REVIEW >> ELECTRONICS & OPTICS | 電子・光学機器類 >> ELECTRONICS & OPTICS | 光学機器類・電子機器類

ジャンル:ダットサイト

ホロサンのコンパクトな箱型ダットサイト。ドナルド・トランプ暗殺未遂事件に使用された光学照準器でもある。

執筆時期:2025年3月

検証人数:3人

実弾射撃評価:有り

→AR15系 / 5.56x45mm弾

※本製品を提供してくださいました、O氏に感謝いたします。


SPECS | 性能諸元(公式)

メーカー名(メーカー国・製造国) HOLOSUN(アメリカ合衆国・中華人民共和国)
サイズ(全長x幅x高さ) 5.58x3.91x4.31cm
重量(マウント込) 156グラム
ボディ素材 7075-T6アルミニウム
倍率 1倍
レンズサイズ 27.9x22.0mm
レンズ中央部までの高さ 4.14cm
レティクル 65MOA & 2MOA
イルミネーター 赤色及び緑色LED 12段階調光(内4段階は暗視装置用)
防水性能 IPX8
使用電池(電池寿命) CR2032リチウム電池(最大5万時間)
価格(希望小売価格) 329.99ドル

Pros & Cons | 一長一短

※ここはあくまで、KUSEMONO TACTICALが想定する使い方、視点から見た一長一短です。

※一長一短をわかりやすく表記しているだけであり、項目の数や内容、順番による採点評価ではありません。

優れている点 軽量コンパクトでノイズの少ないボディ
  ボディサイズに対して視野の広いレンズ
  優れた暗視性能
  優れたレンズカバー
改善を要する点 自動調光が環境によって使いにくい
  日陰でレンズ上面に少し目障りな反射が出やすい。
  対物レンズから見えやすいイルミネーション

1人称視点の動画はこちら ↓ ↓

アメリカ第47代大統領を屠りかけたダットサイト


2024年7月13日の朝、米国ペンシルベニア州のホーム・デポ(米国大手のホームセンター)で、とある男が1.5mほどのハシゴを購入していた。こんな光景は米国に限らず、どの国のホムセンであっても判で押したようなありふれた光景であろう。しかしその日の夕方、彼は複合施設の屋根によじ登り一人の男を狙撃した。狙撃され右耳を撃たれた男の名はドナルド・トランプ…第45代アメリカ大統領であり、その後第47代アメリカ大統領にもなる。
ちなみにこのローンウルフな狙撃手は狙撃場所に自力でよじ登ったため、購入したハシゴは使わず仕舞いだった。


捜査当局によると、狙撃手の狙いはほぼ確実にヘッドショットであり、何も無ければトランプ氏は脳天直撃で死亡していた確率は高かったそうだ。もし、狙撃手が引き金を引いた瞬間に移民問題を熱弁しながら、移民統計グラフの方向を振り向かなければ、ケネディ大統領暗殺事件と同じ惨劇が世界中の画面に映っていたことだろう。

その後、狙撃手は警護班のカウンタースナイパーによって射殺されるまで計8発の銃弾を放ち、トランプ氏以外にも4人の民間人が死傷、4人の警官が負傷する事態となった。この時狙撃手が使用していたAR15系ライフルに装着しており、トランプ氏の頭部を狙っていた光学照準器がHOLOSUN – AEMSである。


AEMSの形状は箱型であり、以前レビューした同社HS512Cを縮めたような形状だ。

AEMSは「Advanced Enclosed Micro Sight(高性能密閉型マイクロサイト)」の略。

さて、ポピュラーでマイクロなT1/T2系ダットサイトと比較して大きなレンズを持つ本製品だが、ボディサイズは5.58x3.91x4.31cmと、特に全長は少し短いくらいの大きさであり、ガチッとした見た目よりも小さなダットサイトであることが伺える。

重量はこちらで計測したところ、電池込みで160グラムであり、平均的なT1 / T2スタイルのダットサイトと比較してほば変わらないか若干重い程度。ホロサイト系と比較すると100グラム前後も軽い。

ちなみにマウントを外した場合は110グラム。


対物レンズサイズは27.9x22mmであり、18~20mmの対物レンズ径であるT1/T2系と比較すると、長方形サイズということもあり数字よりも大きく感じる。


同社HS512C(上写真)は32×23.1mmとレンズもボディもAEMSと比べて一回り大きい機種ということになる。

これでも足りない?そんな人にはより大きな40 x 30mmのレンズを備えた大型モデル「Ronin AEMS Max」もあるぞ。


前後面のレンズには、フリップダウン式のレンズカバーがある。例えば至近距離にてBB弾の直撃を防げるほど頑丈なものでは無さそうだが、泥や砂塵等の汚れ、少々の飛び石等からレンズを守ってくれる樹脂製の透明パネルが貼られている。

汚れや破損が気になった場合は、写真のように開いて下げることができる。また、このレンズカバーは光学品質が良く、AEMS本来の光学品質が低下したり損なわれるようなことをかなり抑えてある。

この郵便ポストのような形状やギミック、そしてホロサンの親会社が中国企業という関係から、米国のSNSやネット掲示板ではチャイニーズ・メールボックスという異名で呼ばれている。


左側面にあるイルミネーションスイッチに関しては一見押しやすそうなサイズや形状だが、クリック感が少し乏しい。グローブを付けた状態での指へのフィードバックは同社格安ダットサイトであるHS403Bのほうがいいくらいだ。

AEMSのイルミネーションは光量を周囲の環境に合わせて自動調整するオートモードと、手動で調整できるマニュアルモードがある。また、振動センサーによって電源の自動オンオフ機能であるシェイクアウェイクシステムも搭載。

左側面後方にはレティクルの左右調整を行うウィンデージダイヤルが、右側面には上下調整のエレベーションダイヤルがある。1クリック移動量は0.5MOA、最大移動量は50MOAでHS512Cと同じだ。クリック感はわかりやすい。


右側面には毎度おなじみ、ネジ止めトレー式のバッテリーコンパートメントだ。紛失用に予備が付属しているのも同じ。

電池はCR2032を使用。電池寿命は最大5万時間。この電池寿命はHS512C510Cと同じであり、T2タイプのHS503R等と比べると大きな問題ではないが電池寿命は半分以下である。

電池消費が多くなる65MOAのサークルレティクルの場合の寿命は最大2万時間となる。


付属のLower 1/3 Co-Witnessマウントはレンズ中心部が1.63インチ(4.14cm)の位置に来るようになっている。

底面にはリコイルラグが2つ付いている関係上、工作精度があまり良くないピカティニーレールだとうまくはまらない場合もある。

マウントネジには歯車状の特殊ワッシャーが噛まされている。ネジはT10トルクスネジで、適正なトルクが得られるようトルク制御機構が付いている。これにより、緩み防止以外にも付け外しをしてもゼロインの維持が保たれやすくなっているとのことだ。

マウントの品質は価格としては悪くない。T1/T2タイプではない独自フットプリントではあるが、サードパーティ製のマウントもいくつか出ている。


本体上部にはソーラーパネルが設置されており、基本的にここから電力が供給され、ソーラー発電では点灯できない場合に電池から命を吸い取るシステムとなっている。故に、適切な光さえあれば電池が無くともダットの点灯は可能。

致命的ではないが、ソーラーパネルがある割には超省エネというわけではない。故にダットサイトに対してソーラーパネルっているの?っていうことはよく議論されている。CR2032が手に入らなくなったマッドマックスの世界に転生した場合は必要かもね。

Reticle │ 65MOA+2MOA


レティクルはホロサン – マルチレティクルシステムお馴染みの65MOAのハッシュマーク付きサークルレティクルと2MOAドットの組み合わせ。


こちらは同社HS512Cのレンズ画像。

ごらんのようにレンズのノッチフィルターに関してはAEMSの方が少し濃い青でかけられており、マイナーチェンジ前のVortex – UH1よりも2割くらい青く感じる。

ちなみにAEMSの最初期のモデルは今回のレビュー品よりレンズがさらに青く、若干の拡大傾向があったが現在流通しているものは改善されている。


他のマルチレティクルシステム同様、2MOAドットのみ、65MOAサークルのみを切り替えることができる。

ちなみに、レンズカバーやソーラー給電システムが無く、レティクルが2MOAドットのみのシンプルな廉価モデル(A.E.M.S. CORE)もある。

近距離における照準

林内にて5~30mのCQBを想定した照準。ターゲットは人間の上半身を模したUSPSAマンターゲット(縦75cm×横45cm)。


凹凸の少ないコンパクトな箱型ボディに、大きめのレンズで視界に余計なノイズが無く見やすい。重量も軽めなのでCQBでは非常に使いやすダットサイトだ。

上面はレンズカバー取っ手部分により少し凹凸のある形状となっている。ここを簡易照準器のように利用すると、10m以下の至近距離におけるポイントシューティング(勘撃ち)でうまく活用できる。


静止画ではわかりにくいが、レンズ上部に若干の歪みがあるが支障が出るほどではない。これにともない、レティクルもレンズ上面に持ってくると歪みやすい。この件についてはパララックステストの項目で詳しく記述しよう。

本レビューにおける照準画像は全てレンズカバーを装着した状態での撮影だが、前述したようにレンズカバーの有無でのレンズ品質の低下はよく抑えられおり、通常使用では装着をしていて不都合なことはほとんど感じられない。


ここでは光センサーを利用した自動調光モードで撮影している。光センサーはボディ上面に設置しているため、環境によっては暗かったり逆に明るすぎたり感じることがある。これは同じく上面にセンサーがあるHS510CHS512Cも同様だ。

2025年の改良モデルであるAEMS PRO X2及びAEMS CORE X2は高性能化させた光センサーを前面に移しており改善されたとのこと。


65MOAサークルレティクルのCQBでの使いやすさはお馴染みだ。サークルは小さすぎないので精密射撃においてターゲットと被り邪魔になりにくい。乱視等でダットが滲んだりぼやけて見えやすい人にもいい。

50メートル照準

距離を50メートルに伸ばし、光学品質をより詳しく見ていこう。ターゲットは180cmの位置に吊るした青いツナギ。


写真のように日陰や室内、逆光下で出やすいのだが、レンズ上面3方向に赤い内部反射が出やすい傾向にある。色濃かったり、射撃に支障が出るほどの反射ではないが、少しだけ目障りに感じることはある。

また、限られた環境によってまれにレティクルを横切るようにエミッター付近の反射が映り込むことがあるが、これは接眼レンズ側のレンズガードを下げることでほぼ解消される。

総合的なレンズの品質に関しては、300ドル前半の価格から考えると可もなく不可も無く、ちょっと良いくらいといった感じだろう。同じレンズ品質で100ドル近く安くなる廉価モデル「AEMS Core」はコスパの高い箱型ダットサイトに思える。


毎回言ってるが、ホロサンのマルチレティクルシステムは、大きな65MOAのサークルレティクルのみを選べるのも面白いポイントだ。AEMSでもこれができるため、別売りのローマウントに換装し、散弾銃につけてこのレティクルでバックショットやバードショット等の散弾を撃っている人もいる。


イルミネーションの明るさは、最大輝度の場合は晴天時でも十分使える明るさだ。ただ、サングラスが欲しくなる雪原や砂漠では、あともう1段明るくなって欲しいと感じる人もいるだろう。ここらはホロサンのマルチレティクルシステムを搭載した他製品と同じだ。(写真のイルミネーション輝度は12段階中9段階目で撮影)

最低輝度については、裸眼の場合だと星あかりしか無い夜間でも使える暗さになる。かなりの暗闇ではもう1段暗くできると最高だ。

暗視装置との併用に関しては、レンズが大きく光を取り込む量が多い関係か、想像よりも良かった。PVS-14タイプで第3世代+の暗視装置で試したところ、EoTech ホロサイトに迫るレベルの光透過性能で見やすい。レティクルもブルーミングを起こしにくい2MOAで照準すると、三日月くらいの夜に100m先のマンターゲットへの対応も可能だ。この価格帯としては非常に高い暗視性能だ

100メートル照準

距離を100mに伸ばして照準。ターゲットは50m時と同じ。


大きめのレンズにノイズの少ない広い視界。距離が離れたターゲットへの射撃もストレスが少なく行いやすい。この程度の距離ならばヘッドショットも行える。

ただし、これでドナルド・トランプ氏襲撃事件のように一撃必殺をしろと言われると話は別だ。中心ドットの2MOAは130mで約3.5cmほどの大きさであり、イルミネーションの滲みを入れるともう少し大きなドットとなる。頭部のどこかには当てれるかもしれないが、致命打を与えれる射撃を確実に行うのは難しい。


3倍率拡大鏡を用いてもこれだ。ここで実際の襲撃時の状況を思い出そう。

これから大統領候補ともなる要人を殺害するという中、警官が狙撃場所の屋根にすでにアプローチしている。しかも距離は若干長い約130メートルで、壇上での演説中とは言え完全静止はしていない。こんな状況下でトランプ氏がまさにあの瞬間、顔を動かさなければ死亡していた可能性が高い初弾を放った。

この時の狙撃手(Thomas Matthew Crooks)は地元の射撃クラブから射撃が下手で危険と判断されて入会を断られたらしいが、まさにこの瞬間のために鍛え直したのだろうか?それともまぐれだったのだろうか?それは彼のこの瞬間の心理状態と共にもはや知りようが無いものの、私からしてみると相応の腕前と胆力がないと失敗の二文字しか頭に浮かばず実行に移そうとは到底思えない。少なくとも、無倍率のダットサイトでこんな射撃を行いたくない。これは様々な経歴や経験を持っている当研究会所属の全研究員の総意でもある。

パララックステスト │ 100メートル

ちょっと話が不穏になってきたので100mにおけるパララックス(視差)の話をしよう。


100メートルでの視差は左右で5~10cm、上下で10~15cmシフトする。まぁまぁの性能だが、同社HS512よりは少し上下方向への動きが大きい。

さて写真を見てもらえるとわかるが、レティクルが特にレンズ上や左右に持っていくと歪んでいるのがわかるだろう。これに関してもHS512でも若干出ていた現象ではあるが、AEMSのほうがより大きく歪む。気になる人は2MOAレティクルのみで運用したり、レンズ中央部での照準を心がけるべきだ。

対物レンズからのイルミネーションの視認性


環境に合わせた常識的な明るさであっても、イルミネーションは対物レンズから見える。気になる人は発光面積の小さい2MOAドットを使うといい。

他にも通常使用では問題無いが、かなり明るい輝度でイルミネーションを灯した時、特にサークルレティクルの反射そのものが対物レンズ側に多重影分身のように投影される。

実弾射撃やガンハンドリング等


今回、屋根付きのシューティングレンジで50ヤード(45.7m)と200ヤード(182.8m)先のマンターゲットを撃ってみたが、近距離でも中距離でも使いやすいダットサイトである。ただ、屋根の下で影になっていることもあり、前述したレンズ上面の反射は少し目障りではある。

※この際使用したAEMSは業務で貸与されていた別個体。

その点では少し重量とサイズが上がるものの、HS512Cのほうが好みではある。

ただし軽々とした扱いはAEMSのほうが上手だ。100グラム台の軽量コンパクトなボディのため、写真のようにPCC(Pistol Caliber Carbine:拳銃弾を使用するカービン銃)のお供にしているシューターも多い。

本製品に関しては、研究会として過酷な訓練や射撃では使用していないが、あまり多くの不具合は聞かないし、ウクライナ戦争においてHS510Cを初めとしたその他ホロサン製品としてちょこちょこウクライナ軍等で使用されているのを見かける限りでは一定の信頼性や耐久性はあるようだ。

Conclusion | 総評


330ドルの価格として考えると、太鼓判を押して素晴らしいとは言わないが、多機能性があり、それなりの光学性能を持っていると言えるAEMSは箱型ダットサイトとして悪くないお値打ち製品だ。マルチレティクルやレンズカバー、ソーラーパネルがどうでもいいのであれば230ドル台で買える廉価モデルのAEMS Coreはコスパがより際立つ。

残念なのは、HOLOSUNの名機とも言えるHS512Cは現在販売されておらず、ハウジングにチタニウムを使用した高価なモデルであるHE512Tのみの販売となっている。(529.99ドル:2025年現在)

2025年、AEMSシリーズはAEMS PRO X2及びAEMS CORE X2へとリニューアルされた。基本的な内容は従来のAEMSシリーズと同じだが以下の点で変更や改良が加えられている。
・レティクルカラーを赤・緑・金と3色ラインナップ。
・パララックスを50%改良。
・マウントのT10ネジをより利便性の高いクロスボルト仕様に変更。
・表面加工はより耐摩耗性や腐食性を強化した、電気化学処理によるマイクロアーク酸化方式に変更。

これに加え、Pro X2は高性能化した光センサーを上部から前面に移し、より周囲の環境に適した自動輝度調整が可能に。また、レンズの反射を抑える新規設計のキルフラッシュも付属する。

価格は300~400ドル台へと上昇しているが、その他箱型ダットサイトと比較しても特別高いわけではないため、これも人気が出そうだ。

トランプ氏襲撃事件での狙撃手の悪運は強かったのだろう。事前の準備や狙撃体制中に至るまで、多数の警官や民間人に目撃や通報、エンカウントを受けるずさんな計画にも関わらず、それのはるか上空を上回るずさんな警備体制によって暗殺はほぼ成功となるはずだった。だが、資本主義国アメリカを絵に描いたような剛腕ビジネスマンであり、2度も大統領に選ばれるようなカリスマ性、そして片耳を銃弾によって削られながらも、即座に民衆とカメラの前で拳を突き上げ「Fight!Fight!Fight!」と叫び危機をチャンスに変える機転の良さまで兼ね備えた強運の持ち主には敵わなかったようだ。

トランプ氏が再び合衆国大統領に就任した2025年、米国だけでなく世界中が第1次トランプ政権がまるで慣らし運転であったかのように盛大に振り回されている。それが良い悪いかなんて現段階で決める愚かな事は当研究会はやらないし、今後もするつもりはない。そんなことは後の歴史によって決めればいい…などと言うお決まりの決めセリフを口走ることすら馬鹿馬鹿しい。

ただ、あの日あの瞬間にトランプ氏が移民統計グラフの方向を振り向かなければ、少なくとも今とは違う歴史を我々は歩んでいたことだろう。そんな歴史と政治、社会情勢の転換点を見ていた光学照準器が今回のHOLOSUN – AEMSである。


本レビューで度々出ていたホロサン HS512Cのレビューはこちら ↓ ↓

【レビュー】 HOLOSUN – HS512C