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Ver.1.0:最終更新日 2024/03/06

特別監修:幕府陸軍医官

紹介した耳栓やイヤーマフのレビューはこちら ↓ ↓

SUREFIRE – EarPro EP7 & EP4 SONIC DEFENDERS

【レビュー】 SUREFIRE – EarPro EP7 & EP4 SONIC DEFENDERS

3M – Peltor ComTac VI NIB

【レビュー】 3M – Peltor ComTac VI NIB

浮世は騒音に溢れている


ここを見ている諸君らは、実銃や爆発物等を業務や私生活で取り扱い、バカでかい騒音に晒されている人も少なくないだろう。何を言っているんだ?私はそんなものには触れないし知ったことかと帰ろうとした君達もちょっと待ってほしい。耳に刺さる騒音が多い空港や工場、林業や土木業での業務も危険な騒音レベルに達している可能性が高い。また、昨今ではフィットネスクラブやスポーツイベント、音楽イベント、外食イベント等のレジャーでの騒音もけして無視できない。家の中はどうだ?ゲームやネットフリックスの視聴を大きな音で楽しんでいないだろうか?自分が気にせず流し、耳に入れている音って意外と大きいぞ。

では危険な騒音とはいったいどんなレベルなの?


我らが厚生労働省曰く、85dB(デシベル:音圧等の単位)以上の騒音に1日8時間労働の環境下で晒されると、5~15年という知らず知らずのうちに徐々に難聴が発生してくると言う。みんな大好きWHO(世界保健機関)も、89dBの騒音を1週間に5時間以上、100dB以上の騒音の場合は1週間にわずか18分以上晒されると良くないことになるぞ?と警鐘を鳴らしている。

さて、急に89デシベルだの100デシベルだのと言われてもそれが具体的にどれくらいの音なのかわからんという人も多いことだろう。そこで、下記に身近な環境や騒音がどのくらいのレベルなのか一例を挙げてみた。

20~40dB:ささやき声や図書館内

60~70dB:通常の会話、常識的なテレビ音量、家庭用掃除機

80~90db:耳元でドライヤー、地下鉄車両の通過

110dB:チェンソー、クラクション

116dB:サプレッサーを装着した.22LR弾

125dB:サプレッサーを装着した9mm拳銃弾、アイドリング時のジェット機

134dB:サプレッサーを装着した.223ライフル弾(5.56x45mm)

150dB:離陸時のジェット機

160dB:12番ゲージ.00散弾

165dB:.223ライフル弾 (5.56x45mm)

167dB:.308ライフル弾(7.62x51mm)

基本的に賃貸アパートにおいて、90dB以上の音を鳴らし続ければ、確実に他住民との地域紛争が勃発する音量だ。冗談は置いておくとして、人間にとっては、120dB以上の継続的な騒音、そして一瞬でも140dB以上の騒音に晒された場合は、継続時間に関わらず身体にとって有害だと広く規定されている。

また、この騒音に晒される時間について、WHOの規定では、音が3dB増加するごとに、安全に聞ける時間が半分になるとしている。一部前述したが、86dBの騒音は1週間に10時間安全に聞けるとなっているところ、89dBに増加すると週に5時間、100dBまで上がると18.75分しか聞いてはいけないとなる。

だから何?


ではこれら我慢のならない騒音を受けるとどうなるのか?

そもそも、音という空気振動が耳の中に入ると、耳の中にワラワラといる有毛細胞という有能な奴がこの振動を電気信号に変えてくれる。そうすることで、我々のちっぽけな脳みそが音を認識し、マクドナルドにてポテトが揚げたてであることを感知するのだ。だが、どんな有能な奴にも限界はあるように、この有毛細胞も受け止められる以上の音を浴びせられると壊れる。発砲や爆発音等の強大な音に不意に晒されて傷つく音響外傷も危険だし、職場環境や私生活で大きな音に長時間晒されている場合に発生する騒音性難聴は、両耳が同時に悪くなると同時に治癒が非常に困難とされている。

自分でプレイしているゲームやYoutubeの音量は小さくしろというだけの話だが、銃やライブ中のDJに「すみません、ちょっとボリューム落としてもらえませんか?」と苦情を訴えるのは現実的ではない。そこで有効活用してほしいのが、耳栓イヤーマフ等の聴覚保護デバイスの装着である。

NRR | Noise Reduction Rating(騒音減衰指数)


さて、このような聴覚保護デバイスは百円ショップからモノタロウに至るまで、古今東西星の数ほどの製品が存在する。それぞれ価格や性能等も違うため、どれを選べばよいのかわからなくなるだろう。そこで、遮音性能の指標として、NRR値という数値が明示されている商品が多い。NRRは「Noise Reduction Rating:騒音減衰指数」の略で、アメリカの環境保護庁が定める、特定の作業環境内で騒音暴露を低減するための聴覚保護装置が、どれほど有効なのかを判断するために使用される測定単位だ。

このNRRという指数だが、信用しすぎてはいけない。例えば上の写真の耳栓、Surefire EP4のNRR値は24dBとある。これは、様々な音に対して平均的に24デシベルの減衰能力があるという意味。今回問題視しているのは、果たしてこの数値が実際の聴覚保護として信頼に値する数値なのだろうか?ということだ。

特に長時間の騒音に晒される人は、騒音から聴覚保護デバイスのNRR値を引いた数値が80~84デシベル以下になることが推奨されている。

頭でっかちな理系空間で生まれた数値

NRRは、1975年に現実離れしたきっちりかっちり正確な実験室で生まれた指数に過ぎない。様々な騒音に晒され、様々な人間がいる現場において、実験室と同じ結果を示すことはめったに無い。そのため、NRRは実際の減衰量を非常に楽観的に示す結果ではないかと以前から疑われていた。

その違いたるや、使用者の耳の形状や聴覚能力の差、聴覚保護器具の付け方のバラつきを考慮すると、実験室で生まれたNRR指数から1/3や1/2もの違いが出るという研究報告もあり、あまりにもその値が乖離していることから、合衆国政府機関も半分に引き下げるべきとの意見がある。

現在、このあまり信用に値しないNRRに代わる新たな指数の採用が進められている。その中の一つが、人間の聴覚特性を加味したA特性による補正だ。その補正方法は、NRR値から7を引き、出た値を半分にすれば良いとのこと。この一気に少なくなった数値が現実に近い減衰量だと言う。

さて、先ほどのSurefire EP4のNRR値24dBをこの計算式に当てはめると、減衰量は8.5dBという10dBにすら届かない数字となる。この製品表示とまるで違う数字のほうが現実に近いのだろうか?この計算方法も含め、様々な指数や計算方法が出る度に官民の研究者らの間でさらなる議論が巻き起こる。だが少なくとも、新たな指数が採用されるまでは、製品に表示されている現在のNRR指数は懐疑的に見た方が良いだろう。

じゃあどうしろってのさ?


ではいったい我々は何を信じて何をどうすればよいのか?まずNRR値について言えることは、あくまで数値は参考程度に留め、様々な観点からのレビューや使用者から意見も聞いて商品選びをすべきだ。そして購入して現場での使用後は、耳鳴りや頭痛、体調不良等が無いかを注意深く観察してその耳栓が自分の使用環境に合っているのかどうかを判断するしかないだろう。自分の頭の中に騒音計を入れて数値を計測できるのであれば話は別だが。

また、NRR値が大きければ良いわけでもない。NRR値が大きければ大きいほど遮音性が高まるため、今度は必要な警報音や警告も何も聴き取れなくなることになる。何も聴き取れないので耳栓を外してしまった時に大きな騒音に晒されたのでは元も子もない。騒音が身体に影響の無い程度の製品選びや、上の写真のComTac VIのように音を電子的に取捨選択できるデジタルイヤーマフやデジタル耳栓を使うのも良いだろう。

さらに応用的な使い方として、耳栓の上からイヤーマフをつけることによる、遮音性を高めた使用方法もある。これにより、会話が出来る程度の遮音性の耳栓で業務しながら、より高い騒音が発生する機械や環境下では上からイヤーマフを装着してより遮音性を高めるという使い方ができるわけだ。

ただしこの手法には一部注意が必要だ。林業におけるチェンソーや、土木工事のコンクリート打設時、また、機関銃の射撃を多くする場合、空気振動で耳に入ってくる騒音だけでなく、機械を持つ腕や身体を通じて体に伝わる「振動」も聴覚へのダメージとなる。この状況、イヤーマフの使用だけならいいのだが、耳栓だけやイヤーマフと耳栓の合わせ技をした場合、一部の振動エネルギーが、耳栓によって外耳道から外へ逃げることができなくなり、聴覚を守るはずの耳栓が逆にダメージを増大させることになる。このような状況が多い場合は、外耳道を塞がないイヤーマフのみを使用するのも良いだろう。

この現象は俗に「外耳道閉鎖効果」と言われている。これを体験したい場合は、耳を塞いだ状態で硬い煎餅でも食べてみればいい。

何にせよ、騒音だけでなく長時間の激しい振動も伴う場合は聴覚のダメージが騒音のみと比べて増大するため、注意が必要だ。

また、そもそもの問題として、「はいはい、耳栓すりゃいいんでしょ?」と100円ショップで旅行安眠用途のようなチープな耳栓を使用していないだろうか?NRR値を過信して高価な耳栓を買えば良いというものではないが、こちらはもっと問題だ。幕府陸軍の射撃検定や実弾演習の時にも、そういう人たちがちらほらいる。酷い時には耳栓を忘れたとか言ってティッシュを丸めて耳栓代わりにしている者までいるほどだ。この耳栓を買っておけば大丈夫!というわけではないが、せめてSUREFIRE社のEP4レベルの遮音性能はあったほうがいい。耳に取り返しのつかないダメージを負ってからでは遅いのだ。

あと子供でもわかることだが、騒音からは可能な限り離れることも当たり前ではあるが重要だ。下の表のように一般的に音は離れる毎に減衰していく。現場環境にもよって左右されるため、表はあくまで目安程度に留めておいてもらいたいものの、耳栓がどうのこうのと言う前に、必要以上に騒音に対しては距離を取っておく心掛けが大事だ。

距離による騒音の減衰(目安)

距離 騒音の減衰量
4m 10dB
8m 15dB
16m 23dB
32m 27dB
50m 31dB

最後に


日本には騒音により、聴覚に大きなダメージを負って騒音性難聴等になっている人が1000万人以上いると言われている。銃砲の発砲音や爆発音等の瞬発的な非常に大きな騒音に関して気をつける人は多いだろうが、工場や機械音、オーディオ等の大きな音だが長時間で慣れてしまったり、耳障りの良い音だと油断をして聴覚保護がおろそかになっている人は少なくない。

特に後者の場合、ゆっくりとそして気づかぬうちに聴覚にダメージが蓄積されていき、様々な障害も気づかぬうちに発生してくる。最初は3000~4000Hzの高音が聞き取りにくくなるが、「こんなのは歳のせいだ、疲れているからだ」と甘く見る。これがまずい。また、同じような騒音環境下にいても難聴になる人もいれば、何年何十年経過してもならない人もいる。「仲間が大丈夫だから問題ないだろう」ではないのだ。そのうち耳鳴りや頭痛がしたり、徐々に通常の会話やテレビの音声が聞き取り難くなる。深刻なダメージを受けた耳の中の有毛細胞の修復は、現在の医学では非常に難しいことを忘れてはならない。厚生労働省や世界保健機関は冗談で騒音に気をつけろよと口酸っぱく言っているわけではないのだ。


騒音による将来の難聴だけでなく、脳神経系や精神へのダメージを回復させるためにも、

自分の騒音環境下の騒音の計測を行う、または専門家に依頼する。

正確性は下がるが、スマートフォンで簡易的な騒音計測アプリ等を使用するのも、自分の活動場所の騒音を知る第一歩になるだろう。

自分に合った聴覚保護デバイスを正しく着用。

長時間、連続した騒音への被爆を避け、聴覚を休ませることができる静かで落ち着ける場所に行く。

規則正しい睡眠、栄養補給、運動を行う。

そして、歯科同様に耳鼻科にも年に一回くらいは耳掃除がてらに行くべきではないだろうか?定期健康診断では簡易的なことしかわからないものだ。

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