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ジャンル:サーマルカメラ

かつてリューポルドが販売していたお手軽&お手頃価格なコンパクトなサーマルカメラ。この製品を通じて、携帯型サーマルカメラのあるべき姿を考えていきたい。

検証人数:3人

実弾射撃評価:有り

Type 89:5.56x45mm、空砲弾

執筆時期:2024年6月


SPECS | 性能諸元(公式)

メーカー名(メーカー国・製造国) Leupold (アメリカ合衆国)
サイズ(全長×全幅) 142mm x 42mm
重量 210グラム
センサー解像度 320x240
視野(FOV) 24°
倍率(デジタルズーム) 1倍~6倍
フレームレート 25Hz
ディスプレイ 1.2インチ ゴリラガラス
ディスプレイ解像度 390x390
使用電池(電池寿命) CR2032リチウム電池(3時間~10時間)
起動時間 4秒
防水性能 IP67
動作可能温度 -20℃~60℃
最大検知距離(鹿) 約685m

Pros & Cons | 一長一短

※ここはあくまで、KUSEMONO TACTICALが想定する使い方、視点から見た一長一短です。

※一長一短をわかりやすく表記しているだけであり、項目の数や内容、順番による採点評価ではありません。

優れている点 軽量小型で携行しやすいデザイン
  低価格である程度の耐久性もありコストパフォーマンスにも優れる
  シンプルでわかりやすいUI
  起動時間が早い
改善を要する点 最低輝度が見えにくく、輝度調整の記憶や設定に少し難がある
  カラーパレット数が多くて選択操作が増える
  上下左右調整のできないレティクル表示
  ズームの段階数が多い

早い安い旨い


何に追われているのか、そして本当に効率が良いのかは別として、我々日本人は常に忙しそうにしている。それ故に茶漬け、立ち食いそば、牛丼…いつの時代も我々日本人にとって「早くて安くて旨い」ものの需要は高い。私語に花を咲かせ、気分によって店を開け閉めし、スマホをいじりながら接客をすることなんて、我々にはできないのかもしれない。

「早くて安くて旨い」もの。今回紹介するLeupold社のサーマルカメラ「LTO Tracker HD」がまさにそんな製品だ。はっきり言うが、このLTO Tracker HDより高性能、多機能な製品なぞいくらでもある。そしてさらに言うと、この製品はすでに製造や販売が終了しており、挙句の果てにリューポルド社は現在サーマル製品を一切販売しておらず過去の遺物として葬り去っている。ではなぜ私は今も使い続けているのか?まさしくそれが、「早くて安くて旨い」ものであり、非常に使い勝手が良いからだ。

私にとって最初のサーマルカメラはFLIR社のPS32だった。当時これは良い製品だったが、某国にて警備員をしている際、宿営地にて盗難に合う。業務や訓練での索敵に非常に重宝していたし、安い買い物ではなかったため憤りと失意に襲われたものだ。その日はケバブやスイーツをやけ食いとふて寝をして記憶喪失を試み一日を終えた。
それから月日が経ち、やはり私物のサーマルカメラが欲しくなった。微光暗視装置に関しては訓練等で支給されるものを使えるため、特別必要性は感じないし、何より相手よりも我先に敵を発見し、先手や主導権を握れるサーマルカメラの魅力は大きかった。そこで、業務で様々なサーマルカメラに触れる機会があったので、公私混同で品定めを行った次第だ。
当初LTOについてはあまり期待していなかった。価格はあまりにも安いし、何よりもリューポルドはサーマルカメラの専門メーカーではないからだ。しかし、試しに触ってみるとその小型軽量さ、シンプルな操作性が気に入った。熱検知性能も思ったよりよかったため、自費での購入に至る。

LTO Tracker HDの価格帯は800~1500ドル、当時日本でも安いとこだと12万円前後で購入できたハイコスパ製品だった。実際私も10万円ちょっとで購入したと記憶している。


さて、たまに気が狂ったような製品を産み出すLeupoldとは言え、サーマルカメラを一から作り出すノウハウはない。そこでLeupoldは消防や民生向けのサーマルカメラを販売しているSeek Thermal社(米国)とタッグを組んでこのLTO Trackerをリリースした。

LTOシリーズは銃器に搭載したり、数千メートルもの検知力を誇るような仰々しいサーマルカメラではない。猟師が手軽に獲物の発見や周囲の状況認識、そして傷ついた獲物の血痕等を辿ることを目的に作られたものだ。

他にもLTO Questという携帯型GPS端末のような製品もある。これに関してはSeek Thermalは「Reveal」という製品名で現在(2024年6月)も販売している。

全体的なサイズ感、重量、視野、センサーサイズが同じことからも、FLIR – PTQ136 Breach (写真下段のサーマルカメラ)と比較しながら語っていきたい。

あ、そうそう。LTO Truckerシリーズは廉価版と今回のHDバージョンの2種類に別れる。廉価版はセンサーサイズが206x156で、こちらのHD版は320x240のセンサーが搭載されている。聞くところによると、センサーはFLIR製とのことだ。
→FLIR PTQ136に搭載されているBoson 12μmサーマルセンサーかどうかは不明。

比較に用いたFLIR – Breach PTQ136のレビューはこちら ↓ ↓

【レビュー】 FLIR – Breach PTQ136 (前編)


外観デザインはまるでスコープや単眼鏡を圧縮したような形状だ。

一見視度調整ができそうなダイヤルが後方接眼部に見えるが、これはただの飾りである可動や機能性は無い。

本体はアルミニウムを主として、スイッチ類はラバーでところどころ樹脂製となっている。


全長は14cm、全幅は4cmほどとコンパクトに作られており、両隣の懐中電灯(Streamlight – ProTac HL-X)やマルチツール(Leatherman – Wingman)と比べてもそのコンパクトさがわかるだろう。

何も考えずにポケット突っ込める大きさなので気軽に持ち出しやすい。重量もFLIR – PTQ136と同じくたった210グラム(双方とも公式値)で装備品の負担増になりにくい。

ちなみに電池込みの実重量は216グラムだった。


また、円筒形で余計な凸凹が無いため非常に持ちやすく、重量も軽いため握っても摘んでも保持しやすい。

写真のように比較的小さな手の女性が握っても保持しやすいため、老若男女を問わず携行しやすいサーマルカメラだ


ライフルスコープでいうパワーダイヤルに該当しそうな部分を回すと、配線基盤に繋がれた状態で本体が大胆にもスルッと二分割される。

そして電池(CR123Aリチウム電池)を、この配線基盤を少し曲げるようにしながら内部へと挿入する。

最初は不安になるような電池交換だが、配線基盤は90度以上極端に曲げるようなことをしない限り破損したりはしない。

電池寿命はディスプレイ輝度や使用環境によって左右されるが、概ね3時間と言った感じだ。同じCR123Aを1本使用するFLIR PTQ136も同様。公式には推奨されていないが、3Vであれば写真のような充電式の電池(写真はSurefire – LFP123)も使用できないことはない。ただし、容量が少ないため電池寿命は半分程度になってしまうし、電池容量を誤認識してしょっちゅうバッテリー残量警告が表示されるが。

私はもっぱら使い捨てのCR123Aリチウム電池を使用している。電池寿命が多いわけではないが、専用バッテリーを使用して充電や劣化の心配をするよりましだ。

ご安心を。防塵・防水性に関してはIP67準拠(完全防塵&一定の水没でも問題なし)をしており、今まで数日間の豪雨の中や渡河での使用、非常に湿気の多いジャングル内でも異常は見られなかった。


前方には視野24°のゲルマニウムレンズが鎮座している。この視野はFLIR PTQ136とほぼ同じで近距離向けだ。

レンズは固定焦点であり距離に応じたピント調整はできない。


操作は上部にある3つのボタンで行う。3つのボタンはそれぞれ電源、ズーム、カラーパレットの変更とシンプル且つよく利用する機能にワンタッチでアクセスできる。このシンプルで使い勝手の良い操作ができるサーマルカメラは、何故か価格と機能性が増える製品になるほど減少していく謎の呪いがこの界隈にはかけられている。

シンプルで使いやすことは大事だ。どれだけ高性能な装備品だろうと、操作が複雑で手数が必要だとあまり使う気にならない。このLTO Trackerシリーズはその点において素晴らしい製品だ。

電源操作は右ボタンを長押しで行う。このボタンのみ電源マークが刻印されているからわかりやすい。


電源を入れると、1.2インチ(約3cm)のゴリラガラス液晶ディスプレイが点灯する。小さなディスプレイだが、このサーマルカメラの使用用途や性能を考えるとこの大きさでもあまり困ったことはない。ディスプレイの拡大は本体の大きさや重量増にも直結するためこれで良い。

ただの液晶ディスプレイであり、接眼レンズによるアイリリーフ等は存在しない。暗所で液晶が光りが漏れやすくこちらの存在を発見されやすい欠点はあるが、目に近づけなくても気軽に見やすく、近くにいる仲間にも見せることができる利点もある。我が研究会が今までレビューした中だと、Infiray – Holo HL13もこのタイプのサーマルカメラだ。

電源を入れて表示されるまでには約4秒とほぼ公式通りに使用できる。サーマルカメラとして4秒の起動時間は短い部類であり、7~10秒以上かかる製品も数多くあることを考えると早くて助かる。

個人的には3秒以内が理想ではあるがなかなか難しい。電池消費の激しいサーマルカメラは頻繁に電源を切っては入れることが多いため、起動時間は早い方がよい。

スタンバイモードこそ無いものの、起動が早ければここぞと言うときに使いやすい。大手牛丼チェーン店と同じく、注文から提供までの速さは刻々と状況が変わる現場では重要だ。私がLTO Trackerを今だに頻繁に持ち出す理由の一つがまさにこれだ。

スタンバイモードとは名ばかりで起動時間がほとんど変わらない製品も多い。


工場内に余って転がっていたスコープのチューブを使用したかどうかはさておき、チューブ部は一般的なライフルスコープのチューブ径と同じ30mmとなっている。そのため、30mmスコープマウントと組み合わせることにより、銃器への装着も可能だ。

見栄えはあまりよろしくないが、写真のように3階建て建築にしたり、オフセットマウントを用いたりしてもいい。ちなみに5.56mm弾での使用には耐えたものの、本来銃器への搭載は考慮されていない設計なので自己責任で行ってほしい。

銃器との併用に関しては後述するレティクル機能の説明と共に深堀りしていく。

画面表示やズームについて


※他のサーマルカメラのレビューについては動画を付与させていたが、本製品は録画機能がなく、カメラ撮影もあまりうまく映らない&すでに製造が終了している製品なため、今回は割愛させていただく(動画を撮影している時間が無かったのも大きいが)。

※カメラ越しに表示されている映像を撮影しているため、実際の目視で見た映像よりも2割ほど画質や見えやすさが低下していること留意してほしい。

まず電源を点けたデフォルトの状態だと、1.7倍に拡大された状態で表示される。ディスプレイはサイズや解像度共に低いが、発色も良く輝度を高くすれば晴天時でも見やすい。描写に関してはFLIRのセンサーらしいシャープネスがそこまで高くない少しボヤけ気味の描写だ。

だが輝度調整に関しては問題点がある。なんと輝度設定に関しては、カラーパレット毎に独立しているのだ。そのため、暗所や屋外等の極端な明るさの環境に合わせて輝度調整をいじった場合、設定を変えないととあるカラーパレットは夜間ですごく眩しく、日中は暗すぎて見えないなんていうことが起きるため、注意が必要だ。私は対人索敵目的で使用することも少なくないため、使用する時間や環環境の変化に合わせてチェックをしてから現場に持ち出している。

ディスプレイ輝度調整に関しては左ボタンを長押しすると輝度調整モードに入る。輝度は20段階の調整が可能。

最低輝度については、明るさは良いのだがコントラストや色調がすごく見にくくなり、周囲の状況認識には良いが索敵には正直使えない。かと言ってもう一段輝度を上げると少し明るく感じる。私は索敵目的での使用をする時は、敵の暗視装置等に見つかりにくくするために自作の遮光チューブを装着していた。

また、ディスプレイ輝度を1番下や2番目の暗さにしてても、電源再投入後は勝手に3番目の明るさに戻る。これには夜間における隠密行動時には電源を入れ直す度に腹が立つ。それ以上の明るさにしている場合は記憶される。

画面には余計な文字やアイコンの表示等が無く見やすくシンプルだ。ボタン操作やバッテリー警告時等にだけ何らかの表示がされる。

映像のフレームレートは25Hz。近年、中国製品を中心に30Hzどころか50Hzの高フレームレートが低価格帯の製品にも普及し始めている現状を考えれば少し物足りないかもしれないが、当時の水準やLTO Trackerの使用用途を考えれば及第点だろう。


ズームボタン(中央ボタン)を押して2倍~6倍と1倍率毎にデジタルズームされた後は1倍率(等倍)表示となる。

写真のように1倍率時は小さな円形の画面に対して長方形で表示されるため少し見にくい。あくまで周囲の状況をざっと確認したい時に少し使う程度のものだ。

ズームボタンを長押しすると、ズーム倍率を0.1倍率毎に調整できるようになる。しかしこの機能をありがたがる人がいるのだろうか?正直、このセンサーサイズに対して画像が粗くなるデジタルズームでしかないので、ズームは3段階くらいで十分だ。

ズームについては、ほんの少しではあるがその他FLIR製品のように熱分布が見やすいように補正される。

周囲の環境や本体の熱による計測温度誤差修正のキャリブレーション(較正)については自動で行われる。

知らない方のために言うと、このような非冷却型のサーマルデバイスは、本体の温度や周囲の環境に合わせ、発生する温度計測誤差を修正するために適時較正(キャリブレーション)を行う。キャリブレーション中は、映像が1秒前後ほど一時停止される。これは、本体の温度や周囲の環境によって十数秒~数十秒毎に実行される。

レティクル表示と照準器としての使用


さて、ミリミリと調整できるズーム機能よりもさらに謎機能の一つに、電源ボタンを素早く二度押しすることで表示される、クロスヘアレティクル機能がある。

このレティクル、よくわからないことに表示はできるのだが上下左右の調整が一切できない。ほんとうにただ画面中央に表示されるだけだ。

ということで、エレベーションやウィンデージ調整ができる30mmスコープマウントを用いると、まさにサーマル照準器として運用することもできないことはない。試しにこの手法を用いて50ヤード(約45.7m)先のマンターゲットを5.56mm弾での射撃を行ったが、それくらいの距離なら使えないことはなかった。(実弾を用いてのそれ以上の距離の射撃は行ったことはない)

リューポルドがいったい何を考えて調整不可能なクロスヘアを表示させる機能を付与をしたのかわからないが、少なくとも後継機であるLTO Tracker HD2にはこの機能が亡き者とされている。

また、レーザーと空砲弾を用いた訓練にも何度か利用したが、こちらも反動による不具合は一切起きなかった。レーザーが散弾のようなガバガバ判定なので、ただのマウントリングポン付けでも交戦距離や環境によっては気にせず撃ち込むことができた。訓練としてはどうかと思うが…

このサーマルカメラをダットサイトやスコープ等の前方に配置し、クリップオンサーマルのように行うのは正直おすすめしない。視差が大きくサーマルと照準器、そして自分の顔が正対していないとまともに当たらない。スコープはピント合せが難しいのでボケボケの視界になることがほとんどだ。基本的にはこのサーマルカメラは単体での運用が一番いいだろう。

ただ前述したように、このサーマルカメラは銃器への搭載や照準器としての利用は考えられてはいない点に注意してほしい。

8つのカラーパレット


左ボタンをぽんぽん押す毎にカラーパレットの変更が可能となり、8種類設定されている。それでは、猛暑日の湿気ムンムンの気温32℃の地下通路を行き交う人々を見ながらそれぞれの特徴を説明しよう。

White Hot:温度が高いものを白く、低いものを黒く映す。サーマルカメラのカラーパレットの中で基本とも言える描写モード。Tracker HDでは全体的にどのような環境下でも使いやすいため、私はこのカラーパレットを多用している。

Black Hot:温度が高いものを黒く、低いものを白く映し出すモード。White Hotに比べ、森の木々や自然物の描写がわかりにくい場合があるが、白と黒のコントラストがはっきりと映りやすいため、空中を漂う法執行機関のヘリやドローンで人を捜索したり、ハンターが獲物に射撃を行う際に好んで使われることが多い。Tracker HDは映像処理が少し甘いため、写真のように周囲の環境によっては白飛びして見にくい場合がある。

Hi White:White Hotをベースに、より温度の高いものを黄色や赤系に配色。一目で周囲より温度の高いものを浮き立たせることができ、索敵等に使いやすい。しかし、ターゲットや周囲の状況によっては赤く塗りつぶされディテールがわかりにくくなったり、ターゲットと背景の区別がつきにくくなる場合もある。

Hi Black:こちらはBlack HotをベースにしたHi White。特徴は同じ。


RedとGreenはそれぞれ暗視での使用を想定し、暗順応を阻害しにくいカラーパレットとして設定されているのだろうが、Redは周囲の様子がわかりにくく、はっきり言って使いにくい。まだGreenのほうが良いがどちらにしても私自身はあまり使用しないカラーパレットだ。

Range:他のサーマルカメラだとレインボー系の名称がよく付けられている多色系カラーパレット。物体のわずかな温度変化をあぶり出すので、都市部だとゴチャゴチャしてわかりにくい場合もあるが、他のカラーパレットでは苦手な夏場の森の中に隠れた人物等を見つける際に意外と役立ったりする。

Copper:Rangeと似ているが、緑や黄色の配色を無くして少しシンプルにしたもの。

以上8つのカラーパレットがあるが、私はWhite Hotで周囲の状況認識と索敵を行い、ちょっと怪しいところではRangeで炙り出すという手法を用いる。あと一つHi Whiteもたまに使うかなという感じだが、その他は正直無くてもいいし、8つもあるカラーパレットは選択の手数が増えるのでいらない。

後編では長距離や様々な環境下での使用感等より深く評価していく。詳しくは下記へ↓ ↓

【レビュー】 Leupold – LTO Tracker HD (後編)