REVIEW >> ELECTRONICS & OPTICS| 光学照準器・電子機器類>> ELECTRONS & OPTICS | 光学照準器・電子機器類

ジャンル:ダットサイト

小型ダットサイトのベストセラーとなったAimpoint Micro T-1。その対抗馬としてトリジコン社が満を持して開発した小型ダットサイトが「MRO(Miniature Rifle Optics)」である。その性能やいかに?Aimpoint T-1との比較も交えながら紹介しよう。

 

実弾射撃評価:有り(AR-15系、Benelli – M2)

※1:2016/09/22 MROのパララックスに関して追記

※2:2016/09/25 光学照準器3機種の見比べ動画をアップ

※3:2017/02/04 タンゴダウンのMRO専用カバーの情報を追記

※4:2019/10/04 ボディ素材に関して追記

※5:2024/03/22 若干拡大して見える倍率について追記

※6:2024/04/14 パララックス含めた大幅な内容の修正、及び再評価を行う。

SPECS | 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) Trijicon(アメリカ合衆国)
サイズ 66mm×43mm×51mm
重量 137グラム
ボディ素材 7075-T6アルミニウム
倍率 1倍
イルミネーター LED 8段階
使用電池 (電池寿命) CR2032(光量「3」で5年)
レティクルパターン 赤色ダット 2MOA
価格(購入価格) 658ドル(2016年海外通販にて520ドル)

Pros & Cons | 一長一短

※ここはあくまで、KUSEMONO TACTICALが想定する使い方、視点から見た一長一短です。

※一長一短をわかりやすく表記しているだけであり、項目の数や内容、順番による採点評価ではありません。

優れている点 比較的コンパクトながら広い視界
改善を要する点 ダットの歪みが多少あり、パララックスが大きい
  ローマウントの質があまりよくない
  個体差による品質のバラつき

T-1ライクにしなかったアイデア屋らしい回答

Aimpoint社 Micro T-1は実によく出来た小型ダットサイトだ。ベストセラーとなった理由もよくわかる。小型軽量という取り回しの良さのみならず、電子光学機器とは思えぬ極めて強固な耐久性を持っている。幅広い層に支持され、Aimpoint社の信頼性をより確かなものにした。その点トリジコン社は弱かった。ACOGやACCUPOINT等の、電子機器を使用しない照準器は支持されているが、いざダットサイトやイルミネーター付きスコープと言った電池駆動式となると、途端に信頼性が下がる。私も以前Trijicon SRSの衝撃によるダット点灯不良の経験を得て納得してしまったほどだ。レンズ等の光学系としての質もそこまで高いわけでもない。もっぱら、照準器業界のユニークなアイデア商品メーカーといった感じだ。とは言え、法執行機関はもちろんのこと、競技にしろ狩猟にしろ、使うべき場所でちゃんと使える信頼性は大変重要なセールスポイントだ。今回のMROはその点の意気込みを感じる堅牢さに仕上がっている。信頼性に関してはYouTube等で「Trijicon MRO torture」等の検索ワードで調べてもらうとわかる。MROをオーブンに入れたり、高所から落下させたり、散弾銃で撃たれたり等、いじめ抜かれても耐えている様々な動画を見ることができるだろう。トリジコン社もコレを自慢に思っているのか、その「イジメ動画達」を自社の公式動画に使ってるほどだ。さて、今回のトリジコン電子機器の性能は如何に?

私自身このMROに関しては耐久性や信頼性を推し量れるほどガンガンに使っていないので実際のところ、耐久性や信頼性はよくわかっていない。ただ、MROの初期版はちょこちょこトリジコンお家芸とも言える電装系の不具合が報告されたようだ。


IMG_4949
全体像はこんな感じで、他社がよくやっているようなT-1ライクな形ではない。
今回は、Lowマウントが付属しているモデル(MRO-C-2200004)を購入した。
その他にも、Midマウント(~2200005)、Highマウント(~2200006)、マウント無し(~2200003)のラインナップがある。
MROの最大の特徴は、対物レンズがT-1よりも5mm大きなことだ(25mm)。接眼レンズよりも対物レンズを一回り大きくする手法は、Trijicon SRSでも導入しており、ボディはコンパクトだが、広い視野を確保できる。ただ、形状は少々不格好になっており、こうしてみるとオモチャの機関車みたいだ。
ボディは、アルミ素材(7075-T6)の上に軟性樹脂のようなコーティングをしている。一般的な光学照準器の素材は6061アルミニウムを使用するが、MROはより強度の高い7075アルミニウムを使用している。殻からして頑丈なのだ。

IMG_4972
対物レンズ部分は、マルチコートをしており、T-1のように見る角度によって緑や赤と言った色に見える。

レンズはTrijicon SRSAimpoint T-2のように75度くらいの斜めに設置されている。ダットの光源を対物レンズ内側で反射させるため、光源の位置に合わせてレンズを傾けるためだ。小さなダットサイトでパララックス(視差)フリーにこだわるとこのような構造になってしまう。レンズのクリーニングが少しやりにくく、ゴミやチリがたまりやすいのが欠点だ。

しかもT-1やT-2のようにレンズキャップが付いていないので、タンゴダウンから発売されているMRO専用カバーや、バトラークリーク等でスコープ用のレンズキャップを購入することをオススメする。(BUTLER CREEK:バトラークリークだと、対物レンズ用サイズ17の内径40.9mmの製品が適合するようだ。)

レンズキャップやキルフラッシュ付きが欲しい場合は同社のMRO Patrolを購入するという手もある。


IMG_4971
ローマウント部だが、このマウントがお世辞にも良いマウントとは言えない。射撃してるうちにズレるとか致命的なポイントは無いのだが、少々付けにくい。注意しないと斜めに取付けミスすることもある。ネジ部分は弱強度のネジロック剤が塗布されている。

お金に余裕があるなら、付け外しが多い使い方をする場合は、ストレスが溜まるので、マウントは他社製品を購入することをオススメする。

MROのマウントフットプリントは一見Aimpoint T-1系に見えるが各種溝等が合わないためMROオリジナルのフットプリントである。現在(2024年)、このフットプリントの製品はMROシリーズ以外ではBurris社のダットサイト「RT-1X」だけである。


IMG_4974
ダット位置調整ネジ(ウィンテージ及びエレベーションダイヤル)はお馴染みのむき出しタイプ。コイン、弾丸のリム、マイナスネジ等を別途用意して回す。防水処置はされてるが、この部分に泥やヨゴレ等が詰まりやすい。が、フタを紛失するようなことはないという利点もある。

また、電池ボックスと光量調節ネジは上部に設置されており、シューターの利き手を選ばない。ただ、光量調節のネジは少し固めのテンションで、グキッ、グキッと力を入れて回さないといけない。
光量調節は8段階の調節が可能で、暗視装置用の肉眼で見えない暗さが2つ、夜間や日中での平常使用が5段階、最後に炎天下や日中の砂漠やゲレンデ、逆光等での使用を想定したスーパーブライトネスモードがある。
光量調節に関して便利な点が一つあり、光量2と3の間に電源オフが別個設けられていて、ダイヤルの回転を少なく済ませれる。光量3は室内や薄暗い屋外での使用に適しており、頻繁に利用するので助かる。ただ、このダイヤルと電池蓋はコーティングが甘く、傷がつきやすい。
電池はダットサイトお馴染みのCR2032ボタン電池を使用し、光量「3」で5年の寿命がある。接眼レンズ径はT-1やT-2と同じく20mmだ。

IMG_4995_Fotor
Aimpoint T-1とレール上に並べてみた。こうしてみるとT-1のロープロファイル具合がよくわかる。

MROの方が、レンズが5mm大きいことに比例して、ダットまでの距離も5mmほど高い。たかが、5mmと思えるが、使用する銃器によってはホホ付けが甘くなったりするので、チークパッド等での調節が必要になるかもしれない。

また、上部が出っ張って、若干重みがあるので、T-1と比較すると銃を振り回した際の遠心力による安定性、疲労感等はT-1の方が良い。(T-2はT-1と同スペックなので省略)ローマウント同士で比較すると、MROの方が約30グラムほど重い。


謎のプチ望遠

DSCF3484m
※画像クリックで拡大可。

さて、肝心の覗いてみた感じだが、このダットサイト、公式では等倍である1倍と表記されているものの、1.05~1.1倍と若干拡大して見える。(写真、ロッカーの横のズレをご覧いただきたい。)

最初、私の目がおかしいのかと思ったが、海外の掲示板やレビューでもこの点は指摘されている。個人的には、この望遠は命中精度に影響しなければ、ターゲットが見えやすく、コレはコレで悪くないと思っている。100メートルという距離ではあるが、T-1と撃ち比べて命中精度に差はなかった

※5:この少し拡大して見える光学設計に関しては、後期型で改良が加えられ、改善されたやらあんまり変わってないぞやら囁かれている。

レンズの青みはは少し気になる程度はある。SRSの頃よりは若干だが改善された感じか。この点はT-1等には負ける。

イルミネーションダイヤルはT-1系と違って上部にあるため、上面が少し視界の妨げになるのは仕方ないとしても、右側面のウィンデージダイヤルの出っ張りはもう少し抑えて欲しかった。

50メートル照準 | Aimpoint T-2 & T-1との比較

 




本製品であるMRO、Aimpoint T-1T-2と屋外で比較してみよう。50メートル先に吊るしたACU迷彩上着がターゲットだ。レンズはT-1のクリアさにはやはり負けるが、MROのゆとりある視野の広さは好きだ。写真ではわかりづらいが、謎のプチ望遠でターゲットも見えやすい。MROはレンズが余計な反射やフレアの苦情を聞くが、個人的にはそこまで気にならない。対物レンズを大きくしてしまったが故に仕方ない面もあるだろう。むしろ、私としてはT-2の対物レンズの傾きによるレンズ縁の反射(右下)の方が目障りで気になる。高い価格でコレは無いだろうと言いたい。

ダットの鮮明さは、T-2>T-1>MROと言った感じだ。MROのダットが少し斜め方向に引っ張られた楕円形に見えているが、個体差によってはもっとダットが歪んで見えるものもあるようだ。このようなの品質の差は多くのユーザーから指摘されている。

パララックステスト │ 50メートル


なお、MROはパララックスフリーを謳ってはいるが、特に左右へのパララックスは大きいと言われているT-1よりも大きいか同等である。(※1:2016/09/22 追記)

海外のレビューを見ると、100ヤード(約91m)で15cm以上ズレているとの声もあるが、少なくともこの50mの距離の時点で15cm近くのズレが散見されている。

※6:しかも個体差でパララックスが大きく左右に30cmほどのズレが生じる物があるとの報告が何件か出ている。私がこれとは違う別のMROを覗いてみた際も似たようなパララックスであった。

レンズの大きさを考慮しても、このパララックスの大きさはしっかりダットを中央に据えて構えていないとマンターゲットを外す可能性が出てくる。

上記三機種の見比べ動画もアップしたので参考までに。(※2 2016/09/25追記)

コスト削減の付属品

IMG_4970
付属品を見てみよう。お馴染みの耐衝撃ボックスに、本体説明書、マウント説明書、保証書、保証書(5年保証)、カタログ、ロゴシール、マウント用の六角レンチ、レンズ拭きが付属する。


IMG_4980
箱は、トリジコン製品お馴染みの箱だが、ペリカンケースのように防水性や過度の耐衝撃性能は無いので注意。今回は、SRSの時よりも傷や形成、材質の低下が見られ、コスト削減具合が伺える。正直このレベルの箱を付けるくらいなら、紙箱にして値段を下げてくれる方が助かるのだが。


IMG_4962
説明書はカラーのイラスト付きで、Aimpointよりもわかりやすい。もちろん多言語仕様だ。


IMG_4996
メガネ拭きと同じレンズクリーナー。SRSのように便利で効果的なレンズペンではなくなっている。しかもロットによってはこのレンズ拭きが付属しない場合もあるようだ…


Conclusion | 総評

IMG_4985
コンパクトだが、視野が広くて見やすいダットは良い。このようにSMGにも良いし


IMG_4892


散弾銃に付けてクレーと言ったスポーツも意外と良いのだ。試しにトラップ射撃をしてみたが、広い視野と謎のプチ望遠のおかげで皿が見やすく、調子が良かった。(照準器無しや、T-1に比べると若干の遠心力がつくという欠点があるが)

だがこれに良い印象を受ける私は少数派だろう。どちらかと言えば、悪い印象を抱く人が多く、特に両目照準時に視界の誤差が生じやすく良くないとの意見が多い。

私はLeupold – VX/R Patrol 1.25-4x20mmでのCQBに慣れているからそう思えるのかもしれない。


MROの価格(2024年、このローマウント版で658ドル)は、900ドルという価格のT-1やT-2に比べると抑えられており、T-2の民間仕様であるAimpoint H-2(暗視装置モード無し:839ドル)よりも安い。だがそれはエイムポイントT-2系の値上がりが顕著なだけであり、MROが特別安いわけでもない。そしてAimpoint PROHolosun HS512C等、レンズが大き目でさらに安くて質の良い機種は他にも存在する。

サイズを抑えつつも大きくて見やすいレンズを備えた、トリジコンらしい他とは一味も二味も違うダットサイトではあり、アタッカーや分隊支援火器との組み合わせることで強力な相棒であり、目となってくれるだろう。しかし、あまり看過できないネガも多い。ちょこちょこ見られる不具合なのか仕様なのかもわからないネガティブポイントをどう見るかだし、もしMROにこだわるのであれば、悪い事は言わないからもっとお金を払って上位版のMRO HDを購入したほうがいいだろう。こちらはMROのネガティブなポイントを潰したものとして評価されているからだ。

製品にもよるが、トリジコン社の問題点の一つとして、一度世に出した製品の悪い部分をあまり改善しようとしない傾向がある。このMROも販売から10年が経過すると言うのに、今だに今回レビューしたような問題が指摘されている。ユニークで魅力的な新製品だけでなく、トリジコンというブランドの大きさや誇りに恥じぬ商品改良もしてほしいものだ。