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ジャンル:ヘッドセット、デジタルイヤーマフ、耳栓

通信機能付き軍用デジタルイヤーマフの代名詞でもあるコムタックの第6世代モデル

検証人数:2人

銃砲使用評価:有り

執筆時期:2021年10月

※本製品を提供してくれたT氏に感謝いたします。

SPECS | 性能諸元

メーカー名・国(メーカー国・生産国) 3M(アメリカ合衆国)
NRR (Noise Reduction Rating:騒音減衰性能) 20~23dB
使用電池(電池寿命) 単4型アルカリ、もしくはニッケル水素電池 x2個 (約350時間)
重量 379グラム(ヘッドバンド含む)
カラー グリーン(本製品)、コヨーテブラウン、ブラック(製品名はSWAT TAC)
防水性能 IP68
購入価格 10万5000円

6代目となった軍用デジタルイヤーマフ

射撃をする際の聴覚を保護する耳栓。それがヘッドホン形状になったものをイヤーマフ(イヤマフ)と通常呼ばれている。安価な耳栓と比べ、安定した遮音性を得ることができ、付け外しも瞬時だ。また、装着していることがわかりやすく、安全管理がしやすい面もある。そのイヤーマフでも、軍組織によく採用されているのがPelter社(現在は3M社に吸収合併)のComTac(コムタック)シリーズだ。


10年くらい前、私は某国で実施された戦闘訓練において、第3世代目であるComTac IIIを借りたことがあった。その時の印象は、耳栓より聞こえづらくなることが無く、音声は集音マイクで通常以上に良く聞こえ、有害な大音響はカットしてくれたことに非常に感動した。ただ、機械信号化された音声は音像定位や解像度に違和感があり、バリバリの銃撃戦以外ではあまりいらないなといった印象だったことを覚えている。

10年以上が経過し、射撃競技をしている友人のT氏から、使用していたイヤーマフがボロになり、最新型のComTac VIに買い替えたという自慢LINEを受信した。あれから3世代も進み、第6世代がどんなものに進化したのか少し気になっていたまさに翌日、詳しい操作方法がわからないという泣き言が飛んできた。これ幸いということで、操作方法を教え、英語説明書を訳してやるからという条件の元で今回のレビューにこぎつけることができたわけである。


ComTacが大きな支持を獲得したのは、ComTac IIIからだろう。第1世代からコンセプトを変えず、堅実に改良をした製品だ。ヘッドセットかと思いきや、イヤホンタイプの変態形状へと進化したComTac IVはやはり好き嫌いが大きく別れたこともあり、あまり人気が出ず、第5世代目のComTac Vは結局元のヘッドセット型に戻った。

そして、今回紹介する第6世代型であるComTac VIは、ComTac IVほどの冒険はしていないが、今までの地味な進化とは少し違う新たなスパイスを加えたモデルである。


これがComTac VI。厚手のヘッドホンといった印象だ。重量はヘッドバンドと電池を含めて公式では379グラムだが、実際に計測すると355グラムだった。

カラーはこのグリーンの他にコヨーテブラウンがある。また、SWAT-TAC VIという商品名にはなるが同性能でブラックも存在する。


ComTacはただの耳栓やイヤーマフではなく、人体にとって有害な音を機械的に取捨選択をし、音の増幅や減衰を行ってくれるデジタルイヤーマフだ。電源は単4型電池2本を使用し、それぞれの耳あてに一本収納する。

内部の赤い防水パッキンが目立つ電池カバーはブスッとはめているだけ。奥深くまではまり込むのでよほどのことがないと脱落しないと思うが。

本製品は真水で水深1メートルで1時間、海水で2メートルで30分の防水性能がある。

電池寿命はComTac IIIと比べて50時間プラスされた約350時間とあるが、後述するMIB機能等を使用していると実際は30~50時間くらいの稼働時間みたいだ。

説明書には性能の低下を防ぐために30時間以上の連続稼働は推奨しないとある。


電源や基本的な各種操作に関しては、ヘッドホン左側面下部にあるベイマックスの顔のような2つのボタンを操作して行う。

様々な機能があるのに何らかの表示画面も無く、ボタン2つでどう操作したり設定が変わるのか疑問だったが、各種設定やモード変更に関しては音声ガイダンス(英語のみ)が流れてくる仕組みになっていた。設定によっては、操作手順が少し煩わしいが、今どのモードでどうなっているのかは報告してくれるので、簡単に操作ができる。


ヘッドホン両側面前方にあるスポンジが被せられたパーツには無指向性の集音マイクが入っている。ここから音を取り込む。


こちらは音声通信用のマイク。従来よりも性能を向上させたノイズキャンセリング機能付き。

強風時やヘリコプターの騒音等が気になる場合は、オプションのM171/2 Windshieldを装着すればより良い。

このマイクは上下左右前後と様々な方向への微調整が可能で、使用しない場合は写真のようにコンパクトに折りたたむこともできる。


ヘッドバンド(フォームライナー)は軟質素材が使用されており、頭部に余計な圧力をかけることなく安定性やフィット感を高めてくれる。

スリットが設けられているので、通気性も良い。

ヘッドバンドと耳あてをつなぐワイヤーは片側約3cmほどの調整が可能。頭部の長さや、帽子等をかぶっても調整ができるようになっている。

このヘッドバンドは取り外しが可能で、オプションのP3ADG-F SV / 2ヘルメットアダプターを付けることで、ACH/ARCヘルメットレールにそのまま装着することが可能となる。


ComTac VIはこのようにコンパクトに折りたたんで携行できる。ヘッドホンタイプのイヤーマフはこのように折り畳める機種じゃないと荷物の邪魔になりがちだ。


長年改良が続けられているイヤークッション。VIのものは少しザラザラした加工となっている。適度な固さと柔らかさが両立されている。

イヤークッションはメンテナンス性向上のために取り外しが可能で別売りもされている。説明書曰く、頻繁に使用する人は年に二回程度はイヤークッションやヘッドバンドの交換が望ましいようだ。


このようなヘッドホンタイプの聴覚保護デバイスを使用していて気になるのは、アイウェアを装着している時の付け心地や、テンプルによる隙間が空くことで発生する性能の低下が心配になるところだ。実際にOAKLEY FLAK JACKETを装着した状態で試してみたが、若干テンプルが側頭部に押さえつけられる感じはあるものの、半日程度ならさほど苦にならなかった。柔軟性のあるイヤークッションだ。

遮音性に関しても、アイウェアを何も付けていない状態と比べると若干低下するものの、半室内の射場で12番ゲージスラグ弾を数十発撃った程度では耳鳴り等することなく問題なく爆音をシャットアウトしてくれていた。

このイヤークッションが気に入らない場合は、オプション品のHY80Aジェルリングを使用してはどうだろうか?低反発のジェル状のイヤークッションでこれまた違った付け心地を体感できる。これはより長時間での使用や、アイウェアを装着した場合の快適性を向上させるよう設計されている。


ComTac VIに新たに加わった改良点の目玉としては、NIB(Natural Interaction Behavior)という通信機能が加わったことだろう。NIBは、無線機等を別から接続せずに、ComTac VI同士で多人数双方向の通信を近距離で行うことができる

NIBは915MHzか864MHzの周波数で通信する。公式曰く、北米地域やオーストラリア等では915MHz、ヨーロッパ圏内では864MHzでの使用が推奨されるとのこと。

NIBは半径最大10メートル以内で、最大4人までの同時双方向通信が可能で、それ以上の人数であっても約60人前後は受信のみであれば可能である。

ベストな通信環境は半径3~5メートル以内。

限られた距離ではあるものの、余計なセットアップや機器の接続無しですぐにこの機能が使用できるのは素晴らしい。ComTac VIを装着し、電源を入れて、耳あて左後方にあるPTTボタン(写真参照)を押しながら話すだけで、同じComTac VI同士でのコミュニケーションが可能だ。

また、設定を変えることでPTTボタンを押すことなく、80dB以上の騒音環境下で喋っただけでNIB通信が可能になるNIB VOXモードや、このNIB機能をオフにすることも可能だ。

この機能をうまく駆使すれば、様々な任務や業務での意思疎通や注意喚起等の安全性を向上させることができる。

もちろん、従来通りのコムタックのように外部通信機接続システム付き(Comtac VI Single COMM もしくは Dual COMM)のものを購入すれば、NATO規格の通信機等に採用されているU/174プラグに対応した通信機器との接続が可能となる。

もちろん、これらSingle COMMやDual COMMであってもNIBは使用可能だ。

また、軍や警察用携帯無線機によく使用されている6ピン Mil-C-55166や、7ピン仕様の軍用車載無線機に接続可能なPTTアダプターも販売されている。


では実際の環境音の聞こえ方はどうだろうか?

装着して電源を付けると、わずかな環境ノイズと共に周囲の音が増幅され、まるですべて自分の耳元で発しているかのように聞こえる。

試しに紙を丸めたり、床を引っ掻いてみればいい。まるで自分がアントマンにでもなったように、何気ない音が大げさに聞こえる。

次は外に出てみよう。遠くで鳴く犬の鳴き声や車の走行音がよく聞こえる。もちろん、デジタル処理された音だという違和感はあるものの、Comtac IIIの時に比べて音像定位や解像感はかなり向上されており、どこからどのような音が発せられているのかは、かなりわかりやすくなっている。

ただ、音の増幅効果では本機種は勝っているものの、音響定位や音の解像感はどこまでいっても自分の耳にはかなわない。というのが私の所見だ。どんなシチュエーションでもオールラウンドに耳の代わりに使用できるものではないと思う。使用する環境や状況にもよるが、ケースバイケースでの使用がいいだろう。

では音の減衰効果はどうだろう?

ComTac VIは、ある一定の周波数で音量の音を自動的にカットする。騒音減衰性能(NRR:Noise Reduction Rating)は-20~-23dBだ。簡単に言えば160デシベルの拳銃発射時の音が、140~137デシベルの飛行機の発着音レベルにまで抑えられるということだ。

これだけ聞けば、え?この程度かよと思う人もいるかもしれないが、無いのとあるのとでは大きな違いだ。半室内や密閉された室内の射場で散弾銃や機関銃の射撃を行ったが、後に残る耳鳴り一つ無く射撃することができた。もし、何もイヤーマフや耳栓等装着をしなかった場合は、鼓膜が破れたり、少なくとも確実に難聴や激しい耳鳴り、頭痛等に苛まれるだろう。

手軽に本製品の減衰効果を確かめたい場合は、耳元で盛大な拍手をしてみるといい。まるでコンサートホールのドア一枚隔てたところから拍手を聞いているような音に軽減される。

騒音減衰性能-20~-23dBは、銃器の使用を想定した耳栓やイヤーマフとしては平均的な性能である。3M曰く、120dB以上の音が長時間続くような環境や、150dB以上の非常に大きな音がする場合は、聴力をより保護するために、さらにNRR値が高い耳栓と併用して使用することが望ましいとしている。

爆発物や銃撃戦を行う現場等で問題視されているTBI(Traumatic Brain Injury:外傷性脳損傷)に関しても、各種防弾システムの装着はもちろんのこと、このようなイヤーマフや耳栓の併用によってもダメージが軽減される。


もう一つ、ComTac VIの面白い機能としてMAP(Mission Audio Profiles)という機能がある。これは、様々な環境や状況にマッチした音質・音量調整を自動で行ってくれる各種プロファイルを選択できる機能だ。

このオーディオプロファイルは、通常の4段階の音量調整が可能なクラシックモードに加え、下記の4種類のプロファイルがセットされている。

Observation または Overwatch:立ちんぼや座りっぱなし等の静止した状態での観察や監視任務用。多くの周波数帯の音を増幅させ、かすかな音でも聞き逃すことのないように設計されている。

Patrol:行軍や徒歩偵察時用のプロファイル。足音、草がこすれる音、砂利の音や装備機器同士が接触する金属音等の高音域を抑えて、パトロール任務の邪魔にならないように。

Conversation:会話用。人間が発する音声帯域以外の周波数を抑え、会話がしやすいプロファイル。

Comfort:長時間の連続した騒音を抑え、心理的ストレスを軽減させるプロファイル。周波数特性や音量を抑え、大きな音がしがちな軍用車両や航空機内で長時間快適に過ごしやすくなる。

●非常に面白い機能だ。Patrolに関しては状況によっては違和感のある音になることもあったが、その他機能に関しては状況に応じて使用しても悪くないだろう。監視任務におけるObservationモードは面白いと思う。

また、大きな音に対する減衰機能はそのままに、音を増幅する集音マイク機能のみをオフにするモードもある。


本製品を提供してくれたT氏が、こんな機器なぞ説明書を読まずとも簡単に取り扱えるだろうとたかをくくり、予想外に多機能で慌てて説明書を開いたが英語アレルギーで読めなかった説明書。

NIBやMAP機能の詳しい説明等が書かれている。

Conclusion | 総評


今回、第6世代となったComTacだが、今までの良かった機能はより性能を向上させ、NIBやMAP機能のような「使える」先進性も得た製品として大きな進化を遂げた。

こう言ってはなんだが、私は鼓膜をぶち破るドンパチ至近距離銃撃戦以外は、基本的に自分の耳で偵察任務や監視任務を行うのを好むし、ヘルメットを装着している最中に付け外しするのが煩わしいので、あまりComTacのようなイヤーマフタイプの耳栓は使用しない。

そして価格も安くない。外部通信機器を接続しない素の状態のComTac VIですら、米国で600ドル代、日本国内で9万~12万円代という価格だ。しかし、聴覚保護デバイスとしての機能だけでなく、偵察や監視等の各種任務に適した、聴覚向上機能や、外部通信機器を接続しなくても使用可能な短距離双方向通信機能NIB等の機能にどう価値を見出すかが肝だろう。

話は少し逸れるが、幕府軍が使用している無線機の昔ながらの受話器や、新型無線機のカナル型のイヤホンマイク・・・前者は偵察任務等で音が漏れて冷や汗が出るし、後者はすぐ耳から脱落して無線を聞き逃したり、紛失の恐れが高く冷や汗が出る非常にストレスの多いものを使用している。今回のComTac VIのようなストレスの少ないリスニングができるものが欲しいものである。