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ジャンル:ブーツ

抜群のフィット感で飛んだり跳ねたり、長距離行軍だってへっちゃら。LOWA社の万能タスクフォース向けミドルカットブーツ。

執筆時期:2018年9月

SPECS | 性能諸元

メーカー名・国(メーカー国・生産国) LOWA (ドイツ連邦共和国・スロバキア共和国)
サイズ USサイズ7.5~14(日本サイズ25.5cm~31.5)
アッパー素材 ナイロン、スウェード
カラー Black(本製品)、Coyote OP、Desert、Sage、Beige/Blowa、Wolf
価格(購入価格) 210ドル (2014年 133ユーロで購入)

包み込まれる快感はまるで第二の足

私は某国防組織に数年間身を置いていた時期があった。

そこでは私の想像を上回る、時代遅れで柔軟性の低い官僚主義的組織構造の元、生産性と効率の悪い日々の業務をこなし、実戦で役立つのかどうか疑問な、戦闘訓練をたまに行い、日々消耗していた。そして何よりも、己の要求基準を満たさない自身の低性能に嫌気が差していた。大変愉快で、思いやりのある同期・部下・上司達に囲まれての日々は楽しいものではあったが、それ故にいつか彼らに、とんでもない迷惑や損害をかけてしまうのではないかという不安や恐怖があった。そんな日常からの逃走、今まで鍛え・蓄えてきた戦闘知識や技術の実戦テスト、修羅場の空気や現実を感じ取りたいという気持ち、そして、自己に対する文章にすることすらバカバカしい様々な気持ちを処理するために、混迷と地獄を繰り返しているとある国へと渡った。

この時、いわゆるミリタリーだのサバイバル、セキュリティー系の装備品等はほとんど持っていかなかった。極力我が身一つで試してみたかったのもあるし、何より空港や検問所等の「チェックポイント」で面倒が起きるのを避けたかった。とは言え、一つだけどうしても本格的なものを揃える必要性があった。それは「」だ。その時持っていたBATES社のDELTA8は、サイドジッパーが破損していたので、過酷な現場なぞ論外だ。いや、壊れていようがなかろうと耐久性の低いサイドジッパーな以上は、そのような場で使うものではない。また、同社のZR-6は購入後数ヶ月でお釈迦になるクオリティだ。今回滞在するエリアは、交通インフラを期待する方がバカと言ってもいい地域だ。しかも、そんな場所に1年近く滞在する挙げ句、命のやり取りをする可能性の高い仕事をしようと思っていた。どう考えても最も信頼できる交通手段は、話題のLRTでも、世界のTOYOTAでもなく、「己の足」である。まともな靴を入手しないことには、死活問題に直結する。


こうして、様々なメーカーの靴を吟味して辿り着いたのが、LOWA(ローバー)社の「Zepher GTX Mid TF」だ。LOWA社はドイツで90年以上の歴史を持つ、ハイキング・トレッキングシューズメーカーである。山あり谷ありの地形を、快適に歩くことができる靴として、特にアウトドアアクティビティを愛するユーザーからの評価が高い。そんなLOWA社のTFライン(Task Forceの略)は、ヘビーな環境での任務が多い法執行機関向けに作られ、特にZepherシリーズはヨーロッパの特殊部隊や民間警備会社に人気のモデルである。今回購入したものは、ゴアテックス素材を挿入したミドルカットモデルだ。


一度見ると忘れることができない、特徴的なアウターソール形状のミドルカットブーツである

アッパーは、側面部をスウェード素材、中央部を通気性が良く軽量で丈夫なナイロン素材に使い分けている。

スウェードは、子羊や子牛革の裏面を起毛させた革製素材。水に強く、メンテナンスがしやすいという利点がある。


側面部

MONOWRAPという非常に特徴的な形状をしているサイドアッパー。まるで山脈のように足を取り囲むように配置されたアッパーが、足を側面から包み込み、抜群のフィット感を生んでくれる。

そのフィット感は素晴らしく、靴紐を結ばないどころか、取っ払ってもスタスタと歩けるほど。自分に合ったサイズさえ選べば、靴を履いているというよりも自分の足を拡張してくれる、第二の足としての心地よさがある。今まで様々な靴を履いてきたが、この感覚は異次元だ。どこまでも歩いて行けそうな気分にさせてくれる。


このおかげで、激しいアクションをした際も靴の中で足が暴れたり浮いたような感じはせず、思うがままに動くことができる。


前面部

前面部はファブリックナイロン素材となっており、軽量で高い柔軟性を持っている。そのため、前述した側面のMONOWRAPで足をしっかりとホールドサポートしながらも、動きにくさが生じることは一切無い。

靴紐は丸型の少し太めの靴紐で、結び方によっては解けやすいが、優しいフィット感向上になっている。

アッパー周りの柔軟性は低下するが、前面に厚手のスウェードレザーを張り合わせた、よりタフな耐候性を持ち合わせた同社の上位機種「Z-6S GT」もある。


靴底

靴底は耐久性が高く、グリップ力も良い。この靴を履いて山の斜面を駆け下りたり、格闘技やパルクールをしたことがあるが、靴のせいでスリップをしたり恐怖を感じるようなグリップ感はほとんどない。

ただ、靴底が濡れている状態でツルツルのタイルのような地面を歩くとキュッキュッと音がするので、室内での隠密行動をする際は注意してもらいたい。

砂利等の細かいゴミが中央部の十字の切れ込みに溜まりやすいので、メンテナンスの際には少し除去が面倒ではある。


靴内部にはゴアテックス素材が内張りされている。これにより、防水性と通気性を両立させている。

このタイプは、ゴアテックスブーティーというゴアテックス素材のソックスのようなものを靴内部に仕込むタイプだ。本製品は、靴の底面を除く側面・後面・前面部で足をゴアテックスで包んでいる。

個人的に通気性に関しては、非ゴアテックスブーツに比べればマシかな?っていう程度。防水性に関しては、浅い水場を素早く渡る程度なら大丈夫で、豪雨や雪の中でも良い働きをしてくれている。


付属インソールは、薄手の柔らかいタイプのもの。ショックアブソーバーとしての機能はまぁまぁ悪くないのだが、長距離の行軍だと疲れが少し出やすい。耐久性はあまり無いだろう。


と、いうことで普段は愛用のスーパーフィートのグリーンを仕込んで使用している。足本来の形をキープし、クッション性能を高める硬質タイプのインソールで、立ちっぱなしの任務には向かないが、長距離の行軍やハードな登山には強く、疲労軽減や足の損傷を抑えてくれる強い味方だ。扁平足の私にはこれがないと始まらない。

また、徒歩行軍の無い軽い訓練や日常的な行動では、靴紐が解けることなく、脱着がしやすいようにゴム紐とコードストッパーを組み合わせて使用している。大変利便性が良い。


私は、普段の靴のサイズは25.5~26cmのものを選んでいる。今回選んだサイズは、EUサイズで40(UK:6 1/2、US:7.5、センチ:25.7cm)のものをチョイス。この靴をヨーロッパのショップから購入した際に、私は扁平足というのもあり、サイズが合うかどうかの不安があったが、まさしく理想としていたピッタリのサイズであった。

この靴のおかげで、臆病風を吹かして早期帰国した半年とは言え、異国の地での酷い労働環境に耐え、その後の徒歩での一人旅も堪能し、こうして呑気に靴のレビューを書いている。無事に帰国できる確率は半々くらいだろうなと思いながら母国を後にしたが、この素晴らしい靴が私を再び母国へと帰してくれたと言っていい。その後も、大きな旅行や、訓練等では必ずこの靴を履いている。様々な地を自分の足で歩くことが好きな私にとっての最高のパートナーである。

異国の地でどんなバカなことを行い、どんな愉快な連中とじゃれ合い、どんな目に合ってきたかに関してはまた別の機会にでも。