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ジャンル:ボールペン、タクティカルペン

そんな用途じゃないただのボールペンだが、一部のユーザーからタクティカルペンとして長年支持されているゼブラ社のペン

執筆時期:2020年1月

SPECS | 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) ZEBRA(日本・インドネシア)
全長×ボディ径 約13.4cm×0.99mm
重量 30グラム
ボディ材質 ステンレススチール
替芯 F-0.7芯
価格(国内価格) 7ドル前後(700円前後)

ゼブラの格安タクティカルペン?


「ペンは剣よりも強し」という言葉があるが、実際の殺し合いで剣ではなく、ペンを持って戦おうという人はまずいない。それにも関わらず、護身用具界では「タクティカルペン」などと言う、ペンに攻撃性を付与したおもしろ商品が後を絶たず出てきている。理由は簡単だ。ペンは多くの人が日常的に使っている必需品だからだ。学校に行こうが、選挙に行こうがペンは必要であり、頭が正常であれば、銀行や大使館に行く際に、銃やカランビットナイフを持っていく人はいない。そんな誰が持ってても不自然でなく、使用頻度が高いものであるからこそ、そこに武器としての攻撃能力を付与しようと考えが生まれたのだろう。わざわざ武器を持ち歩かなくとも、万が一の際には武器になり、しかも表向きは「This is a pen!」と言い張ることができるので、武器を携行するのにうるさい地域や、隠し持つ際に有利とのこと。何よりも、普段は契約書や請求書へのサインや、備忘録として手に書き込む際に役立つ。

しかし現実を見て欲しい。タクティカルペンなどと名乗っているものに、平和的なペンとしての外見をした者はいない。どう控えめに見ても、血の気の多いクリンゴン人やプレデターの装備品にしか見えない。おかげ様で傍目には好ましく映らないし、我が国のような武器の携行が厳しく制限されているエリアでは、タクティカルペンそのものが武器としてマークされており、最悪軽犯罪法に抵触するという本末転倒になっている。


そんな中、我が国の文具メーカーであるゼブラ社の「F-701」というボールペンが、海外のサバイバリストや、格闘・護身マニア達の間で大きく支持されている。最初に断っておくが、このペンはタクティカルペンではなく、ただのボールペンだ。誰かの肉を刺し、目玉をくり抜くために作られたものではない。この製品が、タクティカルペンとして非常に大きく支持されている理由は、

ボディはほぼ金属製でありながら、武器に見えるような外観をしていないごく普通のペンの顔をしている。

タクティカルペンとして使える強度や攻撃性等を持ちながら、7ドル前後で買える格安価格である。

と言った点だ。

また、元米海軍特殊部隊員であるクリント・エマーソン氏を始め、多くの著名武術家やサバイバリスト達がこのペンが護身用具として有効であると様々な媒体で発言したことにも拍車をかけたようだ。


本製品は、国内のゼブラ社のラインナップでは基本的に流通しておらず、北米での販売がメインとなっている。だが、このペンの噂は国を飛び越え、今では我が国でも700円前後の価格で輸入版を簡単に購入できる。

全長約13.4mm、直径1mmほどのステンレス製のボールペンだ。

ボディはすべてステンレス製に見えるが、ノックバー根本の部品だけ黒いプラスチック製となっている。


製図用途のボールペンのように、グリップ部は一体型のローレット加工がされているタイプとなっており、プロ向けの職人道具といった雰囲気が漂う。


重量は約30グラムで、先端に適度なウェイトがかかっており、ローレット加工されたグリップのおかげで持ち味やコントロールは良好だ。

クリップもステンレス製で、先端が折り曲げられるように引っ掛けがついている。

ノックバーのクリックした際の感触は若干柔らかめで、シャキッと言った静かめのクリック音となっている。静かな場所でペンを使用する際に使いやすい。サイレントクリッキーだ。


書き心地はまぁまぁと言った程度で、たまに出てくる掠れが気になることも。日常的に軽く使う程度なら問題ない。


挿入されているリフィルは同社のF-0.7芯。黒の油性インクだ。

写真のF-0.7芯は旧型で、ペン先以外はプラスチック製のリフィル(替芯)。現在流通しているものは、ペン先の一部を除いて金属製のものとなっている。

あまり書き心地の良くない替芯は、メーカーは違うが、三菱の Power Tank SJP-7 0.7芯が流用可能とのことで、これを使っている人も多い。


F-701の強度だが、確かにタクティカルペンとしてとりあえず使えるレベルの強度は持っている。木に10数回打ち付けても、構造そのものが壊れることはなかった。

だが、替芯が樹脂製であるので、ペン先を出した状態で打ち付けると芯そのものは簡単に壊れてしまう。また、クリップは角は取られているとはいえ、薄いステンレス板を曲げただけの作りなので、素手でインパクトを与えた際に、怪我をしてしまう恐れがある。現に、実験中にクリップで少し手のひらを切ってしまった。

そこで、世のカスタマイズ好きな人達は、このペンを少しの工夫で改良する方法を編み出した。それには、写真に写っている同社のボールペン「F-402」が必要だ。

F-402は、F-701の廉価版に位置するようなボールペンで、グリップは独立したラバー製になっているが、F-701で樹脂製だったノックバー根本はステンレス製となっている。このお互い足りない箇所を補うように、F-402のパーツをF-701に移植するのだ。手順は以下の通り。

1:F-701のペン先を回して取り、ペン先内部にある半透明なアダプターを取り除く。

2:F-701のノックバー根本の黒い樹脂製パーツを持つように回して、ノック機構を取る。

3:F-402のノック機構はそのままだとネジロック剤のようなものが塗布されており、回して取りにくいので、ノックバー根本に近いチューブ付近をライター等で少し炙る。すると、接着剤が溶けて「手順2」のように回して取れるようになる。

非常に熱くなるので、軍手等の手袋をしてほしい。


5:ここまで行ったら、もう一つ用意するものがある。替芯が樹脂製だと強度が心もとないので、タフでどんな環境下でも書けると有名な、フィッシャー社のスペースペンの替芯を用意する。

いっぽう、ロシアは鉛筆を使った。

6:スペースペンの替芯に、F-701の替芯に付いていたバネを装着し、F-701チューブ内に挿入してペン先を取り付ける。

7:クリップとノックバー、ノック機構に関しては、F-402のものを取り付けて完了。

わかりにくい場合は、Youtubeで「 F-701 F-402 mod 」等の検索ワードで調べると動画解説が出てくるので、そちらを参考にされたし。


これにより、オール金属のF-701(改)が完成する。

ボディ外観はすべて金属製に変わったことで、全体的な高級感やまとまりが向上し、F-402のものに変更したクリップにはメーカーロゴや製品名すら書かれていないので、よりシンプルなデザインに拍車がかかる。

また、F-402のクリップはF-701のそれに比べて丸みがかかったデザインなので、刺突等のインパクトを与えた時に持ち手にかかるダメージを軽減させる

ただ、個体差や工作の技量によっては、ノックバーをクリックする際に擦れるような違和感や、クリックがうまくいかない場合がある。使っていくとうまくいく場合や、少しの調整で改善されることがあるので、煮詰めることが大事だ。

スペースペンの替芯そのものの書き心地は良いものではないので、タフネス性能よりもその点にこだわりたい人は留意を。


F-701改を使って、格闘訓練や、木への刺突や打突を行ったが、リフィルをスペースペンにしたおかげで、リフィルそのものの強度は上がっている。ただ、ノック機構そのものは何回かやっているうちに壊れてくるのは仕方ない。

このようなボールペンに、このような改良方法が確立されていることに驚いた。それだけ、このゼブラ F-701に対するファンが多いということだろう。

Conclusion | 総評


タクティカルペンはどれも数千円、高いもので1万円以上するものも少なくない。このゼブラ F-701は、そういう設計思想の元で作られていないとは言え、わずか7ドル前後で、タクティカルペンとして使えるレベルの強度、実用性を持ち、そして何よりも武器に見えない、シンプルで空間や持ち物にスッと溶け込める威圧感の少ないデザインが良い。

ただ、大前提として言っておくが、ボールペンを武器として扱う時点でどうかと思うし、こんな物を武器としての利用も考えて普段から携行する発想なぞ論外だ。万が一のセキュリティー事案に備えたいのであれば、もっと文明人らしく、他にやるべきことや備えることがあるはずだ。刃物相手にボールペンで立ち向かうような人は、記憶を無くした元暗殺者だけで充分である。

ちなみに、このF-701にわざわざ別製品を移植してまでフルメタルにしたがる人気っぷりを鑑みてかどうかは知らないが、ゼブラ社から上位版もしくは後継機とも言える「F-xMD」という製品が2019年に出た。値段こそ1000円前後に上がってはいるが、フルメタル仕様である。