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ジャンル:サーマルモノキュラー

FLIR社のコンパクトなサーマル単眼鏡

執筆時期:2020年6月

※本製品を季節毎に何度も提供してくださったY氏に感謝いたします。

後編はこちら ↓ ↓

【レビュー】 FLIR – Breach PTQ136 (後編)

SPECS │ 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) FLIR Systems(アメリカ合衆国)
サイズ(全長×全幅×全高) 13.9×7.0×4.9cm
重量 約210グラム
検出素子 非冷却酸化バナジウム(Vox)マイクロボロメータ FLIR BOSON 12μm
センサー解像度 320×256
レンズ焦点距離等 9.1mm単焦点 F/1.04
アイリリーフ 16mm
倍率 1倍~4倍(デジタルズーム)
視野(FOV) 24°×19°
フレームレート 60Hz
使用電池(稼働時間) CR123Aリチウム電池(最大90分間)or 3.7Vまでの充電池も対応
防水性能 IP67
動作保証温度 -20℃~50℃
価格 2795ドル

手のひらサイズのコンパクトサーマル

21世紀に入って早20年が経過しているにも関わらず、相変わらず幕府軍には個人用装備としてのサーマルイメージャーはほぼ普及していない。そのため、夜間の偵察・防御・攻撃訓練において、これらの装備を所持していると有利に事を進めることができる。なんてったって楽しい。自分だけズルして敵が見えるのだ。こんな愉快なことは無い。装備背負って急斜面を登り、藪こぎをした疲れなぞ吹き飛ぶ痛快さだ。

そんな愉悦を独り占めさせまいと、最近サーマルイメージャーを自腹購入した者がいた。その製品が、今回紹介するFLIR社の「Breach PTQ136」である。本製品は、PVS-14のようにヘルメット等にマウントでき、そこそこ使用できるレベルのサーマルカメラとして2018・19年にアメリカで話題となった製品だ。その小さなボディにどのようなポテンシャルを秘めているのか楽しみだ。


本製品は、保管に便利なGORE社の強化樹脂製ハードケースが付属している。トリジコン ACOGシリーズに付属しているペリカン社のハードケースと同じく、防水自動気圧調整機能付きだ。

開閉ボタンもロックがかかるタイプなので、運搬中等で不意にケースが開くことはまず無いだろう。

その他付属品として、テスト用CR123Aリチウム電池、携帯ポーチ、通信用Type-Cケーブル、説明書等が付属する。


ただ、このケースは製品や付属品の大きさに対してかなり大きめで、運搬には少々お荷物になってしまう点がある。

ご覧の通り、ウェポンライトを装着した大型拳銃と弾倉二つを余裕で入れることができる。別の貴重品や精密機器等の運搬用として利用するのも良いだろう。


本体形状はPVS-14のようなヘルメット装着型の暗視単眼鏡とよく似た形状だ。

本体材質は樹脂とアルミニウム等がメインであり、少しザラつきのある黒い塗装が施されている。その形状や配色から、民生用ではなく法執行機関向けの製品を彷彿とさせる。


全長は14cmほどとコンパクトであり、重量も210グラムなので、ヘルメットにマウントさせてもPVS-14(現行型は350グラムほどだったかな?)より負担は少ない。

落下耐久性は多くのFLIR製品と同様に1m。


そのマウントに関しては、本体両側面と下面に写真のようなミニレールが設けられており、それを介してヘルメット等に装着する。

三脚穴等は無いので、専用のアダプターを装着しないと各種装備品や機器に装着することはできない。


操作に関しては上面に設けられた3つのボタンを用いて行う。上から上ボタン、決定ボタン、下ボタンと呼称しよう。

上下ボタンはズームやカーソルの操作に、決定ボタンは電源や撮影、決定等の操作を行う。

国内外の様々なレビューで言われているが、この3つのボタンがともかく固いのだ。ストロークの長さは1mmほどだが、ボタンが固いおかげで、電源操作や各種設定項目を変更することがともかく面倒になってしまう。

このボタンの固さに関しては本製品の大きな欠点の一つと言ってもよいレベルだ。誤操作を防ぎたくてこんなことをしたのだろうが、これだと電源のオフ、ズーム、撮影機能等でボタンの長押しやダブルクリック時にミスをしてしまうことに繋がる。グローブ等をしていると特に操作ミスは増えてしまい、オペレーションに支障をきたす。


ワイヤー付きカバーを外すと、黒真珠のようなゲルマニウムレンズが顔を覗かせる。

レンズは9.1mm単焦点(F値1.04)。


レンズ上部はバッテリーコンパートメントとなっている。

使用する電池はCR123Aリチウム電池か3.7Vまでの16340サイズの充電池がサポートされている。

駆動時間はCR123Aで最大でも90分程度しか動かず、カラーパレットの変更、写真撮影、特に録画をしているとみるみるうちに電池が減っていく。しかも画面に表示される電池残量表示があまり信用ならず、7-8割残っていると表示されているにも関わらず、フッと電池切れでシャットダウンされたこともあった。

経験上、電池残量が半分程度かそれ以下で録画操作は行わないことを推奨する。録画をスタートした途端に電源が切れることが多く、もし録画中に電源が切れた場合は録画中のデータは保存されていない。

連続稼働時間の少なさも本製品の泣き所の一つだが、MOD Armoryのバッテリーエクステンダーを装着すれば、稼働時間を5時間以上に伸ばせるとのこと。


バッテリーコンパートメント後端には、通信用のType-Cポートが設けられている。

このType-Cポートのカバーが小さくて脱落防止も無いので、紛失に注意してもらいたい。このカバーが無い場合は、当然防水能力は失われる。

このPTQ136の持ち主であるY氏は部屋で落としてしまい、床に這いつくばって探し回ったと聞かされた。

これでもまだマシになった方で、初期型のPTQ136のこのカバーは、取りやすくするためにご丁寧に突起があり、そのおかげで何かに引っかかった拍子にすぐ無くなっていたみたいだ。

一応このポートカバーを付けていると、本機にはIP67の防水・防塵能力があるとのこと。

このType-Cポートに付属のUSBケーブルを介して、PC等に撮影したデータの移行やファームウェアのアップデート等を行うことができる。

また、このType-Cポートは給電も可能なので、防水の必要性がない環境下だと、モバイルバッテリーやUSB給電等で本体を稼働させることもできる。


ラバー製のアイピースが装着されている。本製品のアイリリーフは16mmで、ゴーグルやメガネをしていると画面表示が少し見えにくくなる。

その前方には視度調整ダイヤル。これで画面表示がはっきりと見えるまで調整しよう。


アイピース奥にはQVGA(1280×960)解像度のマイクロ液晶モニターが見える。

画面表示・各種設定項目等


さて、電源をつけてモニターを覗いてみよう。

公式では電源がつくまでのスタートアップ時間は1.5秒とあるが、固いボタンを押してサーマルカメラとして使用できるまでは実際5秒程度かかる。

電源メニュー欄にスタンバイモードらしき項目があるのだが、現段階ではそれらを使用することはできなくなっている。アップデートか何かで実装され、起動が早くなれば良いのだが。

非冷却型サーマルデバイスでお馴染みの計測温度誤差修正のキャリブレーションだが、通常は自動的に行い、上下ボタン両押しをすると手動で行うこともできる。

この画面表示だが、ヘルメットにマウントした時のように本体を上下逆さまにした場合は、自動的に画面表示が回転してくれる。

本機は静止画と動画の保存が可能で、決定ボタン単発押しで静止画、決定ボタンダブルクリックで動画撮影が開始される。

撮影データは本体に記憶され、容量は2Gb(実質は1.7Gb前後)。この容量で静止画は1000枚以上、動画は2.5時間分を保存できる。

偵察任務をよく行うので、コンパス機能があるのは何気に助かる。


画像はメインメニューの画面だ。本機はコンパクトな形状ながら、同社SCOUTシリーズとは違い、細かな設定やカスタマイズができる。

ENHANCEMENTの項目を開けば、室内や海上等の使用環境に合わせたプリセットを選ぶことができるだけでなく、コントラスト、シャープネス、スマートシーン、ゲイン等のより細かな設定を自分好みに調整して保存することが可能だ。この件に関しては後でレビューしよう。

このような設定ができることは良いのだが、手数が多くなる分、ボタンの固さによりイラつくことになる。

※以降、掲載している静止画や動画データに撮影時の気温を表示(Temperature:○○℃)しているが、これはレビューをする上でこちらが表記したものであり、本機に気温計測機能は無いので悪しからず。

※表記が特に無い限り、プリセットはデフォルトに設定。

7つのカラーパレット

近年のサーマルカメラのほとんどには、使用する目的や周囲の環境や状況に合わせて、適切な温度分布や視界を選択できるように、数種類のカラーパレットが備わっている。PTQ136には以下の7種類のカラーパレットが組み込まれている。

カラーパレットの変更だが、PTQ136には独立したカラーパレット変更ボタンが無く、パレットを変更するには「メニュー呼び出し」→「パレット」→「任意のパレットを選択」→「決定」と手順が多いのが難点だ。カラーパレットの変更は、環境の変化や用途によってコロコロ変えることが多く、状況によっては瞬時の変更が求められることも少なくない。この手数の多さはボタンの固さ以上に個人的に改良してもらいたいポイントだ。

また、7つのカラーパレットのうち、IRONBOWやARCTIC、SEPIAはあまり使用しない。切り替える手数が多くなるため、使用しないカラーパレットは設定で任意に非表示等ができると尚良かった。

WHITE HOT | ホワイトホット


ホワイトホットモードは、サーマルカメラのカラーパレットの中で最もポピュラーと言ってもいい基本のモード。

温度が高いものを白、低いものほど黒く描写する。

都市部や山間部等、まんべんなく使えるカラーパレットである。また、コントラストが極端な場合でも、他のカラーパレットよりわかりやすいことが多い。





BLACK HOT | ブラックホット


反対にブラックホットモードは、温度が高いもの黒、低いものを白く描写する。

基本的にブラックホットは物の人工物のディティールがつかみやすく、夜間において暗視目的としての使用に適しているとも言われている。が、個人的にPTQ136に関しては少し黒つぶれしやすい傾向にあり、どちらかと言えばホワイトホットのほうが見やすい場合がある。

環境によっては、森や草等の植物の描写がわかりにくいこともあるが、白と黒のコントラストがはっきりと映りやすいので、隠れている標的が見つけやすい・照準がしやすいという意味合いで法執行機関やハンターからの評価は高かったりする。


OUTDOOR ALERT | アウトドアアラート


このモードに関しては、ブラックホットをベースに、画面内で最も温度の高い上位10%の物をオレンジ色に目立たせるモードだ。

このモードの利点はなんと言ってもひと目で周囲より温度の高い箇所がわかるため、索敵に用いるのに適している。また、消防等における消火活動で、残り火やまだ燻っているところが無いか確認する際にも使われるようだ。高コントラストのシーンで威力を発揮するモードだ。

私も偵察行動等で索敵を行う場合はこのモードを選ぶことが多い。

ただ、環境や状況によっては多くのエリアがオレンジに塗りつぶされ、見えにくくなる場合もある。

同社のPSシリーズ等の旧機種にあったInst Alertモードがこれに置き換わったと言えよう。



RAINBOW HC | レインボー HC


非常にカラフルなこのパレットは、温度が低い順に黒→紫系→緑系→黄色系→赤系と温度分布を細かくわけて表示する。

物体のわずかな温度変化をあぶり出すので、写真のような都市部だとゴチャゴチャして非常にわかりにくいが、他のカラーパレットでは苦手な夏場の森の中に隠れた人物等を見つける際に意外と役立ったりする。

別の機種ではあるが、潜入訓練でこのレインボーパレットを用いて進行方向を見た際に、森の中に5人が待ち構えていたのを事前に発見することができた。ホワイトホット等のカラーパレットでは、人間の体温と周囲の環境温度の差があまりなかったのでわからなかった。

非常に低コントラストの条件下、機械等の細かな温度分布を知りたい場合に使用すると意外な発見があるだろう。

ただ、PTQ136の多色系カラーパレットは塗りつぶされたような描写となることが多く、あまり使い勝手が良くない。もう少し煮詰め直してほしい。


ARCTIC | アークティック


温度が高いものをオレンジ系、低いものを青系で表示するパレット。

温度の高い物体の違いをわかりやすくすると公式の説明にはあったが、色潰れしやすく、判別が難しい場合が多いのであまり利用しない。

IRONBOW | アイアンボウ


温度が低い順に黒→紫系→オレンジ→黄色系→白と表示。

こちらも都市部では表示が潰れがちだが、森や林の中の動物を見つける際に使用すると良い。ただ周辺環境のディティールが少しわかりにくいので、私はOUTDOOR ALERTかRAINBOW HCを使用する。

SEPIA | セピア


温度が低いものが黒、そして上がっていくに連れて黄色から白へと変わっていく。

長時間の監視や偵察行動の際に、目を疲れにくくする黄色を多用したパレットとのことだが、個人的にPTQ136の味付け的にはケースバイケースだと感じる。

各種カラーパレットの見え方に関してはこちらの動画でも紹介しているのでぜひ参考にして欲しい。

長くなりそうなので後編に続く

後編では長距離でのレビューや各種設定やカスタマイズを行い、より深く評価していく。後編は下記リンクより ↓ ↓

【レビュー】 FLIR – Breach PTQ136 (後編)