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ジャンル:プリズムスコープ

ELCAN社の3種類の倍率に切り替え可能な特殊プリズムスコープ

検証人数:2人

実弾射撃評価:無し

執筆時期:2024年5月

※本製品を提供してくださいました、OI氏に感謝いたします。


SPECS | 性能諸元(公式)

メーカー名(メーカー国・製造国) ELCAN Optical Technologies (カナダ)
サイズ(全長×全幅×高さ) 269mmx75mmx73mm
重量 850グラム
倍率 1倍、3倍、9倍
視野(FOV) 1倍:28.7m / 100m
  3倍:10.5m / 100m
  9倍:3.5m / 100m
射出瞳径 1倍:12.2mm、3倍:70.2mm、9倍:74.3mm
アイリリーフ 1倍:79.3mm、3倍:70.2mm、9倍:74.3mm
レティクル 5.56 Ballistic Reticle(本製品)、7.62 Ballistic Reticle
イルミネーター 赤色LED:5段階調光(クロスヘア及びドットのみに切替可能)
使用電池(電池寿命) CR2032リチウム電池(クロスヘア:240時間、ドットのみ:14000時間)
防水性能 1m / 1時間
動作可能温度 -46℃~60℃
価格 2100.23ドル

Pros & Cons | 一長一短

※ここはあくまで、KUSEMONO TACTICALが想定する使い方、視点から見た一長一短です。

※一長一短をわかりやすく表記しているだけであり、項目の数や内容、順番による採点評価ではありません。

優れている点 夜間から日中まで使えるメリハリのあるイルミネーション
  イルミネーションの発光は対物レンズ側からは見えない
  シリーズを通して分厚く頑丈なボディ
  透明度が高く、フレアやゴーストが出にくい光学設計
改善を要する点 9倍時のトンネル視野
  9倍時のレティクルが環境によって見えにくい
  倍率切替ダイヤルが何かに接触して動きやすい
  1倍時のスコープを動かした際の視界の歪み
  特に現在のLPVOと比較するとあまり優位性が無い

一人三役


Elcan
社のSpecterDRシリーズと言えば、そこらのLPVOと比べるとコンパクトなプリズムスコープながら、倍率の切り替えが瞬時にできる画期的で唯一無二な製品である。それだけでなく、倍率を切り替えても変わらないアイリリーフ、イルミネーションは日中でも暗闇でも暗視装置でも使えるメリハリがついた設計で、しかも敵側(対物レンズ)からは見えにくい等、かゆいところにまで配慮が行き届いた高性能なプリズムスコープである。「お高い価格」というを点から目を背ければの話だが(2024年現在、我が国でこれらを購入しようとすると、40万円以上の価格である)。

今まで我が研究会では、Specterシリーズの「SpecterDR 1-4x」と「SpecterDR 1.5-6x」をレビューした。そんなSpecterシリーズの中で一人三役を演じることができるのが「SpecterTR 1/3/9x」である。名称がDR(Double Role:一人二役)ではなく、TR(Triple Role:一人三役)になった理由は、今まで2段階の倍率切替だったが、シリーズ初の3段階の倍率切替になったことにある。さて、彼は一人三役をこなす名俳優か?それとも多重人格の狂人か?


さて、こちらが例の役者であるSpecterTR 1/3/9だ。

どっしりガッチリとした印象が強かったDRシリーズと違い、まるでマウントリングがついたそこらのLPVO(Low Power Variable Optics:主に低倍率から4~10倍前後への倍率変更が可能なスコープを指す)のような形状となった(まぁLPVOの1種ではあるんだけど)。

しかしタレット部の溶接感バリバリな様子をみるとやっぱりエルカンだなってなる。

ボディはアナダイズドコーティングがされており、サラッとした質感だ。

全長は約27cmで、1-8倍率及び1-10倍率のLPVOと比較すると同じくらいか少し長い程度のサイズ。15~18cm程度だったDRシリーズと比較すると長く感じる。

重量は850グラムと横綱クラスに思えるかもしれないが、500~600グラム台が多い6倍以上のLPVOにマウントを加えると少し重い程度の数値になるので、この重量はそこまで問題視はしない。


対物・接眼レンズは薄紫や黄緑、青系のマルチコーティングが施されている。

このSpecterTRも他のシリーズ同様に視度調整機能は無い。


レンズキャップには、DRシリーズ同様に引き続きTenebraex製の固定機能のあるものが付与されている。取り外して再び装着する際は非常に付けにくい。


上部中央には、大勢で見ると面白い映画「世界侵略: ロサンゼルス決戦」に出てくる宇宙人のヘルメットや早期警戒機のレドームのような大きく平べったい部位が見える。通常のスコープであれば、ここはエレベーションダイヤルになっているのだろうが、SpecterTRには3種の倍率視野を切替える回転機構が入っている。そしてその回転機構は、左側に見える倍率切替ダイヤルを回すことで回転する。今までのSpecterDRシリーズと違い、レバー式からダイヤル式になったのは、3段階の視野変更機構を入れる関係上できなくなった、もしくはこちらのほうが操作性が良いと判断されたのだろうか?

内部で倍率に応じて3つのレンズが入れ替わっているため、通常の可変倍率スコープのように1倍・3倍・9倍の間に設定することはできない。つまり、各倍率の印字にピタッとダイヤルが止まっておかないと、照準することができない。ここは他のシリーズも同様。

ここで問題が出てくる。このダイヤルのテンションが軽く、3段階に応じて段付きとなってはいるが、不意に何かと接触した際にすぐ動くことがある。3段階の決められた位置にダイヤルが無いと、照準はできなくなるので、藪漕ぎは装備品にこのダイヤルが干渉した際、知らぬうちにダイヤルが変に動いていざ射撃!!となった際に照準不可!ということがよくあるそうだ。実際私も撮影や検証のためほんの短期間使用しただけだが、1度あった。SpecterDRのように各段階毎にロック機構を設けたり、もう少し固いテンションのダイヤルにしてほしい。


SpecterDRシリーズのARMSマウントだが、特に初期型は評判があまり良くない。私が過去レビューしたものについては、短期間のレビューでもあったのでそんなに悪い印象はなかったが…今回このSpeterTRはARMSのマウントではなくなっている。

公式や説明書曰く、このマウントは脱着してもゼロ保持がいいとしている。個人的には今回のマウントも悪い印象は無いものの、本製品については実弾射撃はおろか、各種訓練にも投入していないのであまり大層なことは言うつもりはない。

マウントリングと本体は恐らくネジ留め剤か何かでガッチリと固定されているだろうが、基本的に普通のスコープとマウントリングと違い分離することは前提とされていない。

レール上部からレンズ中心部までのマウント高は39mm。


例によってこのSpecterTRも、スコープ内部ではなくマウントごと動く形で上下左右調整を行う。写真左の大きなダイヤルが上下移動(エレベーション)を、写真右が左右移動(ウィンデージ)だ。

エレベーションダイヤルに関しては指で動かし、銀色のノブを下げることでダイヤルが動かないようにロックすることができる。各種クリック感等は他シリーズと同様に明瞭でわかりやすい。

ウィンデージダイヤルを動かす場合は、マイナスドライバーや薬莢、コイン等が必要になる。

1クリックの移動量は0.1ミル。100メートルの距離だと1クリック動かすとレティクルが10㎜動く。最大移動量は120MOA。


普通のスコープやSpecterDRシリーズと違い、イルミネーションノブは右側面にある。5段階の輝度調整が可能で、少し軽めのテンションとなっている。イルミネーションについては後で詳しく記述する。

バッテリーコンパートメントの蓋に傷がいくらか付いているが、この傷に関しては新品購入時から付いていたとのことだ。エルカン製品に関しては、外観の品質管理はそこまで良いとは以前から言えなかったため、何ら不思議なことではない。

電池は毎度おなじみのCR2032リチウム電池。

5.56 Ballistic Reticleae


さて、レティクルの話に移ろう。SpecterTRのレティクルは5.56mm及び7.62mmNATO弾に対応したレティクルとなっている。今回紹介するものは前者に対応した「5.56 Ballistic Reticle」。シンプルなクロスヘアタイプのレティクルながら、細かに線が区切られ、多機能となっている。

レティクル説明書によると、中心点(写真ではほぼ見えていないが)の大きさは、イルミネーション点灯時の1倍率で6MOAとなっている。(ただし同説明書の商品特徴の説明には3MOAと表記されている。どっちだよと言いたいが、恐らく3MOAが正しいだろう。)

レティクル下段はBDC(Bullet Drop Compensator:距離による弾道落下予測)機能となっており、300~1000メートルまでの弾道落下予測が可能となっている。

19インチ(48.26cm)の高さのターゲットで、200メートルの距離でゼロインを行った場合にこのBDC機能が働くようにデザインされている。

また、400~800メートルのBDC位置にある両サイドを挟むように描かれた横線と横線の隙間は、横幅19インチのターゲットがすっぽりはまる長さに設定されている。横幅19インチ(48.26cm)は、北米男性の肩幅の平均か少し大きいサイズだ。対人戦闘の場合、これを利用して、相手の肩幅がどこに収まるかによって大まかに距離を算出することができる。

300メートルに関しては、横線の長さそのものが19インチとなっている。


SpecterTRは、SpecterDRシリーズと違い、倍率によってレティクルの大きさも変化するFFP(First Focal Plane:第一焦点面)となっている。FFPはその特性上、レティクルのデザインやサイズをよく考えないと低倍率時もしくは高倍率時のどこかで見えにくかったり照準の妨げとなったりする。SpecterTRはまさにそのレティクルの設計の甘さが露呈している。

説明しよう。FFPレティクルあるあるなのだが、中心部に表示が固まりがちで、レンズ周辺部に何もないことが多い。これはこれで周囲が見えやすくて良いという意見もある一方、レティクル中心に自然とターゲットを導ける何らかのガイドが無いと、特にCQB(近接戦闘)を考慮したスコープの場合は素早い照準がやりにくくなる。

ご覧の通り、SpecterTRのレティクルは、1倍率時で中心部にしか表示が無く、しかも全体的にレティクル線が細く薄いため素早く照準することがやりにくい。

もちろん、本製品もSpecterシリーズ自慢の非常に明るいイルミネーションがあるため、その弱点を補うことはできるが、イルミネーション頼みとなっていることに変わりはない。


一方、こちらはSpecterDRのレティクルである。見ての通り、クロスヘア(十字線)の外側が太くなっており、これが素早い照準合わせに非常に役立つ。イルミネーションと合わせればもちろんのこと、イルミネーションが無くてもCQBで自信をもって使えるレティクルである。



では3倍率と9倍率はどう見えるのか?

3倍率時にはレティクル全体が見やすくわかりやすくなる。

レンズ全体は少し青く、乳白色にも似た色合いに映る。

9倍時はレティクルの中央部のみが表示される。なんだかレティクルが少しぼやけて見えにくく思えるかもしれないが、これは撮影ミスではなく、あえてこのように薄いグレーで少しレティクルが透過しているように設計されているためだ。特に9倍時にはすごく縁が太くなることもあり、これを外で見るとどうなるのだろうか?後ほど。



今回もそのSpecterDRシリーズ同様、イルミネーションは中央のセンタードットのみが明るく光るモードと、レティクル全体が暗く光るパターンの2種類がある。

ただ、他の機種がイルミネーションの点灯パターンを選べたのに対し、SpecterTRは1倍時はセンタードットのみが光り、3倍時と9倍時はレティクル全体が光るタイプに固定されている。

イルミネーションの輝度はそれぞれ5段階の調整ができる。電池寿命は昼間の明るさでドットのみの場合は14000時間、レティクル全体の点灯で240時間となっている。

イルミネーション機能付きスコープで電池寿命を公表している機種は珍しい。電池交換の参考になるので、他のメーカーも真似してほしいものだ。ただし厳密にはどの明るさでの数値なのかは不明。

100メートル照準


光学照準器は外に出してみないとわからない。おなじみ、100メートル先に高さ180cmで吊った青のつなぎを見てみよう。まずは1倍率時。

レンズの透明度については、他のSpecterシリーズ同様にとても高くて見やすい。

1倍時のスコープを覗いたまま景色を動かした際の歪みは大きく出た。他のレビュー動画では歪みが非常に少ないものもあり、ロットによって光学性能が違うのだろうか?

薄くて細いレティクルについては、案の定外に出すとわかりにくい場面が多い。環境によってイルミネーション無しではサッと素早く照準合わせができにくい。



そのレティクルの見えにくさは、3倍時の時でも少し感じることがあるものの、FFPで拡大されるので許容範囲内。

ただ、9倍率の時のレティクルの薄さは気になる。遠い対象物がレティクルと被ってもわかりやすいように、少し透過させているのもあるのだろうが、これでははっきりと照準がしにくい。レティクルの太さやデザインのメリハリをつける等の工夫を行って改善すべきだ。

視野は、他社1-8倍や1-10倍のLPVOと比較すると、1倍率で28.7m / 100m、9倍率で3.5m / 100mと、特に1倍率時では狭く感じる。

そして何よりも、9倍時の縁の太さが気になる人は多いだろう。トイレットペーパーどころかラップの芯から世界を見ているような感じであり、視野狭窄となる。

このスコープは2015年の機種であり、当時の光学照準器の技術から考えると、ある程度は情状酌量の余地もあるものの、レティクルの見難さと相まってあまり9倍率で使用したいとは思えない。

一部で3倍と9倍時にレンズがすごく黄色がかって映るという苦情があるようだが、この製品にはそのような傾向は見られない。また、どの倍率においてもフレアやゴーストは出にくいレンズであり、この点は良し。

100メートル照準 │ イルミネーションON


さて、イルミネーションはどうだろうか?

まず最高輝度に関してだが、ドットのみが光るパターンはきつい直射日光下でも使用できるほど明るく灯すことができ、ダットサイトのように使用することも可能だった。この点はSpecterシリーズ共通の素晴らしいポイントの一つ。(写真は5段階のうち4段階目で点灯)

ただ、これまたSpecterDRシリーズ同様距離によってはイルミネーションの大きさを感じることもある。

3倍率と9倍率で使用できるレティクル全体が光るパターンに関しては、最高輝度であっても薄暗い場所でようやく使用でき、曇り空でも暗いと感じるレベル。故に肉眼では確認できたが、写真では光っている様子が写しにくかったので写真は無い。

最低輝度に関しては、両点灯パターン共に闇夜で使用できるほどに暗く灯すことができるが、欲を言うならばあともう1段暗くできればより良い。

また、イルミネーションは両者共に日中であろうが夜間であろうが、常識的な明るさで光らせている限りは、対物レンズ側からイルミネーションが灯っている様子は視認できない。この点を含めたイルミネーション関連の特徴は、Specterシリーズ共通の素晴らしいポイントだ。

アイリリーフ │ アイボックス


※TRはレンズカバーと接眼レンズまでの距離が2.5cmほどあるため、いつもと人形の距離感が若干違う&今回は距離計測ミスも含まれているため、あくまで写真は参考程度にしてください。

SpecterDRシリーズの利点の一つに、倍率を変えてもアイリリーフ(スコープの焦点が合う前後距離)がほぼ変わらないという利点があったが、このTRに関しては少し勝手が違うようだ。

アイリリーフ範囲は、1倍時で4.3cm~9.3cm、3倍時で最短と最長距離が短くなって2.5cm~7.8cm、そして9倍で最短が狭まって4cm~7cmほどとなっていた。

公式数値は1倍で7.93cm、3倍で7.02cm、9倍で7.43cmであるため、大きな乖離は無さそうだ。

1倍率時とその他でアイリリーフの範囲はある程度変化するため、通常のスコープのように扱うべきだろう。光学設計的にとても難しかったのであろうが、こうなると他のスコープとあまり差別化が無くなってくる。

他社の1-8倍、1-10倍スコープと比較すると、アイリリーフは平均的だ。

アイボックス(スコープの焦点が合う上下左右)については狭めだ。

ガンハンドリング・使用感等


今回は持ち主が売却前にレビューをしてほしいとのことでこのSpecterTRのレビューを行うことができた。だが、その関係上実弾射撃や各種本格的な訓練等には投入できていないことは留意してほしい。

1倍時のイルミネーションを使用すると、ダットサイト感覚で使える点はSpecterシリーズ共通で非常に使いやすい。

また、3倍率時も1倍率時よりはレティクルも少し見えやすくなっているし、適切にイルミネーションを組み合わせると200メートル前後での戦闘でうまく立ち回れそうではある。

また、ほとんどのLPVOのスコープ上部はエレベーションタレットの出っ張りがあるが、TRには無いため、上面が開けている感覚は非常に良い。

反面、タレット部分を至近距離戦における簡易照準として使用する場合はやりにくい。

ただ9倍率はやはりトンネル・ビジョンが気になるし、レティクルも使いにくいしで、上述した利点を考慮すればするほどSpecterDRのほうが良いのでは?という考えてになってしまう。

Conclusion | 総評


このSpecterTRが出た当時は、1倍~10倍はもちろんのこと、1倍~8倍のLPVOもまだあまり多くはなかった。そんな中で、9倍までカバーしていたことは大きなアピールポイントではあっただろう。

ただ、その他Specterシリーズより巨大化し、アイリリーフは倍率によって変わり、しかも最大のアピールポイントである9倍時の光学性能やレティクルはお世辞にも使いやすいとは言えないとくる。

おまけに高い価格を考えると、正直なところ当時であったとしてもLeupold Mark8でも買った方が良いだろう。持ち主もSpecterDRが気に入り、このTRも購入したらしいが、結局あまり使わず長いこと防湿庫の番人となっていたようだ。私も、TRを使うよりもSpecterDR 1.5-6xのほうがはるかに使いやすいし素晴らしい遠近両用のプリズムスコープだと思う。

こうして普通のLPVOよりもこれを選ぼうという理由があまり無く、実際に所持し続けている人も少なく、その他Specterシリーズは知っててもこの機種があることを知らない人も多い実態となっている。

現在、このSpecterTRは2100ドルほどで売られており、随分と値下がりしている(それでも安くはないが)。逆にSpecterDRはボディ塗装やコーティング、上部レールが追加されたマイナーアップデートバージョンが3500ドルほどと大幅に値上がっており、逆転現象が起きている。

その他Elcan Specterシリーズについて

SpecterDR 1-4xのレビューはこちら↓ ↓

【レビュー】 ELCAN – SpecterDR 1-4x

SpecterDR 1.5-6xのレビューはこちら↓ ↓

【レビュー】 ELCAN – SpecterDR 1.5-6x