REVIEW >> GOOD LIFE GOODS| その他人生の香辛料

ジャンル:デジタルカメラ、コンデジ(コンパクトデジタルカメラ)

富士フィルムのXシリーズ黎明期、今は無きコンパクトなズームデジカメがあった。長年に渡り、私のEDCカメラとしての任に就き、この度退役することとなったX10を振り返る。

執筆時期:2018年10月

SPECS │ 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) 富士フィルム(日本)
サイズ(幅×高さ×奥行き) 11.7×6.9×5.7cm
重量(バッテリー&カード含む) 350グラム
撮影素子 2/3型 EXR CMOSセンサー(原色フィルター採用)
レンズ焦点距離 35mm換算 28~112mm相当
F値(開放) F2.0~F2.8
レンズ構成 9群11枚

コンパクトで実用性&デザインも良いクラシックスタイルカメラ

このカメラは、私にとってはじめてのEDCカメラ(Every Day Carry:いつも持ち歩く物)だった。それまで、カメラは記録用としてネオ一眼を好き好んで使っていた。ネオ一眼は、一眼レフのような形状をしたデジタルカメラのことを指し、広範囲から遠距離まで幅広く撮影可能なズームレンズを搭載したものが多い。言い方は悪いが、器用貧乏の代名詞のようなカメラであり、しかも私はどこでも電池が手に入れることが可能な乾電池で駆動するタイプに変に固執していた。確か初めてのデジカメは機種名は忘れたが富士フィルムのネオ一眼だった。こいつは、水族館で子供が放ったストロボを喰らい、画面が真っ白になってご臨終であった。その次は、いろいろと調べた挙げ句オリンパスのSP565UZを入手した。小さくてよくズームできる素晴らしい機種だったが、いまいちUIに慣れなかった。結局、富士フィルムに戻りHS10を購入した。24~720mmまで撮れるこの機種は、私にとってまるで無敵のような存在だった。美しい風景から、天高く輝く月まで何でもこれで撮影したものだ。富士フィルム独特の色の出し方も好きだった。


そんな中、年々カメラ性能が良くなるスマホの台頭を鑑みて富士フィルムがプレミアムカメラ路線を走り出した。これが今でも続くXシリーズであった。このXシリーズのデザインはレトロデザインのカメラを中心にしており、素晴らしいデザインのカメラが多い。ただの美しい写真を写す機械と化していたデジタルカメラを、ファッションやアクセサリーの一部にすらなるアイテムとして昇華させたシリーズだ。このXシリーズの第一発目は、X100というカメラだった。私にとって、このカメラのデザインはパーフェクトに近いものだったが、35mm単焦点レンズでズーム機ではないので、あまりにも割り切った玄人向けだ。残念に思っていると、第二弾がこのX10という素晴らしいカメラだった。


私の手の中にすっぽりと収まるほどの大きさで、レンジファインダースタイルのレトロ風デジカメだ。X100には及ばないものの、こちらも良いデザインで一目惚れしてしまった。ただ、懸念材料が2つあった。

一つは、乾電池駆動ではなくリチウムイオンバッテリー駆動になることだ。今思えば実にバカげている理由だが、当時私はやけに乾電池式に固執していた。もう一つは、今まで使ってたネオ一眼と違い、望遠域が35mm換算で28mm~112mm程度だということだ。これに関しても、まだF値だのISOだのというカメラ知識がまるで無く、画素数だの望遠がどれだけできるだのという素人が飛びつきやすい数値ばかり見ていた証拠だ。数日悩んだ末、結局持ってて楽しい、見てて楽しいデザインの良さを選んだ。

サイズは11.7×6.9×5.7cm。この大きさは普段持ち歩き、カバンの中に入れておくカメラとしては絶妙だ。もちろん、手で持つには少し小さい部類だし、グリップがボコンとせり出しているわけではないので、持ちにくさはある。だが、この手の携行用の物は銃と同じで、使う時よりも携行している時の方が多いものだ。この大きさだと、カバンをそこまで専有しないので助かる。X100だと少し大きいのだ。

また、この大きさでこのデザインというのも、クールなだけでなく、絶妙なかわいさも出ている。カワイイというのはカッコイイ・オシャレというものと同等に大事なことだ。


X100(写真は4代目のX100F)との比較。X100より一回り小さなズームコンデジだ。


実写の話に移る前に、このカメラの外観を舐め回していこう。上面には、モードダイヤルと露出ダイヤルの2つのダイヤルがある。すべてアルミ削り出しで、質感だけでなく、操作時のクリック感まで気持ちいい。これは非常に大事なことだ。人間が触れて感じる以上、道具における触感や操作感をおざなりにしてはいけない。このカメラは、裏面にある電池蓋の開閉スイッチのクリック感まで気持ちいいのだ。富士フィルムの、ただレトロ感を模しただけではない、並々ならぬこだわりを感じる。

このカメラはズーム連動式のOVF(Optical View Finder:光学式ファインダー)を備えているが、そこにAF表示を含めて何も表示はされない。実写とのズレもあるので、あまり実用的とは言えない。基本的には液晶モニターを見ながらの撮影となる。後継機のX20以降は表示がされるようになっているので、そちらがオススメだ。

また、富士フィルムXシリーズのカメラのほとんどに、レリーズ式のシャッターボタンが備わっている。これにより、サードパーティ製のオシャレなレリーズボタンを捩じ込むといったこともできる。カメラをより「自分だけのモノ」にできる喜びを得ることができる。


レンズは沈胴式で、電源オフ時はコンパクトかつ美しい外観のまま置いておける。ずっと眺めていたくなるカメラはこれが初めてだ。

センサーサイズは2/3型センサー。5年以上前だと、このセンサーサイズは今回のX10のようなハイエンドコンパクトデジタルカメラに搭載されており、優位性を保っていたが、今や年々進化を続けるスマートフォンのカメラと比べると、どうしても差は少なくなってしまう。

とは言え、カメラの写りはセンサーサイズだけではない。高性能なレンズと相まって、まだまだこのX10や後継機のX20でも十分美しい写真が撮れ、スマートフォンからワンランクアップしたいユーザーにはオススメできる機種である。中古価格は安く買えれば1万円代で入手することも可能だ。


カメラのレンズをクイッと回すと、レンズが出てきて電源が入る。デジカメの電源によるある、レバーやボタン式ではなく、両手で操作をしなくてはならないが、金属製の重厚な鏡筒の感触と相まって、この一手間が非常に気持ちいいのだ。これから写真を撮るという行為をするのだという気持ちの切り替えになる。

レンズの焦点距離は、広角28mm~望遠112mmまでのズームレンズだ。高倍率ズームがウリのネオ一眼からの移行であった私には、少し物足りなさはあったが、後述する富士フィルム独特の画作りの前ではそんな些細なことはどうでもよくなった。

F値に関しては、F2からスタートで、最望遠でもF2.8という素晴らしい性能だ。このおかげで、富士フィルムお得意の高感度性能と合わさって、夜間や暗所でも素晴らしい写真を撮ることができる。

発色が良く、物語を与えてくれる写真

※以降の写真はすべてX10で撮影し、リサイズ以外の一切手を加えていないJPEG撮って出しです。

仕事でこそ、私はキャノンのフルサイズ一眼レフカメラを使用しているが、普段の持ち歩き用や旅行用カメラは断然富士フィルム製を選ぶ傾向にある。


前述した通り、ファッションアイテムにもなるクールなデザイン製もあるが、面倒くさがり屋の私としては、一発でキレイなJPEGを出してくれる富士フィルム製品との相性がいいのだ。


行く先々で感じたことを写真に写すという行為。この行為を、後でAdobeのLightroomやPhotoshop等を使用していろいろと手を加えるレタッチ作業だの現像だのということは、後出しジャンケンみたいで嫌だし、何より面倒なのだ。こんな、ひねくれたJpeg一発出し派のカメラユーザーのための受け皿がまさしく富士フィルムなのだ。


その欲望を手助けしてくれるのが、富士フィルム製カメラに搭載されている「フィルムシュミレーション」という機能だ。この機能は、かつて富士フィルムが出していた多種多様のフィルムの味を再現したものだ。様々な性格のフィルムシュミレーションが、10種類近く搭載されており、エモーショナルでドラマ性あふれる写真を出してくれる。もちろん、似たような機能はどのカメラメーカーの製品にもある。だが、富士フィルムのフィルムシュミレーションは、なかなかに絶妙な味付けの調整がされており、慣れてくればレタッチ作業なしで、自分が求める写真を一発で出してくれる。

 

 

 


 


日常のふとした時に垣間見えるドラマを、このカメラは見事に写し、描いてくれる。


APS-Cや、フルサイズ機と比べるとセンサーサイズは小さいので、見事なボケは出にくいものの、ある程度はこのようにF値でカバーできる。


スーパーマクロモードを活用すれば、最短1cmまで寄ることができる。故にこのカメラにできないことは意外と少なく、旅先でもこれ一台で特に困ることはない。










なぜ、今になってこんな7年近く前のデジカメのレビューをしだしたのかと言うと、現時点で富士フィルムはズームレンズを搭載したコンデジを出していないからだ。このX10シリーズも、X30までは続いたが、スマートフォンの台頭やデジカメ業界の変化もあり、今では単焦点レンズのX100とその廉価版(XF10)しか出ていない。(2018年10月)代わりに、レンズ交換式のミラーレス一眼レフカメラで、その需要をも埋めているといった感じだ。私は現在、同社のミラーレスカメラである、X-T20を普段の持ち歩きカメラとして使っているが、X10のような完成されたまとまり感は感じない。熟考を重ねたものの、他社製品を含めて私が求めるEDCカメラが無いのだ。ただのひねくれ者のわがままではあるし、カメラ業界としては規模の小さな富士フィルムでは難しいかもしれないが、またX10のような完成度の高いコンパクトなデジタルカメラを見てみたいものだ。