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ジャンル:ダットサイト、ホログラフィックサイト

EoTech ホロサイトの独壇場に殴り込むため、ボルテックス社が手掛けたホログラフィックサイト「UH-1」。

そのポテンシャルを第1世代、マイナーチェンジ版、そして第2世代版を、EOTech ホロサイトとの比較も交えながら見ていこう。

執筆時期:2020年8月

第2世代版「VORTEX AMG UH-1 Gen2」のレビューはこちら ↓ ↓

【レビュー】 Vortex – AMG UH-1 GEN II HOLOGRAPHIC SIGHT

SPECS | 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) VORTEX OPTICS (アメリカ合衆国)
全長 9.14cm
重量 334.5グラム
倍率 1倍
レティクルパターン 赤色レーザー 1MOA & 65MOA
イルミネーター 赤色レーザーダイオード 15段階
使用電池(電池寿命) CR123Aリチウム電池(中光量で約1500時間)
LFP123A リチウムイオン充電池(中光量で約1000時間)
価格 649.99ドル

ポストホロサイトへの挑戦


通常のダットサイトよりも、多くの利点があるとして熱烈な支持を得ているホログラフィックサイトだが、そのシェアのほぼ全ては開発元でもあるEOTech社のHWS(Holographic Weapon Sight)の長年に渡る独り占め状態である。

戦後まもなく、米国ミシガン大学と軍との研究から始まり、それが紆余曲折を経て小銃に搭載する光学照準器として90年代後半に誕生した。以降、西側諸国を中心とした多くの軍や警察等の法執行機関員達の小銃の上にこの和式便器が鎮座することとなる。一時期、多くの信頼性問題を抱えて物議を醸したものの、今だにエイムポイントと並んで等倍光学照準器界の二大巨頭と言っても良いほどのシェアを獲得し続けている。

構造が簡単な通常のダットサイトと異なり、開発ノウハウや技術力が必要なホログラフィックサイトは、長らくEOTech社の独壇場であったが、2017年にボルテックス社がとうとうその一強政権を打破すべく投下した製品がこの「Razor AMG UH-1 Holographic Sight」である。

実は、この製品のレビューに関しては1年半くらい前に行う予定だった。当初個人的にはEOTech ホロサイトの牙城を崩すほどの魅力ある製品とは思えず、消極的なレビューを書いていたが、その最中にひっそりと行われたマイナーチェンジでテコ入れがされ、見直していた。そうこうしているうちに、第2世代版が発売されたため、今回は2回に分けて第一世代版マイナーチェンジ版、そして第2世代版の3つの製品をレビューしていきたいと思う。


全長は9.1cmと最短で9.7cm前後のEOTechホロサイトシリーズと比べて短いのだが、ストンとした直方体体型なボディ形状なため、こちらのほうが大きく見える。

重量は334.5グラム。EOTech ホロサイトシリーズが317~325グラム前後なので、こちらのほうが少し重い。形状や重量配分バランスもあるのか、銃器に装着してみるとその差以上に重く感じる。

最軽量のXPS3(255グラム)と比べると80グラムの重量差となる。


このストンとしたいかにも人工的なデザインにより、どんな銃器に装着してもSFチックな雰囲気を醸し出すことができる。

幕府軍採用の30年以上前の設計の小銃に取り付けてみたが、まるでニール・ブロムカンプ監督の劇中に出てきそうな怪しいSF銃と化す。恐らく火薬ではなく電気か何かで飛ばすタイプだ。


詳細はわからないが、ボディ素材はアルミニウム。ボルテックス曰く、従来のホロサイトよりも耐衝撃性に優れたタフネスボディとのこと。

余談だが、UH-1という製品名から、米国では同名の軍用ヘリコプターの愛称と同じく「Huey(ヒューイ)」と言う名で親しまれてもいる。


透明度の高い風防ガラスレンズの奥には、赤紫色のコーティングがなされた対物レンズが斜め45度の角度で設置されている。EOTechホロサイトはこのような構造にはなっていないので、彼らのパテントを回避するためにも、試行錯誤の末この構造になったのではないだろうか。

正面はフォントの違うロゴやUH-1の表記が散りばめられ、少々とっ散らかっている感がある。


対物レンズは接眼レンズと比べて一回り小さくなっている。

ボタン操作は接眼レンズ側のプラスとマイナス表記がされている2つのボタンのみで行う。ボタンの大きさはEOTechよりも大きくて押しやすい。

電源ONはどちらかのボタンを押し、電源オフは同時押し。

本製品にはオートシャットオフ機能があり、ボタン操作が無いまま14時間が経過すると自動的に電源が切れる。この機能を無効化するにはプラスボタンを5秒間長押しする。

私はどちらかと言えば、ボタン操作と言うよりも、Leupold VX-Rのように一定時間振動無しで電源が切れるシステムが好みだ。


マウントは脱着しやすいQDタイプのものが装着されている。手前の短いレバーを押さないとロックが解除できない仕組みなので、不意に外れることはない。

マウントはガッツリと固定することができ、銃器を掴んで離さない爪も肉厚で安心感があるのだが、それ故に後付のレールマウントに装着する時等にマウントの爪が干渉して付けれない場合もあったりする。特にH&K G3やMP5系の短めの後付けマウントにメーカーによっては装着しづらい場合もあったりする。

電池蓋もこの面に付いており、コインや手回しで開けるタイプだが、正直なんでこんな形状にしたのか開けにくい。脱落防止用のワイヤーがあるのは助かるのだが、それも相まって少し開けにくい。

使用電池はCR123Aリチウム電池、もしくはLFP123Aリチウムイオン充電池を使用する。


LFP123Aリチウムイオン充電池を使えることで思い出したが、本製品にはあまり光学照準器には見られないユニークな機能がある。それは反対側に設けられているMicro USBポートを見れば明らかだ。そう、こいつはLFP123Aリチウムイオン充電池を使用した場合、中に電池を入れたままでこの照準器越しに充電が可能となるのだ!

だが、考えてみてほしい。頻繁に電池を交換するような極悪燃費な製品でもなければ、何らかのデータ通信やソフトウェアップデートができるわけでもない。いったいどれだけのユーザーがこの機能を喜んで使っただろうか??

こんなものが付いてはいるが、一応IPX-8の防水性能はあるとのこと。


USBポートがある面には他にもウィンデージとエレベーションの調整ダイヤル(レティクルの上下左右調整)がある。1クリックで0.5MOAの調整幅があり、一周で16.5MOA、最大100MOAの移動量。

クリック感ははっきりとしておりわかりやすいが、ご覧の通り、コイン等何らかの道具がないと調整は難しいタイプ。

その下にあるネジは、マウントの幅を微調整するネジ。マウントのロックを解除した状態でこれを回して微調整が行える。


パッケージと付属品



レンズの透明度に関してだが、昨今のダットサイトと比べると意外と青みが目立つ。SIG SAUERのROMEO 4Mと同程度だ。

Aimpoint T-1がレンズ左上の縁が青みが深いエリアであるのに対し、UH-1はレンズ下半分に行くにつれて深くなっている。

レンズの歪み等は少なく、優秀な部類。


UH-1に採用されているEBR-CQBレティクルは、EOTech ホロサイトのサークルレティクルと違い、4隅が切れており、下部がピラミッド型になっている。

このレティクルの設計は英国で行っているとのこと。

この下部にあるピラミッドに関しては、至近距離戦闘で用いるレティクルで、中央の1MOAのドットを約200~400メートルでゼロインした際に、ピラミッドの頂点は10m前後のターゲットに対して射撃すると的中しやすくなっている設計だ。

外周のサークルレティクルに関しては、内径が65MOA、上と左右のクロスヘア風の出っ張りまで合わせれば85MOAのサイズ。

さて、EOTech ホロサイトや、SIG SAUER ROMEO 4Mのサークルレティクルと違い、UH-1のレティクルは拡大すると小さなドットの集まりで構成されているのがわかる。何を持ってボルテックス社がこの設計にしたのかわからないが、見方によっては荒いレティクル表示のように見えてしまう。

さて、EOTechも含め、この手のホログラフィックサイトは近視や乱視等の視力に何らかの問題がある人の場合、レティクルが滲んで見えてしまう現象がある。私も近視であり、若干の乱視持ちなので、10年以上前にEOTechのホロサイトを覗いた際は、かなり滲んで見えて使い物にならなかった。昨今のEOTechホロサイトに関しては、そこら辺を改良したのか、滲みはかなり無くなっていた。(少なくとも私の視力が改善してはいない)

UH-1に関しては、最近のEOTech ホロサイトには劣るが、滲みは抑えられてはいる。もし、滲みが気になる場合は、オークリー社のトゥルーデジタルレンズのように、優れた光学性能のレンズと、綿密に個々人の視力に合わせて作られたメガネやコンタクトレンズの装着をすることで、改善させることができる。私の場合でも、日常的に使用しているメガネとトゥルーデジタルとでは体感として2割くらいの改善を感じ、レティクルがよりはっきりと見える。

→また、特にホログラフィックサイトに言えることだが、ターゲットではなく、レティクルに目のピントを合わせることで滲み等が改善されることがある。


こちらは別から撮影させてもらった単3電池を使用するタイプのEOTech HWS 518-2だ。

ご覧の通り、レンズの透明度やレティクルの鮮明さに関してはEOTech社のホロサイトは別格だ。その他通常のダットサイトでも、これ以上の透明度のレンズは無いし、構造上何らかのブレイクスルーを起こさなければ作るのは難しいだろう。

EOTech社のホロサイトが横長ワイドなレンズなのに対し、VORTEX社のUH-1は立方体に近いレンズシェイプとなっている。


※画像クリックで拡大可

50メートル先に紺色のシャツを180cmの高さに設置して照準してみた。

この日は太陽が雲に覆われて頻繁に見え隠れしていたので、UH-1とT-1でターゲットの明るさが違う点はご了承願いたい。

レンズの青みに関しては日中の屋外で覗くとそこまで気にはならなくなるものの、やはりせっかくのホログラフィックサイトなのでもう少し透明度を高めてもらいたいものだ。

視界に関しては、レンズの小さなT-1と比べて言うのもあれだが、やはりその広さは良いものがある。目立つサークルレティクルも相まって、レンズ越しの索敵からターゲットへの捕捉に入るまで、ストレス無く素早く行うことができる。リコイル(反動)が大きな銃器の射撃において、リコイルによりレティクルを見失っても、次弾発射までの再捕捉は早い。


こちらは、50メートル先の電灯の中心を照準した状態で、レンズを上下左右とずれた方向から覗いてのパララックスのチェックを行ってみた。

このUH-1もホロサイトやその他ダットサイト同様にパララックスフリーの謳い文句を奏でているが、右は良いのだが、左から覗いた際に10cmほどのセンタードットのズレが見える。

またそれだけでなく、左端にレティクルを持っていくにつれてだんだんとレティクルが薄くなり、最終的には縁ギリギリで消滅とまではいかないが、消える寸前までなる。これは今までもショップや射撃場等で見てきたほぼ全てのUH-1で確認できたので、不具合ではなく仕様ではないのかと考えられる。

また、下から覗いた場合は問題ないが、上から覗いた場合も左とまでは言わないが、3~5cmほど左にレティクルがシフトしている。

このパララックスに関しては、後述するマイナーチェンジ版も特に変わりはなかった。

ひっそりと行われたマイナーチェンジ

さて、この様子だと少なくとも光学特性に関してはあまり良いイメージとしてのレビューは書けない。現に、これだとEOTech ホロサイトには到底かなわないだろうというニュアンスのレビューを書いていた。そんな中(2019年初旬)、米国の射撃関連のフォーラムを閲覧していると、UH-1のレンズ透明度がいつの間にか上がっているという報告が多数上がっていた。なぜボルテックスはこの改善に関してシレ~っと行ったかはわからないが、再度見直してみるかということで導入してみた。



マイナーチェンジされたのは本当みたいだ。確かにレンズ透明度は向上している。部分的に見ればT-1の方がレンズ透明度は相変わらず高いのだが、特に中央下部の青みの深さがかなり改善されているので、UH-1のほうがレンズを全体的に見ると、透明度が高いと言ってもいいだろう。

また、青みが少なくなっただけでなく、若干暖色傾向を強めたレンズにもなっているのが見て取れる。

レティクルそのものは特に変わっていない。センタードットが1MOAという小さなサイズのドットなので、100メートル以上先でも精密射撃が行いやすい。

レティクルの明るさに関しては、最大光量はどれだけ太陽がギラギラと光り輝いていようと問題なく使えるレベルで明るい。ただ、あまり明るくすると、レティクルのギラツキがかなり目立つので注意だ。

最低光量は、夜間の街灯や家の明かりが漏れてる環境下では良いが、暗闇だと少し明るい。15段階もの光量調整ができる割には、暗所でのセッティングに弱く、せめて後二段階くらいは下げれるようにして欲しい。特に本製品には暗視装置使用には非対応であり、AimpointやEOTechは暗視装置に非対応な廉価・民間グレードであったとしても、暗視装置と併用できないことはないレベルにまで光量を下げれるモデルがある。こういう点で差をつけられてはいけない。


UH-1は激しい逆光下においても余計なフレアやゴーストが出にくく、照準が行いやすい。写真だと中央付近にフレアやゴーストが出てはいるが、照準が大きく妨げられるほどではない。

同条件下ではT-1よりもUH-1の方がはるかに照準しやすい。また、EOTechホロサイトと比較しても同等レベルであり、接眼レンズ側の映り込み防止等には関してはUH-1の方が若干性能が上に感じた。


UH-1のレンズ中央までの高さはLower 1/3 Co-Witness(1.57インチ = 約3.98cm)。

重量バランスの問題か、上部に意外と重みがあるので、銃器を縦横無尽にハンドリングさせた際の遠心力はEOTech ホロサイトと比べると引っ張られる感は少し多めに感じる。

Conclusion | 総評

希望小売価格649.99ドル、実売価格は概ね480~600ドル前後と考えると、同じ電池で同じく暗視装置非対応のEOTech XPS2と同じくらいか少し安い価格となる。

EOTechのホロサイトシリーズには温度変化によってレティクルのズレ等が発生するサーマルドリフト問題が発生したが、この問題に関しては現在のシリーズ・ロットは解決済みとのこと。ただ、レーザーダイオードの経年劣化や、内部機構や密閉性能に関する不具合は今でも多少耳にする。

UH-1はその登場からまだ年月が浅いため、レーザーダイオードの劣化に関してはまだわからないが、現在のところEOTechのような大きな問題はあまり聞かない。それと同時に、軍や警察等の法執行機関においての運用実績もほとんど無いのも事実だ。

レンズの透明度や重量、その他光量調整等でまだまだEOTechと比べて使いづらいポイントが散見される。マイナーチェンジにより改善された点があるとはいえ、今のところ私にとってEOTechホロサイトや、Aimpointの座を揺るがすほどの存在にはなれていないといった印象だ。

 

さて、こんな手応えで終わったVORTEX UH-1のレビューだが、果たしてこれが第2世代(Gen2)になってどう変わったのか?第2世代版のレビューはこちら ↓ ↓

【レビュー】 Vortex – AMG UH-1 GEN II HOLOGRAPHIC SIGHT