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ジャンル:オープンカー

経験と熟成を重ねて作られた、マツダの4代目ロードスター。「クルマ」との付き合い方や、概念が変わりつつある現代だからこそ、得ることができ、感じさせてくれる確かなモノがあるクルマだ。

今回はあえてのオートマチック版を、2年半と3万5000キロ以上の走行距離と共にお届けしたい。

執筆時期:2018年11月~

※車両を提供してくださったマツダ株式会社に感謝いたします

※追記1:2019年3月、ハードトップ版とも言えるロードスターRFとの比較レビューを追記

SPECS │ 性能諸元(Special Package AT:赤字は2018年マイナーチェンジ後の数値)

メーカー名(メーカー国・製造国) マツダ(日本)
サイズ(全長×全幅×全高) 3915×1735×1235mm
最低車両重量(Sのみ) 990キログラム→1010
乗車定員 2名
エンジンタイプ SKYACTIV-G 1.5(1.5リッターガソリンエンジン)
水冷直列4気筒DOHC16バルブ
使用燃料(タンク容量) ハイオク(40L)
最大出力(Kw-PS/rpm) 96-131/7000 → 97(132)/7000
最大トルク(N.m-kgf.m/rpm) 150-15.3/4800 → 152(15.5)/4500
トランスミッション アイシン製 6速AT
最小回転半径 4.7m
燃費(JC08モード) 18.8Km/L
17.2Km/L (WTLCモードでの算出に変更)
希望小売価格 280万8000円(NDロードスターは2019年現在、255万円~販売)

車(馬)と旅をする喜び

 

“ありふれた日常…そこから永遠にエスケープする。その走りに宿したインテリジェンスは、ドライバーに秘められたエモーションを呼び覚ます。やがて、「鼓動」と「駆動」は一つに…”

 

これは、日本版アルファ・ロメオ ジュリアのテレビCMでの謳い文句である。実に素晴らしいCMであり、「楽しい車」と言うものは単なる移動手段だけでなく、感性と感情を持つ人間にとっての、日々の消耗に対する浄化剤や精神安定剤としての役割もあるのだと思い出させてくれる言葉だ。ジュリアとマツダのロードスターとでは、まったくもってジャンルの違う車だが、この言葉はアドレナリンやオキシトシンを放出させてくれる車すべてに当てはまるものである。

3年前、私はセカンドカーとして運用していたホンダ フィットの代わりに何を購入しようか非常に悩んでいた。メインはだいたい荷物がある程度載せられ、多目的に使える車(当時はホンダ フリードを愛用していた)というのは決まっているので、セカンドカーはだいたい取り回しと燃費の良いものにしていたのだが、そろそろ普通の車にもアンニュイとマンネリが入り混じってきた頃合いでもあった。そこで、思い切ってスポーティーでクールな車が欲しいという漠然とした欲望がフツフツと湧いてきた。私は、大飯食らいでかっこよいスポーツカーが日本から姿を消し、それに取って代わるようにクーラーボックスのような形のミニバンや軽自動車が道路の覇者となってきた様子を見てきた世代だ。故に、スポーツカーへの憧れはあれど、乗ったことなぞほとんどなかった。運が良いことに、平成の終わりが囁かれていた当時、そんな自動車業界に辟易としていたのは、どうやらユーザーだけではなかったようで、自動車メーカー各社から楽しそうな車がポツポツと息を吹き返していた頃だった。トヨタからは86、ダイハツからはコペン(2代目)が出ていた。また、ホンダからはS660、マツダからはロードスター(4代目)が出るとのことで話題は尽きなかった。そこで大方出揃い、1年ほどレビューや不具合等の様子を見て、今回紹介するマツダ ロードスターの購入に踏み切った。それ以外の落選理由は以下の通り。

トヨタ 86:インテリアのデザインが少し古臭い。エンジンや排気音もあまり面白みがない。エクステリアデザインは無難。

ダイハツ コペン(2代目):あの尖ったエクステリアデザインは嫌いじゃないが、インテリアが普通の軽四。

ホンダ S660:エクステリアデザイン(特にお尻)は好きだが、コンセプトと比べてあまりにもインテリアが劣化した。割り切りすぎている無いに等しい荷室も厳しい。

と、言った感じだ。ではなぜマツダのロードスター、しかもオートマチック版を選んだかを写真と共に話していこう。


前面から。今回のロードスターは4世代目(ND)になり、今までより一層シャープな目つきやボディになっている。

今までの世代を順番に見ていくとわかるが、(1世代目2世代目3世代目)こう徐々に尖っていくデザインの中に、進化をしながら伝統に沿った車だと言うことがわかる。デザインに関しては、人それぞれ好みに分かれるところではあるが、私は今までのロードスターで一番気に入っている。キリッと引き締まった中にも、どことなく威圧感を抑えた愛嬌があるデザインだ。派手な事故を起こすことに定評のある、英国のハムスター評論家が、「怒った子犬のような顔だ」と言っていたがその通りだと思う。

ハムスターで思い出したが、ロードスターは面倒くさい英国自動車評論家トリオが、3人とも褒めた数少ない車でもある。実際ロードスターは、「世界で最も多く生産された小型スポーツオープンカー」としてギネスにも載っており、今回の4代目もワールドカーオブザイヤーだけでなく、日本車として始めてワールドカーデザインオブ・ザ・イヤーのダブル受賞をしている子犬なのだ。


マツダは、過去の悪評(安かろう悪かろうのマツダ地獄)からの払拭も兼ねて、「鼓動デザイン」というデザインスタイルを全車種に設定しており、この4代目ロードスターはその第一歩とも言える象徴的な車でもある。現在(2018年)、鼓動デザインは2世代目へと移行しつつあり、最新の同社ラインナップと比べると若干の古さも感じるが、その流動的なデザインは購入して2年が経過しても飽きが来ない。そう、私にとってマツダの「鼓動デザイン」は、飽きの来ないデザインであると思う。初見こそは、スッキリとしていて良いデザインだと思えるものの、あまり大きなインパクトはない。だが、時間の経過と共にそのデザインの深みを感じることができ、いつまでも良いデザインであると思えるようになる

この鼓動デザインを皮切りに、プレミアム路線へとシフトしつつあるマツダだが、それが功を奏したのか、新規の顧客や若年層からの関心は高まっているようだ。私もこの車を買うまでは、マツダのイメージはRX-7RX-8のイメージしかなく、ほかのラインナップも日産との区別があまりよくわからない程度だった。

とは言え、従来のマツダユーザーからは「値切りができなくなった」「ミニバン等のファミリーカーがラインナップから消えた」等の意見もあり、離れていった客も多い。現にマツダの路線変更は道半ばであるということは、株価やそれにまつわる数字を見てもわかってくる。現段階ではこれで良かったのか悪かったのかはわからないが。


もう少しお顔を見てみよう。キリッとシャープな目の上のボンネットとフロントフェンダー周りは、美しく波打つように盛り上がっている。この盛り上がりは、デザイン性だけでなく車幅感覚を掴むための目安としても使える。特にこの手の車高の低い車としては、車幅感覚を掴みにくいものが多い。

ヘッドランプの下にある、左右でハの字を描いているLEDランプは、オプションのLEDアクセサリーランプ(3万1212円)だ。片方8灯のLEDが付いており、イグニッションオンで強制点灯する。少々取って付けた感があり、もう少しデザインを良くして欲しい要望はあるが、車高の低い車なので安全性を高めるために装着した。明るさは昼間でも十分確保されているので、これがあるか無いかで対向車からの認知度は段違いだ。この手の強制点灯をする照明システムは、LEDの普及と利便性を考えると、自動車社会の安全性向上のためには必須装備であると私は考える。


私は、この車で始めてヘッドランプがLEDの車を所持したが、従来のHIDよりも直進性の高さや、より柔軟なリフレクターやレンズを使えることもあり、夜間での視認性の良さに驚いた。

2018年のマイナーチェンジ後は、周囲の道路・交通・環境に合わせて自動的にヘッドランプのハイ・ローの切り替えや、視認性を調整してくれるアダプティブLEDヘッドライト(ALH)が装着できるようになった。マツダのALHに関しては、明るい都市部や住宅街では少し不満点もあるが、他社メーカーの似たようなシステムとしては優秀な部類で、これがあるのと無いのとでは、夜間の運転の快適レベルや安全性が段違いだ。(S、Special Packageに関してはメーカーオプション)

内側のシュッっと細長いランプはスモールランプである。これのデザインはエクステリアデザインと合っており非常に気に入っている。


お尻へと目を移そう。前面のキリッとシャープな顔つきとは真逆で、後面は苦虫を噛み潰したような顔をしている。当初、私はこのマヌケ面がNDロードスターのデザイン面での欠点だと思っていた。だが、このマヌケ面が段々と可愛く思えるようになり、半年後にはこれがエクステリアデザインとマッチした非常にカッコよいデザインだと思えてきた。鼓動デザインの深みとはこの事だろう。けして私がマツダ面に堕ちたわけではない。

ちなみに、納車されて始めて気付いたのだが、ロードスターの英語表記は「ROADSTAR」ではなく、「ROADSTER」である。この名前に関しては、車好きは皆知っているが、実は車のジャンル名を表している。元々は屋根が付いていない幌馬車が語源であり、現代ではオープンカーとして設計された2ドアで2人乗りの車をそう呼ぶ。言わばこの車は、セダンという名前の車や、黄色人種という名前の人間みたいなものだ。ロードスターという言葉そのものが一般にあまり知られていない日本だからこそ使えた名前であり、欧米では首をかしげられる故、もっぱら「MX-5 Miata」という名前で販売している。(Miata:ミアータは、古代ドイツ語で贈り物という意味)


キュートなお尻も紹介したことだし、ここらで中身に移っていこう。

こちらは容量130リットルの荷室。小さめのキャリーバッグが2個入るこのトランクは、入らなさそうで入る。キャンプは無理があるが、1泊~2泊の二人分の荷物を詰め込み、お土産も放り込めるだけの余裕はある。実際にやったから間違いない。普段遣いとしても、仕事でのバッグ数個に、帰り道で買い込んだ買い物袋数個は余裕だ。

この容量は、幌をクローズにしようが、オープンにしようが変わらない。荷物が原因で幌を開けるか閉めるかの妥協は必要ない素晴らしい荷室だ。

荷室は無視されがちな、スポーツカーやスーパーカーにおいて、近年、荷室の確保は非常に重要視されている。ポルシェ 911を始め、マクラーレンやアストンマーチン等、1泊~2泊の荷物を積めることができるスポーツカーやスーパーカーの需要は近年非常に高まっている。そうなんだ。誰だって、お気に入りの車を街やパーティーで自慢するだけでなく、一緒に旅をしたいのだ

私が、候補からコペンやS660を外した大きな理由がこの荷室だ。特に、S660は冗談抜きで傘と靴が一足入る程度の荷室(?)しかない。いくらカッコよいデザインでも、そこまで私は割り切ることはできない。クールな車を普段から使うという快楽は、日々の大きな楽しみなのだから。


ロードスターにはこの他にもまるで山あいの集落の如く、ちょちょこと収納スペースがある。こちらはリアコンソールボックス。小さめのカバンやウエストポーチ等なら余裕で入るのでけっこう重宝する。鍵もかけれるので、簡易的ではあるが貴重品も入れておける。

リアコンソールボックスの上にある取っ手は、幌をクローズ状態にする際に取り出す取っ手だ。NDロードスターの幌の開閉は大変スムーズに展開でき、閉じるのも開くのも慣れれば5秒以内にできてしまう。少しコツさえ掴めば、片手のみの操作もできる。この操作が面倒なオープンカーは、結局そのほとんどをクローズ状態で放置するハメになる。これならば、ちょっと今日は天気が良いからオープンにしようとか、雨が降ってきたのでクローズにしようと気軽に操作可能だ。

言うまでもないが、走行中の幌の操作は、風をもろに受けて危ないので絶対に行わないでほしい。

ちなみに裏技だが、幌を閉じている際に、写真のリアコンソールボックス上の網目状のパーツの後ろにちょうど良い空間が生まれる。本来は幌をしまい込むための予約空間であって、荷室ではないし、あまり重い物は置けないが、ちょっとしたカバンや帽子等を放り込めることができる。自己責任ではあるが、意外と使えるのでオススメだ。

もちろんそこで幌をオープンにしてしまうと、放り込んだものが潰れてしまうし、故障の原因にもなる。


こちらは、助手席と運転席の後ろにそれぞれ付いているストレージボックス。高さと幅は先程のリアコンソールボックスよりも若干小さいが、奥行きは意外とあり、内装は柔らかい布地なので意外と物が入る。

席を倒さないと出し入れできないし、フタはただのはめ込み式なので、ここには普段使わない車検証や、メンテナンスグッズ等を入れている。

NDロードスターになり、スペース確保等のためにグローブボックスがオミットされてしまったが、このようなコンパートメントを活用すれば意外と物が入る


内装は全体的に見てシンプルで落ち着いたカラーリングで、少しレトロ感が漂う。個人的にもう少しスピードメーター周りに現代風のクールさや派手さが欲しいし、質感等は少し安っぽさがあるが及第点ではある。

コペンS66086と比べると一番良いなと思える内装だ。ここらへんもエクステリア同様に好みが別れると思うがどうだろうか?


ステアリング(ハンドル)は細身でステッチの作りも良い。とは言え、私は太めのハンドルが好みなので普段はハンドルカバーを付けている。

オートマチック版ロードスターの泣き所の一つが、せっかくパドルシフトでフランク・マーティンよろしくカチカチ言わせながら遊びたいにも関わらず、デミオやアクセラに付いているショボいパドルシフトと共通な点である。これは非常にいただけなく、テンションも落ちる。操作時の感触もクニックニッとぬるい。

そこで、ケンスタイルのロングパドルシフトに速攻で変更している。15000円ほどするが、フィーリングや操作性は劇的に変わる。他にも他社からはめ込み式のパドルシフト等あるが、絶対にこれに変えるべきだ。値段以上の感動を与えてくれ、運転の楽しさやテンションも上がること間違いなし。

ハンドルを回している最中でも操作しやすいし、カチッカチッという感触はムダに操作したくなる。内外からの見栄えもよくなるし、運転の邪魔にもならない絶妙なパドルシフトだ。マツダ車のその他の車にも使用できるので、オススメである。

現行の2019年モデルでは、ハンドルの上下調整だけでなく前後調整も可能となり、より個々人に合わせた最高のドライブフィールを構築することが可能だ。

マツダ車不評の代名詞であるナビシステム「マツダコネクト」だが、今回のロードスターから日本製のシステムに変更され、ようやく「マシ」なったと言える。トヨタやホンダのようなナビとまではいかないが、スバルと同等くらいにはなったと言える。


シフトレバーはゴクゴクっと言う適度なテンションで動き、操作しやすい。

ロードスターを買おうと決めた当初、やはりマニュアルかオートマを買うかで迷った。ロードスターはマニュアル絶滅危機である現代ですら、どちらかと言えばマニュアルの需要が高く、完成度もマニュアルに重きが置かれているのは明らかだ。私のような不器用者が操作してもノッキングやエンストはしにくく、大変軽快に操作可能だ。ただ、やはり長距離運転や市街地では徐々に疲れが出てくる。それに、せっかくのオープンカーなので、周囲の景色や車の動きをより感じていたいためにも、あえてのオートマチック版を選んだ。

個人的にオートマチック版のもう一つの泣き所が、シフトレバー下のスポーツモード切り替えレバーにある。ご覧の通り、小さいのだ。また、位置も問題だ。操作するには、ハンドルから手を離す→肘を曲げるという二段階の動きが必要だ。そこに、レバーの小ささも相まってより操作性が悪くなっている。私は、スポーツモードは車線変更等で瞬時に操作がしたい場合に積極的に活用したい。そのため、このようなモード変更スイッチは、ホンダ社のようにシフトレバーに備え付けるか、一番良いのはホンダ CR-Zのようにステアリングにはめ込んで欲しいところだ。

電動パーキングブレーキが当たり前になりつつある昨今、このような手動のパーキングブレーキは場所は取ってしまうが、ちゃんとイカリを下ろしたという安心感はある


シートはオプションでRECARO社のものにも変えられるが、純正の方がある程度ゆとりもあって好きだ。身体はちゃんとフィットさせ、運転にビシッと集中させてくれるが、身動きが取れないような閉塞感は無い。長距離の運転でも疲れはほとんど来ない良いシートだ。スペースの関係上リクライニング等はあまりできないが、意外と仮眠時の寝心地もよい。

純正でも大柄な体型の人は少し窮屈に感じるかもしれない。

ロードスターのみならず、マツダ車はオルガンペダルの採用や、ペダル配置を大変よく考えており、非常に運転がしやすく疲れが溜まりにくい。本当に自分の手足の延長として運転できる車だ。ロードスターは、けして恐ろしい暴れ馬やじゃじゃ馬ではなく、まさしく人馬(車)一体を体感できる愛馬となるクルマだ。


ドア内部の上部は流れるような造形とボディカラーでまとめられており、美しい。パワーウインドウ周りのベースだけはカーボンファイバー風樹脂だ。

ちなみにロードスターのサウンドスピーカーだが、買った当初はどんな音源を流してもFMラジオのような音質で最悪だった。幌車なんで、オプションのBOSEスピーカーを付けても知れてるだろうと思って純正にしたのが間違いであったと後悔した。だが、購入して一年…エイジングが染み渡ったのか、当初に比べるとかなり音質は良くなった。特にスカスカだった低音や高温が良く出る。これならば及第点だ。今ではけっこう満足している。


純正のタイヤは、ヨコハマタイヤのADVAN Sport V105(195/50R16)が装着される。後述する、地を這うトカゲの如く道路をグリップしてくれる優秀なタイヤだ。ちなみに、スタッドレスはコスト削減のため15インチにインチダウンして使用しているが、走りに大きな影響は一切無い。これは車そのものが優秀な証拠だ。

NDロードスターの特筆すべき点として、純正のブレーキ性能の高さがあげられる。実に素晴らしいブレーキで、評論家からも、オプションのブレンボを下手すると越え、ポルシェ並のブレーキ性能だと評判がいい。ショートストロークでよく効くブレーキなのだが、例え急制動であったとしても踏み込んだ際に怖さがない。カックンガッツリブレーキでも無いし、車やABSの変なキシミや悲鳴がまったく無い素晴らしいブレーキだ。

なんちゃって感を出したかったので、オプションでブレーキキャリパーを赤にペイント(約1万円)してもらったが、これはただ塗ってるだけで、コーティングも特にされてないのでハゲやすい。


ロードスターの一番の醍醐味は、やはり田舎道をのんびりとオープンで走ることだ。この開放感は、けしてオープンカー以外では味わえない。

空力特性は大変よく考えられており、オープンにしていても窓さえ閉めていれば、頭頂部に風が少し当たる程度だ。

故に、夏場は直射日光もあってオープンカーはキツく、逆に冬場は意外と快適に乗れる。この特性は、乗ってみないとわからない。

駐車をする際も、不安になれば物理的に屋根を取っ払えるのでけっこう便利だ。


オープンカーで外を走ると、いつも通っている道も、まるで違う世界を馬車に乗って冒険している気分になる。

これは意外なことで驚いたのだが、オープン時の風切り音は想像以上に少ない。窓さえ閉めていれば、高速道路を走行時でも助手席の人間と普通の音量で会話ができる

座ったままでも幌が手軽に開閉できるので、雨が降ったり町中で煩わしくなってもすぐ閉めることができる。


風切り音等については、クローズ時の方が車内が静まり、閉塞感が出てくる分目立ってくる。とは言え、後述する心地よいエンジン音や気持ちの良い走りなので気になるレベルではない。

幌の撥水性や耐水性は良い。幌のコーティング剤やスプレー等は購入しているが、まだほとんど使っておらず、普段の洗車とブラシで軽く汚れを取る程度だ。ただ、これに関しては保管状態に左右されるのは言うまでもない。できれば直射日光や雨には晒さず、屋根付きの車庫や車カバーを使ったほうがいい。


NDロードスターのパワートレインはハイオクガソリン仕様のSKYACTIV-Gで、2リッターと1.5リッターの排気量が用意されている。日本国内で入手できるのは1.5リッター版で、2リッター版はハードトップ仕様のロードスターRFに搭載されている。

この1.5リッターSKYACTIV-Gは素晴らしいエンジンだ。当初、国内では1.5リッター版しか発売されないと聞き、少し不安があったが、実際に乗ってみるとまったくそんなことはなかった。まず一番良いのは、このエンジンが奏でてくれるサウンドだ。調子の良いスポーツカーらしく、小気味よい重低音らしい音が素晴らしい。4気筒でたった1500ccとは思えないほどだ。かと言って、近所迷惑や耳障りになるような音ではない。飽きが来ず、アドレナリンをちゃんと出してくれつつも、主張しすぎず、上質さすら匂わせてくれる。

この素晴らしいエンジン音・排気音は、何もエンジンスタート時や、高速道路やサーキットで回してる時だけではない。時速20~60キロと言った、通常よく利用する速度域でもちゃんと奏でてくれるのだ。言うまでもないが、無理に2速や3速で高回転までふかしたり、アクセルをガツンと踏まなくてもいい。何も気構えない普通の運転で、適度な興奮と楽しさを味わせてくれる。

0-100km/h は、8.3秒ほどと抜群に早いわけではないが、これで十分だ。この車は、峠や首都高で吹っ飛ばすお豆腐屋達の車ではない。これは肩を張らず、優雅に気持ちよく、楽しく走るための車だ。そういう意味では、1.5リッター自然吸気エンジンでこの調律をしたマツダ社はさすがだ。これが、大排気量やターボ車だとこうはいかない。変態エンジンや内燃機関にこだわって会社を傾けたメーカーは伊達ではない

こんな楽しいクルマにも関わらず、燃費も良い。普段山あり谷あり市街地ありの道路を走っているが、燃費は年間で見ても16.5~18.5km/Lと、スポーツカーとは思えないほど良いので、ハイオクとは言え経済的にも悪くない。


ロードスターを選ぶ際に色に関しては、もう赤しかないと思った。特に赤にこだわるマツダのソウルレッドクリスタルメタリックの色合いは素晴らしい。この色の美しさは、光の当たり具合によって様々に変化してくれる点にある。特に私は、日陰や曇り、夕暮れ時の少し落ち着いた色合い・グラデーションが大好きだ。

幌やAピラーの黒と合わせるといい塩梅にツートンカラーになるのでこの赤が似合う。個人的な感性だが、すべて同じ色に塗られるハードトップ版のロードスターRFにはあまりこの色は似合わない。RFはマシングレーが一番好きだ。

現在、クルマに対する見方は大きな変化の中にある。燃費や経済性を求められ、このような「遊び車」は一時期は絶滅危惧種となりそうだった。現在は復活をしつつあるものの、シェアカーや自動運転・コネクテッドカーの時代、そして人々の生活様式や関心事の移り変わりを考えると、先行きの不安もある。ただ、そんな時代だからこそ、クルマを走らせることそのものの喜びや楽しさをぜひとも体感してほしい。大枚をはたいて買わなくてもいい。この手の車であっても、マツダやトヨタ、ホンダ等のディーラーに行けば気軽に試乗させてくれる。乗って、体感して初めて見えてくるものや感じるものがあり、我々は効率や合理性のみを求めるロボットではなく、感性あふれる人間だと気づかせてくれる。


NDロードスター VS ロードスターRF

前作のNCロードスターには、幌が電動ハードトップとなったRHT(Retractable Hard Top)が存在した。ソフトトップの幌に比べてメンテナンスも容易で、クローズ時の静寂性や安定性もよく、こちらも人気だった。故に、今作NDロードスターにもハードトップ版がいつか出るのではないかとしきりに噂がされていた。


そして満を持して現れたのが、ロードスターRFだ。(写真手前の白がロードスターRF、奥の赤がNDロードスターだ)

RFは、Retractable Fastbackリトラクタブル・ファストバック)の略で、電動ハードトップを備えていたRHTとは少し違う。それらをNDロードスターとの比較を交えながら紹介していこう。

NDロードスターとの大きな違いは以下の通り。

●パワートレインはSKYACTIVE-G2.0を搭載し、排気量2000CC、エンジン出力は184PS、トルクは205Nmと大幅にアップ。

●全高は1245mm、重量は1100~1130と10mmと100キロ以上のアップ。

●布製のソフトトップであった幌は、アルミ製の電動ハードトップへと変更。オープン時は天板のみオープンとなる。

●荷室は130Lから127Lと、若干ダウン。


まずはクローズ時の外観から。ロードスターRFは、NDロードスターと違い、Aピラー・屋根・Bピラーにかけての色は、車のボディカラーと同じ色になる。それ故に、白のような膨張色を選ぶと全体的にドッシリとした印象となる。こんなものは個人的な好みに過ぎないが、私はツートンカラーとなるNDロードスターの色合いのほうが好きだし、ロードスターRFの場合はマシングレーのようなシマった色が好みだ。


クローズ時を側面から見ると、まるでトヨタ86のようにも見えてくる。ファストバックという名の通り、流れるようなリアエンドが特徴的だ。

屋根をガバッと開けてオープンカーとして走らせるよう設計されたのがNDロードスターだとすれば、RFはクローズ走行がメインとなる。アルミ製のハードトップになっただけあって、クローズ時の静粛性はNDロードスターの比ではないくらい静かだ。


さて、ロードスターRFの醍醐味は電動格納式のリトラクタブルハードトップにある。シフトレバー近くのレバーを操作すると、13秒かけて屋根の開閉が始まる。この開閉メカニズムに関しては、どんな人間をも5才児に戻してまう楽しさがある。まるでトランスフォーマーの如く変形する様は、一日数回は操作したくなる。もし、マツダのディーラーに行って試乗する際には必ず試して欲しい。

開閉に関しては、運転席のマルチインフォメーションディスプレイに変形シークエンスがアニメーションで表示される。こういうところも子供心をくすぐってくる。

開閉にかかる13秒という時間は、マツダ曰く世界最速とのことだが、手動とはいえパッパと開閉できるNDロードスターと比べると遅い。ただし、こちらは時速30キロ程度の低速走行時でも操作可能という利点もある。

このような複雑な機構とはいえ、荷室容量はNDロードスターと比べて3L程度減っただけの127Lを確保しており、オープン時もクローズ時に関わらず容量の変化はない。

ただ、NDロードスターと比べると重量は概ね100キロ増しで、お値段も80万円以上のマシマシとなっている。


ロードスターRFは、過去のRHTとは違い、オープンになるのは屋根とリアウィンドウだけだ。故に、オープン時の開放感と楽しさに関してはNDロードスターと比べると少ない。


ただ、ファストバックスタイルの斜め後ろのデザインはかなり気に入っている。

このボディカラーは、スノーフレイクホワイトパールマイカという色で、約3万円のオプションとなる。


さて、1.5リッターのNDロードスターよりパワーのあるSKYACTIVE-G 2.0の2リッターガソリンエンジンに火を付けてみよう。

まずエンジン始動時だが、1.5リッターエンジンと比べると、少し落ち着いている印象がある。音が低音域を中心に全体的に大人しく落ち着いている。これに関してはつまらなくなったという感じはあまりしない。

NDロードスターでは日常使いである時速20~60キロの速度域で素晴らしいエンジン音を鳴らしてくれたが、RFではどうだろうか?残念ながら、この点に関してはあまり良い音がしない。NDロードスターと比べると、まだ私の本領発揮ではないという感じで寝ぼけた印象だ。


では、高速域や低速シフトで回転数を上げればどうか?こうすると、確かにエンジンルーム内からやれやれ起きれば良いのだろう?という感じでロードスター本来の唸り声が徐々に聞こえてくるが、NDロードスターのように、軽やかで楽しく、適度な上品さと興奮を与えてくれる音ではない。若干の雑音が混じり、何かに引っかかったような音がどうしても聞こえてくる。

今までトヨタ86を始め、2リッターのガソリンエンジン車にはいくらか乗ってきたことがあるが、だいたいどれもこんな感じだ。余裕があり、スポーティーなのだが今ひとつ、アドレナリン貯蔵庫の栓を抜いてくれる一息が足りないのだ。

個人的に最高の2リッターガソリンエンジンは、ホンダ S2000だろう。あれは素晴らしい2リッターエンジンだと思う。


もちろん、排気量が上がったことによる余裕はある。スイスイ・キビキビとした動きそのものはより磨きがかかり、速さを求める人にとってのストレスは減るだろう。0-100Km/hの速度も7.4秒程と、概ね1秒短縮されている。2018年の年次改良で、最高出力は158PSから184PSへと大幅アップし、エンジンの最高回転数も6800から7500へと上がっている。

だが、私は普段からサーキットでしのぎを削ったり、国道や首都高でポリスメンやオービスの手を煩わすような速度を出す人間ではない。普通の常用速度域で楽しませてくれるNDロードスターが好きであり、田舎道をゆったりとのどかに走らせてくれるNDロードスターが好きなのだ。

また、両者とも同じFR車(フロントエンジン・リアドライブの後輪駆動車のこと)で、キビキビとブレることなくコーナリングを楽しめるが、ロードスターRFのほうが若干のトップヘビーというのもあり、NDロードスターと比べると少し振られる感じがする。


あくまで個人的な感想として〆てしまうが、ロードスターはソフトトップの幌車であるNDロードスターのほうが、日常的な使い方としての楽しさは高い。いつもの道、いつもの速度、いつものコーナリング、いつもの景色が別世界となり、日々の鬱憤や消耗を忘れさせてくれる車だ。2000万円を超える高級スーパーカーのように、致死量のアドレナリンを放出させてくれる車ではないが、適度な興奮と大きな癒やし、禅や瞑想の境地にも似た心の平穏を与えてくれる。

ただ、4代続いてきた伝統あるスポーツカーなだけあり、値段以上の完成度は両者とも確実に持っている。価格帯から考えると、ロードスターは今でもお値打ち車だ。