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ナイフメーカーのベンチメイド社と、法執行機関向けの戦術教育を行っているS.O.C.P.がコラボした、まるでクナイのようなユニークなナイフ。閉所や、組み付かれた際の「ゼロ距離戦闘」を生き延びるため生まれたナイフを紹介しよう。
SPECS | 性能諸元
メーカー(生産国) | BENCHMADE(アメリカ合衆国) |
全長 | 18.42cm |
刃渡り | 8.18cm |
重量 | 62.37グラム |
ナイフ材質 | 440C ステンレス鋼 |
価格 | 単体:115ドル トレーナーとのセット:145ドル |
バリエーション
本ナイフは、ダガーナイフである同社製品「SOCP Dagger」の派生としての製品である。日本のように、ダガーナイフの所持が難しい地域や、その他作業用としての利用を見込んだものだ。
このナイフは、法執行機関向けに近接戦闘を得意とした戦術教育を行っている、S.O.C.P.(Special Operations Combatives Program)創設者のGreg Thompson氏が、米陸軍特殊部隊を始めとする法的機関を渡り歩いた経験を元に考案し、ナイフメーカー大手のベンチメイド社が製造・販売を行っている。
当初は「COMBO EDGE」(直刃と波刃が両方付いているという意味でのCOMBO)という名で販売していたが、訓練・練習用のトレーナーとのセット販売品と勘違いされる等の関係で、現在では「SPEAR POINT」という名前で販売されている。
本製品とダガー以外のバリエーションとして、基本デザインは共通で、訓練・練習用の「SOCP Dagger Trainer 176T」、レスキュー用の「SOCP Rescue Tool 179GRY」がある。
命を守る「懐刀」
このナイフの一番の特徴は、440Cステンレス鋼で刃と持ち手が一体となったボディと、持ち手側のリングだろう。カランビットナイフ同様、このリングに指を通して使用する。リング上部にはセレーションが設けられており、逆手持ちの時にここに親指を置くことでグリップ力が増すように設計されている。このリングのおかげで、行動中や、絡み合いで敵に落とされたり、奪われたりと言ったリスクを減らすことができる。
また、このリングを利用することで、ナイフを持った状態で、行動の幅が広がる。
例えばこのように、銃器との併用をする際も、ロープロファイルな形状と相まって、安定したグリップができる。やってみればわかるが、ライトやナイフ等、銃器以外にも片手に何か持った状態で、射撃をした際は、銃の反動で持っている物がグラつくわ、銃のグリップは悪くなるわで、戦術的・精神的にあまりよろしくない。このナイフだと、銃もナイフも安心して持つことが可能だ。
他にも、リングに指を通してるおかげで、ハンズフリーとして別の作業も同時並行で行うことができる。このように、弾倉の交換もお手の物だし、格闘技との併用もできる。この特性を利用して、ワークナイフとして利用するのも面白いかもしれない。
グリップ部分は、指に合わせて凹みが設けられている。このグリップは欧米人の手の大きさに合わせているので、小柄なアジア人だと少し合わない面もある。ナイフにしろ、銃や他の道具にしろ、この手のグリップはマッチする人には良いのだが、万人向けでは無いのが泣き所だ。
刃の近くにもセレーションがある。このセレーションのおかげで、本来は逆手持ちとして設計されている本製品だが、順手としても把持することが可能だ。その場合はリングには小指を入れる。
刃は直刃と波刃の2つがついている。切れ味は、まぁまぁあるが、この価格帯のナイフだとそこまで良い切れ味という感じではない。
シースとセットで真価を発揮
付属のシース(鞘)は、このユニークなナイフの真価を発揮させてくれる。単なるナイフを収めて携行するだけの筒でない。
竹のような形状の樹脂製のシースで、タンカラーとブラックの2色を選べる。普通のナイフに付属しているシースと違い、背面にベルト通しは無く、代わりに前面にマット処理された金属製クリップが設けられている。クリップの先端には、衣服や装備品を傷つけないように、滑り止め付きの軟質性樹脂が付いている。クリップのテンションそのものは、そこまで高いわけではないので、過信は禁物だ。また、ストラップホールが上下に2つあり、底面には水抜き用の穴が付いている。クリップそのものは、星形のトルクスネジで止められていて脱着が可能。
竹のような形状のシースは、MOLLE製品に装着することができるようになっている。MOLLEウェビングを有しているカバンやポーチ、装備品へと利用の幅が広がる。
また、クリップを利用して、スーツやシャツ、パンツの裏に装着して、目立たず隠し持てるコンシールキャリーが可能だ。自分の好きな場所にこのナイフを装備でき、尚且つ目立たずロープロファイルに装備できる。このことから、EDC(Every Day Carry:毎日持ち歩く)として、護身目的で所持している人も多い。言うまでもないが、日本でこのナイフの日常的な携行は銃刀法違反となるので注意されたし。
ただ前述もしたが、クリップのテンションはそこまで高いわけでなく、使用しているうちに緩くもなるし、シースそのものも、ナイフの保持力がスカスカになってくる。抜刀した際に、シースごと抜けてしまいましたと言った間抜けな状況や、ナイフの脱落と言ったことにもなりかねない。付属でパラコードも付いているので、ストラップコードになんらかの脱落防止策を設けることをオススメする。
絶体絶命時の助け舟
抜刀に関しては、素早く抜くという意味合いでは通常のグリップのシースナイフと比べると、どうしてもリングに指を通す→抜く→握るというワンステップ多い手順から若干遅くはなる。練習すればそこまでの差はなくなるが、リングに指を通すという細かい手順を踏まないと抜けないので、高ストレス下では抜刀ミスとなる危険性はある。なんにせよ練習は必要だ。
ただ、ロープロファイルな設計や、リングのデザインから、かなり無理な姿勢でもナイフを抜くことができるという利点は大変評価できる。取っ組み合いや、寝技を掛けられると言った「ゼロ距離戦闘」の場合、体格の差は顕著に表れ、しかも先に仕掛けられたとあれば素手での対処はより難しくなる。かと言ってこうも密着されれば、ライフルのような長物はもちろんのこと、拳銃すらも使用できない場合も多い。そこでナイフの出番だと言っても、通常のナイフだと、体位によって抜けれない!という絶体絶命な状況はかなりある。しかしこのナイフは、逆手でのグリップと相まって、そのような状況でもナイフを抜き、尚且つ反撃に移れる余裕を与えてくれる。まさに最後の命綱となるかもしれないナイフだ。