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ジャンル:ライフルスコープ・プリズムスコープ
レバー操作で近距離から中距離まで臨機応変に対応可能なCQBプリズムスコープ
執筆時期:2021年2月
※本製品を提供してくださったマサト氏に感謝いたします。
SPECS | 性能諸元
メーカー名(メーカー国・製造国) | ELCAN Optical Technologies (カナダ) |
全長 | 約15.3cm |
重量 | 約658グラム |
カラー | ブラック(本製品)、FDE |
本体素材 | アルミニウム(硬質アルマイト処理) |
倍率 | 1倍、4倍 |
視野 (FOV) | 146.3~34.2フィート / 100ヤード:44.5~10.4m / 100m |
アイリリーフ | 70mm |
レティクル(SFP:第2焦点面) | CX5395(5.56mm仕様:本製品)、CX5396(7.62mm仕様) |
イルミネーター | 赤色LED(650nm) クロスヘア・センタードット各々5段階 |
使用電池 | CR2032リチウム電池 |
動作可能温度 | -40℃~65℃ |
防水性能 | 水深20m / 2時間 |
価格(購入価格) | 2360ドル(2019年7月、1850ドルで購入) |
タフで無骨な可変倍率プリズムスコープ
以前紹介したエルカン社のSpecterDR 1.5-6xは私が今まで触れたことがあるプリズムスコープとしては、最高の性能であり、私がスコープに求めていることの多くを満たしている素晴らしい製品だった。
今回紹介する製品は、SpecterDRシリーズの代名詞とも言うべき、コンパクトなElcan – Specter DR 1-4xである。
こちらも5.56mm NATO弾仕様と7.62mm NATO弾仕様があり、それぞれに色もブラックとFDE(Flat Dark Earth)の2色がある。今回紹介するのは5.56mm NATO弾仕様のブラック(DFOV14-C1)である。
→5.56mmのFDEはDFOV14-T1、7.62mmの黒とFDEはそれぞれDFOV14-C2、DFOV14-T2となる。
●パッケージに関してはレプリカ品の方がまだ綺羅びやかでは…?と思いたくなるほど簡素の極みのような佇まいだ。エルカン製品はだいたいこんな感じである。
●説明書は白黒印刷の英語表記のみだが、レティクルの使用方法等が細かく書かれている。
さて、中身を取り出してみよう
●基本的な外観や構造、操作系は以前に紹介した1.5-6x版とほぼ同じである。
●1.5-6x版ほどではないが、外観の質感は価格の割にはあまり良くない。塗装のムラや仕上げの甘さに加え、箱出しの時点でマウントや電池蓋だけでなく、スコープ本体にも小さな傷等がある程度目立つ。俺は現場主義の仕事人だ。見てくれを気にするヤワな坊やや嬢ちゃんと働く気はない。OK?と言わんばかりのメーカーである。
●全長は15.3cmとトリジコン ACOG TA31より1cm弱長い程度であり、そこらへんの1-4倍ショートスコープよりも確実に短い。重量は658グラムと意外に重いので、マウントと合わせた各社1-4倍ショートスコープよりも、若干重いくらいである。
●マウントはピカティニー規格に対応したA.R.M.S.社製のQDマウントが、本体と一体となって付いている。マウントのロック機構等はないが、A.R.M.S.製らしくカッチりとしており、使い勝手も良い。
→写真では見えないが、レバー内側に穴がそれぞれ開いており、そこに結束バンド等を通してレバーの緩みを防止することが可能となっている。
●「UP→」と書かれている下にあるダイヤルは、レティクルの上下移動ができるエレベーションダイヤルとなっている。
反対側
●「+、OFF、○」だの描かれているダイヤルはイルミネーションダイヤルで、その中にイルミネーションの電源であるCR2032リチウム電池を挿入する。
●このダイヤルを反時計回りに回すとレティクルの中央ドットのみ、時計回りに回すとレティクルのクロスヘア中央付近を中心に全体を灯すことができる。各方向共に5段階の光度切替が可能で、内二段階はAN/PVS-22を基準に、暗視装置に対応したモードになっている。
●旧型やミリタリーモデルはこの電池ケース兼イルミネーションダイヤル部分の形状が違い、DL 1-3Nリチウム電池という少しレアな電池を使用するが、現在ではミリタリーモデルもこのタイプになっていると聞く。性能はほぼ何も変わらない。
●「4X」と「1X」と書かれている下にあるレバーは、倍率変更レバーだ。このレバーを下ろして、移動させることで倍率を1倍か4倍に変更できる。
●一般的な1-4倍のショートスコープのように1倍~4倍ではなく、1倍と4倍の二段階のみの倍率変更となり、その中間には設定できない。SpecterDRは、複数の凹凸レンズの間隔を変えて倍率を変更させる可変倍率スコープや望遠レンズと違い、焦点距離の違うレンズを内部に2個搭載し、それを切り替えて倍率変更を付与している。最近スマートフォンに流行りの、複眼式カメラのレンズ変更をアナログで行っているような感じだ。
●レバーの動きはスルスルと滑らかで、余計な力無く、指一本で簡単に移動させることが可能。通常の可変倍率スコープの、倍率変更ダイヤルよりも体勢を変えることなく動かせる。
●一応、倍率変更時時には下に少し下げて動かすので、ちょっとレバーが触れた程度で不意に動くことはないが、藪こぎ等で様々な方向から干渉を受けた場合は、レバーが勝手に動いてしまうことがたまにある。
●先程からリアの接眼レンズ部にレンズキャップを付けっぱなしにしていたが、本製品も1.5-6x版同様にTenebraex社製の前後レンズキャップとARDの同梱セットモデルだ。
●ARDはAnti-Reflection Device(レンズ反射防止装置)の略で、俗に言うキルフラッシュのことだ。厚めで頑丈なのだが、低倍率時には少々視界の妨げになる。
●対物レンズ部。薄い青や緑系のコーティングが施されている。
●写真は内部のレンズが倍率変更によって切り替わっている途中。1倍、もしくは4倍の倍率変更を行うことによって内部のレンズが90度回転して切り替わる。
●驚くべきことにこの切替を行ってもゼロインがズレることや、アイリリーフが変わることは無い。よほどの工作精度と高い製造技術が無いとこのシステムを量産品として作ることは無理だろう。
●後方接眼レンズ部。視度調整機構や柔らかいアイピースはつかない。
●ボディ上部に付いている黒い突起二本は、緊急時用のアイアンサイトとなっている。上下左右の微調整はできないが、斜め右上、左上へのオフセットはできるようになっている。付いているマイナスネジを外すことで移動可能だ。
●フロントサイトとリアサイトの間にあるスペースには、専用マウントを載せることで、ドクターサイト等のダットサイトを装着可能となる。
●アイアンサイトは、5.56mmNATO弾を使用時に、距離35メートルでゼロインできるようにセットアップされている。
●あくまで、スコープが使用不能になった際、近距離で大まかに狙いをつけるためにあるので、精密射撃はできない。マンターゲットを狙うには100メートルくらいが限界かと。
●どことなくレトロな観測光学機器のようなデザインのおかげで、89式小銃のように少々設計が古い銃器との見た目上の親和性は高い。「○○式 小銃用可変倍率眼鏡」という表記が印字されてても違和感は無いだろう。
●アイリリーフは公式では7cmとあるが、実際には5cm、多く見積もっても5.5cmくらいだ。アイリリーフ幅は2~5cmほど。アイボックスは可もなく不可もなくといった広さ。プリズムスコープとしては平均的で、だいたいこんなものだが、アイリリーフに余裕を持ちたい場合は1.5-6x版のほうが良い。
●前述したように、倍率を変更してもアイリリーフに変化は無い。頬付の位置を変えなくていいので、ショートスコープと比べてこの点のアドバンテージは大きい。
※画像クリックで拡大可
●本製品のレティクルは、5.56mm NATO弾を使用することを想定した「CX5395」というレティクルを搭載している。基本的には、1.5-6x版で紹介した「CX5455」と機能等はほぼ同じであり、同じく7.62mm NATO弾に対応したモデル(DFOV14-C2、DFOV14-T2)もある。
●倍率を変更してもレティクルの大きさが変わらないSFP(Second Focal Plane : 第二焦点面)となっている。中央ドットは1.5倍率で6MOA、6倍率で1.5MOAのサイズになっている。
●レティクル下線は、中央ドットを100メートルでゼロインした場合、300~1000メートルまでのBDC機能(距離による弾道落下予測)ができるように区切られている。しかも、300~600メートルまでの区切りの横線は、ちょうど19インチ(約48cm)の長さになるように調整されており、これは成人男性の平均的な胸部の幅となっている。距離がわからないターゲットに対して、上半身さえ見えていれば、この横線を合わせることで、おおまかな距離が800メートルまではわかるというわけだ。
●また、左下のイラストも、300~800メートルまでの距離計測に使用できるレティクルになっており、上段線をターゲットの頭頂部に、下段線をターゲットの上半身下端に合わせることで距離を計測できる。上段と下段線の間は約76cmのサイズになるように設定されている。
→このレティクルの特殊機能に関しては、4倍率時でないと機能しないので注意を。
●レンズの暖色は1.5-6x版よりも、より暖色傾向に映る。
こちらは参考までに1.5-6x版のCX5455レティクル
●見比べて大きな違いは、1-4x版はクロスヘアレティクルの横線のミル刻みが無くなっているだけでなく、700~1000メートルのBDCレティクルが大きめのサークルタイプになっている。
●妥当なデザインだ。最大でも4倍率しか無いので、500メートル以上先の標的を狙うのは、ボブ・リー・スワガーでない限り至難の業であり、レティクルに埋もれてしまう。700~1000メートルの距離に関しては、小銃ではなく、5.56mm NATO弾を使用した軽機関銃での射撃用に大まかに面で射撃をすることを考えてこのようなサークルレティクルにしている。これは7.62mm版のDFOV14-C2やDFOV14-T2でも同様である。
→そもそも5.56mm NATO弾で500メートル以上先の人間大の標的を狙い撃ちするのはかなり難しい。
※画像クリックで拡大可
まずは1倍率で100メートル先のツナギ(身長1.8mと想定)を狙ってみよう。
●レンズの明るさに関しては、1.5-6x版ほどの感動は無いが、そこらのプリズムスコープより優れていることは確かだ。透明度の高さや、余計なゴーストやフレアの出にくさも良好である。そして解像度は素晴らしい。
●クロスヘアレティクルが、外側は太く、内側は細い形状のため、ターゲットをセンタードットに合わせるまでのガイドがしやすく、CQB等で素早く射撃する手助けとなる。
●また、このスコープは1倍率時の視野が146.3フィート / 100ヤード(48.8メートル / 100メートル)と、非常に広めなので、レンズの縁は太めに映るとは言え、広い視野を得ることができる。
●ただ20メートル以下程度の近距離だと、1.05倍くらいに若干拡大して見える。
※画像クリックで拡大可
●4倍率時。余計な歪みや違和感は非常に少なく、大きく明るさが落ちることも無いので、倍率切り替え動作同様に、非常にスムーズにターゲットにアプローチすることができる。
●センタードットの大きさが、精密射撃や長距離狙撃を行う際には少し大きいと感じる人はいるかもしれないが、CQBスコープと考えると、大きな問題はない。
●レンズ全体を通しての高い解像度は、倍率を変更しようが落ちることはない。隅から隅までくっきりしゃっきりと映り込む。
●イルミネーションに関しては、1.5-6x版同様にSpecterDRシリーズの素晴らしいポイントの1つだ。イルミネーションダイヤルを反時計方向に回すと、写真上のように中央のセンタードットのみが光る。このイルミネーションは非常に明るく、最低光量でも暗闇の場合は少し明るく感じ、最大光量の場合は、日中でも十分すぎるくらい明るく灯すことができる。光量そのものは、同じく非常に明るいイルミネーションでお馴染みのVortex Razor HD Gen2 1-6xと同等かそれ以上の明るさであり、1倍率で6MOA、4倍率で1.5MOAのドットサイズを考慮すると、より明るく感じる。
●イルミネーションダイヤルを時計回りに回すと、写真下のようにクロスヘアの中心付近を光らすことができる。このモードは最大光量にしても、曇りの時ですら光っているのがわからないくらいに暗い。完全に暗所や夜間用のイルミネーションである。暗視装置との併用でも使用できるようだ。
●また、もう一つ素晴らしい点として、対物レンズ側からはイルミネーションが灯っている様子がほぼわからず、真っ暗闇であったとしても、環境に合わせた常識的な明るさであれば、裸眼では近距離であってもイルミネーションが灯っている様子を視認できない。これら素晴らしいイルミネーションシステムだけで購入したくなるスコープだ。
野外、晴天時のイルミネーション発光の様子
先ほどと同じく、100メートル先のターゲットにドットイルミネーションを灯した状態で照準してみた。(最大光量)
●6MOAと少し大きめなドットイルミネーションのおかげで、CQB時にはダットサイトのような運用が可能だ。故に、SpecterDRやTRシリーズを3Gunのようなスピードが求められる競技や、軍や警察系武装組織がCQB戦闘時に用いる理由は納得がいく。
●ひとによっては、イルミネーションを灯すことで、センタードットがより大きく感じることになるので、この点は好みがわかれるかもしれない。
こちらはARD(キルフラッシュ)を装着した様子
●厚めのハニカムメッシュなので、等倍時ではかなり目立ってしまい、邪魔に映るシチュエーションも多い。両目照準をすることで多少改善される。
●4倍率の場合は若干視界が暗くなるくらいで、大きな違和感はなくなる。
●重量は少し重めなので、素早いガンハンドリング等をしていると若干遠心力で振られている感はあるものの、大きくバランスを崩すような違和感等は無く、個人的には1倍~4倍程度のスコープと考えると、他の性能とも合わせて許容範囲だ。
●SpecterDRシリーズの大きな利点でもある、倍率変更が素早く行え、アイリリーフの上下が無いので頬付けも変えることなく短距離~中距離戦闘に対応できる点は素晴らしい。
The Conclusion | 総評
●このスコープの市場価格は1700~2000ドル前後と、けして安い買い物ではない。だが、素早く切り替えれる倍率変更に、倍率を変えてもアイリリーフの変わらない光学システム、非常にメリハリがあり昼夜問わず戦術的に使用できるイルミネーション、これらの機能を詰め込んでも15cmほどのコンパクトな全長は他を圧倒する性能を持ったスコープである。
●トリジコン ACOGとどちらを選ぶか?と言われれば私は迷わずこちらを選ぶ。さらに言うなら、よりレンズが明るく、ある程度のCQBもできて6倍率まで拡大できる1.5-6x版を選ぶだろう。
1.5-6x版のレビューはこちら ↓ ↓