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ジャンル:ライフルスコープ

コストパフォーマンスに優れたFFP仕様のライフルスコープ

執筆時期:2020年1月

SPECS | 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) VORTEX OPTICS (アメリカ合衆国・フィリピン共和国)
全長 約40.1cm
重量 約885グラム
対物レンズ径 50mm
倍率 5~25倍
視野 (FOV) 24.1~4.8フィート / 100ヤード:7.34~1.46m / 91.4m
アイリリーフ 3.4インチ(8.6cm)
レティクル(いずれもFFP:第1焦点面) EBR-7C MOA、EBR-7C MRAD(本製品)
イルミネーター 赤色LED 1~10段階
使用電池 CR2032リチウム電池
価格(購入価格) 1299.99ドル(2019年9月、985ドルで購入)

バランスの取れたミドルクラススコープ


広大な狩場である北海道で、狩猟を趣味としている親戚が、多忙で放ったらかしにしていた猟銃のライフルスコープにカビが生えてお釈迦になった(泣)という残念な連絡を受けた。製品名はよくわからないが、タスコの10年近く使ったそのライフルスコープは、数々の鉄火場を踏み傷だらけでもあったので、新調したいとのことで後継機に今回紹介する「ボルテックス VIPER PST Gen2 5-25×50 FFP」に白羽の矢が立った。

VIPERシリーズは、ボルテックス社のミドルクラスに該当する製品群で、その中でさらに細分化された内のPSTシリーズはいわゆる中の上と言ったランクだ。初心者がエントリー向け格安スコープからワンランク・ステップアップをするには良い選択肢となるだろう。今回の VIPER PST Gen2 5-25×50はその中でも長距離射撃向けの製品だ。この製品はスコープの倍率に合わせてレティクルがズームするFFP(First Focal Plane:第一焦点面)と固定化されているSFP(Second Focal Plane:第二焦点面)を選ぶことができる。長距離や幅広い距離での射撃はFFPが有利なことが多いので今回はこちらを導入。


表面塗装やコーティングは今まで紹介してきた同社のCrossfireStrike Eagleと同じか少し上程度のクオリティ。少しポリッシュ寄りのブラックだ。ここらへんにはあまりコストをかけてないように思える。

全長は約40cm。この手の倍率のスコープとしては平均的。


重量も885グラムと、平均的~若干軽いといった具合。

全長は長くなるが、付属品であるサンフードを取り付けることも可能。


接眼レンズ(左)と対物レンズ(右)は緑・青・紫・赤紫系のマルチコーティングだ。

また、ArmorTekレンズコーティングが施されており、この硬質なコーティングがほこりや汚れから強固にレンズを守ってくれる。ガラスレンズとも化学的に密着しているので、年月が経過してもハゲることが少なく、過酷な環境下でレンズを守り続けてくれるとのこと。

ちなみにフリップアップ式のレンズキャップも同梱されるので、スコープマウント以外の余計なオプションを特別揃えなくて良いのも嬉しい。


倍率を変更するパワーダイヤルは時計回りに増えていくタイプ。持ちやすい突起は無いが、軽すぎず、重すぎず適度なテンションで回せるので悪くない。最低倍率(5倍)から最大倍率(25倍)に回すには約180度の回転量。

別売りオプション品のSWITCHVIEW THROW LEVER(SV-5)を取り付ければより素早く倍率変更ができる。


左側にはパララックス&フォーカスダイヤル(内側)とイルミネーション調整ダイヤル(外側)の2つのダイヤルが組み込まれている。

パララックス&フォーカスダイヤル(通称はサイドフォーカスノブ)は無段階調整が可能で、目盛りは「25、30、40、50、60、75、100、150、200、300、500、∞」と表記されている。ターゲットまでの距離や自分の目に合わせて調整を行い、ターゲットがくっきりし、顔を少し前後左右等に動かしても問題なければ調整完了だ。長距離向け狙撃スコープにはおおむねこの調整機能がどのスコープにも備わっている。

外側のイルミネーション調整ダイヤルは、10段階の光量調整が可能で、各段階毎に電源オフポジションが設けられていて便利だ。

ただどのダイヤルも少し固めで、なおかつ2つのダイヤルがそれぞれ一箇所に独立して備わっているため、回すのが少しやりにくい。


反対側はレティクルの左右調整が可能なウインデージダイヤルとなっている。

1クリックの移動量は1/4MOAで、一周分の移動量は25MOA、最大35MOAの移動量。

ウインデージダイヤルとエレベーションダイヤルには三箇所六角ネジがあり、それとさらに内側のネジを取り外すことで、ゼロインを行った任意の位置でゼロ位置として基準を作ることができる。(いわゆるゼロストップ機能)

ダイヤルのテンションは適度なクリック感があり、安かろう悪かろうといった感じや曖昧さは無い。


こちらはエレベーションダイヤル(レティクルの上下調整)。1クリックと1回転の移動量は同じだが、最大移動量は70MOA。

ちなみにメートル法を用いる日本人としては、1クリックでおおよそ1cm / 100mの移動量だと考えておけばいい。


エレベーションダイヤル上部には光ファイバーでできたラディウスバーが埋め込まれている。これを見ることで、自分がエレベーションダイヤルをゼロ位置からどれくらい回したのかのザっとした移動量が瞬時にわかるようになっている。

ちなみに、本製品はKENTONインダストリーのカスタムタレットを装着することが公式によって認められており、自分の使用スタイルに合ったエレベーション&ウインデージノブにカスタムすることも可能だ。


また、一部のユーザーが裏技的な扱いで利用しているらしいのだが、バーが正面ゼロ位置を向いている時限定で、至近距離における瞬時の大まかな照準として、ダットサイトのようにこの光ファイバーの先端を基準に射撃を行う手法ができるようだ。~10m以内での精密さよりも速射性が求められる状況下では場合によって使えそうだ。

ウインデージ&エレベーションダイヤルの作りは、この価格帯としては良好で、信頼性や利便性に富んでいる


※人形は各倍率におけるアイリリーフの最大位置に設置

アイリリーフは公式では約8.6cm、実際のアイリリーフとアイリリーフ幅は写真のとおりだ。平均的と言ったところか。アイリリーフ幅が倍率によって大きく変化しない点は良い。

アイボックスに関しては、最大倍率時には少々ケラれやすく狭く感じる。


※画像クリックで拡大可能

さて、距離500メートル、高さ2メートルの位置に青のツナギを設置して照準してみた。まずは最低倍率の5倍率と10倍率から。

本製品はFFP(First Focal Plane:第一焦点面)仕様のスコープなので、倍率に拡大に合わせてレティクルも拡大している様子が伺えるだろう。

レンズの透明度や解像度は全倍率を通して優秀であり、1キロ先のターゲットを狙う超長距離シューターにもエントリークラスとして考えれば使えるだろう。特にレンズ中央だけでなく、周辺部の解像度も高い

10倍率を越えたあたりからだんだんとアイボックス(スコープの焦点が合う範囲)が狭く感じてくる。

色温度は若干暖色寄りに映る。

低倍率時には、中心部のレティクル表示がかなり細かく小さいので周辺環境によっては見えにくいと感じる場合もある。FFPスコープの場合はそういうことも多い。その場合は後述するイルミネーションを点けると良いだろう。

FFP仕様の場合、倍率に合わせてレティクルも拡大や縮小がされるので、どの倍率でもレティクルの機能をフルに発揮することができるという利点がある。

見えにくいが、十字線周辺部の太い左右と下の線は5MRAD毎に区切られている。


※画像クリックで拡大可能

さぁどんどん倍率を上げていこう。こちらは15倍率と最大倍率の25倍

最大倍率になると、写真のように環境によってはフレアが発生しやすくなり、少し霧がかかったような白っぽいイメージとなる場合が散見される。

ただそれ以外の点は、倍率を上げても周辺光量落ちも少なく、先程も言ったとおりレンズ全体を見回しても解像度の高さがわかるだろう

倍率を上げて細かいレティクル表示が見えやすくなってきたところでレティクルの説明を行おう。このスコープは去年マイナーチェンジを受けて「EBR-7C」というレティクルに刷新されている。このレティクルはMOA表記とMRAD表記があり、本製品は日本人としては使いやすいMRAD版をチョイスした。

旧型のEBR-2CからEBR-7Cにアップグレードされたことで、距離に応じた移動目標や風に対してのリードが取りやすくなり、活用の幅が向上した。

中心部の非常に小さなセンタードットは0.4MOAのサイズ。その他線やドット、数字等の表記も細かく描かれてはいるが、太くびっしりと敷き詰められているわけではないので、よほど遠くて小さなターゲットを狙うことを除けば、あまり邪魔には感じない。

レティクル十字線上と左右は、4MRADまでは0.2MRAD、4~10MRADまでは0.1MRAD毎に区切られている。中心部に近い0~4MRADはゴチャゴチャした表記をすると邪魔になるからだろう。

これにより細かくターゲットまでの距離やサイズを導きだすことが可能となる。MRADやミリラジアンによる計測方法は同社の単眼鏡Solo R/Tのレビュー後半を参考していただきたい。

レティクル十字線下部分は0.5MRAD毎に区切られており、さらにそこから左右に0.2MRAD毎にドットが印字されている。これらの紹介した表示と各種弾道計算機や、レーザーレンジファインダー等を駆使することにより、ターゲットまでの距離による弾丸の落下量や、移動しているターゲット、風が吹いている環境下での射撃において適切な回答を得ることができる。

とは言え、どんな状況下でも弾を的確に叩き込む上で必要なのは、しっかりとした経験や分析に基づいたシューターの腕が最も大事なポイントであることは言うまでもない。


※画像クリックで拡大可

イルミネーションのテスト。最低倍率(5倍)と最大倍率(25倍)でイルミネーションを最大光量で灯してみた。

ショートスコープ版のRazor HDやViper PSTと違い、イルミネーションは最大光量で灯しても、薄暗い場所等での照準補助としての明るさしかない。そのため、太陽が眩しい環境下でダットサイトのように扱うという使い方はできない。

即応性が求められるCQB戦等も視野に入れたスコープではないので、この機能で間違いは無い。

中央付近のレティクルを光らせるイルミネーションは、滲んだりズレるようなことはなく、視認性が非常に良くなる。特にレティクルが細くて見えづらい低倍率時の視認性は抜群に良くなるので、積極的に使っていこうという気にさせてくれる良いイルミネーションだ。

光量を落とせば夜間や暗闇でも使えるイルミネーションだが、最小レベルであったとしても、対物レンズ側から見てスコープ鏡筒内で少し光っているのがわかる。

Conclusion | 総評


本スコープは実売価格は1000ドルを切り、概ね900ドル前後で購入可能なスコープだ。この価格帯でこのスコープが手に入るのは悪くない。日本国内でも安いとこだと11万円前後で購入できる

鼻につくレベルで手を抜いているとこは無く、重要な箇所はちゃんと気合を入れて作っている良いスコープだ

タクティカル目的としては、もう少し細めで細かいレティクルの視認性を上げてほしいと思える面もあるが、イルミネーションも駆使すると及第点だ。タクティカル目的のみならず、ハンティングや~1000mといった長距離射撃スポーツとしての目的で使用しても良く、幅広く使える長距離射撃向けスコープだ。

長距離向けライフルスコープにお金をかけれるのは1000ドルが限界…という時に深く考えずに購入してもあまり後悔することがないだろう。予算を1500ドル前後まで拡大したとしても、選択肢に入れても良いと言える。