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ジャンル:ライフルスコープ

陸自でも一部で使用されている、近接戦闘を想定した「完全国産」のショートスコープ。果たしてサムライ・スコープの性能や如何に!?同じような性質を持つが、価格は3倍近くする「Vortex RAZOR HD GenⅡ 1-6×24」との性能比較をしながら紹介しよう。

執筆時期:2018年1月

SPECS │ 性能諸元

メーカー名(メーカー国・製造国) オペレーション・トレーニング・サービス(日本)
全長 27.5cm
重量 520グラム
対物レンズ径 24mm
倍率 1倍~6倍
視野(FOV) 1倍:37.8m~6倍:6.3m / 100m
アイリリーフ 100mm~88mm
レティクル(SFP:第二焦点面) BDC・対人距離測定機能付き
イルミネーター 赤色LED 1~11段階
使用電池 CR2032リチウム電池
防水性能 3m
定価(購入価格) 84240円(2015年、59800円で購入)

日本初!? 純国産の近接戦闘用ショートスコープ


先の大戦で敗北を喫した我々日本人は、結果的に夢うつつながらも、大きな繁栄と平和を得ることができた。だが、それと同時に大きなモノを失った。生物としての大切な基本プログラムの一つである、「戦い方」というものを永田町辺りに落っことしてしまったのである。つい最近になり、このままだとマズいと思ったのか大慌てで回収に走っているが、現実はそう甘くはない。我々日本人は、世界の人から見ると、奇妙な生き物なのかもしれない。

モノづくり一つ見ても、不思議な現象は多い。我々日本人はかつて世界をリードできる技術力があり、それを活かした製品づくりができた。しかし、それに長らくあぐらをかきすぎ、変わっていく世界の流れをボーッと眺めすぎていた。いつの間にやら完成品ではなく、部品屋となってしまい、昨今ではその立ち位置すら危うい。戦闘向けのスコープ業界を見てもそれはわかる。NightForceや、Leupoldといったハイクラスのスコープメーカーのレンズは大抵日本製だ。しかし、日本製のスコープ、特に戦闘向けスコープとなると、その存在は無いに等しい。これは非常に悲しいことだ。部品は作れるが、完成品は作れないということは、その分野が如何に苦手かを示唆している。(ほらごらんなさい、VORTEX RAZOR HD GenⅡを。)


そんな中、OTSがなかなか質の高い近接戦闘用のショートスコープを出していると聞いて私は大変気になった。OTSOperation Training Service:株式会社オペレーショントレーニングサービス)は、官公庁向けに海外軍用品等の輸入販売、製品開発、訓練等のサービスを行っている日本企業で、自衛官や警察官は知っている人ならお世話になっている人もいるだろう。また、東京練馬区に「タクティカルプロショップ エリート」という衣類や装備品等のお店も構えている。他にも日本国内では珍しい、なかなか ユニーク なこともしている企業だ。

そんなOTSのショートスコープがこの「OTS CQBコンバットスコープ 1-6×24」である。等倍~6倍という中距離までカバーしており、イルミネーションは日中でも明るく灯すことができるので、ダットサイトのように運用することができるのがウリらしい。このスコープは、陸上自衛隊でもかなり小規模ではあるが、部隊や個人で導入もされており、近年の国内はもちろん、他国との共同訓練等でちらほらと散見される。

さて1-6倍、日本製、ダットサイトのように明るいイルミネーター・・・というとVORTEX社の最高ランクスコープであるRAZOR HD Gen2と似ている。純日本人である本製品と、日本育ちのアメリカ人であるRAZOR HD Gen2とで比較しながら紹介しよう。


まず全体の外観から。余計なロゴやメーカー名の記載はどこにもなく、すごくシンプルなデザインのスコープだ。故に少し殺風景な感じはする。

スコープのコーティングは少しだけテカりを抑えた少しザラつきがあるコーティングだ。ココらへんは、低~中価格帯のスコープである。


RAZOR HD Gen2は25.6cm、OTS CQBは27.5cmと若干長い。

重量はRAZOR HD Gen2が714グラム(2018年改良版のGen2-Eは609グラム)と、この手のスコープにしてはヘビー級の重さだが、OTS CQBは520グラムと平均的なレベルにまとまっている。

性質は似ているが、値段はRAZOR HD Gen2が1999ドルで、OTS CQBが80000円と2倍以上の差がある。(2018年)


底面。ここもメーカー名の記載すら無い。ゴトンといきなりこのスコープを出されても、トイガン向けのスコープと勘違いしてしまう。


倍率変更時に使用するパワーダイヤル部。平均的なスコープのパワーダイヤルよりも軽く回せるようにセッティングされており、ちょこんと出っ張ったノブも相まって実に操作はしやすい。ただ、藪漕ぎ等で何処かにぶつけたり擦ったりを繰り返していると、知らず知らずのうちにダイヤルが動いて、倍率が変更されていたということがあったので注意してほしい。個人的にはラフで野戦的な扱いが多いので、もう少し固くても良かった。

競技等でより素早く回転させたい場合は、別売りの「CQBコンバットスコープ用樹脂製 クイックズームレバー」なんてオプションもある。


こちらはRAZOR HD Gen2のパワーダイヤル。手強いジャムの瓶を開けるかの如く固い。重量と並んでこのスコープの大きな欠点だ。


接眼レンズ部。赤紫色のコーティングがされている。私が愛用しているLeupold VX-R Patrol 1.25-4×20のコーティングとよく似ている。色はコチラのほうが濃い。


対物レンズ。こちらはグリーン系のコーティングだ。


照準の上下左右を調整するエレベーション・ウインテージノブはRAZOR HD Gen2同様カバーされている。


このノブの作りは安っぽい。下手したらパチもんスコープの方が良いのではないかと思えるくらいに。

ノブの素材が薄い金属で少しガタツキもあるので、クリック感にあまり手応えが無く、たまにどれだけ回したかわからなくなることがある。1クリックは1/4MOAの移動量。総移動量は公表されていないが、100MOA以上はある。

1クリック1/4MOAは100ヤード(約91m)で0.63cmの移動量。

ノブを上に引っ張ると表層のガワだけがポコッと浮き上がり、調整後の任意の位置にゼロを置くことができる。とは言え、規正位置のマークが不器用な人間がマイネームで記したようなブレブレな線で、あまり実用的とは言えない。

ノブは少しの干渉でズレやすいので、調整が終わったら速やかにカバーをすることをオススメする。


一方こちらはRAZOR HD Gen2。ロープロファイルだが大きなノブで大変動かしやすい。クリック感も精密だ。


10段階の光量切換えが可能なイルミネーションノブ。ノブを回した感触は軽く、OFFポジション以外の各段階のクリック感は無いに等しい。

これが問題で、クリック感が無いのに無段階光量切換えでは無く、数字が打刻しているポジションにちゃんと合わせないと少しの衝撃でイルミネーションが点灯不良になる。また、ちゃんとしたポジションに合わせていても、射撃の反動(5.56mm弾)で点灯不良になることが散見される。

また、イルミネーションの明るさの上下も不明瞭で、どこのポジションでどれくらい明るくなるのかが感覚として掴みにくい。


イルミネーションを最大光量で灯した写真。実際はもう少し明るい。日中でもダットサイト感覚で問題なく使える明るさだが、あと1段階くらい明るくできれば尚良い。

明るさとしては、まるで太陽のようなイルミネーターが搭載されている、VORTEX RAZOR HD Gen2の明るさには到底敵わず、こちらも明るいイルミネーターとしてお馴染みのLeupold VX-R Patrolよりほんの気持ち暗いといった感じ。

最低光量はRazor HD Gen2と同じく、夜間だともう数段階暗くしてほしい明るさ。太陽輝く日中から光無き夜間のシチュエーションまで、幅広く使えるイルミネーターを持つスコープは、今のところLeupold VX-R Patrol 1.25-4×20以外見たことがない。

ダットサイト並に明るいイルミネーションをウリにしている機種としては、この中途半端で不安定なイルミネーションはもう少し改善してほしい。


一方こちらはRAZOR HD Gen2のイルミネーションノブ。こちらは逆にノブの形状と合わさって、回すのに固くて痛いノブ。各段階毎にOFF機能があり、ロック機構もある。


電池はお馴染みのCR2032を使用。電池寿命等の公式データは公表されていないが、自動電源OFF機能等はなく、あまり長く明るさを保てるようなものではない感覚なので、こまめに電源を切ったほうがいい。

シンプルだが多機能なレティクル


このスコープのレティクルの説明をしよう。まず十字レティクルの横のラインはミルドットとなっている。縦のラインは独自のレティクルだ。これには、対人を想定した距離測定機能と、BDC機能(距離における弾丸の落下予測点表示)を備える。何れもスコープの倍率は最大の6倍率にして使用する。

対人距離測定機能は、身長170センチの人間をこのスコープで覗いた際に、どこのラインに収まるかで距離を測定する。

写真では、100m先にACU迷彩の上着をかけ、上着の上端~地面(木の盛り上がりは省く)までがちょうど170センチになるように設置した。中心点の「D」~「I」にちょうど収まっているのがわかる。

BDC機能に関しては、中心点の「D」を300mの距離でゼロインをするところから始める。すると、一段上の「C」が100m、一段下の「E」が400m、さらに下の「F」が600mとなる。

言い忘れたが、BDC機能で使用する弾丸は、陸上自衛隊で使用されている「89式5.56mm普通弾」と米軍等NATOで使用されている「5.56mm×45 SS109」の5.56mm弾を、16.5インチの銃身(89式小銃やHK416のアサルトライフルや民間モデル等が該当)で発射することを前提とされている。

さて、ここで困るのが自衛官だ。自衛隊の射撃場は200mしかない場所や状況がある。その場合は、倍率を3倍にして「D」ではなく、「C」を中心点としてゼロインする。すると、それ以下の段は300、400、600mの落下地点になるとのこと。

いやいやそれもムリ。長い射場でゼロインすることもできない!って人は25mの距離でゼロインすればいい。どうしても誤差は大きくなるが、5.56mm弾の弾道特性上、300mでゼロインした際と同じBDC機能を得ることができる。コチラの場合は6倍率で。

実際規定の条件で射撃をしてみたが、まぁまぁ当たるかなといった具合。だいたいこういうのは目安なので、あとは周りの環境と自分の射撃の腕とのご相談で。

値段からは考えられないクリアなレンズ


それでは数字はいったん置いといてスコープを覗いてみよう。こちらは1倍時。(100m先に吊るしたACU迷彩上衣を照準)

写真だとわかりづらく、あくまで私の目で見た場合だが、この倍率だとレンズ周辺部の歪みは少し悪い。とは言え、とても10万以下で買えるとは思えないようなクリアな光景がそこには広がっている。

RAZOR HD Gen2とまではいかないが、鏡筒内部があまり映らず、レンズの縁もそこまで気にならない。レティクルが空中に浮いているかのように見える美しさだ。


3倍時

基本敵に目で見たままを忠実に映し出してくれるスコープだ。先程からちょこちょこ写真の端っこに写っているのは周辺警戒中のうちの警備員なので気にしないでほしい。


6倍時

OTS CQB vs VORTEX RAZOR HD Gen2


※写真クリックで拡大可

1倍時。100m先に吊るした青いシャツに照準。

スコープの縁があまり映らず、素晴らしいクリアさのRAZOR HD Gen2にはさすがに負けるが、OTSも良い勝負をしているのがわかる。

この日は雲が多く、天気がコロコロ変わっていく日だったので、明るさや写りが違う写真が多くなってしまったのでご了承願いたい。


※写真クリックで拡大可

4倍時

OTSの中央下付近に白いフレアが出てきた。このまま倍率を上げると・・・


※写真クリックで拡大可

6倍時

RAZOR HD Gen2の方も反射が目立つようになったが、OTSの方はまるで幽霊でもいるかのようにより目立つ。精密射撃をする際にこれは支障をきたす

その他、直射日光下のフレアは、ニュートラルホワイトとクールホワイトの反射が接眼レンズ部に強めに出る。このスコープは、日光の角度や環境によって、目障りな反射が出る場合があるようだ。

使いやすく国内アフターサービスが嬉しいスコープ


アイリリーフは公式で10cm~8.8cmで、実際はもっと長めだ。

アイボックス、アイリリーフの範囲も広めに設定されており、素早く激しい射撃が要求されるCQB戦には良い。


パッケージと付属品もろもろ。どこかで見たことある殺風景なパッケージだと思ったら、どうやらこのスコープの製造は、東京都赤羽にあるホビーショップ フロンティアのオリジナルスコープを製造している、長野県にある「ライト光機」が製造しているようだ。

長野県にあるライト光機は、NightForce等のハイレベルな実銃用ライフルスコープや、カメラ、医療用、その他アウトドア等の幅広い用途で高品質なレンズや光学機器を製造しているメーカーだ。


嬉しい付属品として、バトラークリーク社のバトラーキャップが付属する。こういう実用的で本来別売りの付属品は嬉しい。


こちらは別売りオプション品だが、このバトラーキャップにぴったりと組み込むことができるレンズ保護フィルター(1000円前後)もある。激しい訓練やサバイバルゲームで使用する場合は必須のアイテムだ。

2mm厚のポリカーボネート製。この保護フィルターと、02 02Aのバトラーキャップの組み合わせは、その他の30mmチューブ仕様のスコープにも使用できるのでオススメだ。

ちなみに私の場合は、射撃の精度も考えてカメラ用の強化ガラス保護フィルターを入れている。こちらはまた別のお話で。


保証書。10年間の保証付き。海外メーカーと違い、国内で手厚い保証が受けれるのは実に便利だ。


説明書。ペラい紙だが、ちゃんとスコープを使用する上での要点をまとめてくれている。わからないことがあれば、OTSに聞けば快く教えてくれるので良い。海外メーカーだと、メールでの返答で遅かったりと手間がかかるが、こういう点は国内メーカーの強みだろう。


さて、CQB戦闘にもってこいの最高のスコープだ!とは言えない部分もある。イルミネーションの点灯不良は痛いし、細かい点で気になるとこもある。

実はこのスコープ、私が長らく愛用しているLeupold VX-R Patrol 1.25-4×20の後継機種としてトライアルしていた。今回は上記の理由等で採用を見送り、VX-Rにはもうちょっと働いてもらうことになった。

だが、このスコープは実売価格で6~7万円で購入できる。レンズの品質に予算をほとんど持っていかれてる感はあるが、破格の値段だ。はっきり言ってもう2万円ほど高くても疑問に思わない。

へたな10万円前後のスコープを購入するくらいなら、これを買ったほうがいい。1-6倍率のスコープとしては上位レベルのスコープだろう。