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ジャンル:単眼鏡

遠近両用使える単眼鏡

検証人数:2人

執筆時期:2024年6月

※本製品の購入等にご協力してくださいました、リコーイメージング様に感謝いたします。本製品はリコーイメージングストアにて購入可能です。

PENTAX VM 6×21 WP購入ページ ↓ ↓

https://ricohimagingstore.com/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=S0063620

PENTAX VM 6×21 WPコンプリートキット購入ページ ↓ ↓

https://ricohimagingstore.com/Form/Product/ProductDetail.aspx?shop=0&pid=S0063621

SPECS | 性能諸元(公式)

メーカー名(メーカー国・製造国) リコーイメージング(日本・中華人民共和国)
サイズ(高さx幅x厚み) 68x101x39mm
重量 150グラム
倍率 6倍
対物レンズ有効径 21mm
実視界 8.2°(143m/1000m)
ひとみ径 3.5mm
アイリリーフ 17.8mm
明るさ 12.3
最短合焦距離 Normalモード 1.5m、Nearモード 0.7m
防水性能 IPX7
希望小売価格 20000円

Pros & Cons | 一長一短

※ここはあくまで、KUSEMONO TACTICALが想定する使い方、視点から見た一長一短です。

※一長一短をわかりやすく表記しているだけであり、項目の数や内容、順番による採点評価ではありません。

優れている点 遠近どちらも無理のない良好な光学性能
  遠近両用の望遠鏡や単眼鏡としては唯一とも言える高い防水性能
  コンパクトな単眼鏡としては珍しく3脚を接続できる
改善を要する点 ピント調整レバーにロック機能が無く握り方や少しの干渉でずれやすい

遠近両用


偵察任務や訓練だけでなく、私は様々な用途で望遠機能のある光学機器を使用する。仕事では様々な展示会や研修に行く機会があるため、「あのドローンに搭載されているカメラは◯△◇で…」「あの訓練展示の射手、さっき操作方法ミスったな」と言った感じで細部を調べたりアラ探しをしてブツブツと独り言を言っている。また、プライベートでは趣味の美術館や博物館巡りの際に使用し、「はぁ~さすがレンブラント、細かい描写がたまんねぇぜ…」「素晴らしい壺だ。装飾で小さなスカラベがくっついているのが実にキュートだ」と言った感じでブツブツと独り言を言っている。このように、規制線が張られ100メートル以上離れた射手から、数十センチ先の古代エジプトの壺に至るまで遠くから鼻先まで柔軟に見ることのできる望遠鏡や単眼鏡の類がこの世にはあり、一定の需要を満たしている。


ただしこれらの単眼鏡だの双眼鏡のほとんどには「防水性」が付与されていない。雨が降ったら屋根のある場所に避難をするようなことが許されないガチなアウトドア好きや、各種訓練をする者からしてみると、戦車のような耐久性はまだしも防水性だけは最低でも確保したいものだ。そんな要望を満たしたものが今回紹介するリコーイメージング – PENTAX VM 6×21 WPという単眼鏡である。

まずはこの特異な形状を見てくれと言いたいところだが、超小さいデジイチPENTAX Q10令和の時代にまさかのハーフサイズフィルムカメラPENTAX 17と言ったユニークな商品を多数展開してきたPENTAXブランドだと思うと納得がいく。

また、ペンタックスと言えば遠近両用の望遠鏡代表格として有名な「PapilioII」を出している。同じ機能性を単眼鏡で出すことはある意味で定めだったのかもしれない。

この奇抜な製品、元々はクラウドファンディングサイト「MAKUAKE」にて単眼鏡、双眼鏡、望遠鏡の3変化が可能な変態光学機器「VD 4×20 WP」と共にVシリーズとして出資を募り具現化したものだ。


全長は10cm、実重量は149グラムであり、長さはこの手のコンパクトな6倍単眼鏡としてみれば平均的で重量は少し重いくらい。ただ全体的に樹脂素材で構成された部分が多いので数値よりは軽く感じる。

側面のカーボン調樹脂パーツは、よく車でもスポーティー感を演出するために使われているが正直個人的には安っぽさが出てあまり好きではない。

実際質感は可もなく不可もなくで、高級感は感じられない。まぁ実用的な製品なのでここらへんはどうでもいい。


ユニークなのは外観だけでなく操作方法にもある。上面のグリップ部はシーソー状に動かすことができ、ここを動かすことでピント調整が可能となる。

写真のように奥に倒して近接、手間に倒すと遠方へのピント調整である。

そのため、片手で保持しまま非常に素早く遠方から近距離までのピント調整ができる利点がある。

ただしピント調整機構は少しの力で動いてしまうと同時に、少し動いただけでも合焦距離の移動量が大きい。そのためピントを動かしたくなく対象物をじっくり見たい時、ピーキーなスロットルコントローラーを搭載した改造車を一定速度で走らせろみたいに、このグリップ部を保持のやり方を工夫するかいっそのこと触れないか等しないといけない。

実に惜しい。もしこのピント調整機構グリップにロックできる機能があれば、使い勝手は格段に上がるだろう。


21mmの対物レンズはラバーコーティングされたフードの少し奥まった位置に配置されている。

プリズム方式はダハプリズムを採用。小型化がしやすいと共に、遠近メリハリのあるピント合わせがしやすい利点があるため採用されたのだろう。


ちょっと裏返して底面を見ていこう。

対物レンズ側にはモード切り替えリングがあり、普段は最短合焦距離(ピントが合う最短距離)1.5mの「NORMAL」で、反対方向に回すと最短合焦距離70cmまで近づける「NEAR」への切り替えが可能。


その後方にはストラップを通すバーと1/4インチの3脚ネジ穴がある。

この手の小さな単眼鏡には三脚を取り付けれないことが多いので嬉しい装備だ。これにより、安定して500m先の敵陣地を監視したり、足元のヒアリの巣も観察することが可能となる。


接眼部はアイカップも可動部も無いシンプルな構造となっている。アイカップの有無は好みが分かれるかもしれないが、メガネをかけている身からすると無い方が使いやすかったりする。


付属品のベルト通し付き携帯用ポーチも変わった形状をしている。

双眼鏡全体を覆って収納するものではなく、まるで拳銃のレベル2ホルスターのように上になる接眼部をフリップアップ式のループで本体を留めている。

正直普通の中にすっぽりと収納できるポーチのほうが保護能力もあるし、なんなら取り出しやすいとも思う。特にレンズを保護するキャップ類は一切付属していないのでよりそう感じる。

アップダウンが激しかったり藪漕ぎが多いエリアで活動する場合はこれではなく別のポーチなり収納容器を使用することを推奨する。


公式によるとアイリリーフ(視野が確保できる前後距離)は17.8mm。しかし実際には19~20mmほどあるように思える。

もちろん上の写真のように離して除くと像はだいぶケラれてしまうが、私のようなメガネ野郎であってもメガネレンズに接触させて見て単眼鏡の実視界の7~8割くらいは見える。少なくとも以前レビューした単眼鏡「VORTEX Solo Tactical R/T 8×36(公式アイリリーフ18mm)」よりはアイリリーフは長い。

特異な外観ではあるが、片手での持ちやすさと携帯の邪魔にならない大きさのバランスは実に取れている。装備に加えても苦にならない。

防水性もIPX7(水深1mに30分沈めて浸水無し)を確保しているため、ゲリラ豪雨を喰らおうが川を渡ろうが何とも無い。それこそ偵察訓練に投入して汚れたため水道での丸洗いも何も問題無かった。

ただし耐久性に関してはミルスペックだの落下試験○○メートル合格とか言うわけでは無い。そういうのを求める人が買うものではないだけの話だ。


まずはいつもスコープだのダットサイトだので使用している公園で100m先に青のツナギ服を吊るして覗いてみよう。

実視界は8.2°(143m/1000m)であり、これは同じ6倍率のLPVOの2倍前後の視野を確保できている。コンパクトな6倍率単眼鏡として見れば並ではある。

月明かりのみで使用するのは少し厳しいが、夜間の都市部や住宅街程度の暗さなら多くを求めなければ使える明るさではある。

これくらいの距離は万人にとってピントが合いやすく解像感は非常に高く感じる。


もう少し遠くを覗いてみよう。今度は700m先の携帯電話基地局を覗いてみた。

1万円台で買える価格とレンズの大きさからしても、解像度や立体感は良好であり基地局構造物の細かいディテールまで手元にあるかのようにわかりやすい。

レンズ周辺部で色収差や解像の甘さが出てくるものの、この価格帯からしてみれば並かちょっといいくらいだろう。

ただし個々人の視力によってはこのような100m以上遠方へのピント合わせがあとほんの少しで合わないと思えることがある。私より度の大きなメガネをかけている研究員はこの基地局へのピント合わせがあとほんの少し足りなかったとのこと。実際私も許容範囲内ではあるが、重箱の隅をつつくレベルで遠方へのピント合わせは甘さを感じる。


ここからは手元に寄ってみよう。これは我が研究会事務所の庭で育てているミニトマト(アイコ)である。エンゲル係数が青天井になりつつある昨今、研究員達の昼食の一品にもなっている貴重な食材だ。

最短70cmまで寄れるこの単眼鏡はこのように植物や昆虫観察にも実に良い。被写界深度が浅くなるためピントが合っている対象物の立体感はより深まる。

トマトのヘタ部分の微細なトライコーム(毛)までしっかりと描写されており、何気なく見ている身近な物であったとしてもこれで覗くことで未知なる世界があったことを知れる。


こちらの写真は同じく庭に植えているアジサイを最短距離より更に近づいた60cmくらいの距離で覗いた様子。さきほどより少しピントの甘さが出ているがこれくらいまで近づくこともできないわけではない。

近接まで見れる機能を持ちながらも、遠方も含めてどの距離でも大きく破綻や崩れることなく見ることができる光学性能はよく練られた設計であると感心する。

また、この単眼鏡にはより多用途に使えるオプションモリモリのコンプリートキットなるものもあり、こちらにはスマホのカメラレンズ前に装着して撮影ができるアダプターの他、LED内蔵のクローズアップレンズを装着すると18倍の顕微鏡としても使用できる。 

Conclusion | 総評


希望小売価格は2万円、実売価格は概ね1万6000円前後で買える本製品。もっと近くまで寄れて価格も安い同じ遠近両用単眼鏡としてはサイトロン – SAFARI 8-25×25BKVixen – H8x20もあるが、PENTAX VM 6×21 WPと比較すると光学性能は劣るし何より防水性能が無い。

本製品は手に届きやすい価格ながら、遠近どちらの光学性能も良く尚且つ防水性能まである唯一無二に近い製品だ。遠方も手元もガンガン見てやるぜ!という人だけでなく、普段は遠方ばかり見るがたまには近くの物も見て新しい世界を見てみたいかもという人にもオススメできる。自然観察や博物館、美術館巡りが好きな人へのプレゼントとしてもいいかもしれない。

はっきり言うが遠くを見るという用途だけの人は普通の単眼鏡を買ったほうが、同じ価格帯なら光学性能からしても断然いい。また、兎にも角にもピント調整機構が動きやすいため覗く度に合焦距離が変わっていることが多くストレスが溜まりがちだ。

言い方を変えればこの唯一とも言える弱点をロック機能を付けるなりして改善してくれればより完成度と実用性の高い素晴らしい多用途単眼鏡となるだろう。