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ジャンル:ダットサイト

高性能なライフルスコープで有名なリューポルド社が、ホロサイトに対抗して設計したダットサイト「LCO」。ホロサイトや他社ダットサイトと比べて何が違うのか?何が優れているのか?

執筆時期:2018年7月

※本製品を提供してくださったガスダスターさんに感謝いたします。

SPECS │ 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) LEUPOLD(アメリカ合衆国)
全長×幅×全高 9.14×5.71×6.12cm
重量 259グラム
ボディ素材 6061-T6アルミニウム
倍率 1倍
レティクルパターン 赤色ダット 1MOA
イルミネーター 赤色LED 1~16段階
使用電池(電池寿命) CR123Aリチウム電池(中程度の光量で5年)
防水性能 水深20mまで対応
動作保証温度 -29℃~49℃
価格(購入価格) 909.99ドル(2017年に705ドルで購入)

スコープメーカーが打ち出したホロサイトへの対抗馬

光学照準器、とりわけダットサイトの代名詞と言えばAimpoint社の製品だろう。MシリーズやTシリーズは世界中どこの治安維持機関も銃器の上に載せているのを見かける。私も5年以上Aimpoint社のT-1を愛用している。だが、そんなAimpoint社の独壇場と思えたダットサイトの居場所だったところに、9.11以降、いつの間にか和式便器が居座っていた。その奇妙な形の光学照準器こそが、かの有名なホログラフィックサイトホロサイト)である。特にアメリカのEOTech社のホロサイトは爆発的な人気を誇り、とある欠点・欠陥が明るみに出るまではAimpointと並ぶシェアを叩き出していた。

そんな人気照準器の代名詞となったホログラフィックサイトを、ハイクオリティーなスコープメーカーであるLeupold(リューポルド)社が、我も負けていられないとして作ったのがこのLCO(Leupold Carbine Optic)である。


そもそもホログラフィックサイトとは何か?これはLEDをハーフミラー加工をしたレンズに反射させて見せるダットサイトと違い、レーザーを特殊な層を成したガラスに照射して、レティクルを投影させているものだ。原理としては戦闘機の照準器によくあるHUDと同じだ。ダットサイトとホログラフィックサイト、、、それぞれ長所と短所がある。そして、出だしから申し訳ないが、このLCOはホログラフィックサイトに見えるが、中身はダットサイトである。かなり言い方は悪いが、ホロサイトのエアーソフトガン用の中国製レプリカホロサイト(ホロサイトに見えるが中身はダットサイト。通称パチホロ)と同じである。


こいつがLCOだ。ホロサイトを寸切りにして、前後逆に置いたような形状だ。

LEUPOLDロゴの下にあるダイヤルは、光量調整ダイヤルである。光量は16段階とかなり細かく切り替えることができるが、そのサジ加減やダイヤル共々使いにくい。数字等の表示がないダイヤルは、クルクルと延々と回り続けるため今どの段階の光量なのかわかりにくい。かといって最低光量から調整していくと、なかなか明るくならず疑心暗鬼になってくる。と思えば5段階目くらいからいきなりパッと明るくなったりとテンポも悪い。水量調節がピーキーな場末のホテルのシャワーを相手している気分である。

これは夜明けや夕暮れ、低照度下の室内等では明るすぎ・暗すぎたりと本当に使いにくい。最低光量と最大光量は、闇夜や暗視装置、炎天下でも使用できるメリハリを持っているだけに残念だ。

ちなみにこのロゴやその他マークの配置は、後期生産型となる。

このロゴ部分が真っ黒になり、目立たなくしたLCO Bkacked Outという派生型も存在する。

ボディの材質は6061-T6(熱硬化処理)アルミニウムで、Trijicon MROのような7075アルミニウムと比べて強度は落ちる。



サイズに関しては四角いボテッとした形状に見えて意外と小さい。コンパクトなAimpoint Microシリーズ(写真はH-2T-1)と比べても一回り二回り大きい程度だ。

ちなみに、LCOの全長×幅×高さが9.14×5.71×6.12cmなのに対して、同じCR123A電池で駆動するEOTech EXPS3シリーズは9.14×6.09×7.10cmなので、一回りほど小さいことがわかる。

これは、構造上どうしても複雑な機構になるホログラフィックシステムではなく、LCOは単純な構造のダットサイトなのでコンパクトに仕上げることができている。

重量に関しても、LCOが259グラム、EXPS3が317グラムである。



対物および接眼レンズ部

対物レンズは浅層は黄色いコーティングのレンズで、深層と接眼レンズは薄紫色のコーティングが施されている。

接眼レンズ部下部から飛び出している出島は、ダットの上下左右調整ダイヤル(エレベーション、ウィンテージノブ)である。Trijicon SRSMROと同じく、カバーの無いむき出し形状で、マイナスドライバーや薬莢のリム、コイン等で回して調整する。

1クリックは0.5MOAで、最大調整量は60MOA。



反対側はマウント部と電池ケースになっている。

このマウントに関してはスコープメーカーとして多数のスコープマウントを製造しているリューポルドにしてはあまり良い設計とは言えない。レールによっては噛み合わせが少し悪くなったり、前後に微妙に移動してしまう様子が散見される。

電池はタクティカルライトとかでよく用いられるCR123Aリチウム電池を使用する。発光状態で、15分間無動だとオートOFFとなり、消費を抑えるシステムがある。それにより、中程度の明るさで5年近くのバッテリーライフがあるとのこと。ちょこっとでも振動を与えると、すぐに目を覚ましてダットを灯してくれるので即応性は失われない。


パッケージと付属品一覧。

モノクロのシンプルな説明書に、リューポルドのロゴシール、そして定期的に過激なネタを投下しては炎に包まれるNRA(National Rifle Association:全米ライフル協会)会員の勧誘広告。

「今すぐNRAに入ろう!このカードを提示すると40ドルお得に!しかもNRA弾丸ペンがもらえるぞ!!」


ボディ形状は意外とコンパクトなので、名称通りカービンライフルやサブマシンガンに取り付けても邪魔にならない。広い視界はCQB戦闘で大いに役立ってくれる。


また、1MOAという小さなドットなので、倍率を付与させるマグニファイヤーとの併用し、中距離戦闘能力向上にも良いだろう。

広い視界とクリアなレンズへの代償

さて、肝心のダットサイトとしての使い心地はどうだろうか。いつも通り覗いてみよう。なかなかクリアなレンズだったので、今回は同じくクリアなAimpoint H-2(改良版)T-1との比較をしてみた。今回のチョイスはドットの大きさもそれぞれ違う。LCOは1MOA、T-1は2MOA、H-2は4MOAだ。


※画像クリックで拡大可


上記画像の中心部拡大画像

※画像クリックで拡大可

50m離れた位置にACU迷彩の上着を設置して照準してみた。まずは順光状態から。

LCOは実にクリアで広大な視界が広がっている。レンズの透明度そのものは、Aimpoint H-2の方が高いが、LCOもかなり透明度が高いので気にならない。

人間の視野と同じく横長のレンズ形状と透明度の高いレンズに加えて、レンズハウジング周辺には余計な出っ張りや操作ボタン類等は一切無いので抜群の広くキレイな視界が広がる。レンズの歪みも少ない。

LCOの接眼レンズは薄い青紫色のコーティングがされているのが印象的だ。縁が周りの光に反射して歓楽街のネオンみたいに光っているが、そこまで目障りにはならない。

LCOのダットは、100m以上先の人間の頭部でも狙えるほどのT-1の2MOAよりも更に小さい、1MOAというサイズだがそこまで小さく感じない。少なくとも小さすぎて不便ということは無いし、素早い照準も楽々とできる。

LCOとH-2は実にクリアで見やすく、T-1には左斜め上に赤いフレアが出ている。さて、これだけみるとLCOとH-2が優れているように見えるが…


※画像クリックで拡大可

今度は逆光状態から。ターゲットの位置は倍の100mに引き伸ばした。

さて、画像を見るともうおわかりだろうが、ここがLCOの最大の欠点である。ともかく逆光に弱いAimpoint T-2やH-2で散々改善を要する点として指摘した、対物レンズ縁の射手への反射のみならず、鏡筒内部のLED発光素子が見事に写り込んでいる。こんな神々しい日輪を目の前に出されては、目障りなだけでなく、ダットのすぐ下に小さな点が反射して写り込んでいるので、射手はどれがダットの点なのかわかりにくくなる。アーメンでも般若心経でもいいので、切った張ったの修羅場において射手の邪魔をしないでいただきたい。

特に発光素子の映り込みは、写真のように完全な逆光下だけでなく、ちょっとでも光の入射角が悪いと、屋外でも屋内でもすぐに写り込んでくる。

レンズ縁の反射は改良されているとは言え、H-2の方が酷く目障りだが、LCOのようにダットそのものがわかりにくくなることはないのでまだマシだ。T-1は鏡筒内部が鈍く反射しているだけなので、逆光下でも射手のコンデイションを極力阻害せずに射撃が可能だ。これこそが、毎年各社から新製品がドンドン出ているにも関わらずT-1を使い続けている理由だ


また、LEDが灯っている様子は、ちょっとの光量でも対物レンズから確認できてしまう。暗所での戦闘では致命的になりかねない。

ホロサイトになりきれなかったダットサイト

EOTech ホロサイトは一時期大きな欠陥を抱え、国まで巻き込んだ裁判沙汰にまで発展した。レンズ周りやレティクルに問題があり、内部に結露や曇りが発生したり、レティクルがズレるという致命的な問題だ。また、レーザーを発光装置として使用している関係上、経年劣化でレーザーの出力が低下し徐々にレティクルが暗くなってくる。

現在これらの問題は一部改善され、普通のダットサイトには無い広大でクリアな視界、レンズが一部破損してもレティクルは表示し続ける等の利点からホロサイトのユーザーは多い。とは言え、レーザーの劣化問題等はそのままだ。また、ホロサイトは私のように近視や乱視等で目が悪いと、メガネやコンタクトをしていてもレティクルがぼやけたり滲んで見える。私がホロサイトを使わない理由がまさにこれだ。私がホロサイトを覗いた場合、65MOAの大きなダットが灯ることになる。

と、考えるとハイクオリティースコープメーカーであるリューポルド社が、ホロサイトの欠点をなくした「ポストホロサイト」を出す意義は十分にあったはずだ。それがこのような形になってしまったのは残念でならない。このLCOは、同社の魑魅魍魎スコープであるD-EVOの前方の取付け、近接戦闘用のダットサイトとしても活躍するハズであったが、D-EVOの特異な形状と6倍率固定という使いにくいシステムのおかげで、あまりセールスは良くないようだ。

LCOの値段は10万円(909ドル)近い値段であり、高価と言われているAimpointよりも高い出費になる。にも関わらずこの光学性能だと、射手の顔が映り込むことで有名なホロサイトの中華レプリカに毛が生えたようなものだ。

この値段を出すくらいなら、500-600ドルで経年劣化はあろうともホロサイトを買うか、Trijicon MROやAimpointの何かを購入した方がいい。節約にもなるし、浮いたお金で家族と寿司でも食べに行けばみんなニッコリだ。