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ジャンル:サーマルモノキュラー

FLIR社のハンディータイプのサーマル暗視スコープ

執筆時期:2019年6月

※追記1:2019/07/27:動画を掲載。

SPECS │ 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) FLIR Systems(アメリカ合衆国)
サイズ(全長×全幅×全高) 17.0×5.9×6.2cm
重量 約340グラム
ボディ素材 樹脂及びラバー
検出素子 非冷却酸化バナジウム(Vox)マイクロボロメータ
センサー解像度 320×240(SCOUTⅡ 320は336×256)
焦点距離 19mm単焦点
倍率 1倍&2倍(デジタルズーム)
視野(FOV) 17°×13°NTSC
フレームレート 9Hz
使用電池(稼働時間) 内蔵式リチウムイオン電池(5時間)
防水性能 IP67
動作保証温度 -20℃~50℃
耐衝撃性能 1メートル
対人最大検知距離 450m(SCOUTⅡ 320は550m)
価格 1795ドル

プレデターのきもち


重武装をした屈強なマッチョマン達を、余裕を持ってプレデターが追い詰めることができたのも、強力なエネルギー兵器や光学迷彩だけでなく、闇夜や草葉の影に隠れても見つけ出すことができる熱探知装置があったからである。この素晴らしい装置に関しては、現在の科学力でも所持することが可能だ。それが今回紹介するFLIR PS32SCOUTⅡ 320)である。

FLIR社は、その社名の通りForward Looking Infra Red(前方監視型赤外線)、赤外線を検知して映像化するサーマルカメラの大手企業だ。軍人やハンター、電気技師達が手持ちやヘルメットに装着する小型のものから、銃器や車両、船舶や航空機に取り付けるものまで、様々なレベルの製品を幅広く手がけている。今回紹介する製品は、元々エントリークラスの製品だったPSシリーズのPS32(現在はSCOUTⅡ 320に該当)である。


こちらがPS32だ。この先がすぼまったような単眼鏡のような外観は、SCOUT xxxシリーズの共通プラットフォームとなっている。

ちなみに、ほぼ同スペックのSCOUT2 320は、現在グレーの樹脂製の外枠、上部操作ボタンがブラックに変更されている。

対物レンズについているシリコン製のレンズカバーは、樹脂製の窪みにはめてあるだけなので、藪こぎ等で落っことしてしまうこともある。ご注意を。


グレーの外装パーツは樹脂製だが、ODカラーの外装はラバー製となっている。グリップしやすい反面、汚れや塵がつきやすい。

接眼レンズ手前にある水滴型のダイヤルは、視度調整ダイヤルだ。

本機種に搭載されているセンサーは、320×240の酸化バナジウム(VOX)型マイクロボロメータを搭載している。

ボロメータはレンズを通して集められた赤外線を熱エネルギーに変え、それによって上昇したセンサーの温度変化を電気に変換する装置。これを、内部のコンピュータで処理して温度分布を我々人間が見える形で可視化している。

言うまでもないが、マイクロボロメータそのものも周囲の温度に合わせて温度は上昇し、影響を与えてしまう。センサーの補正、得られた温度分布をどう処理し、映像化するかは各メーカーや機種によって差が出てくるもの。

事実上の後継機であるSCOUTⅡ 320はセンサー解像度が336×256に若干上げらている。上位機種のSCOUT Ⅱ 640は640×512と大幅に上がっている。


全長は17センチ、重量は340グラムで、片手で持つにもちょうどよい。装備や携行品に加えても苦にならない。

ただ、本体下部が少しえぐれているようなデザインなので、手の下側に若干隙間があいてしまう。

精密機械ながら、落下耐久度は1メートルを、防水・防塵性能はIP67(完全防塵&一定の水圧で30分間の水没に耐えうる)を確保している。今まで、キツい環境下の現場や訓練で使用してきたが、大きな故障や不具合はなかった。


操作ボタン類はすべて本体上部にまとめられている。各種ボタンが何を示すのかわかりやすくて良い。

ちなみにセンサー解像度の低い下位機種であるSCOTⅡ 240の場合、倍率変更ボタンは一時停止ボタンに変更されている。解像度が低い(240x180)ので、デジタルズームをして荒い画像を見せるくらいならということだろう。一時停止機能という別の機能を付与するのは良いことだ。

電源を入れると、このボタン類は赤いバックランプが灯る。

ボタンの感触はプコプコと押しやすく、暗闇の手探りでも操作に支障はない。

電源ボタンを押してから、観測できるようになるまでの起動時間は約6秒


ちなみに、電源OFF時にモニター光度切り替えボタンを押すと、前面のLEDが光って簡易的な懐中電灯として使用できる。(ボタンを押している間のみ点灯)

監視や偵察任務時には誤点灯しないように、カバーしたほうがいい。


電源ボタンの下には充電用のミニUSBポートを備える。本製品は内蔵型のリチウムイオンバッテリーで駆動し、フル充電で5時間の運用が可能だ。サーマルカメラは、微光暗視タイプのナイトビジョンと違い、どうしてもエネルギーの消費が激しいので、このような小型機で10時間以上の駆動をするモデルは少ない。

各国のコンセント形状に対応したアダプターも付属する。

モバイルバッテリー等から充電もできるが、充電中の稼働はできず、バッテリーの取り外しや交換もできない。リチウムイオンバッテリーそのものは、良質なものを使用しているみたいで、今まで過酷な環境下での使用や、ラフなバッテリー管理を行ってきたが、目に見えるバッテリーの劣化はあまり感じられない。

このミニUSBポートは充電だけでなく、PCと接続してFLIR社公式の「SCOUTⅡ End User Tool」というソフトを介して、ファームウェアの更新や、各種設定の変更を行うことができる。

設定の変更項目は、自動シャットダウンの時間変更、ボタンバックライトのON・OFF、カラーパレットの変更が可能。

また、SCOUTⅡからは付属のミニUSB→RCA変換ケーブルを用いて、映像出力が可能となっている


対物レンズ部。黒光りする19mmゲルマニウムレンズが見える。普通のカメラやメガネに用いられるガラスレンズではなく、ゲルマニウムでないと赤外線の波長をキャッチしにくいため。

ただ、ゲルマニウムレンズは見ての通りARコートされているとは言え光に反射しやすいため、隠密行動がしたい場合は留意しておいた方が良い。

スコープや微光暗視装置のような光学機器と違い、サーマルカメラは可視光線ではなく赤外線を可視化するもの。それ故、レンズを守りたいからと言って、ゲルマニウムレンズの上にガラスやポリカーボネートのようなプロテクターを噛ますと、何も見えなくなる。基本的にはサーマルカメラのレンズを使用時に守る術はあまりないので、レンズの保護には注意を払うべきだ。

キルフラッシュだと透過性能は低下するものの、とりあえず赤外線は透過できるので使用は可能。


接眼レンズ部。取り外し可能なゴム製のアイピースが付いている。


アイピースを外すと、強化プラスチック製のプロテクターの中にLCD(液晶ディスプレイ)が見える。ディスプレイ解像度は640×480。

アイリリーフは約1センチほど。アイキャップを付けた状態でメガネやゴーグルをしている場合は、中に設置されているディスプレイの四隅が見えなくなるが、使えないレベルではない。

プロテクターは樹脂製なので、傷がつかないように私はスマートフォン用の保護フィルムを切り抜いて貼っている。


底面を見ると、ストラップホールと三脚ネジ用の穴が設けられている。

その両側面にある金属端子は、映像出力用の端子である。どうやら、当初の予定ではこの端子に接続する出力ケーブルや、モニター等を販売する予定だったのではないかと言われている。だが、そのようなものは結局発売されなかった。

そんな中、CADEMIAというルーマニアの3Dプリンター等を使って様々な電子小物を制作している小規模サークルが、PS・SCOUTシリーズ対応の映像出力アダプターを作っているという話を聞き入手してみた。


このように、何の工作もせずにポン付けすることができる。ここから、RCA端子による映像出力が可能となる。

そこに、IO データ社のアナレコ GV-USB2/AのようなUSB変換ケーブルを使うことで、PCやスマートフォンに映像を出力、記録することが可能となる。

後述する映像レビューはすべてこのシステムを用いて記録したものである。


底面の三脚用ネジ穴をうまく活用すれば、三脚穴を用いたナイトビジョン用のヘルメットマウントや、カメラマウントに取り付けることが可能となる。

写真はLaylax社のクイックバイポッドベースを改造して取り付けた様子。


設置さえうまく行えば、サーマルカメラ後方に等倍のスコープを設置することで、簡易的なサーマルスコープに早変わりさせることもできる。(写真の等倍スコープはVORTEX社のSPITFIRE AR Prism Scope 1x

これに関しては、等倍スコープの至近距離だと若干拡大して見える特性を利用することによって、本製品の短いアイリリーフを延長し、レティクルを表示させることに成功している。ダットサイトや、1.5倍以上の倍率のスコープだとこれがうまくいかない。

とは言え、この方法は固定をガッチリ行わないと、少しの衝撃ですぐずれてしまう。サバイバルゲームのような近距離でのお遊びならまだしも、実銃での使用はまるで使い物にならないのは言うまでもないだろう。

さて、ここからは実際に使用してどのように映像が映し出されるのかをレビューしていこう。まずはカラーパレットの紹介だ。

近年のサーマルカメラのほとんどには、使用する目的や周囲の環境や状況に合わせて、適切な温度分布や視界を選択できるように、数種類のカラーパレットが備わっている。FLIR PS及びSCOUT2シリーズは以下の4種類のカラーパレットが組み込まれている。

White Hot | ホワイトホット


ホワイトホットモードは、サーマルカメラのカラーパレットの中で最もポピュラーと言ってもいい基本のモード。

温度が高いものを白、低いものほど黒く描写する。

都市部や山間部等、まんべんなく使えるカラーパレットである。また、コントラストが極端な場合でも、他のカラーパレットよりわかりやすいことが多い。

Black Hot | ブラックホット


反対にブラックホットモードは、温度が高いもの黒、低いものを白く描写する。

特に建物や車等の温度が低めの人工物のディテールに関しては、夜間の場合はまるでモノクロフィルムを見ているように繊細に描写され、索敵だけでなく、ナイトビジョンのように視界の確保を目的とする使い方にも適している。

環境によっては、森や草等の植物の描写がわかりにくいこともあるが、白と黒のコントラストがはっきりと映りやすいので、隠れている標的が見つけやすい・照準がしやすいという意味合いで法執行機関やハンターからの評価は高かったりする。

Inst Alert | インスタラート


このモードに関しては、ホワイトホットをベースに、より温度の高い物を赤く目立たせるモードだ。

このモードの利点はなんと言ってもひと目で周囲より温度の高い箇所がわかるため、索敵に用いるのに適している。また、消防等における消火活動で、残り火やまだ燻っているところが無いか確認する際にも使われるようだ。高コントラストのシーンで威力を発揮するモードだ。

ただ、環境や状況によっては多くのエリアが赤く塗りつぶされ、見えにくくなる場合もある。特に、空を多く写している場合は地面等が真っ赤に塗りつぶされがち。上位機種のSCOUT 3 640等はそこらの調整がされているようで、多少マシになっている。

故に、他のモード写真と比べて本モードの写真は地面が多く映るよう少し下に向けて撮影してある。


このインスタラートは、さらに4段階のレベルに調整できる。写真のレベル1では、周囲の温度分布の中から最も温度の高い5%のエリアが赤く表示される。以降はレベル2で10%、レベル3で15%と、5%刻みで温度分布の高いエリアがより赤く表示される。

私の使い方では、正直こんなに細かくレベル分けしてくれる必要性を感じない。カラーパレットの切り替えは、ボタンをポンポン押す毎に切り替わるのだが、インスタラートが4段階あるおかげで、任意のカラーパレットを選択するのを煩わしく感じることもある。

Maritime Red | マータイムレッド


このモードは、温度が高いエリアを赤く、低いエリアを黒く描写するモード。

暗闇における海上での使用を想定し、目にとって感度の低い赤色を多く使い、暗順応を極力妨げないようにするモード。

基本的に赤と黒の微妙なグラデーションのみで描写されるため、他のモードよりも環境や状況がわかりにくいシーンもあるが、白く明るいディスプレイを見て夜目をつぶしたくない場合に効果的だ。

このモードは、デフォルトの状態ではカラーパレット変更ボタンで選択することはできない。前述したエンドユーザーツールを用いて、このモードを加えることができる。

ただし、このモードを加えた場合はインスタラートが選べなくなるので注意を。インスタラートを復活させたい場合も、エンドユーザーツールで設定可能。

※1

YoutubeにPS32の描写を動画としてもアップしてみた。こちらも合わせてご覧頂きたい。

さて、ここからはこのサーマルカメラのより詳細な性能を見ていこう。


まずは7m、3mの至近距離から見ていこう。(動画:47秒~

このPS32に関しては、比較的近距離でもピントが合いやすく、あまり距離に関係なくオールマイティーに使える。

この映像を記録した日は、30度を超える熱帯夜だったが、バックの林、人間、ライフルをキレイに描写しているのがわかる。

また、シャツの上から体表面のより細かな温度分布が描写されている様子も見て取れる。


次は公園の散歩道にて100mの距離で警備員(中型犬)と巡回中。(動画:1分07秒~

※写真はホワイトホットと書かれているが間違いで、実際はインスタラートのLv.1である。

この距離でも、人間がいるという識別は可能であり、犬もそうとはわからずとも動いていれば何らかの小動物であるという識別はできる。

これ以上の距離になると、センサーサイズか、レンズの焦点距離を上げないと、動きがない限り人間かどうかの識別は難しくなる。


今度は一気に距離を伸ばし、高台から550メートル先の人間を。もう一つの小さな点はおそらくウサギかキツネだ。(動画:2:47~

撮影したのは晴れた日中だったが、識別こそできないものの、ちゃんと人間の体温を検知している。カタログスペックに偽りは無さそうだ。

さすがに止まっていれば、何の点なのかわかりにくく、見逃してしまう可能性もある。


今度は水平位置から、同じく550m先の人間を撮影。(動画:3:31~

このように開けた平原等でうまく条件が合えば、このような水平位置からでも人間を検知可能だ。ただ、あまり空を映さないようにしないと、空を検知してすぐに白飛び等をして見えにくくなるので慣れが必要だ。


これは同条件下で2倍率デジタルズームを使ってみた様子だが、所詮はデジタルズームなので、ズームすることでぼやけて判別がつきにくくなっている。ケース・バイ・ケースでの利用を考えたほうがいい。

このズーム機能に関しては、一応はただデジタルズームをするだけでなく、ズームした箇所に合わせた温度分布を補正し、見やすくしてくれる機能もある。その機能に関しては、状況によってあまり役に立たないこともあるが、後継機のSCOUTⅡやⅢに関しては少し改善されている。


もっと遠距離を見てみよう。とある暑い夏の日に瀬戸大橋を通るタンカーを撮影してみた。(動画:3:47~

タンカーまで1000メートル以上の距離ではあるが、橋も含めてくっきりと映し出している。

写真では分かりづらいが、橋の上を通る車両もバスやトラック、セダンかどうかくらいの車種を判別できる程度には認識可能だ。

サーマルカメラの遠距離における性能はデジカメ同様に、センサーサイズだけでなくレンズの焦点距離にも左右されるが、やはり索敵や偵察を考えた用途だと、この320×240のセンサーが最低限度であると思う


こちらは1200メートル先の漁船をブラックホットで。


瀬戸内海を超えて、香川県の工場地帯等の街並みを撮影。距離は13キロメートルほど。中央の小島までは1000メートル。


真夏の日中の街の様子。アスファルトの温度が高く、ブラックホットだと歩道の人間が黒つぶれしてしまったが、ホワイトホットだといい塩梅に補正されてわかりやすくなった。


こちらは概ね15メートル程度の距離で、各種カラーパレットで野ウサギ達を映してみた様子。様々な距離間隔で3匹程度いるのがわかる。

一番手前のウサギはまだしも、その先にいる奴らは半分草むらに隠れており、肉眼は当然として目がこちらに向いて反射していないと、微光暗視装置のようなナイトビジョンでも見つけることは難しい。

このPS32やSCOUTⅡシリーズのフレームレートは9Hzであり、動きの早いものを見る時や、こちらが移動しながら何かを見る際はカクカクした動きになって見づらく感じることが多い。ある程度ストレス無く見るには、フレームレートは20~30Hzは欲しいところ。その場合は、フレームレートが30~60Hzに大幅アップしたSCOUTⅢシリーズがいいだろう。

この少ないフレームレートと微妙なセンサー解像度・レンズの焦点距離のおかげでバカな勘違いをしたことがあった。偵察訓練中に、数百メートル先で人影らしきものが動いているのを発見した私は、仕留めてやろうと意気揚々と接近した。しかし、その場に行ってみると、木に引っかかった布が風で揺らいでいただけで、分隊の仲間から笑い者にされた経験がある。


温度分布の変化を映像化する観点から、少々の草むらや茂みの場合、写真のように簡単に炙り出されてしまう

25m先の茂みに隠れているが、サーマルでは見えている頭頂部も、実際には薄い草葉が茂って目隠ししているので、目視や第3世代程度の微光暗視装置だと見つけるのは困難である


上の写真は、カラーパレットのホワイトホット紹介時の右の写真と同じ住宅街。ただ、この写真では濃霧の夜で、数メートル先すらまともに見えない状況下。(動画:1:57~

さすがに家屋や電柱等のディテールはだいぶボヤケてわかりにくくなっているものの、こんな状況下でも100m先の人間をしっかりと捉えている

通常このような霧や煙が充満した状況下では、肉眼やナイトビジョンはおろか、強力な懐中電灯を照らしても見つけることはできない。そんな時でも、サーマルデバイスはしっかりと索敵を行い、見えない対象も浮かび上がらせてくれるスグレモノだ。

他にも、強力なライトを当てられた逆行下の条件でも使用できる点は、通常の微光暗視装置には無い利点だろう。


街路樹の陰からこっそりコチラを見てもらった。距離は100mと320mに一人ずつ配置。サーマルカメラを相手にした場合は、うまく隠れないとちょっとやそっとではバレてしまう。

 


ただ、サーマルカメラにも苦手なシチェーションはある。写真は40度を超える気温の中、森を数人で歩いている様子を後ろから撮影したもの。

ほんの数メートル離れているだけにも関わらず、人体の温度と周辺環境の温度にあまり差がないのでかなりわかりにくくなっている

このような状況下では、10メートル以上離れた場合はよりわかりにくくなる。それらをサーマルカメラで判別するには、より大きなセンサーや、高度な画像処理ソフトを搭載したものが必要だ。


また、状況に合わせて適切なカラーパレットを用いることも重要だ。写真は真夏日の100m先の歩道を歩いている2人組を撮影したもの。

ブラックホットの場合は黒つぶれしてしまいそうで、見えにくくなっているが、ホワイトホットの場合はわかりやすい。


対象が見えにくい場合は、ズームをすることも一つの手段だ。このように、条件が良い場合はズームをすることで画像補正がかけられ、先程見えにくかったブラックホットのカラーパレットでも、歩道を歩く二人組が見やすくなった。

とは言え、所詮はデジタルズームで画像は荒くなるし、場合によってはズームすることでよりわかりにくくなる場合もあるので、前述した通りケース・バイ・ケースの手段として考えてもらいたい。


言い忘れたが、このような非冷却型のサーマルデバイスは、本体の温度や周囲の環境に合わせ、発生する計測誤差を修正するために適時較正(キャリブレーション)を行う。そのため、状況によってまちまちだが、数十秒から1分半位の間隔で、映像が1秒弱ほど一時停止される。目を離せられない対象を監視している際は、そのことに留意してもらいたい。

較正が行われる約2.5秒ほど前になると、写真のように停止マークが左上に表示されるので目安になる。

Conclusion | 総評


このような小型ハンディタイプのサーマルカメラの用途は、ナイトビジョンカメラのように夜間の視界確保というよりも、索敵や監視能力に重きを置いたものが多い。本製品もそう言えるだろう。

特にPS32やSCOUTⅡシリーズは、9Hzという低いフレームレートなので、これで暗視ゴーグルのように、暗闇での行軍時の視界確保に使うには少々ムリがある。

ただ、状況次第ではこの320×240(SCOUT2シリーズの場合は336×256)のセンサー解像度であっても、PVS-14のような第3世代ナイトビジョンよりもくっきりと映像化させることも可能であり、価格もずっと安価に入手できる。

特に私の役職上、偵察や監視任務に出ることが多いので、このような索敵能力に優れたサーマルカメラは大変重宝している。某中東諸国で警備員をしていた時も、このPS32を所持していたおかげで、早期発見早期対処ができ、難を逃れたことが幾度かあった。

現在このPS32は私の手元にはない。国外で警備員をしていた際に、いつの間にか盗まれてしまったのだ…。このようなものを国外に持ち出す段階で私に大きな落ち度があり、ある意味で自業自得の面もあるが、どうか誰の手に渡ろうと大事に使ってくれていることを願う。

どんな装備にも言えることだが、サーマルカメラを使用する際は過信したりせず、得意なシチェーションと苦手なシチェーションをよく把握し、うまく活用する経験と技量が求められる。