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ジャンル:ライフルスコープ・プリズムスコープ
コンパクトダットサイト程度の小さな3倍率プリズムスコープ
執筆時期:2021年3月
※本製品を提供してくださったT・F氏に感謝いたします。
SPECS | 性能諸元
メーカー名(メーカー国・製造国) | Vortex Optics(アメリカ合衆国・中華人民共和国) |
全長 | 76mm |
重量 | 255.2グラム |
対物レンズ径 | 21mm |
倍率 | 3倍 |
視野 (FOV) | 37.9フィート / 100ヤード:11.5m / 100m |
アイリリーフ | 6.7mm |
レティクル | AR-BDC4 |
イルミネーター | 赤色LED:12段階(日中使用10段、暗視装置使用2段) |
使用電池 | CR2032リチウム電池 |
パララックスセッティング | 100ヤード |
本体コーティング | ハードアルマイト(低グレアマット仕上げ) |
価格(購入価格) | 549.99ドル(2021年2月、6万円で購入) |
ダットでもマグニでもない、チビプリズムスコープ
6年ほど前に紹介したボルテックスのスピットファイアープリズムスコープ 3xがフルモデルチェンジとなった。3倍プリズムスコープは500ドル前後の求めやすい価格帯と共にライバルも多い。
ボルテックスはそんな市場に置いて強い存在感を出そうと、2世代目は形状どころかサイズもまるで違うものを練りだしてきた。それが今回紹介する「SPITFIRE HD Gen2 3x Prism Scope」(SPR-300)だ。
→ちなみに、今回のフルモデルチェンジに伴い、5倍率であるSPR-500もラインナップに加わった。4倍率を出さずに1倍、3倍、5倍率と揃えてるあたりに、戦略を伺える。
パッケージと付属品
●カラーの英語表記説明書に、行司の軍配団扇のようなスコープの調整等に用いるマルチツールが付属する。説明書は5倍率版と共用。
本体とローマウント
●本体には最初からLower 1/3 Co-Witnessサイズのハイマウントが付属している。
→このマウントを装着している際は、レンズ中央部からマウントまでの高さは40mm。一般的なAR-15のアイアンサイトがレンズの下1/3の高さに来るサイズだ。
●また、付属品としてローマウントも付いている(レンズ中央部からマウントまでの高さは27mm)。
●嬉しい点として、Gen2となってエイムポイント T1やT2のマウントとの互換性がある設計になった。サードパーティ製の様々なマウントを選ぶことができ、柔軟性が広がる。
→各種ネジもお馴染みT10トルクスネジ。
●大きさは手のひらサイズの全長7.6cm。コンパクトダットサイトクラスの大きさであり、これまた小さい同社の小さな3倍率マグニファイヤー「Micro 3x」より3mmほどしか変わらない。
●3倍率のプリズムスコープとしてはトップクラスのコンパクトさだ。ライバルとも言えるバリス社の「Burris – RT-3」も8.8cmと小さいが、こいつはそれを一回りほど下回る大きさ。
●左側面にはシリコン被膜されたイルミネーションの電源兼光量調整ボタンがある。浅めのプコプコとした押し心地。
●ボタン同士が少し離れており、「+」ボタンと「-」ボタンの間に国境の壁も設けられているので、グローブをしていても、あまり押し間違い等の心配は無い。
●右側面はウィンデージ調整ダイヤルと電池ケースがある。
●電池はダットサイトの主食としてお馴染みのCR2032リチウムコイン電池。同社クロスファイヤーでもそうだったが、ボルテックスは電池ケース付近に使用電池を表記するのが最近のトレンドのようだ。
●接眼レンズは写真だとそう写ってはいないが、紫や水色系のマルチコートがされている。
●こんな小さなモデルながらも、視度調整機構が付いているのは助かる。
●エレベーションとウィンデージ調整ダイヤルはむき出しタイプへと変更されている。最大移動量はそれぞれ250MOAとかなりの移動量。
●ただ1クリックの移動量は1MOAだ。これは100mの距離だと27.8mmの移動量となる。ダットサイトや等倍プリズムスコープならまだしも、3倍率スコープならできれば半分の移動量にしてほしい。
●薬莢、コイン、付属工具等で回すタイプであり、クリック感はわかりやすい。
対物レンズ部
●こちらも写真ではプリズム構成パーツが奥に見えているだけだが、緑や黄緑系のコーティングが施されている。
●対物レンズ径は21mmと、よく似た形状の同社3倍率マグニファイヤー「Micro 3x」より1mm小さい。
●上部はスタイリッシュに見せるように傾斜しており、ボルテックスのロゴマークが見える。ここらも昨今の同社ダットサイトやマグニファイヤーと同じ形状。
●そういえばもう一つ付属品があった。第1世代とは違い、フリップアップ式のレンズキャップは無くなり、代わりに電池ケースに引っ掛けるビキニタイプのようなレンズキャップが付属している。
●このレンズキャップは、折り返すようにすることで対物側と接眼側を電池ケースにはめ込む形でオープンにすることができる。のだが、冬季で固まっているのか、個体差なのかやけにタイトになっておりはめ込めれなかった。
→提供してくれたT・F氏曰く、お湯で温めるとはめ込めれるようになるとのこと。今回は万が一破損させたくなかったのでしなかったが、もう少し柔軟性のある素材にしてほしいし、個人的には少しかさばってもフリップアップレンズキャップのほうがよかった。
※画像クリックで拡大可
●レンズを覗いた感じは、Micro 3x同様に暖色寄りで、このコンパクトさにも関わらず、無理を感じさせないクリアで歪みの少ない映りだ。
●レティクルは、同社マイナーチェンジ版ストライクイーグル 1-8×24のAR-BDC3レティクルを簡素化させた馬鉄型レティクルだ。
●中央のドットが1MOA、その周囲の上左右サークルレティクルが18.85MOAのサイズとなっている。
●その下に伸びる小さな段付きの縦線は、5.56x45mm NATO弾を用いた場合の弾道落下予測点(BDC)となっている。(300~600ヤード)
→これは中央点を50~220ヤードでゼロインした際に効果を発揮するとのこと。
●BDCレティクルの各段の両側面にある点は、風速5mph時の弾丸移動予測点だ。AR-BDC3では15mphまで対応していたが、AR-BDC4ではここが簡素化されている。
●10時方向にうっすら白いフレアが出ているのがわかるだろうか?今回のように光源が左斜め上にあると、左側にフレアが出がちだ。
※画像クリックで拡大可
50m先に180cmの高さで青のツナギを吊るして照準
●AR-BDC4レティクルはシンプルなのは良いのだが、第1世代と比べて小さくなっているので、背景や周囲の明るさ等によってレティクルが見えにくくなるケースが散見される。
●レンズの解像度、明るさ、発色、歪みの少なさはMicro 3x同様に、このサイズとは思えないほど良い。2倍以上のサイズの第1世代よりもこちらの方が上だ。
●一方こちらはマイナーチェンジ版の同社 Strike Eagle 1-8×24のAR-BDC3レティクル。こちらのほうが、左右下に太いオベリスクがそびえ立ち、素早い照準合わせに非常に役立つ。ぶっちゃけこのレティクルを入れてくれるとよかったのだが。
距離を倍の100mに
●まぁレティクルがわかりにくくなった場合はイルミネーションを灯す選択肢がある。中心点と周辺サークルのみが光るようになったので、ターゲットを見えにくくすることなく、照準はサッと素早く合わせやすい。
●だが本製品になってイルミネーションの最高光度は低下した。第1世代は直射日光下でも使える明るさだったが、今回は直射日光下だと少し物足りなく感じる。3倍率はCQB戦も視野に入れた倍率なので、もう数段階明るくなってほしいもの。
→写真では赤いイルミネーションがだいぶ暗く写っているが、実際肉眼ではもう少し明るい。体感的にはマイナーチェンジ版の同社Strike Eagle 1-8×24のイルミネーションと同じ明るさだ。
●イルミネーションの最高高度は薄暗い森の中や太陽が雲に隠れた際は使える。また、暗視装置に対応した最低光度2段階は、真っ暗闇の中ですごく注視して辛うじてレティクルが光っているのを確認できるレベルの暗さに設定できる。この手の光学照準器は、イルミネーションの暗視装置対応を謳っていても全然明るい役に立たないものも多い中、良い暗さだ。
●前述したが、特に右斜め上に光源がある場合、写真のように7時方向にフレアがポツンと出やすい。とは言え、照準を大きく阻害するようなものでは無いし、その他位置の光源や逆光状態ではフレアは非常に少なく、ゴーストもこのサイズの割には比較的押さえられている。ボルテックスのレンズは年々成長を感じさせられる。
●イルミネーションに関してもう一つ弱点がある。対物レンズ側から見ると、内部のレンズ縁にイルミネーションの赤いリング光が見えることだ。これは夜間に最低光度で対物レンズを覗いても見える。
●故に、暗所で対人相手の戦闘を行う場合、例え相手が暗視装置を持っていなくても注意してイルミネーションを使用する必要性があるだろう。
●また、接眼レンズ側もレンズを覗いて右側がケラれている状態だと、イルミネーションの灯りが昼夜関係なく縁が光っているのが見える。昼間はまだしも、夜間等夜目を潰したくない際にアイリリーフを考慮しなかったり、構えが疎かな場合はうざったく感じることもあるだろう。
●アイリリーフは公式では6.7cmと言っているが、実際にはせいぜい5.6cmぐらいだ。アイリリーフが短い事で有名なトリジコンのACOGを除き、3倍率プリズムスコープの中では少し短めだ。
●そのため、サイト後方にバックアップサイト等を付けていると、スコープを覗くのが少々難しくなるため、写真のように取り外したほうがいいだろう。
●アイリリーフ幅も1.8cm程と余裕はそこまで無い。Micro 3xが5.8~8cmだったので、最大アイリリーフは7cm、アイリリーフ幅は2cmはできれば欲しかった。
●アイボックスに関しては、けして余裕があるわけではないが、個人的にはMicro 3xよりも広く感じた。
●ただこのコンパクトさは驚異的だ。重量も255グラムとフルサイズダットサイトより少し軽いくらいなので、射手の負担が少ない。
●また、視力が弱いのでサブマシンガン等にスコープを付けたいが、レール長や外観を損なうという点から付けれなかった人にも良いだろう。どうしてもアイリリーフの問題からレール後方になってしまうが、このように付属ローマウントにすればダットサイトのように低身長に付けられる。
●そして、イルミネーションを灯して両目を開き、スコープを覗いている方ではなく反対の目でターゲットを見れば、レティクルが空間に浮かび上がり、近距離でもダットサイト感覚で使用することができる。(トリジコン ACOGシリーズのBAC機能に該当)
→ボルテックスがそれを意図したのかどうかわからないが、BACを行いやすい光学設計になっていると感じる。そういう意味でも、イルミネーションの最高高度はもう少し明るくしてほしかった。
Conclusion | 総評
●いろいろとネガも散見されたが、こんなにも小さくて実用性の高い3倍率プリズムスコープを出したボルテックスにまずは賞賛を送りたい。近年のボルテックスのアイデアや成長っぷりは目を見張るものがあり、今後の成長やラインナップも楽しみだ。
●300メートル以上の射撃には難しいが、ちょっとした索敵や近接戦の後方射撃支援はもちろんのこと、少し工夫すれば近接戦闘でも余裕で使える光学照準器であると言える。交戦距離が50メートル以下である、サバイバルゲームでの使用にも非常に適しているだろう。
●実売価格は500ドル前後、日本では安いところで6万円程度で購入できる。コンパクトで高性能なプリズムスコープが欲しい、トリジコンやエルカン製品は高すぎて手が届かないが、2~3万円レベルのプリズムスコープからステップアップしたいという人には悪くない製品だと思う。