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ジャンル:サーマル単眼鏡、サーマルカメラ

HIKMICROのコストパフォーマンスに優れたサーマル単眼鏡

執筆時期:2025年4月

検証人数:2人

SPECS | 性能諸元(公式)

メーカー名(メーカー国・製造国) HIKMICRO(中華人民共和国)
サイズ(全長x幅x高さ) 158.3×61×57mm
重量 310グラム
センサー解像度 384×288
センサー画素ピッチ 12μm
レンズ焦点距離 15mm (F1.0)
視野 17.5°×13.1°
倍率 1×, 2×, 4×, 8×(デジタルズーム)
フレームレート 50Hz
感度 35mK
使用電池(電池寿命) 内蔵リチウムバッテリー(最大7.5時間)
動作保証温度 -20℃~55℃
防水性能 IP67
検出範囲 708m

Pros & Cons | 一長一短

※ここはあくまで、KUSEMONO TACTICALが想定する使い方、視点から見た一長一短です。

※一長一短をわかりやすく表記しているだけであり、項目の数や内容、順番による採点評価ではありません。

優れている点 コストパフォーマンスに優れた熱描写能力
  多機能性
  UIが比較的シンプルでわかりやすい
改善を要する点 モニターの輝度調整に癖がある

コストコ チャイナフェア


数年前、コストコにて当研究会で行うパーティーの買い物を行っていた際、中国製のサーマルカメラが売られていた。本国ではなく日本のコストコでだ。InfiRayと並んで中華サーマルカメラメーカー大手であるHIKMICRO製のLYNX Pro LE10という単眼鏡タイプの製品だ。日本ではあまり馴染みの無い防犯や狩猟目的での使用が多い本製品は、しばらくしてコストコの棚から姿を消した。


だが、優秀な目利きバイヤーの多いコストコのことだ。果たしてどれほどの性能なのかと興味を持った。InfiRay – HOLO HL13のレビューをした際も言及したが、昨今の中国製サーマルカメラの進化やコスパは目を見張るものがあり、様々な展覧会やショップで触れてきたこともあって、このようなハンディタイプもレビューをしてみたいと考えていた。昨年、業務でとある米国製サーマルカメラ(守秘義務の関係上言えない、ごめん)との比較検証で、中国製のサーマルと対峙させたことがあった。この時に使用したサーマルカメラがHIKMICRO LYNX PRO LH15である。コストコで販売していたLE10の上位モデルであり、レビューが許可されたのでこうして記事化したわけだ。

許可申請が降りるのがかなり遅かったため、LYNXシリーズは現在すでにモデルチェンジされている。クセモノタクティカルあるあるだ。(モデルチェンジの内容は後編にて)

余談だが2025年4月現在、日本のコストコでは検査や業務用途のHIKMICRO – B20が販売されている。こちらのほうが需要は多いだろう。


サイズは158.3×61×57mmと、500mlのペットボトルより一回りほど小さいサイズ。かつて私が所持していたFLIR – PS32と比較しても一回り小さい。

LYNXシリーズは他にもLE10、LE15、LH19、LH25と多数のラインナップを揃える。LEと付いているモデルはセンサー解像度が256×192の廉価モデルであり、LHは384×288。その後ろにつく二桁の数字はレンズの焦点距離を表している。

ちなみにこの製品は米国のサーマルカメラメーカーであるAGM Global Visionで「TAIPAN TM15-384」という製品名でも販売されている。機能はほぼ同じ。

AGM Global Visionは同じくサーマルカメラメーカーであるArmasight社の元社員が設立した会社である。


接眼レンズ部のディスプレイは視度調整が可能であり、一度行われたマイナーチェンジで見えにくかった画面が大型化し、センサー画素ピッチが12μmになる。これにより、見やすい画面とより解像感のあるきめ細やかな描写ができるようになった。

アイリリーフは20mm前後であり、厚手のゴーグル等をしていない限りは眼鏡でも見えやすい部類ではあるが、画面の四隅は少し見えない。


搭載しているレンズは焦点距離15mmのゲルマニウムレンズだ。レンズキャップは脱落防止で本体に接続されている。

レンズにピント調整機能は無い。概ね5m以上でピントが合う設計となっている。

焦点距離の長いLH19とLH25はマニュアルフォーカス機能がある。


底面にはペタペタと各種認証シールと三脚ネジ穴(1/4)と、ストラップホール、そしてUSBポートがある。

USBポート(Type-C)は、内蔵バッテリーの充電だけでなく、ファームウェアの更新や内蔵メモリーから録画や静止画データにアクセスすることが可能だ。

他にも、USBを介したCVBSケーブルでの映像出力機能もあるようだ。

内蔵バッテリーは公式においてリチウムバッテリーとだけ記載されているため詳細は不明。交換は基本的にできず、最大持続時間は7.5時間となっている。少なくとも当研究会においてガス欠になるほど動かしてはないが、5時間ほどの連続使用はできた。


操作は上面4つのボタンで行う。上から電源ボタン、撮影ボタン、メニューボタン、ズームボタンだ。各種ボタンのクリック感は良好で、グローブをしていてもわかりやい。

この4つのボタンで基本的な操作は可能であり、後述するカラーパレットの変更もメニューボタンを短押しするだけでポンポン切り替えることができる。

メニュー画面には入るにはメニューボタンを長押し、あとは撮影ボタンとズームボタンが上下カーソル移動、メニューボタンで決定という操作となる。UI(ユーザーインターフェース)は比較的わかりやすく、階層も少ないので操作性も含めて様々な機能を盛り込んでいる割には操作しやすくて良い

電源ボタンを押してからサーマル映像が描写されるまでは約6秒、メニュー画面の操作が可能になるには約11秒であり概ね平均的。

高い描写性能と4つのカラーパレット


写真はそれぞれのカラーパレットで気温33℃の郊外路を写した様子。描写に関しては静止画よりも動画のほうが白飛びが少し抑えられ見やすいため、本レビューのサーマル写真は撮影した動画データをキャプチャしたものを掲載。

LYNX PRO LH15は20万円前後で販売されていた。その価格から考えるとこの描写性能は素晴らしいものだ。384×288の現在普及帯のセンサー解像度ながら、10年ほど前の640×480のセンサーを搭載したサーマルカメラ(例えばFLIR – Scout 3 640)と張り合えるレベルの映像を届けてくれる。

また、フレームレートは低価格帯ながら50Hzを確保しており、滑らかな描写や動画性能となっている。50Hzのフレームレートなぞ、一昔前は非常に高い上位モデルでのみ味わえる特権であったが、今や中国製サーマルカメラを中心にスタンダードとなりつつある・

ただ画面の輝度調整に関しては少し変な癖がある。まず画面輝度を上げ下げしても画面のバックライトの明るさが大きく変わるわけではない。例えばカラーパレットのホワイトホットモードでは輝度を上げると、高温部分の明るさが上がると同時に全体のコントラストが低下する。そしてブラックホットにすると、それらが反転した描写となる。これは非常に煩わしく、昼間太陽で画面が見えにくいからと輝度を大きく上げたとしよう。そしてブラックホットにすると、反転されるので今度は画面が暗すぎて見えないということになる。逆に夜間の隠密行動で画面をかなり暗くして、ブラックホットに切り替えると、今度は凄まじい明るさでユーザーの目を焼くと同時に敵兵へお知らせを送ることになる。どうしてこのような設定にしたのかはよくわからないが、これは改善すべき事項だ。

これは静止画や録画データにも反映されるため、今回は様々なカラーパレットにとって最もバランスが良いと判断した40~50%の輝度で撮影した。

本製品は4種のカラーパレットを搭載している。ホワイトホット、ブラックホット、レインボー系にあとは何か一つ有用なのがあっても無くてもというのが私の好みでもあるし、大量のカラーパレットがあったところで切り替えが煩わしくなるだけなので、4つだけに厳選しているのは良いことだ。それでは、それぞれのカラーパレットを見ていこう。

WHITE HOT | ホワイトホット


上の写真は気温27℃の林内にて、20m先の人と犬を覗いたもの。

ホワイトホットは温度が高いものを白、低いものほど黒く描写する。

どのメーカーのサーマルカメラにおいても様々な局面で使いやすいカラーパレットであり、それはこのHIKMICRO製品も同じようだ。

少し背景が塗り潰れたような描写(クリッピング現象)ではあるが、これは前述したよくわからない輝度調整の問題だ。ホワイトホットの場合は輝度を上げるとより背景も見えやすくなるが、今度は逆にブラックホットを中心とした他のカラーパレットが見えにくくなる。

BLACK HOT │ ブラックホット


こちらは逆に温度が高いものを黒く、低いものを白く映し出すブラックホット。

本製品のブラックホットは白飛びしやすい傾向にあるため、特にこのような林内では少し背景がわかりにくくなる。

ただし、白と黒のコントラストがわかりやすく、人工物の描写は得意な方だ。岩の上に置いてある銃器は89式小銃(トイガン)にAimpoint – T1を装着したもの。

FUSION │ フュージョン


温度の高い順に白、黄色、赤、ピンク、紫へと配色されるカラーパレット。

いわゆるレインボー系のカラーパレットだが、InfiRay – Holo HL13と同様にもう少し緑色系統の配色も加えて欲しかった。

ただしセンサーの感度が良いのもあるのか、熱ターゲットの炙り出しには今回のレビューで想像より使えた。マイナーチェンジ前はこのカラーパレットは使いにくいとの評価もあったようだが、少し調整もされたのかもしれない。

RED HOT │ レッドホット


ホワイトホットモードをベースにし、画面内のより高い温度の部位を赤や黄色系で配色したもの。

より細部が知りたい部位が高い温度の場合、塗り潰れるクリッピング現象が起きやすいが、火災現場における鎮火確認や電気設備の点検等では使えるだろう。

後編では長距離テストや各種機能の検証に加え、偵察や警備訓練での使用レポートを公開!詳しくは下記リンクへ ↓ ↓

【レビュー】 HIKMICRO – LYNX PRO LH15 (後編)