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ジャンル:単眼鏡、レンジファインダー、モノキュラー
ハンターや偵察隊向けの、レンジファインダー機能付き単眼鏡
執筆時期:2017年:12月
※本製品を提供してくれたT氏に感謝致します。
SPECS | 性能諸元
メーカー名(メーカー国・製造国) | VORTEX OPTICS (アメリカ合衆国・中華人民共和国) |
サイズ(全長×幅) | 13.4cm×5.8cm |
重量 | 289グラム |
対物レンズ径 | 36mm |
倍率 | 8倍 |
視野 (FOV) | 393フィート / 1000ヤード:120m / 914m |
レティクル | RANGING RETICLE(MRAD) |
アイリリーフ | 18mm |
最短焦点距離 | 5m |
価格(購入価格) | 159.99ドル(2017年、115ドルで購入) |
マンハントのための単眼鏡
敵情偵察を行う斥候隊員にしろ、気になる娘を追いかけるストーカーにしろ、遠方から目標を観察できるガジェットは必須アイテムである。残念ながら、我ら人間に初期装備されているMark 1 Eyeball光学センサーでは、兵器の進歩と比例して伸びていく射程距離に対応させるのは難しい。特に、近眼メガネっ子が多い我が国は尚の事だ。人間は鷹のように数キロ先の兎を見つけれる眼は持ち合わせていないが、そこは持ち前の頭脳で様々なものを開発してきた。距離を測定するガジェットとしては、不可視光を用いたレーザーレンジファインダーがよく使用されるが、これには欠点もある。不可視光とは言えレーザーを発しているので、一部暗視装置や最近では車輌や携行型のレーザー探知装置により発見されてしまう恐れがある。そういう観点では、アナログな指や手を使った距離測定や、今回紹介するレンジファインダー(距離測定)機能付きレティクルの単眼鏡や双眼鏡であれば、遠方の物体がよく見えると同時に、目標物までのザッとした距離を気兼ねなく知ることが可能だ。
ボルテックス社のレンジファインダー機能付き単眼鏡である、「Solo Tactical R/T 8×36」。単眼鏡は双眼鏡と比べると視野は狭くなり、長時間の観察には向かないが、軽量コンパクトという兵隊さんにとっては大きな利点がある。 この手のレンジファインダー付きの単眼鏡は、サイトロン社のTAC-M728が有名だろう。倍率7倍でミルドットレティクルを搭載しており、自衛隊駐屯地内の売店で見かける人も多いかと。軽量コンパクトさを重視するのなら、オススメだ。一方、ボルテックスのSolo R/Tはより大きなレンズで、倍率も8倍と高く、ミルドットレティクルだけでなく、より素早く遠方にいる人間の距離を測る機能がある。
まず付属品から見ていこう。本体の他には、説明書、ストラップ、携帯ポーチが付属する。
説明書はボルテックス製品お馴染みのカラーで見やすい説明書だ。レティクルの活用方法もわかりやすく明記されている。
携帯ポーチ。クッション性のあるポーチで、表面はメッシュ状になっている。そのため汚れは付きやすい。
背面はベルトループ付き。
ボディ前面の灰色の部分はラバーで覆ってあり、滑り止めのチェッカリングもあって握りやすい。5cmほどの厚みなので、片手でギュッと握りやすい大きさなのも良い。全体としては13センチほどの長さなので、コンパクトさはあまり無いが、邪魔になるような大きさでもない。
単眼鏡としては珍しく、大型のクリップが搭載されている(付け外し可能)。バックパックや装備品のMOLLEシステム等に引っ掛け、瞬時に取り出して使えるように想定されたものだ。クリップの保持力そのものは、そこまで強いわけではないので、設けられているストラップホール等を用いて脱落防止処置も忘れずに。
フォーカスリングは2種類あり、前方のものが焦点調整リングで、目標物のピントを合わす。後方のものはレティクル調整リングとなっている。操作しやすくて良い。
36mm対物レンズ。レンズのコーティングは黄緑・紫・水色系だ。
ラバー製のアイカップ。裸眼で使用する場合はコレを写真のようにせり出した状態で使うと、安定性の向上や、急な衝撃等に対する目の保護になる。
アイカップを押し込むと、このようにヌルんと畳むことができる。メガネやゴーグル等のアイウェアの上から使用する場合はコチラを。アイリリーフは18mmと、単眼鏡の中では長い部類だが、それでも通常のメガネを少し押し付けるように覗いて、スコープ視野の60%程度、カーブレンズのアイウェア等を用いても視野は80%程度に狭まってしまう。メガネっ子が使うにはこの手のガジェットはあまり優しくない。25mm程度はアイリリーフが欲しいところ。
※画像クリックで拡大可
さて、いつものように覗いてみた様子を撮影しようと思ったが、アイリリーフが短いので、その撮影は困難を極めた。
レンズの質は値段から考えると、可もなく不可もなくと言ったところか。とは言え、周辺部の歪みも少なく、比較的明るいレンズではある。ただ、レティクル調整は問題なかったが、焦点調整に関しては、私のメガネレンズの近眼度数(-3.50D)では、ピントがもう少しでクッキリと合うというところで限界になった。後もうひと押し焦点調整の幅が欲しいところだ。これは裸眼でも同様であり、故に目が悪い方はよく考えて、できれば実物を覗いて試してから購入してもらいたい。
それでは距離測定に用いるレティクルの説明に入ろう。
レティクル中心点が右下にズレているように見えるが、これは私が撮影をミスったわけではなく、こういう設計である。中心からズラすことで、目標物の観察や、後述する距離の測定を行いやすいようにしている。
十字線はMRAD:ミリラジアン(=Mil:ミル)というNATO諸国の軍でよく使用されている平面角単位で区切られており、上と左は60MRAD、下と右は50MRADまで1MRADずつ区切られている。そもそもMRADとは、円周を6283に…やめよう。ミルだのミリラジアンだのは知っている人は知っている単位であり、知らない人からしてみるといきなりヘブライ語や梵字について語られるようなものだ。ググればわかることだし、説明下手な私が説明すると、余計ややこしいことになる。知らない人は以下のことだけ知っておいてもらいたい。
○MRAD(ミリラジアン)とMIL(ミル)という単位はほぼ同じものである。
○1MRADは1000m先だと1mになる。100m先だと10cmだ。
以上のことを踏まえ、中心部を拡大した下の写真を見てもらいたい。壁と同じ色で保護色になってしまっているACU迷彩の上着を設置してみた様子だ。チクショウ、違う色の服を持ってくればよかった。まぁいい、話を戻そう。
さて、ACU迷彩上着の距離が知りたい。こんな時はこの単眼鏡の出番だ!まず前提として、相手の高さがわかっていないといけない。今回設置した上着の着丈と吊るしたハンガーの高さを足すと約88cmである。そこで写真を見て欲しい。この単眼鏡で覗いてみると、ちょうど下から上まででおおよそ4MRADの高さになっている。これらの数値を以下の計算式に当てはめる。
○ターゲットの高さ(m)×1000をターゲットの高さ(MRAD)で割る=ターゲットまでの距離(m)
ということで今回の数値を当てはめると・・・0.88×1000=880となり、これを4で割ると→880÷4=220となる。と、いうことでターゲットまでの距離は220メートルということになる。撮影した場所を地図上で計測してみると、227メートルの距離だったので、様々な誤差を考えてもなかなか近い数値で距離を測定できている。ここでは細かいことや理屈は考えなくていい。ターゲットの高さがわかっていればいいので、イノシシから装甲車までこの単眼鏡で覗いて収まりさえすれば距離がわかる。この方程式は、今回紹介した製品だけでなく、MRADやMILドットレティクルのスコープに全て当てはめることができるので、知らなかった方は覚えておいて損はないだろう。
ちなみに、ターゲットの高さをメートルではなく、センチメートルで行う場合は1000をかけるところを10に変えれば良い。お好みで。
さらに、この単眼鏡はそんなことすら面倒で嫌だ!算数なんてクソ食らえだ!!っていうバリバリの文系&体育会系人間のためにも救済策を与えている。レティクル中心点の左斜め下に大きさの違うマンターゲットが4つ並んでいるのが見えるだろう。ターゲットが人間である場合、上半身を一番合致する大きさのマンターゲットに合わせると距離がわかる。何の計算式もいらず、300~600mまでの距離にいる人間に対応している。ここで前提とされている人間のサイズは、
○上半身の高さが79cm(頭が35cm+胴体が44cm)、幅が50cm
という前提でマンターゲットが描かれている。それ故、前述したMRADによる計測よりもより誤差が出やすく、対人にしか対応できないが、ザッと頭を一切使わず素早く測るには持って来いだ。言うまでもないが、両者とも概ねの距離を測定するものなので、正確に距離が知りたい場合は、信頼性の高いメーカーのレーザーレンジファインダー等を使用した方が良い。
どうだろうか?なかなか役に立ちそうな単眼鏡だろう。値段も安いとこだと100ドル前半、国内でも18000円前後で入手できる(2017年12月)。また、よりプロ向けのモデルで、VORTEX RECCE PRO HDというモデルも発売されている。こちらは、よりクオリティの高い日本製の32mm径のレンズを使用しており、若干小さくコンパクトになり、マンターゲットによる簡易測定が200~600mまで対応可能となっている。ただ、アイリリーフが14.5mmと短くなり、価格も399ドルと倍以上になっている。