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ジャンル:デジタルカメラ、トイカメラ

フィルムカメラ時代の面倒な操作をあえてデジカメで再現したユニークなデジカメ。

執筆時期:2018年10月

SPECS │ 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) YASHICA(中華人民共和国)
サイズ(幅×高さ×奥行き) 11.5×7.2×5.5cm
重量(バッテリー&カード含む) 242グラム
撮影素子 1/2.5型CMOSセンサー
画素数 1400万画素
レンズ焦点距離 35mm
F値(開放) F2.0
レンズ構成 5枚
駆動方式 アルカリ単3電池2本
価格(購入価格) 1880香港ドル(1248香港ドル)

忘れられた手間を楽しみへ


マニュアル車やレコード盤、フィルムカメラと言った過去の遺物は、いまでもジワジワと一定の人気がある。これらを愛するのは、何もテクノロジーと横文字にうんざりしている懐古主義者達だけではない。そのようなモノを知らないミレニアル世代の間でも人気は出ている。その古臭さとノスタルジックさから出てくるカッコ良さや可愛さ、温かみは年代に関係なく人々を魅了させるロマンがある。おかげで、スポーティーな車が息吹を吹き返し、レトロな外観のカメラが最新のシステムを内蔵して蘇っている。そう言えば、フィルムカメラの愛用者がジワリと増えていることを受け、コダック等のかつてのフィルムメーカーが一部のフィルムを再販してたりもしている。

そんな中、このカメラ「YASHICA digiFilm Y35」の発表は大きな話題を呼んだ。ヤシカと言えば、かつて日本に存在していたカメラメーカーだ。(私は知らない世代だが)そのメーカーの名を背負い、デジカメをクラウドファンディングで資金を集めて発売するという。しかも、デジフィルムと言うユニットを交換することで、写真の写りを変えるというひと手間がウリだ。言うまでもなく、世界中のカメラ愛好家から大きな反響があり、5億円近い資金を速攻で集めた。私も興味が湧いたので、通常1880香港ドル(約27000円)の値段のところを、早期出資者特典で1248香港ドル(約18000円)で入手してみた。

とは言え、過度な期待はしていない。まずヤシカの名を名乗っているが、これはヤシカブランドを買い取った香港の企業(JNCデイタム・テック・インターナショナル)が作った、、、と言うよりも名前を貸しているだけのものだ。どちらにしろカメラを作っていた実績も無ければ、当時の技術者がいるわけでもない。さて、そんな中でどんなものが出来上がったのか。

まず外観を見ていこう。


ご覧の通り、かなりシンプルなデザインのレンジファインダータイプのデザインだ。

革張りはそれっぽくしたプラスチック。


全体的な作りはほぼすべてプラスチックであり、そのチープな作りはトイカメラの域を出ない。

レンズ部分だが、ダイヤルっぽいデザインはしているものの、可動できるものは何もない。「YASHICA JAPAN F2.0」の文字が伺えるが、前述した通り、ヤシカの名前以外日本の要素はないので悪しからず。

レンズは小さく、このメーカーもレンズメーカーではないのでクオリティは高いとは言えない。


カメラのサイズとしては私の好みのサイズだ。手に収まる大きさだが、かと言って小さすぎない。普段の持ち運びにも良いサイズだ。


富士フィルム X10との比較。Y35が11.5×7.2×5.5cm、X10が11.7×6.9×5.7cmだ。


上部

露出補正ダイヤルは+2~-2と5段階の調整が可能。ダイヤルのクリック感はあいまい。

電源兼シャッターボタンは、下段が電源となっており、時計回りに30度ほど回すことで電源のON・OFFができる。

その他巻き戻しクランクはダミーで、アクセサリーシューはコールドシューとなっている。


このカメラ、デジカメなのにフィルムカメラ同様にフィルム巻き上げレバーをカチッと言うまで引かないと写すことはできない。当然、一発写す毎にこの動作を繰り返さないといけない。巻き上げレバーは金属だが、チープな作りだし、クリック感も特段良いわけではない。しかもデジカメ時代の今となると面倒に思えるだろう。だが、この手間がなんだか楽しい。そう、なんだか楽しいのだ。古いボルトアクション式ライフルをイジるのと同じ楽しさだ。

シャッターボタンははっきり言って酷い。いつシャッターが切れるのかよくわからない変なクリック感があり、一回カチッと押し切って少し上げるとようやく実際にシャッターが切れるという謎仕様。写すと「チャキャ!」っというチープな電子音と合わせて酷い。さらに、どういうわけだか不発が多い。10回に1回くらいの割合で、適切な操作をしたにも関わらず映らない。ジャムるデジカメなんて初めて見た。

ちなみに、このシャッターに関しては押し込んで止まったところで、もう少しグッと深く押し込むとシャッターが切れるという人もいる(こちらが正常か?)。どうにも個体差があるようだ。

ボディにはグリップがあるわけでも、本物の革張りがされているわけでもないので、持ちやすさはあまり良いとは言えない。


底面

こちらも非常にシンプル。三脚穴に関しては、とりあえず開けるだけ開けましたという感じでプラスチック削り跡が見える。

フタを開けると、データ転送用のUSBポートとSDカードスロット。


後面

液晶モニターやボタン類は一切ない。左上のOVFは情報表示等は一切ない。

そのとなりのLEDはステータス表示。赤色でスタンバイ。撮影すると紫色になりまた赤に戻る。


パッケージ。居酒屋で佇む謎の女性のポストカード、説明書、PCでの時刻合わせの方法を表記したもの。


さて、そろそろこのデジカメ最大の特徴を紹介しよう。YASHICA digiFilm Y35は、「デジフィルム」と呼ばれるフィルムを模した数種類のカートリッジを交換することにより、写真の映り具合を変えることができる。言わば、モノクロやカラーリング重視と言ったソフトウェアでポチポチっと設定する手順を、まるでフィルムを交換するかのように行うということだ。そういう意味でもこのカメラは面白いオモチャな「トイカメラ」である。

それぞれ味の違うデジフィルムは現在(2018年11月)以下の6種類が用意されている。(フィルムの説明は説明書を訳したもの。)

digiFilm YASHICA blue:ISO100-400。全体的に青いトーンがかかっているのが特徴。高いコントラストと彩度。少し強めのグレインエフェクトあり。

digiFilm YASHICA in my fancy:ISO100-400。控えめなアンダートーンな写り。グレインエフェクトあり。

digiFilm 200:ISO100-400。スタンダードな色合いでシャープに写る。

digiFilm 6×6:ISO100-400。スクエアフォーマット(真四角な写真)で、温かみのある黄色がかった色合いが特徴。

digiFilm B&W:100-1000。モノクロフィルム。黒の中にわずかに青みのある色合いになる味付け。ハイコントラストでグレインエフェクトあり。

digiFilm 1600:ISO300-1600。暗所や動きの早い被写体を写す際に。グレインエフェクトあり。

今回私が入手したものは、200・6×6・B&W・1600の4つが同梱されているコンボセットだ。

このカメラ、以上で設定できる項目はほとんどない。ピント合わせ、シャッタースピード(1秒、1/30秒、1/60秒、1/250秒、1/500秒の中から自動選択)等はすべて機械任せ。どんな写真が撮れているかは、帰ってからのお楽しみである。


後面のパネルをフィルムカメラのように開けると、デジフィルムと電池をセットできるコンパートメントが現れる。電池は単3電池2本で駆動。


デジフィルムは金属端子同士を合わせてセットする。カチッとクリック感があるわけでもなく、収まりはあまりよくない。

また、この後面パネルのフタそのものもあまり良い出来とは言えず、たまに閉じてるのか半ドアなのかよくわからない閉まり具合だ。

とは言え、このフィルムを変えるような手順はなにか楽しい。適切なショットのために、使用する弾丸を変えるような楽しさがある。

私はギリギリ銀塩カメラ(フィルムカメラのこと)世代だが、フィルムカメラを触ったのは小学生時代に持っていたオモチャのフィルムカメラ以来だ。

digiFilm 200


さて、それでは各デジフィルムの写り具合を見ていこう。トイカメラに毛が生えた程度の性能しかないこのカメラと、私の乏しい腕によりろくな写真がないことは予め謝罪しておく。写真はすべてリサイズしただけの手持ち撮って出しだ。

digiFilm 200は、デジフィルムの中では最もスタンダードな位置付けとなる。発色は現在のフォトジェニックな写真が撮れるデジカメと比べれば抑えられている。画質も低いが、これはこれで昔のフィルムカメラ風の味わいがあって良い。




ビューファインダーには何の情報表示も無いので、ファインダーとレンズのズレもあって何がどう写るのか帰ってみないとわからない。この写真のように、被写体が中央からずれていたりすることもよくある。

digiFilm 6×6


スクエアフォーマットのdigiFilm 6×6。黄色みがかかった色合いに写り、まったりとした夕暮れ時を連想させられる。



digiFilm 1600


このデジフィルムはISO1600までサポートしており、素早い被写体や暗い場所に向いているという。とは言え、カメラの性能を考えると…

グレインエフェクトが良い感じだ。これで写すと、何を写しても昭和へのタイムスリップとなる。



digiFilm B&W


良きかなモノクロフィルム。冷たさと暖かさの両立が撮れている味付けだと思う。



散々な評価


このカメラを手にした者の評価はネガティブなものが多い。思うに、ヤシカというネームに過度な期待を抱きすぎたのではないかと思う。確かに、当初のプロモーションはわくわくさせられるものがあり、どんなものが出来上がるのだろうかと期待を抱かずにはいられない。だが考えてみて欲しい。まずこのカメラのセンサーサイズからしてiPhone XSやXRと同じ1/2.5型CMOSセンサーだ。と言うことは、どう頑張ってもiPhoneを超える画像はまず得られない。しかも、デジカメを作ったことのないメーカーが作ってみたカメラである。そんなメーカーが、実売3万円以下のデジカメを売るとなると、トイカメラに毛が生えた程度になることは概ね想像はできるだろう。だいたい、人々の記憶の中で生きていた「ヤシカ」はもう無いのだ。

実績の無いレンズとソフトウェア、スマホサイズのセンサー、それに手ブレ発生器と化す酷い作りのシャッターボタンのおかげで、暗所や動体物を撮るなぞもってのほか。ちょっとした撮影でも三脚がないとろくな写真は撮れない。手軽にキレイな写真を取りたいのであればソニー製のデジカメを買えばいい。ドラマチックな写真を取りたいのであれば富士フィルム製、そもそもたいていの人は年々高性能になっているスマホのカメラで十分だ。はっきり言って2010年台のスマートフォンの方が良い写真が撮れる。だが、このカメラの醍醐味はキレイでドラマ性のある写真を撮ることではない。フィルムカメラ時代にやっていた、面倒な手間をスナック感覚で楽しむためのカメラだ。そう、これは楽しいオモチャ、トイカメラなのだ。値段はせめて1万円後半程度に抑えて欲しいレベルのものではあるが、このカメラをイジっているとフツフツと楽しさに満たされる。便利で高性能なテクノロジーに囲まれた現代社会だからこそ楽しめれる面倒くさいオモチャなのだ。