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前編はこちら ↓ ↓

【レビュー】 FLIR – Breach PTQ136 (前編)

動画も合わせてご視聴いただくと、よりわかりやすくてオススメ! ↓ ↓

近~遠距離テスト

さて、ここからはPTQ136を様々な状況下で使用してみてのレビューを行おう。まずは各距離において人間を撮影してどう見えるのか検証してみようではないか。(動画は1:40~


気温24℃の草原にて、天気は快晴、山と空を背景に水平位置で身長165cmの人間を撮影。

本製品は60Hzと高いフレームレートを有しており、動体物の動きもヌルヌルと描写してくれるので、高速で移動する物の監視や、カメラを覗きながら移動する際に非常に役立つ。

人間の判別に関しては、150mあたりから怪しくなり、動いていないと検知はできても判別は難しくなるが、何らかの高温物の存在があることはわかる。


200mを超えると、よりわかりにくくなり、周囲の物とは何か違うものがあるという検知こそはできているが、周囲の若干の温度の高い他の物体と混ざる可能性も高く、見逃しやすくなる。

PTQ136のレンズ焦点距離は9.1mm、視野(FOV)は24°×19°であり、近い距離を広い視野で見ることを考えられたサーマルカメラだ。このカメラを覗いて歩いてみると、若干の違和感はあるが、フレームレートが高いこともあって肉眼視野と概ね同調させやすい。

ただ、だからと言って近距離の改造度が高いのかと思ったらそこまでではなく、全体的にどの距離を通しても若干ピントがあってない少しボヤけたような映像となる。ほぼ同じような解像度のセンサーを持つ同社PS32・SCOUT2 320(レンズ焦点距離19mm、視野17°×13°)の方が、よりクッキリとした、対象の輪郭や判別が付きやすい映りになっている。ここは、レンズの性能差だろう。

↓ ↓は同社PS32の映像





今度は背景の山や空と重なりにくいように、高台に登って撮影。その他条件は先程と同じ。

こちらの方がサーマルにとって有利なので、150mでも胴体と頭の区別はよりハッキリとわかりやすく映っている。

550mに関しては、写真では辛うじて検知はできているが、これより右に移動すると周囲の森と重なってしまって非常にわかりにくくなる。もちろん、止まっている場合はそこに人がいることはほぼ見逃してしまうだろう。


こちらは同じ場所にてFLIR PS32で撮影した写真。背景の森や山の描写に関しては劣っているが、長距離における人間の炙り出しはこちらのほうが判別はできないにしても、検知はよりハッキリと周囲との違いを映し出している。

また、PTQ136は前編でも記述したように、空を映像に多く捉えた場合に白飛びしてしまう傾向が強いため、あまり空を映さずに本機を下に向けて映したほうがよい。


白飛びで思い出したが、上の写真(左)を見て欲しい。これはOUTDOOR ALERTで300m先の人間を撮影したものだが、32℃という高音下での撮影であったこともあり、周囲の歩道や背景の森や山により、あまり温度差が無くなってしまい、白飛びならぬ、オレンジ色に塗りつぶされてどこに人間がいるかまったくわからない。

そのような時、PTQ136のレンズ前を指で塞ぐように、少し映像内に映してみると、写真(右)のように映像処理がかかり、細かな温度分布がわかるようになる場合がある。この手法は万能というわけではなく、ケースバイケースではあるものの、他のサーマルカメラでも使えるテクなので、暑い季節の日中に対人索敵をしていて、映像ではよくわかりにくい場合に手段の一つとして覚えておいても良いだろう。

倍率変更


PTQ136は1倍~4倍までのデジタルズームによる倍率変更が可能だ。(動画は2:43~

だが、ズームによる映像処理は大して補正がかからず、解像感を高めたり、温度差の違いをくっきり表してくれることに関してはあまり期待できるものではなかった。

そのおかげで、ズームをしても解像度の低さに拍車がかかるだけで、4倍率時には何を、どこを見ているのかよくわからなくなる。実際に使用できるのは2倍率程度だろう。

また、上下ボタンの長押しでズーム倍率を変更するのだが、「1倍→2倍→3倍…」と1倍率ずつ変わっていくのではなく、「1.09倍→1.19倍→1.3倍→1.41倍…」とやけに中途半端な数値で少しずつ上がっていき、ボタンの固さと相まってイライラしてくる。カラーパレットの変更と言い、何か操作を行うことが非常にやりにくい。

プリセットの変更

後編になり、FLIR Breach PTQ136のケチばかりつけている気がしてきたが、良い点ももちろんある。

そのうちの一つが、設定メニュー画面で選ぶことができるENHANCEMENT(拡張機能)で、これによりサーマルデバイスの細かい設定を変えることで、様々な環境や、自分の好みに合わせて最適化することが可能である。(動画は3:00~

シャープネス、コントラスト、スマートシーン、ゲイン、AGCスピードと言った、より細かな数値をいじることも可能だが、これらの数値をただ闇雲にいじれば良いわけではなく、素人が下手にいじっても環境や使用用途に合わせて最適化させる数値を見出すのはなかなか難しい。

そこで、「DEFAULT(デフォルト)」、「SKY / SEA(空と海)」、「INDOORS(屋内)」、「OUTDOORS(屋外)」と、それぞれよく利用されるであろう環境に合わせたプリセットが用意されている。

→通常、プリセットは「DEFAULT(デフォルト)」に設定されている。


写真はプリセットの「Default(デフォルト)」(左)と「Sky / Sea(空と海)」(右)を同じ場所で撮影したもの。中央の人間までの距離は概ね100m。

Defaultで白飛び&ボヤけ気味だった映像が、Sky / Seaのプリセットに変更することで、映像の繊細さが増して建造物等の形状がよりはっきりとわかるようになっている。また、スマートシーン数値(後に説明します)が上がっているため、より細かな温度分布がわかるようになり、人間の判別もよりわかりやすくなっている。

各プリセットにおける設定数値は以下のように設定される。

Default:コントラスト100、シャープネス90、スマートシーン20、ゲイン138、AGCスピード85

Sky / Sea:コントラスト100、シャープネス100、スマートシーン30、ゲイン120、AGCスピード85

INDOORS:コントラスト100、シャープネス75、スマートシーン10、ゲイン110、AGCスピード85

OUTDOORS:コントラスト100、シャープネス110、スマートシーン80、ゲイン138、AGCスピード99


ほう、Sky / Seaプリセットは空と海だけでなく、いろんな局面で使えそうじゃないか…と早合点してはいけない。上の写真は青空の下で草野球をしている人達を映したものだが、、、

こちらでは逆にSky / Seaの場合が白飛びしがちで、Defaultの方が対人索敵能力が高くなっている。(手前の草木に関してはSky / Seaの方がシャープに映ってはいるが)


こちらの写真も同様だ。空の雲の様子に関してはSky / Seaの方が形状や模様がわかりやすいが、中央の山・建物・人間の判別はSky / Seaが白潰れが多く、Defaultの方が判別がしやすい。

Sky / Seaは空と海が大きく映る環境下で、INDOORSは屋内で使用すれば良いのかと言えばけしてそうではなく、けっこう様々な条件下で良い方向にも悪い方向にも転んでしまう。

そしてこのプリセットの変更に関しても相変わらず手数が多いこともあり、現場で多用しようとは思えない。個人的にはDefaultをベースにシャープネスとスマートシーンを少し上げて使う方法が一番利便性があると感じた。面倒な場合はDefault設定固定でよいだろう。癖がなく卒なく使える。

スマートシーン


さて、先程からスマートシーン云々と言って読んでくれている人を少々置いてけぼりにしている感があるので解説しよう。(動画は3:41~

様々な設定数値等をいじれるPTQ136だが、その中でも個人的にシャープネスと並んでよくいじる数値がスマートシーンだ。この数値を上げることにより、周囲と類似はしているが、けして同一ではない温度の対象物をより細分化してわけてくれるというもの。気温が高くなり、体温と周囲の温度差があまり無くなって見えにくくなっている時にも、絶対的ではないにしろ、場合によっては見えやすくなる。

写真は小雨と若干の霧がかかった天候で、小規模ダムから森を隔て、約8km先の街を撮影したもの。スマートシーンの数値を0から40に上げることで、ダムや森の木々、街の様子の鮮明さが増して判別しやすくなっているのがわかるだろう。

サーマルカメラの利点として、雨、霧や煙の中でも検知性能は落ちるものの、微光暗視装置と違ってある程度使用可能だという点がある。PTQ136に関しては、数メートル先も見えないような濃霧の状態では、約80メートル前後は人間の判別が可能である。

スマートシーンも他の数値同様、ただ上げれば良いというわけではない。個人的にはDefaultのスマートシーン数値20に対して、30~40辺りが様々なシーンで実用的ではないかと感じる。

PTQ136のデジタルズームは映像補正があまりなく、何が映っているのかズームすることによりむしろわかりにくくなり、使い物にならない場合が多いと前述した。このスマートシーンに関しては、ズーム時に高めてくれる方向で調整してくれれば、ズームの利便性が高まって良いのだが・・・。

Conclusion | 総評

本製品の良さは、ズバリこのコンパクトなボディに、索敵や暗視を行う際に及第点と言える能力、描写に関する細かなカスタマイズ性、撮影機能等を詰め込んだことだろう。

だが、ボタンの固さやUI(ユーザーインターフェース)の使い勝手の悪さは正直なところ、あまり訓練や現場で使用したいとは思えない。

また、プロセッサやメモリが貧弱なのか、ソフトウェアの作り込みが甘いのかわからないが、周囲の環境、設定や撮影動作の多用を行っていると、フリーズこそはしないが、動作が重くなりワンテンポどころかツーテンポほど重い動きになることも気になってくる。

本製品の価格は2795ドル。サーマルカメラも随分と安くなったものだ。コンパクトでヘルメットに装着可能なサーマルカメラが欲しい場合、上記の欠点が気にならないのであれば、購入しても良い製品だろう。我が国の場合、この手の製品を自動車のように気軽に試用できないことが残念ではある。私が百の言葉を用いたところで、実際に使ってみてどう思うかは個々人の運用方法や感性によって違うものだ。

値段は倍以上するし、撮影機能等は無いが、ドイツのAndres Industries AG社のTILOシリーズの方がほぼ同じ性能で、PTQ136よりロープロファイルで電池持ちも良い。さらにこちらはより解像度の高い640×512センサー版もあるので、お金に余裕がある人はこちらも視野に入れても良いだろう。