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ジャンル:デジタルカメラ、コンデジ(コンパクトデジタルカメラ)

富士フィルムの所有欲が満たせる単焦点ハイエンドコンデジの4代目。

執筆時期:2019年1月

SPECS │ 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) 富士フィルム(日本)
サイズ(幅×高さ×奥行き) 12.6×7.4×5.2cm
重量(バッテリー&カード含む) 469グラム
撮影素子 APS-C X-Trans CMOS Ⅲセンサー(原色フィルター採用・2430万画素)
レンズ焦点距離 35mm換算 35mm単焦点
F値(開放) F2.0
レンズ構成 6群8枚

手に持つ楽しみ・写す喜び


富士フィルムがX100を初めて世に出した時、なんて素晴らしいカメラだと感動をしたと同時に、富士フィルムのこれからの方向性とカメラ屋としての生存戦略を見ることができた。クールでレトロな外観に、最新のシステムをブチ込んだこのカメラは、時に現代版「貧者のライカ」と言われながらも、その姿をほとんど変えずに早四代目となった。(とは言え値段は10万円前後するんだが)

私はこのカメラの素晴らしいデザインに惹かれたものの、35mm単焦点という割り切った通好みの味付けに躊躇していた。私は基本的には28mmのレンズを好み、普段の持ち歩きカメラはズームレンズの便利さがわかっていたので、どうしても購入には至らなかった。だが、このカメラが放つ魅力は抗いがたいものがある。とうとう4代目の発表に我慢できずに購入に至ってしまった。


まずはこのデザインを見ていただきたい。初代X100からその姿はほぼ変わっていない。まさしく初代から完成されたクラシックスタイルのカメラだ。

同社X10と同じくアルミ製のレンズカバーがカッコよい。金属の肌触りも良い。

とは言えただはめ込むだけで無くしやすいので両者とも私は普段は使ってない。


レンズは単焦点35mm F2(35mm換算)だ。このレンズも初代からほとんど変わっていない。解放では優しめのボケ味や写りとなり、絞ると全体的にピシッとした写りになる。

解像力はF5.6くらいでピークになるとか。

センサーは4代目の本機になり、同社のフラッグシップモデルであるX-Pro2と同じく、APS-Cサイズの X-Trance CMOS Ⅲ(2430万画素)へと変更した。私のような素人にはその違いがほとんどわからないが。

人によってはセンサーは前作の方がよかっただの、レンズはそろそろ新しくしろよという意見もある。

細かいことだが、左側のバッテリーとカードスロットのフタのロック機構の感触はニュルッっとした感覚であまりよくない。X-10のようなカチッとした良い感触ではなかった。


このカメラの地味に良いポイントが二つある。1つ目は、リーフシャッターを採用している点だ。リーフシャッターはメカニカルシャッターの一つで、フォーカルプレーンシャッターと違ってレンズ内にシャッター羽根があり、大変静かなシャッター音が特徴だ。これにより、様々なシーンでの空間を乱さない撮影が可能だ。

音は静かだが、いざカメラらしいシャッター音を求める場合はこのカメラは苦手だ。合成された電子的なシャッター音しか選べない。

2つ目は、NDフィルターを搭載している点だ。普通のカメラでは、レンズ前部にNDフィルターをくっつけないといけないが、X100Fは設定により、光量が1/8になる絞り値3段分のNDフィルターを起動でき、白飛びすることなくスローシャッターを切れる。手間や荷物が減るのは素晴らしいことだ。一段上の撮影テクニックに挑んでやろうというハードルも低くなる。


レンズ鏡筒奥側の印字されている数字とダイヤルは絞り調節ダイヤル。ロープロファイルなパンケーキレンズが故、若干操作し辛いがカチカチとF値をイジる楽しみは何ものにも代えがたい気持ちよさがある。

とにかくX100シリーズは、その見た目だけでなく操作する楽しみがある。レトロでたくさんのダイヤルやレバー類は男の子なら無性にいじりたくなってくるものだ。

レンズ横にあるフィルム巻き戻しレバー(もしくはセルフタイマー)を模したものは、後述するファインダーの切り替えレバーとなっている。また、中央のボタンはレバーも含めて設定でファンクションボタンとして好きに設定が可能だ。昔の名残を残しつつも、ただのダミーではなく別の機能性として活用してくれているのは嬉しい。

その他至る場所にファンクションボタンやダイヤル等があるが、デザインを損なうことなく配置しているのは感心する。

ホットシューの横のダイヤルは普通に回すとシャッタースピードダイヤルで、引っ張って回すとISOダイヤルとなる。個人的にはISOダイヤルのギミックは回しにくいし、塵の混入等にもなるのでいらなかったが。

各種ダイヤルのクリック感は気持ち良い。こういうのは見た目だけでなく手に伝わってくる感触やテンションも大切だ。


裏面。液晶はチルトではなく、タッチ機能も無い。タッチはいらないにしても、チルト機能は欲しい気もする。

一見ダイヤルもいろいろあって、なんだかプロ向けのわかりにくい操作方法を想像するかもしれないが、各種ダイヤルを全てA(オート)の位置に設定すると、全てカメラまかせにできる。自分がこだわりたい部分だけ手動ダイヤルで操作もできる。

シャッターボタンは、電源スイッチも兼ねている。前面部の突起を時計回りに回したら電源オンだ。起動時間は0.5秒で、最短0.08秒のAFなのでシャッターチャンスは逃さない。暗いところだと、さすがにソニーのデジカメと比べると少々AFに迷いが生じることもあるが、実用上不便に感じることはない。

シャッターボタンにはレリーズスイッチの穴があるので、自分好みのレリーズボタンを付けてオシャレすることも可能だ。


サイズは12.6×7.4×5.2cm となっている。ポケットに入れれるような大きさではないが、バッグ等に入れる分には毎日の携帯も苦にならない大きさだ。

個人的にはX10のようにあと一回り小さくなってくれたほうが、デザイン的により好きになれる大きさではある。


先代のX10、そして本機X100Fの後任であるX-T20との比較。幅が一番長いのはX100Fだ。

仕事用にはキャノンのフルサイズセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラ(EOS 6D)を愛用しているが、EDCカメラ(Every Day Carry:毎日の持運ぶモノ)には富士フィルム製を愛用している。レトロでクールでかわいいデザインが楽しいからだ。

なぜX100Fを買ったのにもう後任がいるのかに関しては後ほど後述する…


前作のX100Tからあるが、X100Fの面白い機能として、摩訶不思議なアドバンスト・ハイブリッドビューファインダーがある。これはOVF(物理的なレンズを覗く光学ファインダー)とEVF(電子ビューファインダー)の二つを同時にも使用できる非常にユニークなファインダーだ。

破壊工作を目論むゲリラ分隊を捉えたので見て欲しい。写真左はOVFモードだ。物理的なレンズで覗いた映像なので、目で見たまんまの被写体が見れる。クラシックスタイルのカメラを好む人はこちらの方が好きな人も多いだろう。ちなみに、カメラのレンズとOVFのレンズとのパララックス(視差)に関しては、シャッターボタン半押しで実際に写るエリアが枠線で表示されるので、便利だ。

ただ、OVFでは様々なフィルム効果等を含めた写真の写り具合まではわからない。そこで右のEVFモードだ。これだと、どのように写るかもわかりやすいし、水準器等の表示も増やせる。


だが、EVFだとやはりリアルタイムの画像では無いし、被写体によっては見にくい場合も多い。そこで考えたのが、OVFの端っこにEVFを写して両立を図ろうというシステムだ。これがアドバンスト・ハイブリッドビューファインダーである。

隅っこに写っているEVFは若干透過して写っている。このモードの時は、ファインダーを前方から見ればわかるが、小さなディスプレイがシュコっとOVFの前面に飛び出てくる。まるで自動車の折りたたみ式のHUDのような感じで面白い。

ただ、このモードにしろ、通常のEVFモードにしろ、どうしてもEVFだけに特化した設計ではないので、EVFとしての画質はそこまで良いわけではなく、器用貧乏感は否めない。ギミックとしては面白いが。

このモードでのEVFは、拡大表示機能としても使える。ディスプレイが小さないのであまり見やすくは無いが。


X100シリーズはそのレトロクールなデザインから、アジアや欧米圏ではファッションアイテムとしても定評がある。プロカメラマンも、モデルが大きなレンズやカメラに萎縮しないという利点も評価している。

姿形があまり変わらない4代続くシリーズということもあり、サードパーティのオプション品も多い。このようにいろいろと着飾ってよりかわいくすることも可能だ。

X100シリーズは、そのままだとレンズに各種フィルターが取り付けれない。数社から出ている専用のアダプターリングを介さないとだめなので、どうしてもフィルターを取り付ける際には厚みが出てしまう。私はレンズにレンズプロテクターを付けないと気がすまない派なので、最初は厚みが出ると懸念したが、薄いパンケーキレンズにちょどよい厚みができたので、上の写真のように見栄えや操作性は向上したと感じた。

上の写真では、純正品のAR-X100 アダプターリングに、Kenko 49mm レンズフィルター PRO1Dを装着している。

心象風景をも再現してくれる多彩なフィルムシミュレーション

※以降の写真はすべてX100Fで撮影し、リサイズや一部トリミング以外の一切手を加えていないJPEG撮って出しです。

※個人や個体識別が特定できるものは塗りつぶしております。


富士フィルム製デジタルカメラを購入する者は、そのデザインの他にも性格豊かな「フィルムシュミレーション」に惹かれて手にする者も多い。これは、かつて富士フィルムが出していた多種多様のフィルムの味を再現したものだ。様々な性格のフィルムシュミレーションが、10種類近く搭載されており、エモーショナルでドラマ性あふれる写真を出してくれる。もちろん、似たような機能はどのカメラメーカーの製品にもある。だが、富士フィルムのフィルムシュミレーションは、なかなかに絶妙な味付けの調整がされており、慣れてくればレタッチ作業なしで、自分が求める写真を一発で出してくれる。故にRAWで撮影し、後でフォトショップ等でレタッチを行いたくない、JPEG撮って出し派からの支持が高い。特にこのX100Fは、人気の高いクラシッククロームに加え、高画質でなめらかな階調が特徴の白黒フィルム「ACROS(アクロス)」が加わった。それらを紹介していこう。

Velvia | ビビッド


Velvia(ベルビア)は、そのモノが発する色を強調したフィルムシュミレーションだ。鮮やかでクリッとした色彩表現は素晴らしい。風景や植物、ポップな建物の撮影に向いている。


少しイヤらしいと感じる人もいると思うが、私はこのベルビアのカラーをさらに設定で強くしている。すると、心が補正・捉えた美しい色まで再現してくれる。インスタ映えにもなるだろう。


富士フィルム製Xシリーズの素晴らしい点は、カラーやシャドートーン、グレインエフェクトなど、より細かな設定をイジれることにある。これにより、自分の写したい写真をより探求することができる。


また、それらの自分好みに味付けした「レシピ」を、いつくも保存してすぐに呼び出せることにも大きな魅力がある。プロカメラマンである内田ユキオ氏を始め、多くの富士フィルムユーザーの「レシピ」を共有して味見することだってできる。

これらのプロ・アマの設定やレシピに関してはネット上に多く公開されているので、ぜひとも試してほしい。



クラシッククローム


近年、このフィルムシミュレーションを目当てに富士フィルム製デジタルカメラを購入するユーザーが多いほどの人気の「クラシッククローム」。全体的に彩度を抑え、階調を高めに、そしてまるでドキュメンタリーや、70~80年代の香りを醸し出してくれるような、落ち着いたクールな写真を作ってくれる。


特に金属や木の表現は素晴らしい。その写真を眺めているだけで、込められた物語を想像したり、中に吸い込まれそうな印象を与えてくれる。



海外帰りの汚い部屋の扇風機をふと写しただけでこのクールさだ。実にエモい写真を作ってくれる






ACROS


フジフィルムが、モノクロ写真を愛するユーザー達の意見を取り入れて新たに作ったフィルムシミュレーション「ACROS(アクロス)」。今までのモノクロフィルムシミュレーションであったB&Wは、あくまで標準カラーであるPROVIAをモノクロフィルム風に味付けしたもに対し、アクロスはかつて同社から販売されていたモノクロフィルム「ネオパン 100 ACROS」のキリッとした高いシャープネスとシャドーを持ちつつ、グレインエフェクトをかけなくても、なめらかで繊細な粒状感が出る。しかも写真全体に均一に散りばめられるグレインエフェクトと違い、ACROSではハイライト部等にはグレインエフェクトをかけず、よりモノクロフィルムに近い写真ができあがる。


高精細で美しい白黒の世界の中に、どことなく懐かしくて人間味を感じることができるフィルムシミュレーションだ。このACROSはプロ・アマを問わず大変好評で、私のようなモノクロ写真に興味を持たなかった人間ですら、メッセージ性の高いモノクロ写真を手軽に描くことができる。フジフィルムはこういう満足感や感動を与えてくれるメーカーだ。




余計な色を排したからこそ、見えてくる物語を写し出してくれるモノクロフィルム。ACROSはそれをより昇華させた素晴らしい表現者である。

デジタルテレコンバーター


↑通常の35mmの画角。

一眼レフカメラと違い、コンデジは状況や好みに応じてレンズを変えることはできない。特に、X100Fのようにズームのできない単焦点レンズの場合はより割り切った使い方が求められる。X100シリーズは、オプションで高性能なテレコンバージョンワイドコンバージョンレンズがあるが、やはりズームレンズと違い、取り出し付ける手間というものがある。そんな人のために、デジタルテレコンバーター機能を搭載している。

これを使うと、通常だと35mmの画角のみでの撮影が、50mm、75mmの焦点距離に相当する画角で撮影可能となる(35mm換算)。もちろん、光学ズームではなくあくまでデジタルズームの類なので、画素数が上がるわけでもないが、ただトリミングしてるわけではない。カメラ内で画質や劣化部分の補正をしているので、ちゃんとしたズームレンズには負けるものの、思ったよりは常用もできる写真になる。


↑50mm相当

デジタルテレコンバーターは、レンズ先端のリングを回して画角を変えれる。ズームレンズのような扱いでやりやすい。


↑75mm相当

暗かったり、動きのある被写体だとアラが目立ちやすいので、限界と癖を知っておくと意外な場面で使える機能だ。

Gallery | その他機能・まとめ


高感度性能も良い。F2の明るいレンズと合わさって、ISOも3200なら余裕だ。









ただ、手ぶれ補正が付いていないので、しっかりとした構えは付けておこう。



焦点距離28mmスタートではあるが、X100シリーズの対抗機種としてリコーのGRがよく挙げられる。次期GRであるGRⅢは、手ぶれ補正等が搭載されるとのことで、このX100に関しても次回作へのハードルは上がっている。


ルックスは最高なんだが、この憧れのX100Fは残念ながら1ヶ月ちょっとでドナドナとなってしまった。私は昔から焦点距離28mmスタートで慣れていたので、どうしても35mmの焦点距離は扱いきれなかった。また、普段のお出かけカメラとしては、やはりズームレンズを搭載した機種の方が良い。今は暫定的に同社のX-T20を所持しているが、またいつの日か素晴らしいコンデジが出ないかと待っている。