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ジャンル:ダットサイト

また新たなAimpoint Tシリーズキラーが現れた。今度は拳銃や自動小銃でお馴染みの、SIG SAUER社からの刺客だ。Aimpointより安価で、ユニークな機能が詰まっている。今回はその中でも、FBI等の公的機関で採用されている、プロ向けのモデルをAimpoint Microシリーズとの比較も交えながら紹介しよう。

執筆時期:2017年10月

SPECS | 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) SIG SAUER (アメリカ合衆国・不明)
全長(全長×高さ×幅) 67×41×36mm
重量 91グラム
対物レンズ径 20mm
倍率 等倍
レンズコーティング Milグレードのノッチフィルターコーティング
イルミネーター 赤色LED 12段階(内1-2段階は暗視装置用)
レティクル 2MOAドット & 65MOA・2MOAサークルドット
使用電池(電池寿命) CR2032リチウム電池(通常使用で50000時間)
防水性能 IPX-8(10mの水中に30分)
価格(購入価格) 500ドル(2017年62000円で購入)

拳銃と小銃だけのSIG SAUERじゃない

※今回は通常よりも余計な前置きが長い。ROMEO 4Mのレビューだけを見たい人は「色男という名の光学照準器」というトピックまで飛ばしてくれたし。

SIG SAUER(シグサワー)と聞くと何を連想するだろうか?このメーカーを知っている者ならば、P226やSG550と言った名銃の数々を生み出した会社という認識が強いだろう。近年では、米軍がM9に変わる拳銃として紆余曲折あったものの、SIG SAUER社のP320が制式採用されたニュースが業界を駆け巡った。また、各地で高齢化しているHK社のMP5シリーズの後釜としてMPXというサブマシンガンや、MCXというライフルの販売をグイグイ勧めている点も目立つ。このようにSIG SAUER社は銃器メーカーとして高く評価されているが、近年では銃器に関連した光学機器メーカーとしてもジワジワと頭角を現しているのをご存知だろうか?


元々は他のメーカーのOEM品などを販売していたが、近年では自社光学機器を多数販売している。外見はどれもSFチックでシャープなデザインが多く、ボディカラーは軍用光学機器でよく見る黒ではなく、灰色を基本としている等、他社との差別化を図っている。ラインナップも幅広く、ダットサイト、スコープ、ライトやレーザー、単・双眼鏡から挙句の果てにサーマルサイトまで揃えており、商品名は全てフォネティックコードを名字にしているも印象的だ。ダットサイトはROMEOシリーズとして展開しており、以下の通りタイプ別に細分化されている。(2017年現在)

 

ROMEO 1:拳銃用のオープンダットサイト
ROMEO 3:ライフルやショットガンのようなロングガン向けのオープンダットサイト
○ROMEO 4:Aimpoint Microシリーズのようなコンパクトダットサイト。今回紹介する製品のシリーズ。
ROMEO 5:ROMEO 4シリーズよりも安価な入門用コンパクトダットサイト
ROMEO 6:フルサイズのダットサイト。AimpointだとCOMP M2やPROに該当する商品。
ROMEO 7:一般に広く普及している単三電池を使用したフルサイズモデル。Aimpoint M4やM5への対抗馬か?形も似ている。

 

はて、ROMEO 2はどこか時空の狭間に消えたのだろうか?

ちなみに、ダットサイトがROMEOに対して、ダットサイトに倍率を付与して遠距離戦にもある程度対応させるマグニファイヤーはJULIETTEという名称を用いている。何ともロマンチックな話じゃないか。

ROMEO 4シリーズ


今回紹介するのは、ダットサイト業界でも人気代表格であるAimpoint社のMicro T1T2への対抗馬として強く意識しているであろうROMEO 4シリーズの内、より軍用や警察と言った過酷な環境での使用を考慮したプロ向けのモデルであるROMEO 4Mを紹介したい。このモデルは、アメリカ合衆国連邦捜査局:FBIで採用されたことで、話題になったモデルである。

ちなみにROMEO 4シリーズは廃盤になった物も含めると多数のラインナップがゴチャゴチャと散在しているので、以下にザっと特色をまとめてみた。形もほとんど同じで、メーカー公式ページもあまり詳しく表記していないのでわかりにくいのだ…

ROMEO 4A ROMEO 4B ROMEO 4C ROMEO 4M ROMEO 4H ROMEO 4S ROMEO 4T
2MOAドットのみ
2MOA&65MOAサークルドット
1MOA or 2MOA & 65MOA BDC機能付きサークルドット
ソーラーパネル付き
IPX-8防水(他はIPX-7)
軍・警察向け高耐久性モデル
トレー式サイド電池ケース
トルクスネジ式マウント
QDマウント
QR(手締め式)マウント
Absolute Co-witnessマウント
Lower 1/3 Co-witnessマウント

2017年10月現在、ROMEO 4シリーズに「H」「S」「T」の3機種が加わってからは、それまでのモデルの販売は終了し、その他は流通在庫のみとなっている。特にROMEO 4Tは、ボディカラーがブラックになり、ハイマウントは手締め式のQRマウントとなっており、他とは違ってよりプロフェッショナル向けの製品となっている。私はROMEO 4Mを入手し、いろいろとレビューをしている最中に4Tが発表されたので少し出遅れてしまったようだ。これからは、ROMEO 4Mに変わり4Tがフラッグシップモデルとなるだろう。

色男という名の光学照準器

とは言え、ROMEO 4A~4Mが古い機種というわけではない。2015年~16年までの短期間で改良・新発売等がなされたシリーズである。ROMEO 4シリーズは特にAimpoint等の他社のラインナップを強く意識しているようで、商品ラインナップが実に目まぐるしく入れ替わっている。さて、長ったるくて何の役に立つのかわからない前置きはこの辺にして、FBIに採用されたROMEO 4Mのレビューといこう。


ROMEO 4Mのボディ。ROMEO 4シリーズはブラックカラーの4T以外、全種類を通して外見上の違いはあまりない。電池ケースがCDデッキのようにサイドトレイ式(B,C)、ソーラーパネル付き(C,S,T)くらいなもので、後はマウントの種類が少し違う程度だ。SIG SAUERのその他の光学機器同様、色はグレーという銃器用光学照準器としては少し珍しい色だ。個人的にはグレーでもよかったのだが後もう少しマットに仕上げて欲しいところ。


形状はAimpoint T-1に似ていると思いきや、こうやって横に並べて見比べるとROMEO 4の方がシャープな形状をしている。サイズと重量(マウント抜き)は

 

SIG SAUER ROMEO 4M:67×41×36mm / 91グラム

Aimpoint Micro T-1:62×49×41mm / 84グラム

Aimpoint Micro T-2:68×79×41mm / 94グラム

 

と言った感じだ。ローマウントの質は、実用上は問題ないが、Aimpoint T-1には少し劣る。あのような滑らかな取り付けやすさはあまり無い。お値段はAimpoint T-1よりも150~200ドルほど、T-2よりも200~250ドルほど安い。(2017年10月現在)


ROMEO 4シリーズの良い点の一つは、まずは何と言ってもオプションがあらかた揃っている点だ。フリップアップ式のレンズキャップハイマウントキルフラッシュまで付いている大盤振る舞いで、余計なものを買い足す必要が無い。


付属のハイマウント。高さは「Absolute Co-witness」で、標準的なAR-15用のアイアンサイトの照準中央がちょうどレンズの中央に来るような設計となっている。レール上部からレンズ中央までの高さは約33mm程度となる。ROMEO 4H以降は「Lower 1/3 Co-witness」で、レンズの下1/3くらいの高さにアイアンサイトが来る少し低めの設定になっている。


付属のハイマウント、ローマウントは共にAimpoint T-1やT-2と同じ規格なのでコロコロと流用が可能だ。こういう互換性がある点は好みにも合わせれて嬉しい。写真は、ROMEO 4MにT-1用のLarue社のLT660マウントを、T-1にROMEO 4Mのハイマウントを付けている。お互い長さが違う関係上、不格好になっているが、ネジ穴は合致するのでちゃんと使える。


キャップが下向きなのがデフォなフリップアップ式のレンズキャップ。Aimpoint T-2の付属品やバトラークリークのようにただハメ込むだけのタイプと違い、キャップを好きな向きに合わせたら、ネジがきってあるレンズフードを更に上から捩じ込んで装着するという変な手間がかかるキャップ。これがまたクセモノで、銃の反動でクルクルと緩んでくる。これはいけない。


取説。モノクロ印刷で、ROMEO 4シリーズ共通のものだ。



箱。斜めに開き、光学照準器にしては高級感のある箱でだ。少し高額なスマホや化粧品のパッケージのような質感がある。


エレベーション(照準の上下調整)とウィンテージ(照準の左右調整)の調整ネジはAimpoint T-2のように前後がボディでシールドされている。専用工具はもちろんだが、フタ上部の突起で調整できる点も同じ。T-1やT-2と違い、マイナスドライバーで調整できる点は良い。上下左右ともに1クリックで0.5MOA(100ヤード先で0.5インチ)動かすことができ、総調節量は+/- 50MOA動かすことができる。できるのだが、試した感じだと1クリック0.5MOAとは思えないほど多めに動いている感じがする。詳しくは後述するが、そのためにゼロインで少々困惑することになる。また、クリック感がなんだか不明瞭なことも多々あった。こういう細かい点がAimpointと比べて気になるし、若干のストレスを感じる。

ウィンテージ調整ネジの前にある大きな丸いフタは電池ケースとなっている。電池は毎度お馴染みダットサイトのエサであるCR2032コイン電池。T-1やT-2と違い、光量調整ダイヤルを兼ねていないので、ロープロファイルな設計となっている。


電源や光量調節ボタン類は上面にある。シリコンラバーで覆われた電子スイッチで、「+」と「-」の2つのボタンで操作する。片方のボタン長押しでオンとオフ、両ボタン長押しでレティクルを切換えれる。このラバータイプのボタン式は、金属のダイヤルで操作するタイプのものと比べて、鋭利なもので損傷しやすいという欠点があるので好みは分かれるだろう。上面にソーラーパネルを搭載しているROMEO 4C、S、Tはボタン類は側面に移されている。

ROMEOシリーズには、MOTAC(Motion Activated Illumination)システムというモーションセンサーが組み込まれており、120秒間ドットサイトが微動だにしなかった場合は自動的にダットが消えて動かすとまた即座に点灯する。ちょこんと指でつついただけで点灯するので、とっさの時に付いていない!という事態は無い。一応この状態でAimpoint Micro Tシリーズと同じく50000時間(約5年)の電池寿命を持つが、通常使用とだけあるので、どのレベルの光量で50000時間持続するのかは不明。


対物レンズ部。ミリタリーグレードのノッチフィルターコーティングがされている。ノッチフィルターは特定の波長をカットするレンズフィルターで、生死の駆け引きをする射手に妨げとなる情報を除去してくれる。レンズは電池ケース方向に傾いて設置されている。

日本産?中国産?ホロサン??


このダットサイトに関しては、一昔前にどこで製造されたものなのかということで海外フォーラムで議論になった。SIG SAUERは、実銃用の低価格帯の光学照準器を製造・販売しているHOLOSUN社のOEM品を販売していた。今回のROMEO 4Mも、その構造やシステムが似ていることからHOLOSUN社のHS503等のダットサイトを流用したものではないかとの指摘があった。後に同社はそれを否定し、違うラインで製造していると発表した。また、製造国に関しては確たる情報が無い。光学照準器を多く取扱う専門業者である、OPTICS TRADEは日本製であると表記しているが、これが確たる証拠とは言いづらい。唯一手がかりとなるのは、本体のマウントを取り外した底面に書いてある、「これはオレゴン州のSIG SAUERでデザインされ、アメリカ国内で組み上げたものだよ」との表記だけだ。ここからはあくまで私の推測だが、OPTICS TRADEの言うことが本当ならば、一部の部品が日本製で、あとはいろんな国で作られた部品をアメリカ国内で組み上げて完成させているものだと考える。ちなみに、ROMEO 4Mと4T等のプロ向けの機種以外は中国国内で組み上げているようだ。(ROMEO 4B等はASSEMBLED IN CHINAと表記されているのが確認されている)

まぁ、私としてはシーランド公国だろうがロミュラン星で作られていようが、信頼性があって要求スペックを満たすものであればどうでもいい話だ。

ホロサイトのレティクルとエイムポイント マイクロのコンパクトさを両立した照準器

さて、ここらでそろそろダットサイトを覗いてみよう。ROMEO 4Mは、ホロサイトのように素早く照準できる65MOAの大きさのサークルレティクルと、Aimpoint T-1やT-2と同じ2MOAの精密射撃に適したドットの2つを切換えることができる。状況や好みに合わせれるこのシステムは素晴らしい。


※画像クリックで拡大可

今回も例によって50m先にACU迷彩の上着を吊り下げて照準してみた。65MOA+2MOAのサークルドットは実に狙いやすい。50mの距離だと、胴体部への大まかな狙いが付けられる。ダットの鮮明さは、比較対象であるT-1とあまり差はない。レンズの透明度は、やはり値段が高いだけあってT-1の方が上だ。とは言え、SIG ROMEO4もかなり鮮明なレンズであることに違いはない。このレンズのクオリティーはROMEO 4Tでも大差ないようだ。体感的にはTrijicon MROよりは2段階ほど上のクリアなレンズであると思う。ドットの照射部はROMEO 4は9時方向にあり、T-1は4時方向にある。ROMEO 4の方がほんの気持ち出っ張っている。写真では65MOAのサークルドットの上下のクロスヘアが何故か1時と7時方向にズレているように見えるが、肉眼では特に問題無い。

ちなみに、現在販売されているROMEO 4H以降は、前述した2つのレティクルに加え、BDC(Bullet Drop compensators:距離による弾道落下点の目印)機能をプラスして、5.56弾での長距離戦闘を考慮している。また、バリエーションとして2MOAだけでなく、1MOAと、ダットサイトとしてはかなり微細なドットを搭載したバリエーションも展開している。小さなダットサイトにサークルドット+BDC機能まで付けるとどうにもゴチャゴチャとしたレティクルになってしまうが、レティクルパターンの組み合わせと切換えできるので、様々な好みの人間が各々の好みのレティクルを選べる自由は良い点だ。

光量に関しては、T-1やT-2のように燃えるように明るい最大光量を叩き出せる程ではないが、直射日光の元でも必要十分に使えるレベルではある。ただ、最低光量が明るすぎる。一応NV(暗視装置)対応とはあるが、どれだけ光量を下げても日中の少し暗い室内でも頑張れば視認でき、夜間だとあともう2~3段階は光量を下げて欲しいくらいの明るさだ。この点は良くない。


ROMEO 4Mは、キルフラッシュが同梱されている。ただ、キルフラッシュを装着した状態だと、前方部のレンズカバーは装着できなくなる。キルフラッシュは、レンズを守り反射を低減させることができるが、どうしても視界の妨げには多少なる。


写真ではレンズが少し暗くなってる程度に見えるが、実際はキルフラッシュの網目がもう少しだけ見える。

キルフラッシュを装着する際は、極力ダットサイトを目に近い位置に設置すると、遠くを見た際にピントがキルフラッシュではなく、よりターゲットへとフォーカスが合って気にならなくなる。


ROMEO 4Mは様々な銃器へ活用できるダットサイトだ。小銃だけでなく、コンパクトカービンやSMGに装着してしても良い。ロープロファイルで邪魔にならず、近距離や都市型戦闘でも良い活躍が期待できる。


65MOAの大きなサークルドットはショットガンにも合う。試しに手持ちのベネリM4でクレーのトラップ射撃を行ったが、右へ左へ素早く飛んで行くクレーにサッと照準を合わせることができて大変撃ちやすかった。ちょっと癖になるほどだ。

不可解なズレ

さて、ここまでまずまずの評価をしてきたが、強力な12番ゲージスラッグ弾を撃った際に大きな問題が出てきた。

まずは、前述したようにウインテージとエレベーションの調整ネジのクリック感が不明瞭になることがある。クチクチクチ…って行ってたのが、クチクチクチクニュ…?ん?となることがある。そして、移動量は1クリックで0.5MOAとあるが、どう考えてもその1.5倍程度動いているフシがあり、ゼロイン調整で行き過ぎたりして弾を浪費してしまった。

そして決定打は弾着だ。どうにも集中しないのだ。アキュラシー(ターゲットに近いか否か)はまぁまぁ良いのだが、プレシジョン(どれだけまとまっているか)が安定しない。私は射撃がウマくないし、強力なスラッグ弾を撃っていると、だんだん疲労も溜まって命中率も悪くなってくるものだ。しかし、コレはいくらなんでも不可解なほどに着弾がズレる。


上画像は50mの距離で、直径約20cmの円形ターゲットをROMEO 4Mで狙ったものだ。使用銃はベネリM2、使用弾薬は日邦工業が製造しているレミントン12番ゲージライフルスラッグ弾で、砂袋に銃を置いて安定させた状態での依託射撃だ。何回か的を変えて試験をしたが、この的が1番マシな状態であり、他は右往左往と時には明後日の方向へともっと散らばっていた。

いやいや、私の腕の悪さや疲労・銃身の熱・弾が悪い個体だった…等の原因もある。そして、それを裏付けるために35発以上を発射して、右肩から苦情が出てきた状態で、照準器をAimpoint T-1に切換えてゼロインの再調整もせずに撃った状態が下の画像だ。


コンディションは今回の実射試験で最悪のハズだが、どう考えてもこちらの方がまとまっている。これは一体どういうことか。ROMEO 4Mは12番ゲージショットガンのような強力なリコイルを叩き出す銃器の使用は想定されていなかったのか?それとも、たまたま私のROMEO 4Mの個体がハズれだったのか?・・・当然、たかがこれだけの検証で慌てて結論に飛びつきたくはないが、どうにも不信感を抱いてしまう結果に終わってしまった。コンパクトダットサイトの王道を行く、Aimpoint Tシリーズとは違うユニークな個性を持ったポテンシャルの高いダットサイトだけに残念だ。