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ジャンル:スコープ

これはスコープかと問われれば倍率が無いしで何か違う。かと言ってダットサイトかと言われればそれこそ違う。今回はそういうVortex社の「等倍スコープ」を紹介しよう。

SPECS | 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) VORTEX OPTICS (アメリカ合衆国・中華人民共和国)
サイズ(全長×幅×高さ) 66mm×43mm×51mm
重量 318グラム
倍率 等倍
イルミネーター 赤 or 緑 LED 11段階(内2段階は暗視装置用)
使用電池 (電池寿命) 単4電池(最大光量で250時間、最低光量で3000時間)
レティクルパターン DRT Reticle(中心点は3MOA)
対物レンズ径 25mm
視野(FOV) 79フィート / 100ヤード
価格(購入価格) 349ドル(2016年海外通販にて225ドル)

ダットサイト?スコープ??

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当初、私は「等倍のスコープ」があると聞いていまいちピンとこなかった。いや、そもそも意味がわからない。等倍ならば、ダットサイトでいいし、なんでわざわざアイリリーフが発生してしまうスコープにしてしまうのか意味がわからない。きっとそう思っている方も多いだろう。しかし、等倍のスコープというものは特にハンティングの業界で一定の支持があるらしい。あのスコープメーカー大手のリューポルド社も等倍のスコープを出している。(Leupold Prismatic Tactical 1×14mm。2016年現在は生産をやめている。)

まぁ御託を言っても仕方ない。レビューに移ろう。

まずメーカーであるボルテックス社だが、比較的新しくできた光学照準器のメーカーながら、コストパフォーマンスに大変優れた製品を作ってくれるメーカーとして人気がある。値段も実銃用ながら、安いとこだと100ドルを下回るような製品から、1000ドルを越える製品まで幅広いニーズに答えてくれる製品を出している。ボルテックス社は、プリズム機構を使用したコンパクトな等倍スコープを2種類ラインナップに入れており、一つはマウントをLowとHighに切り替えることができ、ハンティングからタクティカルへと幅広いニーズに使用できる「Spitfire Prism Scope 1×」と、今回のアサルトライフルでの使用を想定した「SPITFIRE AR」である。どちらも、日本円換算で安いとこだと2万円台で変えたりするので、お財布には優しい。

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付属品は説明書、レンズクリーナー、レンチ、単4電池、後述する5.56mm弾用エレベーションノブとなっている。

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説明書はカラーで英語のみ。

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まずは後ろから。接眼レンズ部には、一応スコープなので視度調整のノブが付属している。レンズの下には、イルミネーションのボタンがある。イルミネーションONは上下どちらかのボタンを押し、OFFは両押し3秒となっている。また、イルミネーションの色(赤・緑)の切替は、ボタン両押しですぐ離せばいい。イルミネーションは赤・緑それぞれ11段階で、そのうち2段階は暗視装置用となっている。が、その割にはちと明るいので、肉眼での夜間照準用と考えた方がいいかもしれない。イルミネーションは、電池切れを防ぐため、8段階以上の明るさだと、何も操作しなければ2時間で6段階まで自動的に下がり、12時間以上で消灯する設計となっている。イルミネーションは、「Spitfire Prism Scope 1×」が五段階なので、こちらの方が幅がある。

「Spitfire Prism Scope 1×」は、ダットサイトによくある電池ケースとイルミネーションダイヤルの組み合わせだったが、AR版はイルミネーションの調節はご覧のとおりボタンが独立して後方にある。残念ながらこれは操作がしにくい。後ろにバックアップ用のリアサイトを載せると、よりやりにくくなるし、特に電源を切る際のボタン両押し3秒が両手が塞がる点もマイナスだ。

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お次は前方。対物レンズの下にイルミネーション用の単4電池1本を挿入する。横に出っ張らないので良いが、その分高さが出てしまっている。

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この機種は、「Spitfire Prism Scope 1×」だとマウントの高さがLoマウントとHighマウントをスペーサーを介して変えられるのが魅力的であったが、このAR版は、電池が単4に変わり、その電池ケースをマウント部に付けてしまったが故に、Lower 1/3 co-witnessの高さ(レティクルの中央までの高さ40.4mm)で固定となっている。パッケージには、マウントの高さが自由に変えられると書いているが、これは旧バージョンのことである。ご覧のとおり、少し違和感はあるものの、MBUS等のバックアップサイトの高さには対応しており、M4等のライフルとの相性はいいだろう。ただ、ハンティング用の散弾銃やライフルに求められやすい、Lowマウントにはできなくなったのは少し痛い。まぁ、AR(アサルトライフル)用ということで、マウントの件はまぁわかるが、イルミネーションボタンの配置は改悪であると思う。

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マウントの付け外し等の調整は付属のレンチで行う。レンチは安物で、白く錆びていた…。ちなみに、マウントのトルクスネジは、Aimpoint Microシリーズ付属のツールでも回せる。マウントと本体は、ネジ止めがされてるものの、接着がされているので取ることは難しい。また、マウント下部には中国製であることの表記がある。この工作精度であれば特に問題はない。

 

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接眼レンズのコーティングは、薄っすらと緑色が見える程度だ。

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覗いてみた感じはこんな具合だ。ハロウィンに浮かれてる輩を狙ってみた。完全ではないがほぼ等倍で、Trijicon MROのようにプチ望遠はほとんど感じられない。レティクルはDRT(Dual Ring Tactical)レティクルで、中心点は3MOAと小さいので精密射撃も可能だ。

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また、等倍スコープとは言え、数メートル程度の至近距離では、レンズの関係上、1.2倍くらいにアップされて見える。これの応用例として、このように暗視装置やサーマルカメラをタンデムさせることで、レティクルの無い暗視装置が夜間戦闘用スコープに早変わりさせることができる。暗視装置の高さに合わせて、社外品のライザーマウントやカメラマウントを組み合わせて使おう。(写真のサーマルカメラはFLIR PS32

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レンズカバーは前後とも取り外し可能。サバイバルゲーム等で使用する際は、ここにポリカーボネートを仕込むとレンズ破損防止に良いだろう。後部は外すと視度調整ダイヤルが見える。

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レティクルの上下左右を調整する、ウインテージとエレベーションノブはカバーを外して調整を行う。近~中距離で使用するこの手の照準器は、一度ゼロインすると頻繁に調節することは無いので、だいたいどのメーカーもこんな感じだ。

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通常であれば、1クリックで0.5MOAレティクルを動かすことができる設定だが、この照準器には面白いオマケが付いている。エレベーションノブをレンチで取り外し、この5.56mm弾用のノブに付け替えれば、簡易的なBDC(Bullet Drop Compensators)機能を付け加えることができる。BDC機能とは、簡単に言えば、その距離と弾薬に合わせた弾の落下や軌道を示してくれるもので、100~700ヤード(91.4~640メートル)までの距離に対応している。使用弾薬は、M4等のAR15系のライフルで使用する、5.56×45mm弾の60もしくは62グレインの装薬での使用を想定している。

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アイリリーフは、等倍ということもあり、プリズムスコープとしては長めの約9.6センチ程度のアイリリーフを確保している。さすがにダットサイトのように、ラフな状態からでも照準できるというものではないが、ライフルを構えるスタンスがちゃんとできていれば、ダットサイト並ににサッと狙ってサッと撃つという即射も簡単にできる。レティクルがサークルタイプなのもそれを手伝っている。アイボックスも同様に余裕がある。

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※画像クリックで拡大可

●さて、いつもの照準を行ってみよう。50メートル先にACU迷彩の上着を吊るしてみた。スコープということもあり、実に鮮明な映りだ。この値段でこのレンズは実によい作りであると思う。中央の44MOAの円が50メートルだと、ちょうど少し大柄な人間の上半身に収まる。イルミネーションと組み合わせると、CQBで活躍できること間違いないだろう。(中央の3MOAの点が、イルミネーションON時に撮影機材の影響で光ってないように見えるが、実際は光っている。)

●レンズキャップを上だの側面だのにしていてるおかげで大変説得力がないが、各種ダイヤル系は出っ張りがそこまで大きくないため、視野の広いレンズをより際立たせてくれる。

●通常のスコープのように、十字のクロスレティクルがなく、中央の3MOAの点は背景に混ざると見えにくいので、状況に合わせて赤と緑に切り替えれるイルミネーションは非常に助かる。イルミネーションの明るさは、写真ではよく写っているが、直射日光の下や、周辺環境が白く明るい場所だと、あともう一、二歩明るさが欲しい感じだ。

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また、この鮮明に写るイルミネーションは、少しクセモノで、前方の対物レンズ側から見ると、昼間でもそれはまぁよく見えるのである。夜間だと尚更である。タクティカルを想定している以上、これは射手が良い的になりかねないのでダメな点であると言える。プリズムスコープというコンパクトな構造上や予算の関係でこうなってしまうのは仕方ないかもしれないが、リューポルドVX-Rのイルミネーション等は、最大光量でも対物レンズ側からは一切見えないので、残念だ。

しかし、この「等倍スコープ」というジャンルの魅力は十分に理解できた。ダットサイトでは、この鮮明な映像は出せないし、倍率のあるスコープでは、こんなに素早く簡単にダットサイトの如く照準するのは難しいだろう。最悪、電池が無くなったり、電源がオフの状態でも照準できる点も良い。重量は380グラムで、同じくらいの大きさである、Aimpoint PROやM4Sと比べてもそこまで重くは無い。3GUN等の競技、昼間のサバイバルゲーム、ハンティングというシチュエーションでは、活躍の場は十分にあると思う。面白い照準器だ。一個は持ってても損は無いだろう。下手な中華レプリカ照準器を購入するよりは、確実に役立ってくれるし楽しませてくれるモノだ。