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ジャンル:ライフルスコープ

最高倍率を10倍にまで伸ばした、ボルテックス社フラッグシップLPVO

執筆時期:2022年10月

検証人数:6人

実弾射撃評価:有り(Type 89、Benelli M2)

※本製品を提供してくださったY氏に感謝いたします。

SPECS | 性能諸元(公式)

メーカー名(メーカー国・製造国) Vortex Optics(アメリカ合衆国・日本)
全長 25.6cm
重量 609グラム
チューブ径 34mm
対物レンズ径 24mm
倍率 1~10倍
視野 (FOV) 116~11.7フィート / 100ヤード:35.3~3.5m / 100m
アイリリーフ 9.1cm
レティクル(いずれもFFP:第1焦点面) EBR-9 MOA、EBR-9 MRAD(本製品)
イルミネーター 赤色LED:11段階
使用電池 CR2032リチウム電池
パララックスセッティング 150ヤード:137.1メートル
防水性能 IPX-7(水深1mに30分)
価格(購入価格) 3599.99ドル(2020年、1899.99ドルで購入)

LPVOの倍率はどこまで伸びるのか?


その昔、リューポルド社がMark8 1.1-8×24を発表した際は驚いた(中古車が買える価格であることにも驚いた)。当時、可変倍率機能のあるショートスコープ(業界では「LPVO: Low Power Variable Optic」とよく呼ばれている)は1~4倍が主流であり、一部の上位モデルで1~6倍があり、極稀に8倍の機種があったものだ。時は流れ、現在では1~8倍のLPVOなぞ10万円以下の価格でもよりどりみどりである。それどころか、1~10倍までカバーした製品もここ数年でちらほら見られるようになった。ボルテックス社は、1~10倍製品でイニシアチブを取ろうと、2020年という比較的早くに同社最上位クラスのRAZOR HDシリーズ3世代目の一番槍として、「RAZOR HD GEN Ⅲ 1-10×24 FFP」をリリースした。


次のRazor HDシリーズのLPVOは1-8倍に違いないと予想してたファンも多かっただけに、まさかすっ飛ばしていきなり10倍ものを出すとはと度肝を抜かれた人もいただろう。1-10倍の非常に幅のあるLPVOは、光学性能を破綻せぬように作るのが難しく、特に大きなメーカーだと半端なものを出してユーザーを落胆させたくはないはずだ。その後、EoTech社(Vudu 1-10X LPVO)、SIG SAUER社(Tango 1-10x28mm)や、Sightmark社(Citadel 1-10×24 CR1)、Primary Arms社(SLx 1-10x28mm)等、様々なメーカーが安価なものから高価なものまで多くの1-10倍をカバーしたLPVOを世に送り出している。

一体LPVOの倍率はどこまで伸びていくのだろうか。


今回は、前世代機種である同社 RAZOR HD GenII-E 1-6×24だけでなく、EoTech VUDU 1-10X LPVOを触れてきたメンバーの意見も参考にしながらレビューしていきたい。

EoTech VUDU 1-10X LPVOに関しては、当研究会会員が米国にて30分弱見て触れてきたもので、銃器への搭載や射撃等は行っていない。

まずはパッケージから見ていこう。今までのものよりも大きなパッケージになった。(そう言えばRazor HD Gen2ではパッケージは撮影してなかったな)


蓋を開いてもまだ蓋がある。なかなかに焦らしてくれる。

説明書の収まり方もクールにキメている。大抵のスコープはパッケージの中に無造作に放り込まれているものだ。


中を開けるとウレタンフォームに埋もれたスコープ本体と付属品のサンシェードが見える。

スコープの色合いはGen2-Eと同じく赤味のある灰色をしている。

塗装やコーティングに関しても優秀だ。実弾射撃訓練はもちろんのこと、数え切れないほどの藪こぎと、朝起きるとシマヘビと目が合ってしまった山中での野宿を数日行う演習を3回行ったが、大きく目立つ傷や塗装剥がれは無い。


サンシェードを装着すると、6.34cm延長される。直射日光等がきつく、視界に影響を及ぼす場合や隠密行動時に良いだろう。


また、他にもGen2-Eにはなかった付属品として、今まで別売りオプション品として販売されていたSV-5 SWITCHVIEW スローレバーが同梱されている。

左奥の付属工具はスローレバー脱着時や、電池蓋を開ける際等に使用する。


1倍から10倍へのパワーダイヤル(倍率変更ダイヤル)移動量は180度近くあるため、このようなスローレバーを付属させることは、特にターゲット距離が大きく変わる競技等をする場合は必須と言ってもいい。

RAZOR HD Gen3 1-10×24は従来よりパワーダイヤルを回す重さが軽くなっているので、状況によってはレバーがどこかに当たって倍率が勝手に変わってしまうことも多々ある。現に持ち主のY氏と深い山中での演習で行動を共にしていたが、よくスローレバーが装備や身体、木々等に接触して勝手に動いていた。

このスローレバーは、パワーダイヤル上にはめて締め付ける装着方法なので、任意の場所に装着できることが強みだ。自身の使用状況に合わせて配置をすればよいだろう。

スローレバーはアルマイト加工されたアルミニウム製で、重量は11.3グラム。


↑ RAZOR HD Gen2-E 1-6×24

↓ RAZOR HD Gen3 1-10×24


Gen3 1-10×24とGen2-E 1-6×24との外見上の大きな違いは、中央のノブ類が前方に寄ったことによる、前方チューブが短くなったことだろう。おかげで写真ではGen3 1-10×24が短くなったような印象を受けるが、実際は両者とも25.6cm(正確には10.1インチ)とまったく同じ長さだ。

ちなみにEoTech  Vudu 1-10X LPVOの全長は27cm(10.63インチ)。

その他各種ダイヤルやノブ形状も同じだ。


そしてGen2-Eと比較して、もう一つ外観上の大きな変更点は、チューブ径が30mmから34mmになった点だろう。信頼性や強度等の面から、高価なLPVOは34mm仕様が多い。対物レンズ径は24mmと変更なし。

EOTECH Vudu 1-10×28 FFPもこの点は同じだ。こちらの対物レンズ径は28mm。

さらに驚くべきは、Gen2-Eと比較して倍率も上がり、チューブ径も太くなったにも関わらず、重量は据え置き609グラムな点だろう。重量が重くなったわけでも、軽くなったわけでもなく、同じというのはどういうことなんだろう…

EOTECH Vudu 1-10×28 FFPは603グラム。


同社Pro Extended Cantilever Mountを装着した状態。

このスコープを購入し、吐き出せる資金をかなり使い果たしたY氏が、性能と価格とのバランス、あと当時の納期を考えて購入したマウントがこれだ。

このマウントのレビューはこちら ↓ ↓

【レビュー】 Vortex – Pro Extended Cantilever Mount


今回もGen2-E同様にスコープの製造はメイド・イン・ジャパンとなっている。

EoTech Vudu 1-10X LPVOに関しても同じく日本での製造だ。もしかしたら製造場所すら同じかもしれない。


今回レンズのマルチコーティングは色味が増えている。緑、赤、薄い黄色や水色系のコーティングだ。

このXRフルマルチコーティングと呼ばれるコーティングを施すことで、様々なスペクトルの光に対する反射防止となり、透過率向上させることができるとのこと。


お馴染みのダイヤルカバーを外すと、これまたお馴染みのエレベーション&ウィンデージダイヤル(レティクルの上下左右の位置調整が行える)が姿を現す。

この平べったくて大きいダイヤルは、Gen2-Eよりもより静かなクリック音となっているが、クリック感はしっかりとさらに向上している。

最大移動量はGen2-Eの150MOAよりも少し減った120MOAとなっている。MRADモデルのこちらの1クリックは0.1MRADの移動量。

中央の六角ネジを外せば、ダイヤルのゼロ位置を自由に動かすことが可能。


イルミネーションダイヤルの構造も従来と変更なし。引っ張ってロックを解除し、イルミネーションの光量調整が可能となる。電池はもちろんお馴染みのCR2032リチウム電池。

11段階の光量切り替えが可能で、各段階毎にオフが設けられており利便性も良い。

Gen2-Eと比べると、ダイヤルを回す固さが少し軽くなっている気がする。


Gen2の頃はかなり固かったパワーダイヤルが、Gen2-Eで少し回しやすくなり、Gen3となった今作ではかなりサッと軽く回すことができるようになった。

ただ、パワーダイヤル(倍率変更ダイヤル)は1倍から10倍へ変更するには、180度くらいとけっこうな移動量となる。スパッと瞬時に頻繁にパワーダイヤルを回したい人は、前述した付属のスローレバーを装着するのが良いだろう。

EoTech Vudu 1-10X LPVOの場合は、接眼レンズ側の鏡筒部そのものを回転して倍率を変えることができる。こちらもダイヤルは軽い。


Razor HD Gen3 1-10×24は、他の製品よりも一つ一つ綿密により多くの検査をパスして出荷されている。

自分の手元に届いたこのスコープを誰が検査したかが記載されている証明書付きだ。この製品はTM氏が行っているようだ。


公式スペックでは9.1cm(3.6インチ)となっているアイリリーフに関しては、こちらの計測では1倍で「5.7~9cm」、5倍で「5.6~7.5cm」、10倍時で「5.7~7.2cm」となった。

旧モデルのGen2が1倍時「12~14cm」、6倍時「10~11cm」だったものが、Gen2-Eになって1倍時「9~12.4cm」、6倍時「8.4~10.3cm」となっていた。Gen3ではアイリリーフ長を更に短くした形となっている。

個人的にはアイリリーフの幅も長さも多いGen2-Eが好みではある。

アイボックス(焦点の合う上下左右のエリア)もGen2-Eと比べて少しではあるが狭くなっていると感じた。特に10倍時にはアイリリーフ共に狭くなるので、あまりラフな姿勢だと視界が蹴られやすい。より何も考えずに接近戦や素早い射撃の使用に向いているのはGen2-Eではあろう。

EoTech Vudu 1-10X LPVOの場合は、公式によると1倍率が8.3~9.9cm、10倍率が8.5~9.2cmのアイリリーフ幅となっている。アイリリーフ幅はけっこう短く、少し慣れが必要だが、アイリリーフの長さはどの倍率でもあまり変化しないようだ。

おい、安全装置が緩んでるぞ!腕立て伏せ100回ッッ!!


さて、そろそろスコープを覗いてみようではないか。

レティクルに関してだが、本製品はズーム倍率によってレティクルの大きさが変化するFFP(First Focal Plane:第1焦点面)なので、レティクルの詳細を知るには最高倍率である10倍率状態から説明したほうがいいだろう。

FFPだとどの倍率でも多機能レティクルの機能をフルに使用できるので、このような広い範囲の可変倍率スコープの場合はFFPのほうが良いだろう。

ちなみにRAZOR HD GenII-E 1-6×24は倍率を変更してもレティクルは変化しないSFP(Second Focal Plane:第2焦点面)だ。近~中距離戦闘がほとんどを占めると思われる1~6倍前後の可変倍率スコープの場合はSFPでもいいし、そのほうが使いやすい場合もある。

本製品は2種類のレティクルをラインナップしている。MOA単位を使用するEBR-9(MOA)と、MRAD単位を使用するEBR-9(MRAD)だ。私の同期でもあり、今も幕府陸軍の現役隊員であるY氏は、MRAD(ミル)単位を業務で使用することが多いため、EBR-9(MRAD)版を購入した。

厳密には違うが、MRAD(ミリラジアン)はMIL(ミル)とも呼ばれ、NATO諸国でよく用いられる平面単位だ。詳しい説明は長文になるので省くが、これを駆使することで距離の測定等様々なことができる。

EBR-9(MRAD)はT字型レティクルを基本とし、そこに距離測定機能等が使えるように様々な表記を加えている。

このEBR-9(MRAD)は、左右に0.5MRADずつ、最大で10MOA、下に0.5MRADずつ、最大で11.5MRADまで区切られている。

1MRADは100m先で10cmの大きさになる。これを使ってターゲットまでの距離を測定する場合は、

ターゲットの高さ(m)×1000ターゲットの高さ(MRAD)で割るターゲットまでの距離(m)

という計算式を使えばいい。例えば、何メートル先にいるかわからない身長2mの人間をこのスコープで見て、足から頭の先っぽまでが5MRADだとすると、そこまでの距離は200mとなる。

だがそんな計算なんて面倒だという人向けに、中央上部の3~6までの数字が記載された表記を見て欲しい。これを用いることで簡易的にターゲットまでの距離を計測することができる。ただ、これに関しては射撃競技であるIPSCやUSPSA等でよく使用されているダンボール製のマンターゲット(17.72インチ x 29.53インチ:45.0cm x 75.0cm)を狙った場合に有効だ。(まぁ男性の上半身サイズなんだが)

使い方は簡単。「6」と表記されたラインより更に下の最下層ラインをターゲットの底部に合わせ、ターゲット上部がどこのラインに近いかで距離を計測する。もしターゲット上部が「5」のラインと合致すれば、ターゲットまでの距離は「500ヤード(457.2メートル)」ということになる。

ちなみに、横線の長さは各距離におけるターゲットの肩幅の長さと一致するようになっている。

また、下線側面は1MRAD毎に2~5個のドットで区切られており、風が吹いている際や移動目標への偏差射撃で役立つ。

これらの紹介した表示と各種弾道計算機や、レーザーレンジファインダー等を駆使することにより、ターゲットまでの距離による弾丸の落下量や、移動しているターゲット、風が吹いている環境下での射撃において適切な回答を得ることができる。

中心部は上下左右が途切れているサークルレティクルとなっており、中心点のサイズは0.2MRAD。このサークルレティクル部だけ、薄い赤味のある灰色だ。ターゲットがレティクルで完全に隠れて見えなくならないように、でもCQBショートスコープらしく瞬時にターゲットを捉えやすくすることへの両立を図るためと思われる。

 


6倍率

レティクルの全容が見えてくるのはこの倍率付近からだ。

詳しいサイズはわからないが、両側面と下には太いオベリスクがそびえ立つ。倍率によってレティクルの大きさも変わるFFPスコープでは、低倍率時にレティクルがわかりやすいようにこのような太い線を外側に入れることが多い。


3倍率


1倍率

1倍率となると、レティクル中央付近は線が細すぎて見えにくくなる。写真のように背景が白だとまだわかるが、薄暗い森や都市部だと一瞬見失うことがある。

前述した、両側面と下部の太いオベリスク線が大まかな照準の補助となってくれるが、できればさらに外側にもなにか照準の補助になるような線が欲しい。

もちろん、イルミネーションを使用すればその問題はある程度解決されるし、今回レビューに協力してくれた6人中4人は、こちらのほうが余計な情報が少なく見やすいとの意見だった。


さて、見えにくいと不平を言うよりも、進んで明かりをつけましょう。

ということでイルミネーションを灯してみた。

イルミネーションに関しては、中央部のサークルレティクル全体が光るような設計になっている。

写真のイルミネーションは最低光量ではあるが、Gen2 1-6×24、Gen2-E 1-6×24の特徴を完全に引き継いでおり、最低光量の時点でもうけっこう明るい

おかげで、夜間どころか日中であっても、暗い室内や、林内等では明るさをさらに抑えて欲しいと感じることもあった。

 


同様のイルミネーション設定を6倍率で。

イルミネーションがGen2よりも明るく感じるのは、今まで中央点のみが光っていたのが、Gen3になってサークルレティクルごと光るようになったからだろう。

ダットサイトのように使用でき、太陽ギラギラの雪原でも余裕を持って使用できる最高に明るいイルミネーションではあるが、最低光量でこの明るさでは夜間等の使用はあまりできない。そろそろ最低光量を5段くらい、せめてあと3段は落としてほしいものだ。


10倍率

レンズは少し暖色傾向に映る。


同じく10倍率で、イルミネーションを11段階中7段階目に設定。

明るいイルミネーションにより、レティクル下部のドット群が反射して赤くなっているのが見て取れる。

7段階目で、日中に余裕を持って使用できる明るさである。

一方、EoTech VUDU 1-10X LPVOに関しては、最大光量であっても少し明るさが物足りなく感じるシーンがあるようだ。直射日光下の元ではイルミネーションが辛うじて赤く光っているのがわかる程度とのこと。


イルミネーションに関して、これも歴代から受け継がれている欠点なのだが、対物レンズ側からイルミネーションが灯っているのが見えてしまう

今回は特に発光面積が増えたためか、歴代よりもより見えやすくなっている。写真は少し曇った日中にて、CQB戦の照準にちょうどよいと感じた5段階目の明るさの状態の写真だが、イルミネーションが点灯しているのがよくわかるだろう。

暗い場所だとなおのことであり、対人戦闘の場合は敵側からこのイルミネーションが見えてしまう可能性を念頭に置いて使用すべきだ。

この対策まで考慮しているスコープやメーカーは数少ないが、ぜひ次世代モデルを作る際は改良してほしい点だ。

私が知る限り、この点まで考慮に入れたメーカーはリューポルド社の一部機種くらいだ。今までレビュー記事を作成した中では「VX-R Patrol 1.25-4x20mm」がそれに該当する。

【レビュー】LEUPOLD VX•R Patrol 1.25-4x20mm

さて、後編ではお外に持ち出してスコープを覗いてみよう。今回は100メートル照準だけでなく、200メートル照準も行ってみた。

後編は下記へ ↓ ↓

【レビュー】 VORTEX – RAZOR HD GEN Ⅲ 1-10×24 FFP (後編)