペン、カタログ、本体カバーが付属する。


付属品の一番の目玉はこの保護ケースだ。なんと、ペリカン社のGENUINE PELICAN CASEである。同じ樹脂製ハードケースでも、同社MROSRSに付属しているケースとはわけが違う。


このケースはただ頑丈なだけのケースではない。ハンドル中央にあるこの出っ張りはゴアテックス社の防水自動気圧調整バルブで、山岳部等で急激な気圧や温度変化でも蓋がスパッと開けやすくなるためのシステムだ。

また、本体に使用されている樹脂も独自配合&形成されたコポリマーポリプロピレンを用い、-40~99度の温度変化に耐えることができる

耐久性も折り紙付きで、幾多の爆発現場や1ヶ月以上の漂流にも耐えることができたという。


防水性能に関しても、厚手のパッキンによりIP67規格(防塵&水深1メートルに30分以上水没可能)をクリアしており、水没した際には水圧により密閉性がより高まる構造になっている。

ACOGスコープの保護・運搬ケース以外にもいろいろ使える非常に利便性の高いケースで、このケースだけで1万円近くの値もつくし、レビューが一本書けるレベルの付属品だ。


本体カバーはScopecoat社のもので、銃器に取り付けたままでスコープを保護できる。


説明書は白黒印刷だが、後述するBAC照準方や、リードの取り方等の射撃テクニックまでもが書かれた読み応えのある内容だ。


ACOGシリーズには多種多様なレティクルが存在し、TA31シリーズだけでも、亜種を入れると15種類以上のレティクルを揃える。今回は3種類のレティクルをレビューすることができた。まずはTA31-CHだ。

CHはCross Hair(クロスヘア)の略で、ACOGシリーズでは珍しいクロスヘアスタイルのレティクルだ。

TA31シリーズお馴染みのBDC機能(ターゲットまでの距離による弾道補正機構)も備わっているが、他のレティクルと違って最大補正距離が800mではなく、600mとなっている。その代わり、400m以下の中~近距離がより細分化して補正できるようになっている。レティクルの400mと600mの場所には数字が印字されている。

5.56mm弾での使用を想定された照準器であり、倍率も4倍率なので、BDC機能はこれくらいが実用的であると個人的には思う。

TA31-CHは、14.5インチバレルのM4A1に装着し、クロスヘアの中心点を100メートルでゼロインすることで、BDC機能が使用できる。

前述した通り、集光ファイバーによるイルミネーション発光を行っているので、イルミネーションは常時発光している。ちなみにTA31-CHのイルミネーションカラーは、赤色の他にも緑色がある。


基本的に集光ファイバーを備えたACOGシリーズは、集光ファイバーから光を得られない暗闇では、挿入されているトリチウム(三重水素)の発光でレティクルを光らせる。写真のように、暗闇では暗順応を阻害しないボヤッとした光量だ。

言うまでもないが、このトリチウムもイルミネーション同様、常時発光し続けている。トリジコン社いわく、トリチウムの寿命は20年だそうだが、実際には12~15年程度だという報告が多い。

トリチウムは自然界に多く含まれている放射性同位体であり、基本的には非常に弱いβ波を発する。もちろんACOGスコープに挿入されているものは、通常だと人体にほぼ影響の無いレベルである。だが、通常ガス状であるトリチウムが、燃焼等で酸化し、HTO(トリチウム水)になり、これが有機物と結合した物質(OBT)となって人体に入った場合は、危険度は大きく跳ね上がる。このため、トリチウム封入体の分解は御法度であり、ACOGスコープが火災等に巻き込まれた際には、十分に注意するようにとのこと。

通常使用においては何も怖がることはない。


こちらはTA31F-Gのレティクル。矢じり状のセンターが印象的だ。この矢じりの最大幅は5.53MOAとなっており、300メートルで19インチ(約48cm)の大きさとなる。人間の胴体の横幅程度前後の大きさなので、ターゲットまでの距離を計測する際にも使えるとのこと。

こちらのBDC機能は、一般的なTA31のレティクルのように、5.56mm弾(.223)を使用し、センター(このレティクルでは矢じりの頂点)を100メートルでゼロインすると、800メートルまでの弾道補正が可能。

こちらのイルミネーションは緑色だが、他にも赤色(下記TA31F)や黄色がある。

米軍が採用しているTA31RCO-M150CPやM4CPはこのタイプのレティクルである。


※追記2

一方こちらはTA31F。TA31F-Gのレティクルイルミネーションが赤くなっただけと思いきや、レティクル頂点から600mのBDC位置までがグラデーションを帯びた彩色となっている

レティクルイルミネーションでこのように濃淡のついたものは実に珍しい。

スコープ外縁下部には倍率とレティクルの特徴を表す「4X 223F」の文字が印字されている。


※画像クリックで拡大可

では、いつもどおり100mの距離、高さ180cmの位置にシャツを吊るして照準してみよう。

TA31-CHは、日陰から、日向に向かっての照準だが、この場合イルミネーターの明かりが足りないと感じることもある。

また、イルミネーションはクロスヘアの中心点のみが光るのではなく、BDC機能の300メートル下段分まで光り、ギザギザしたイルミネーションなので、とっさの照準は矢じり状のものと比べると少し合わせにくい。その分を、周囲の太くなっている左右・下のクロスヘアで補えるが、私の好みとしては左右の長さを下段と揃え、上段のクロスヘアも途中で太くしてほしい。

環境によっては、レンズ周囲の歪みが多少気になることがあるが、十分許容範囲。

TA31の視野に関しては、公式には7°とされているだけで、一般的なスコープのようにft/yard換算にするとどれくらいかはわからないが、対物径32mmのレンズなだけあって、一般的な24mm径の4倍率ショートスコープよりは広い視野を確保できる。全長を抑えつつも、大きな対物レンズを搭載しやすいプリズムスコープの強みだ。


※画像クリックで拡大可

一方、こちらはTA31F-Gを日向から日陰に向けて照準してみた。この場合は逆に、イルミネーションが明るすぎてターゲットと被ることがある。そういうことも踏まえると、クロスヘアの中心部にターゲットを捉えるTA31-CHよりも、矢じりの頂点にターゲットを捉えるTA31F-Gの方が個人的には照準しやすい。

素早さを多く求める射撃の場合は、こちらの矢じりタイプのレティクルの方が照準しやすい。さらに言うと、これに精密さを増すためにもTA31-CHのような太めのクロスヘアがあるとより私好みになるだろう。

また、緑色のイルミネーションは赤色よりも視認性が良くて明るい。集光システムに関しても、この緑色が一番耐用年数が高い(12年)。

レンズの明るさに関しては、他社プリズムスコープの中では高いレベル。ただ、Leupold VX-R Patrol 1.25-4×20等の質の高いショートスコープとかと比べると少し落ちる。色温度はほんの少し暖色寄りに映る。


※追記2

※画像クリックで拡大可

TA31Fについては100mではなく、50m先のTシャツに照準。

TA31Fのグラデーションのついたイルミネーションは、明るい場所から暗い場所を狙った際に、イルミネーション全体が明るすぎるということが無いため有用かもしれない。


さて、問題の短いと言われているアイリリーフに関してだが、TA31-CHのレティクル全体がばっちし見え、鏡筒内部の黒縁まで見える範囲が概ね1cm~3.8cmであった。黒縁が見えなくなるまでの最大範囲まで伸ばすと4.1cmといった具合だ。

なぜこのような基準で計測をしたかと言うと、意見交換を行った海兵隊員の話にこんな内容があったからだ。曰く大雑把でアイリリーフを長めにとり、レンズ全体が見えなくなても、レティクル全体がちゃんと映っていれば、100m前後だとマンターゲット程度なら当てられるとのことだった。

さすがにあまり長くアイリリーフを取っての射撃は、いくらなんでもスコープの光学特性上、誤差が大きいだろうと思い、接眼レンズに目を近づけた際に見えるレンズ鏡筒内部の黒い縁を基準に計測した次第だ。

ちゃんとした精度で狙うには公式とほぼ同じく、アイリリーフの最大範囲は3.8cm程度と考えると、やはりACOGシリーズのアイリリーフはプリズムスコープとはいえ短い。私のようなメガネ装着者や、厚手のゴーグルを付けていると接眼レンズ部と干渉してしまう状況は多々ある。

また、写真のようにスコープの後ろにアイアンサイト等の障害物があると、よりアイリリーフの短さが痛手となってくる。現に覗きにくいのか、ACOGを装着している兵士がCQB等の切羽詰まった戦闘状況におかれた際には、射撃姿勢が崩れて変な体勢でACOGを覗いている人が、他の照準器と比べて多く散見される。銃器のレール長によっては、同社オプションのTA77マウントを使用してアイリリーフの短さを補うのも一つの手だろう。

アイボックス(焦点の合う幅)は広め。この点はCQBにおいても有利だろう。これにアイリリーフの長さがもう少しあれば素晴らしいのだが。

Bindon Aiming Concept


(※追記1)

さて、このACOGシリーズには、接近戦や突発的戦闘状況において、有利に働く機能がある。それがBACBindon Aiming Concept)だ。これは、300m以下の近距離で発生する突発的な戦闘において有効で、明るいイルミネーションレティクルを利用してまるでドットサイトのように瞬時にターゲットに弾を叩き込めれるよう考慮・設計されたシステムである。

Bindonはトリジコン社創設者であるGlyn Bindonから。

この手法を有効にするには、照準の際は片目を閉じず両目で照準を行い、レティクルにではなくターゲットに焦点を合わせることが必須である。

この前提条件を成熟させることにより、ACOGが搭載された銃器を構えてACOGを覗き込む際に、脳はACOGを覗く接眼レンズ側の目ではなく、もう片方のターゲットを捉え続ける目の方にピントを合わせ続けようとする。これにより、イルミネーションで光っているレティクルが、視界に無倍率で浮かび上がるように投影されているような錯覚を起こす。その現象を利用して、無倍率のダットサイトの如く速射ができるということだ。遠距離や精密射撃が必用なターゲットに関しては、ACOG側の目でピントを合わせれば、通常の4倍率スコープとして狙撃可能である。

この手法を使いこなすには、まず自分の効き目を見極める必要性がある(効き目の見極め方に関してはググっていただくといろんな手法があるのでお好きなものを)。また、慣れないうちはレティクルやレンズ内の映像ではなく、通常視界で見ているターゲットや風景にピントを合わせるよう意識することや、効き目以外の目でも様々な照準器を通しての射撃に慣れておくことも大切だ。

と、ここまでは説明書に書いてあったり、人に教わったBAC機能の使い方である。最初のうちはコツを掴むまでは慣れが必用な場合もあるが、普段からダットサイトや低倍率のショートスコープ等で速射を行っているシューターなら、習熟が早かったり、すでに身につけている人もいるだろう。

ただ、この手法には注意も必用だ。視界とは、両方の目で見た情報を脳が合成等の処理を行ってできた映像である。2つの目が同じ位置にあるわけではないので、どうしてもそれぞれが得た映像を合成する際にはズレが発生する。このズレを斜位と言うのだが、人によってこの斜位のズレの大きさや位置はバラバラである。これ以上専門的な話をすると、BACどころかこの斜位の内容だけで1レビュー分の文章を書くハメになるのでやめておくが、スコープで正確に覗いて射撃した着弾点と、BACを用いて射撃した着弾点とでは、同じターゲットでもズレが生じてくる。この誤差も、その人の視力や視神経、射撃に関する個癖等で大なり小なり変わってくるのは当然のこと。故にこの手法を用いて射撃する際には、まずは弾が入っていない銃器で十分なトレーニングを行い安全が確保された射撃場で、5mくらいの短い距離から行うことを強く勧める。そして、どの距離までなら自分が撃ちたいターゲットに狙い通り当たってくれるのかという限界を知ることも大切だ。弾が明後日の方向に飛んでいき、事故でも起きればエライことになる。

トリジコンによれば、このBACは、視力や脳神経等の構造により、25人に1人、つまり4%の割合で利用できない人がいる。また、BACができても数秒しか維持できず、どうしてもACOGで拡大された視界やレティクルにピントが合ってしまう人も多い。その場合は無理をせず、通常の4倍スコープとして使用してくれとのこと。接近戦に関しても、ダットサイトをACOGや銃器等に増設することで対応できる。

言うまでもないが同じ両目照準でも、ダットサイトや等倍率が可能なスコープと比べると、照準の容易さや視界の広さは劣る。あくまである程度の慣れや演練が必要だし、4倍率固定スコープにオプションとして近接戦闘用の少し特殊な照準方法が備わっていると考えるべきではある。

このBACに関しては、ACOGはそれに合わせたイルミネーションや、光学設計をしているので行いやすい。また、光学性能がそれに適したプリズムスコープやショートスコープだと、他社製品にも応用できる手法なので、覚えておいて損はない。

The Conclusion | 総評


当初はただのアイリリーフの短い使いにくいオプティクスというイメージがあったACOGだが、真の使い方や活用方法がわかってからは、光学照準器界のアイデア屋であるトリジコンらしいユニークで、可能性が広がる良い光学照準器だということがわかった。

米陸軍に採用されているだけある堅牢性と、遠距離から近距離まで対応可能な柔軟性、一切の電池類を必用としないイルミネーションシステム、そしてスリムな外観。TA31発売以来、数十年が経過しようとする現在においても、非常に優秀なプリズムスコープとしての地位は揺るぎない。

ただ、非常に短いアイリリーフに、調光のできないイルミネーション、そしてプリズムスコープとしては少し高めの1500ドル前後の価格帯をどれほど許容できるかが、このザ・トリジコンスコープの価値を左右する要因になるだろう。