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ジャンル:ドーラン、フェイスペイント
顔に塗る迷彩服である「ドーラン」。落としにくく、何十年も進化らしい進化はなかったが、まるでトカゲの脱皮のように簡単に取ることができる21世紀のドーランはどうだろうか?
執筆時期:2018年10月
SPECS | 性能諸元(カモフラアート)
メーカー名(生産国) | 株式会社オガワスタジオ(日本) |
材質 | 合成ゴム、水、顔料、保湿剤 |
容量 | 10グラム×3色 |
カラー | Aタイプ(グリーン、ブラック、ブラウン)、Bタイプ(グリーン、枯草色、ブラウン) |
販売価格 | 1500円 |
ドーラン地獄からの開放となるか?
軍隊、特に陸軍における戦闘職種でご奉公をしていた人ならわかるかも知れないが、演習や訓練の度に顔に塗らなければならなかった「ドーラン」に嫌気が差していた人は多いハズだ。知らない人向けに説明すると、ドーランは演劇等で使われていた顔に塗る化粧やペイントのことだ。軍隊ではこれを、偽装や敵味方識別の目的で使用している。(欧米ではカモフラージュ・フェイスペイント等の呼称で知られている)
ご存知、迷彩服は顔までスッポリと覆うタイプのものは邪魔なのであまり無い。かと言って、バラクラバ(頭を覆うタイプの頭巾やヘッドギアの類)だと暑いし任意のカラーパターンには変えれないし、防護マスクとの相性も悪くなる。そこで、その時々の状況に合わせて色やパターンを変えれるドーランを顔に塗るのが基本だ。
このドーランだが、塗ったはいいが、訓練後のメイク落としが本当に取れにくく面倒なのだ。特に眉毛や毛穴に入り込んだものは簡単に落ちてはくれない。キツい訓練が終わり、週末はお待ちかねのデートや合コン、泡の出るお風呂と洒落込もうと街へ繰り出すも、ドーランが落としきれてない残念なツワモノ達を今まで数多く見てきた。また、ヘルメット(鉄帽)や銃器等の顔面に触れることが多い装備品にこびりついたものもなかなか取れず、早く開放されたい訓練後の整備が長引く原因になる。
そんな面倒から開放してくれそうな商品が現れた。パーティーや演劇でのラバーマスクや仮装グッズを製造しているオガワスタジオから出たのが、本製品である「Camoufla Art(カモフラアート)」だ。
●本製品はこのような樹脂製のケースに、各色毎にコンパートメントに区切られている。容器はABS樹脂、フタはポリカーボネートなので激しいアクションや重い荷物で負担がかかる演習バッグの中に入れてても安心の頑丈さだ。フタには防水パッキンもある。
→ただ、フタの留め具は少しのテンションで開きやすいので、ジップロック等で袋を二重にしておくことを勧める。まぁ、自衛官ならそんなこと言わなくてもやるだろうが。
●ケースは2つを上下で合体させてコンパクトに持ち運べるようにもなっている。
●フタを開けるとこんな感じだ。一見すると今までのドーランと何も変わらないように見えるが、まず感触が違う。今までのドーランは、固まったバターのような感じだが、カモフラアートは粘度を高めたケチャップ、チューブ入りのカラシのような感触である。
●そのため、片方に傾けていると写真のように時間をかけて内容物が偏ってくる。そして、偏った内容物は乾燥しやすくなるため、そのままへばり付きやすい。また、フタには防水パッキンがあるものの、開閉を繰り返していると偏った内容物が付着してはみ出す。そうするとより一層中の乾燥を早めてしまうので保管の際は注意してほしい。
●本製品はAタイプとBタイプに分かれており、各タイプともグリーンとブラウンを共通の基本色とし、Aタイプにはブラックを、Bタイプには枯れ草色(どちらかと言えばイエローというか辛子色に近い)が入っている。
●写真を見た段階でわかるかもしれないが、各タイプとも共通してブラウンだけがやけに乾燥するのが早い。こうなると、大変引き伸ばしにくくなり、ポロポロと土くれのようになってしまう。ブラウンだけ乾きやすい成分なのだろうか?
●カモフラアートの主成分は合成ゴムだ。手術用手袋や、化粧品等に使われているもので、ラテックスは使用していないとのこと。ラテックスアレルギーの人でも安心だ。
→とは言え、長時間肌につけることも多い製品なので、本格運用する前に少量だけ腕等に付けてパッチテストをすることをオススメする。
閑話休題。ここで従来のドーラン、軍用フェイスペイントを見てみよう。
●これは私の所持品だが、右が新兵教育時代に配られたもの。左が予備として購入したものだ。どちらも、自衛隊の駐屯地売店で入手できる。
●成分はどれも概ね、油性アルコール成分やデンプン、石油の合成品を使用している。女性やこの手のものに詳しい人ならわかるかもしれないが、日焼け止めや乳液のベース、口紅等のメイクアップ化粧品で使われているものと同じである。
→ちなみに、右はクラシエが、左は東色ピグメント株式会社が製造を行っている。どちらも化粧品を製造しているメーカーとしてお馴染みだ。
フタを開けるとこんな感じだ。
●フタの裏は鏡になっている。樹脂製のミラーシートなので、わざわざ別個に割れやすい鏡を用意しなくてもメイク可能だ。
→カモフラアートにはこの鏡が無いのが残念だ。だから私は、カモフラアートを塗りながら、このドーランの鏡でメイクをするハメになった。
●軍用のドーラン、フェイスペイントは、このように箱型のものと、スティックタイプのものに二分される。日本では前者が圧倒的多数だが、欧米では後者もよく見かける。
●では、従来品であるこれらのドーランから塗ってみよう。上段が東色ピグメント製、下段がクラシエ製だ。
→実際に顔に塗った様子を見せたかったが、私の見苦しい顔を見せるのはコンプライアンス上の問題が出そうなので却下。
●東色ピグメント製は彩度が低く、ドーランそのものが少し固めで、指で取りにくく引き伸ばしにくい。
●クラシエ製は彩度が高く、少し柔らかめなので顔に塗るのも楽だ。
●目立ちにくいという観点では、暗めに彩色される東色ピグメント製が良いかも知れないが、サッと塗ることができるクラシエ製の方が私は好みだ。塗った後の違和感もクラシエ製のほうが少ない。
●どちらも、メイクの落としにくさは似たようなものだ。石鹸で顔を洗った程度では到底落とし切ることはできず、硬めのスポンジやタオルで顔をゴシゴシとこすったり、メイク落としを使わないと手間だ。
●さて、本題のカモフラアートだ。こちらは、通常のドーランよりも彩度は非常に高い。
●塗りやすさは、蝋や油脂を含んでいる通常のドーランと比べると引き伸ばしにくい。引き伸ばして水分が無くなってくると、すぐにポロポロと崩れやすくなる。頑張って引き伸ばそうと粘らずに、おとなしく顔に塗っては補充してを繰り返した方がいい。
→予想通り、なぜか乾きやすいブラウンはより引き伸ばしにくく、すぐにポロポロと落ちてしまいがち。カッテージチーズを顔に塗っている気分だ。
●通常のドーランと比べて引き伸ばしにくいので、メイクが完了した顔は、滑らかな彩色にはならず、自分の顔をキャンバスにゴッホが油絵絵画を制作したような感じになる。
→ただ、そのボコボコとしたメイクのおかげで、ツルッとした感じにするのは難しいので、自然界には溶け込みやすいボコボコ・ザラザラとした表面になる。まるで色の付いた泥を顔に塗ったようだ。
●この引き伸ばしにくさに加え、本体ケースに鏡が無いので、ドーラン顔を制作するのに時間がかかりがち。現職の人ならわかると思うが、ドーランを塗らなければならない時は、たいてい時間や他にもやることに追われ、周りもみんなイライラ・ピリピリとしている。通常のドーランと比べてこの塗りにくさは、余計なプレッシャーやストレスの要因になりかねない。事前にしっかりと練習をして、こいつのコツや性格を掴んでおくべきだ。
それでは、本製品最大の特徴である剥がしやすさを見てみよう。
●塗った後、数分以内に表面は薄いゴム皮膜のように乾燥してくる。そうなると、剥がすのは容易で、まるで日焼けや爬虫類の脱皮のようにペリペリと剥がすことができる。
●また、擦ると消しゴムのカスのようにポロポロと落ちていく。
●うまくやれば、水や石鹸等何もなくてもメイクを落とすことが可能だ。この後始末のしやすさと取れやすさは、従来のドーランでは到底到達することができない領域だ。
●カモフラアートを使用して、2夜3日の演習を終えての感想だが、雨程度では落ちにくいが、藪こぎで草木等が当たると落ちやすい。そのため、通常のドーランよりは保美修正に関しては少しだけ頻度が高くなる。
●装備品や服等に付着した場合も、通常のドーランと比べると落としやすい。後始末が楽なのは助かる。
●また、保湿剤が入っているので、剥がした後の肌はしっとりとしていて気持ちがいい。通常のドーランは、なかなか取れないこともあって顔をゴシゴシとこすってしまうことが多く、肌荒れの原因になりやすい。メイクを落とした後のことも考えているドーランは初めてだ。
→ちなみに、ドーランを塗ったことによる、暑さや通気性の悪さは通常のドーランとあまり変わらない。
●カモフラアートは、この他にもパウチ入りの大容量詰替え用(各色1700円)や、目薬のようなプラスチック容器入りのサバゲアート(4色入りで980円)と言ったシリーズ展開をしている。
→また、パーティー用途の鮮やかな色を揃えた商品(ファニーアートやサポートメイク)も揃える。
●ドーランを顔に塗ることは、自分の身体の中で、耳なし芳一のように肌色で浮き上がっている顔を隠蔽させ、自然界に溶け込ませる上でも重要なことだ。どれだけ周囲の環境に合致した迷彩服を着ていても、顔が浮き上がっていては意味がない。かと言って、ドーランを付けて落とすことの負担は嫌になるものだ。本製品は、まだ実践運用をするには荒削り感があるものの、そんな負担から開放させてくれる可能性を感じさせてくれる。今までのドーランとは違う、独特な性質を把握し、コツを掴めばなかなか役立つものではあると思う。ドーランが嫌で嫌でしょうがないモノノフ達は、一度試してみてはどうだろうか?