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前編はこちら ↓ ↓

【レビュー】 InfiRay – Holo HL13 (前編)

Pros & Cons | 一長一短

※ここはあくまで、KUSEMONO TACTICALが想定する使い方、視点から見た一長一短です。

※一長一短をわかりやすく表記しているだけであり、項目の数や内容、順番による採点評価ではありません。

優れている点 精細で解像感の高い描写能力
  Eotech EXPS程度のサイズ
  利便性の良いカラーパレット群
  照準器として使用でき、20万円前後で購入できる高いコストパフォーマンス
改善を要する点 電源操作に癖や個体差がある
  ゼロイン調整幅が1クリック6.54cm / 50mと大きすぎる
  モニター輝度の最高輝度をもう少し明るく、そして最低輝度をさらに暗く設定してほしい

さて、ここからは近距離~遠距離における描写能力や、各種訓練や実銃射撃での評価を行いたい。

下記動画を参照しながらレビューしていくので、合わせてご覧いただければと。

平地 | 10~400メートルテスト

外気温32℃、平原にて10~400メートルの各距離で撮影してみた。画像があまり鮮明でないのは、動画からのキャプチャなので勘弁願いたい。手持ちの機材での動画撮影だと、この美麗な有機ELディスプレイの美しさが撮影できない。(動画は1:40~




静止時に人間だと判別できるのは200メートル、動いている場合だと300メートルくらいが限界という感じだ。

400メートルだと動いていても目を凝らさないと分かりづらく、もはや幽霊のように今にも消えそうな点である。接眼レンズを通して見るタイプではなくモニター方式なので、夜間や気温がもう少し下がるとわかりやすいかもしれない。

とは言え、視野23.6°×20.7°の比較的広範囲を映すレンズなので、あまり遠距離を見る目的ではないのも確かだ。


同じく小型で、ヘルメットや手持ち式のサーマルカメラ「FLIR – PTQ136」の映像。こちらの視野は24°x19°。外気温は24℃だし、自前で動画や静止画保存ができる機種なのであまり比較にはならないが。

高台からの見下ろし|550メートル


条件は同じで高台に登り、550メートル先の人間を撮影。

空や背景に重なりにくいため、平地400メートルよりは見えやすいが、こちらも動いているとやっとわかるレベル。静止していると、人なのか熱せられた岩や地面なのか判別はつきにくい。

高台からの見下ろし|100メートル以上離れたウサギ


同じ高台から、118メートル先のウサギを見てみる。外気温は28℃。

動画は2:54~

草原の中にいたため、目視はもちろんのこと、レインボーを除く他のカラーパレットでも非常にわかりにくかった。こういう時は、細かな温度の違いを描写できるレインボーは必要なカラーパレットだ。

1倍率だと流し見していると見逃してしまいそうになるほどしか検知できないが、デジタルズームにより倍率を上げると、画像補正が働いてよりわかりやすくなっている。

見えにくい対象に対しての索敵能力

さて、ちょうど草むらにいるウサギの話をしたので、濃霧や草むらで見えにくいに対人索敵に関しての評価をしていこう。


まずは日中大雨が降った後、夜中に視界5~10メートル前後の濃霧となった状況下だ。外気温は26℃、こんな視界の悪い夜中に犬を連れ出している60メートル先のアホを見てくれ。

カラーパレットはブラックホット。雨を吸って冷えた地面なだけあり、濃霧にもかかわらず人間や犬だけでなく、リードまで炙り出しているのが見て取れる。


次は環境やターゲットは同じで、水平位置にて100メートル先に立ってもらった。

植木や雑草で犬はほぼ見えず、人間も下半身が少し消えてはいるが、十分に検知することは可能だ。

先程のブラックホットでは見えにくかったので、ターゲットハイライトモードに変更した。状況に応じてカラーパレットの変更は大事だ。

そう言えば、サーマルカメラの性能を表す一つの測定指標に、NETD (Noise Equivalent Temperature Difference:温度分解能)というものがある。わかりやすく言えば、どれだけ細かく温度の違いを嗅ぎ分けられるかであり、単位はmk(ミリケルビン)で表す。この数値が小さいほどより性能が高いものを表すのだが、このHL13は40mkである。大手FLIR社のPTQ-136やScout3 640で50mkだということを考えるとかなりの数値である。

ただ、このNETDの測定に関しては様々なメーカーが自分たちの方法で測定をしており、統一された規格の元で測定試験をしているわけではない。買い手としてはあまりこの数値にこだわりすぎるのは良くないだろうし、メーカー側は統一化すべきだ。


すまない、見にくいキャプチャ画像だな。

今度は対IR性能(赤外線の曝露を軽減する加工)がある迷彩服を着た状態で、25メートル先の茂みに隠れてもらった。(動画は3:31~

茂みはそこまで濃くは無いものの、目視だと目がよかったり、索敵能力の高い人で無いと発見は難しい状況。カラーパレットも、レインボーが一番わかりやすく、ターゲットハイライトやレッドホットだとさらに不鮮明であった。


隠れんぼの条件をさらに厳しくしよう。

今度は距離を4倍の100メートルに伸ばし、3重のお腹の高さくらいある非常に濃い草むらに身を隠してもらった。(遮光用のフードが風で煽られて周囲が露出してしまったのは申し訳ない)

動画は4:01~

静止されているとHL13であっても検出は困難で、草むらの中を膝行で移動してところどころ検出できていた状況だった。もちろん、目視での発見はほぼ不可能に近い。

実弾射撃・その他訓練での使用


実弾射撃に関しては、12番ゲージライフルスラッグ弾を9発ほど売ったが故障等は起きなかった。ただ、やはりゼロイン調整幅が大きいため、50メートルの距離であったとしても正確に照準の調整はできなかった。

また、5.56x45mm弾を使用するMINIMI軽機関銃で、120発ほどの射撃を防御訓練で行った。ただし、こちらは空包射撃だ。

この防御訓練にて、機関銃掩体でMINIMI軽機関銃にHL13をマウントさせて警戒監視をしていたところ(言い方を変えれば片手でコーヒーと焼鳥を堪能していた)、雨音に紛れて4人の斥候班が濡れ鼠になりながら藪こぎをしているのを発見した。距離はおよそ50メートルほどだろうか。この時のカラーパレットはレインボーであった。残念ながら彼らのキツい遠足はここで終了となり、私は優雅にコーヒーと焼鳥を堪能後、回収班に置いていかれた挙げ句に第2陣地まで徒歩で濡れ鼠となって移動する羽目になった。

命中判定がけっこうガバガバなレーザー訓練システムだったため、非常に雑なゼロインでも一掃できた。

この訓練は5日間行われ、その間2日は一日中雨が降っていた。HL13はIP67の防水性能があるため、当然この程度では何の問題もなかった。

前編でも言ったが、光が漏れやすいモニタータイプのサーマル照準器なので、特に夜間においては遮光等に気を配らないと、相手の暗視装置に見つかりやすくなる。せめてモニター輝度をもう少し下げれると良いのだが。

ただ、モニタータイプには利点もある。アイリリーフの短い接眼レンズを覗かなくて良いのでトンネルビジョンになりにくいし、近くの仲間に「おいちょっと見ろよこれ」と画面を見せて情報共有を容易にさせれる点は有利だ。単眼鏡タイプだと、こちらが見てほしいものを、サーマルを手渡した仲間に見せるのにもたつく場合がある。

Conclusion | 総評


InfiRay(iRay)は高性能な製品だけでなく、最新のトレンドや技術の投入を製品作りに対して精力的に行っている。携帯型サーマルカメラ製品だけでも、手持ちやスコープ、そしてスコープの先に取り付けるクリップオンタイプ、ヘルメット取り付け型、そしてダットサイトその他タイプとも融合させたハイブリッド型まで多岐にわたる。

さらに、この手の軽火器向けサーマル照準器では珍しい、なんと1280×1024の高解像度センサーを搭載したサーマルスコープまで出すのだから恐れ入るものだ。

今回レビューしたHoloシリーズも、センサーを一回り小さくして(256x192)より低価格にしたHP13や、ディスプレイを2.69インチまで拡大し、サーマルセンサーをより強化した(320×280→384×288)HL25という複数のラインナップがある。

HL25は視野は10.51°×7.89°と狭くなったが、対物レンズ径は25mmとより遠方に強くなり、動画や静止画保存機能も付与されている。

今回のHL13に関しては、ディスプレイの最低光量や電源のオンが少しうまくいかないことがあるものの、320x280のセンサーとは思えないほどの美麗な映像表現や機能性、そしてそれらをこの物価高な時代にも関わらず20万円台で販売している。これがFLIR等の他メーカーであったならば、価格は1.5倍~2倍以上になるのではなかろうか?

いや、わかるよ。こんなものをこんな価格で出されては、欧米メーカーは脅威に感じるかもしれない。一般の小売ですらそうだ。とある業務で様々なサーマル製品の勉強会や検証をしており、その一環で米国のガンショップ等にもリサーチのため巡っていた。共和党支持をしている愛国者のある店長は、年々このような装備品に対して、性能が良いのに価格の安い中国製品の台頭が気に食わず、規制や圧力をもっと強めるべきだと憤慨していた。現在、対中情勢が悪くなっている我が国においても、このように憤る人達は多い。だが、そのような文句や憤りを募らせている場合だろうか?むしろ、自分たちの立場が危うくなっている時だからこそ、自分たちの成長や進化に結びつける行動を取ったほうが建設的だし、精神衛生上にも良いのではなかろうか。人類種にとって、危機こそ大きく成長できるチャンスである。

何の話だったか?そう、中国製サーマルカメラ「InfiRay – HL13」の話だ。モニター型であり、狭いアイリリーフやアイボックスを気にせず照準できる手軽さ、そして素晴らしい描写性能がある。対人戦の場合、夜間の遮光処置と、ゼロインを精密に調整できない欠点が手痛いのが残念ではあるが。

何にせよ、InfiRayの今後の成長は非常に楽しみだ。欧米メーカー一辺倒であった携行型サーマルカメラ業界は、今InfiRayやHIKMICRO等の中国の龍達が世界へと進出している。今後のサーマルカメラ業界の動向に目が離せそうにない。冒頭から総評まで話が半分脱線したところで、今回のレビューの幕を閉じよう。