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ジャンル:プリズムスコープ、ライフルスコープ

リューポルドが作成した世にも珍しいオフセットスコープ

執筆時期:2020年10月

→本製品を提供してくださった「GDF」様に感謝いたします。

SPECS | 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) LEUPOLD (アメリカ合衆国)
全長×全幅×全高 117×83.8×50mm
重量 391グラム
ボディ素材 6061-T6 アルミニウム合金
対物レンズ径 20mm
倍率 6倍
視野 (FOV) 5.20m / 100m
アイリリーフ 85.1mm
レティクル CMR-W (D-EVO Ver)
動作保証温度 -29℃~49℃
価格(購入価格) 1299.99ドル

老舗光学照準器メーカーが放った変態スコープ


一挺のライフル銃で近接射撃と遠距離射撃との両立を図ろうと考えた時、どんなオプションを装着するだろうか?概ね考えられるのは以下の通りだ。

1:ダットサイト等の近接戦闘用照準器+倍率を付与するマグニファイヤー

2:ライフルスコープ+小型のダットサイトやアイアンサイトを上面や側面に付ける

3:等倍相当から遠距離射撃が可能な範囲まで倍率変更可能なショートスコープ

4:男は黙って裸眼でアイアンサイト。光学照準器なぞ甘え。

何れの手法にも欠点は存在する。まず「1」は、いくらマグニファイヤーで倍率を上げたからと言って、近接戦闘用のダットも拡大されてしまう。狙えるのはせいぜい400メートル前後が関の山で、特に精密射撃は難しい。マグニファイヤーを使用しない場合は、側面に倒すので重量バランス等が阻害される。

「2」に関しては、頬付けの位置を変えたり、銃を斜めに回転させる必要がある。「3」は私が好のみの選択肢だが、等倍とはいえスコープなので、常にアイリリーフが存在するし、倍率変更を行なう動作が必要だ。

他にもマイナーながら選択肢はあるのだがここでは置いておこう。「4」はまぁ、うん、すごいな。


これら様々な選択肢はあれど、どれも一長一短がある。そんな中、リューポルド社が新たに提案した選択肢がこのD-EVOだ。


これが今回紹介する変態スコープ「D-EVO」である。一体誰のアイデアで、どういう社内会議を経てこれを世に送り出したのだろうか…いろいろと興味が尽きない形状だ。

ぶっちゃけ言ってしまえば、長い潜望鏡をクシャッと踏みつけたような構造である。

D-EVOは「Dual Enhanced View Optic」の略。

上から見下ろした形状はZ字状となっており、これが銃器の照準器とはまず思えないだろう。

全長は11.7cm、重量は391グラムと、マウント付きプリズムスコープの中ではコンパクトな部類だろう。


全高は一番高い部位であるエレベーションダイヤル(レティクル上下調整)の突起部でも5cmとかなりロープロファイルに作られている。その代わり、上に伸びていない分、横方向は全幅8.38cmと右側に大きく対物レンズがニョキッと出ている。

対物レンズ手前にあるエレベーションとウィンデージダイヤル(レティクルの左右調整)はカバーが無いタイプで、1クリックがよくあるMOA単位ではなく、0.1ミルの移動量となっている。そのため、MOA単位でスコープの調整をするユーザーからは少し不評が出ているようだ。

0.1ミルは、100mの距離で約1cmの移動量となる。MOA単位だと0.1ミルは約1/3MOA。


対物レンズには、まるでタクティカルライトのストライクベゼルのような突起付きフードが付いている。もちろんこれで格闘戦を行えというわけではなく、横に出っ張っていることを考慮して、どこかにぶつけた際のレンズ保護が目的だろう。

このスコープにはレティクルイルミネーションの類は一切ない。余計な機構がない分信頼性は上がるが、使用シーンが少し限られてくることも事実だ。


トゲトゲフードの中、奥まった位置に20mm径の対物レンズがある。レンズのコーティングは青系。

D-EVOは固定6倍率となっている。


反対の接眼レンズ側は、Dの字の形状をした変わったレンズが埋め込まれている。これに関しては、後述する本製品の特殊なレンズの覗き方を考慮して作られた形状なのだ。

接眼レンズ部には、視度調整ができないタイプなので、人によってはレティクル等が見えにくいといった意見もあるようだ。


接眼レンズ部に本体ごと挟み込む形状のピカティニー規格マウントがある。

マウントはカチッとすんなりはまりやすい。


パッケージと付属品はご覧の通り。説明書はペラっとした紙だが、レティクルの扱い方を中心に必要最低限をサクッとまとめている。


D-EVOは、従来の光学照準器のように、接眼レンズに対して水平に覗いてもケラれてしまって見えにくい。ではこのスコープ、どう覗けと言うのか?

まずそれ以前の話として、D-EVOはそれ単体で運用することを想定されて作られたものではない。このスコープは、写真のようにダットサイトやホロサイト等の近接戦闘用光学照準器ありきの製品なのだ。


まずリューポルドが考えるD-EVOの運用思想上、D-EVOを銃器のレール上の一番手前に設置し、その後ろにLower 1/3 Co-Witnessの高さ(マウントベースからレンズ中央部までの高さが約3.98cm)に対応したダットサイト等を設置することが望ましい。リューポルドとしては、同社のなんちゃってホロサイト「LCO」とマッチするような設計にしている。

写真のLower 1/3 Co-Witnessサイズのマウントを持つホログラフィックサイトはVORTEX  AMG UH-1 Gen2

少し低めのCo-Witnessサイズ(約3.7cm)だと、場合によってダットサイトの下部分がD-EVOに埋もれる場合がある。

そして、近接戦闘用ではD-EVOの後方に設置したダットサイトを見ながら、顔や頬付けを一切動かさず、目線だけ下にずらすとD-EVOの6倍率の視野が広がり、中~遠距離の狙撃が可能となるわけである


今ここに、ズームレバーや頬付けも動かさず、銃器の回転等も行わず、眼球の上下運動だけを行って瞬時に等倍(ダットサイト等)から6倍率(D-EVO)による近接戦闘から遠距離戦闘までこなすことができるシステムが完成したのである。

このD-EVOが特異な形状をしているのはそのためである。ダットサイト等が前を通せんぼしている以上は、上下左右どこかにオフセットしないと両立は難しい。これ以上複雑な機構になると、耐朽性や価格面で問題になるだろう。


※画像クリックで拡大可

まだピンと来ていない人もいるかもしれないので、ここらでD-EVOを実際に覗いてみよう。

今までこのサイトで上記のような照準写真を見てた人はすぐ気づくかもしれないが、100メートル先に設置した青のツナギが、接眼レンズの範囲外上部に見えているのがわかるだろう。通常の光学照準器であれば、ある程度距離が離れているターゲットは、照準器越しに覗いている以上見えることはない。目と照準器の接眼レンズ、ターゲットが同軸上に重なっているからだ。

しかし、D-EVOはターゲットや接眼レンズに対して目線を下にして覗き込むレンズ構造になっているため、このような視界となる。故に、D-EVOのすぐ前方にダットサイト等を設置してもターゲットを同時に捉えることができるのだ。

レンズの質は、このような複雑なレンズ機構をしてはいるものの、リューポルドらしいクリアでシャープな映像を確保している。ここらへんは流石だ。

写真では少ないが、太陽を背にしている場合に全体的にゴーストがポツポツと出やすい傾向ではある。ただ、レティクルに被る等の致命的な場所には出にくいので許容範囲内。

レティクルは目線を下に向ける量を最小限かつ、光学性能に無理が生じないようにレンズ中央ではなく、上部に表示されている点も珍しい。

これも見てわかることだが、対物レンズ部の鏡筒が出っ張っているので、照準中の右の視界は阻害されてしまう

4倍率だと、マグニファイヤーの倍率とあまり変わらず、5倍率だと中途半端。かと言って8倍率くらいになると、等倍のダットサイトとあまりにも開きができてしまう。そういう意味では6倍率という設定にしたのは良い判断だと思う。ダットサイトでは照準するのが難しくなる距離に対して、メリハリをつけて狙うことができる。


レティクルは、同社の名機「Mark6 1-6x20mm」にも採用されている「CMR-W」のD-EVO版を採用している。ちょっとごちゃついたレティクルだが、精密射撃に必要なツールがコンパクトにまとめられている良いレティクルであろう。

ン?なんだかレティクルのドットが右斜め下にズレていないか?その通りだ、これで問題ない。D-EVOはご存知の通り右にオフセットされているので、レティクルもその分の誤差を考慮した表記となっている。

中央を含む各ドットのサイズは0.5MOA、中央の馬鉄型サークルレティクルは5MOA。

下へと連なるドットに下に行くにつれて短くなる横線は、それぞれ上から300~600メートルのBDC(ターゲットまでの距離による弾道落下予測機構)レティクルとしての機能がある。

このBDC機能は、5.56mmx45 NATO弾で、中央ドットを200メートルでゼロインした際に機能するように設計されている。こんな構造のスコープで当たるのかと不安になるかもしれないが、さすがはリューポルド、このBDCレティクルで600メートル先のマンターゲットを狙撃した人達曰く、調整とコツさえ掴めばそこそこ当たるようだ。

さらにそのBDC表記の左右のドット(最下部に「10」「20」と表記されているもの)は、それぞれ風速10mphと20mphの際に使用するBDCドットとなっている。

中央から左右横方向に伸びる線は、1ミル毎に区切ってあるミルラジアン単位の横線だ。(数字は2ミル毎に印字)これはミル単位を使って、多目的な測定ツールとして使用することを目的とされている。また、左端にある縦線も同じくミルラジアン単位の線で、0.5ミル毎に区切られている。(数字は1ミル毎に印字)

レンズ色温度は少し暖色寄り。


公式ではアイリリーフが8cm以上あると謳っているが、実際には6cm前後程度。ストックが長い銃器では扱いが難しくなる。ものによっては、D-EVO後方に折りたたみ式アイアンサイトを配置するのも厳しい。

アイボックスも比較的小さめ。D-EVOは目線を下にずらすだけで、瞬時に等倍から6倍スコープに切り替えることができるのが利点だと言ったが、これを実現するためには適切な位置の頬付けと慣れが必須だ


問題はまだ他にもある。ダットサイト等を前に配置する場合は、どうしてもある程度のレール長が必要になってくる。写真のVortex AMG UH-1 Gen2のように操作ボタン類が後方にあるタイプの照準器ならなおさらだ。

気にしない人は問題ないかもしれないが、薬莢の排莢ポートが右側あるタイプの銃器(ほとんどがそうなのだが)は、排出された薬莢がD-EVOの出っ張った右側下部にぶつかり、撃てば撃つほど傷がついていくことが多いそうだ。

また、バリケード越し等で射撃を行なう場合、左から銃を出しての射撃は、対物レンズが右側にある関係上、通常の光学照準器以上に身を乗り出さなくてはならない。

右の場合は、銃口にとバリケードの位置関係を踏まえていれば、対物レンズだけバリケードから出して索敵等を行えるという利点はあるが。

銃器を左構えにスイッチした際も、持ち方によっては対物レンズを覆ってしまうことがあることにも留意してもらいたい。

Conclusion | 総評


このデザイン、使い方共に癖がある光学照準器は、ダットサイトをメインに使いつつも、ここぞという時の500メートル前後の精密射撃もしっかり行いたいという人向けだろう。

比較的ロープロファイルに設計されていることもあり、マグニファイヤーを横に倒した状態のものと比べて、ガンハンドリングの際は思ったよりも遠心力等で振られる感じは少なかった。

ただ、やはり通常の光学照準器と比べて覗き方や形状等の独特な癖が足を引っ張る事も多々ある。これらの癖に慣れることができ、メリットを見いだせる人には、通常のショートスコープやプリズムスコープにはできないポテンシャルを発揮することが可能となるだろう。

この製品、けして万人受けするものではない。しかし他の光学照準器には類を見ない発想であり、一部のコアなシューターには気に入られている面白いスコープではある。D-EVOはすでに生産が終了して年月が経過しており、次世代型の話も聞かない。可能性は低いかもしれないが、より使い勝手を煮詰め直した二世代目が出ないものだろうか。