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ジャンル:ダットサイト
カメラメーカーとして有名なニコンが競技やタクティカル向けに販売しているオープンダットサイト
執筆時期:2018年11月
※本製品を提供してくれたT氏に感謝いたします。
SPECS │ 性能諸元
メーカー名(メーカー国・製造国) | Nikon USA(アメリカ合衆国・フィリピン共和国) |
全長 | 4.57cm |
重量 | 31グラム |
ボディ素材 | アルミ合金 |
倍率 | 1倍 |
レティクルパターン | 赤色ダット 3MOA |
イルミネーター | 赤色LED 10段階調光(内2段階は暗視装置用) |
使用電池(電池寿命) | CR1632Aリチウム電池(15000時間) |
防水性能 | IPX-7 |
価格 | 216.95ドル |
カメラ屋のダットサイト
2018年秋、戦争が勃発した。相変わらずの中東や、朝鮮半島のことではない。カメラ業界の話だ。もっと細かく言えば、フルサイズミラーレスカメラ業界のことだ。
カメラ業界は、年々高性能化の一途をたどるスマートフォンのカメラに押され、生き残りと新たな時代への適応を賭けて厳しく鎬を削り合っている。中途半端な性能のカメラでは、スマートフォンには立ち向かえない。そこでカメラ業界は、ピーキーな製品や抜群の描写力を誇るフルサイズセンサーを搭載したミラーレス機に力を入れて戦っている。滅びる者もあれば、フルサイズの間を取って高みの見物を決め込む者もいる。そもそも、年々フルサイズミラーレスカメラ市場はソニーの独壇場であった。そこへ、ようやく重い腰を上げて大手のキャノンとニコンが参戦したが、両者ともどうにも周回遅れ感のある製品ラインナップだった。キャノンは持ち前のレンズ群とマーケティング能力で意外と良い滑り出しみたいだが、当分はまだソニーの強さは維持されるだろう。大国に個々に切り込むのは無謀と思ったライカ、シグマ、パナソニックが同盟軍を結成したのも実に面白く、今後も楽しませてくれそうな業界だ。
そんな、カメラ分野ではオタク気質でイマイチ一般受けの良くないニコンだが、遠い海の向こう、USAでは軍用や狩猟用の光学機器を製造しているメーカーとしても有名だ。そもそもニコンは昔、旧陸軍や海軍等の個人装備や軍用機用の光学機器を製造していた歴史がある。カメラだけでなく、こういう歴史あるノウハウを持った光学機器メーカーなのだ。
そんなニコンが製造販売している求めやすい価格のタクティカル向け光学照準機が、P-TACTICALシリーズとなる。ライフルスコープやドットサイトを中心に展開されており、値段も概ね150ドル~300ドル台とお手頃価格のものが多い。今回紹介するP-TACTICAL SPURはオープンタイプのダットサイトで、シューターからの人気が高い製品である。
この製品を入手した経緯は、Burris Fast Fire 2オープンダットサイトを提供してくれたT氏からの凶報が始まりだった。所持していた散弾銃を倒してしまった際、搭載していたFast Fire2を下敷きにして壊してしまったとのこと。フレームは曲がり、レンズが破損してしまった。別の製品が欲しいという相談を受け、構造上強度の高いチューブタイプのダットサイトを勧めたが、オープンダットサイトを散弾銃の上に載せるのが好きだとのことで却下された。そこで、3万円以下という限られた予算の中で良いものは無いかと探していた時にニコンがこいつを発売した。
●全長は4.5cmほどと小型オープンダットサイトとしては普通のサイズ。重量はマウントと電池込みでも31グラムと軽量だ。
→ボディそのものは、重厚感のあるアルミニウム合金製。パッと持ってみるとちょっと重く感じるが、この手のダットサイトの中では軽量な部類だ。TrijiconのRMRには負けると思われるが、バリス社のFast Fireシリーズよりは頑丈さを感じることができる。
●ダットの光量調整は手動で行えるよう左側面にボタンが配置されているタイプ。自動調光の場合は、タクティカル目的だと合わない場合が多いのでこのシステムは助かる。マイナスボタンの長押しで電源を切ることも可。
●レンズ部は、ニコン独自の「TRUCOLOR」マルチコートレンズとか言う鳴り物入りで、透明度は非常に高い。後述するが、透明度がただ高いだけのダットサイトなら中華コピー光学照準器にもあるが、周辺部の歪みや逆光下での乱反射も抑えられており、高性能なニッコールレンズを手がけているカメラ屋らしい出来栄えだ。
●ダットの光は対物側からも見えるので、暗所や夜間での戦闘や偵察目的での使用は控えた方が良いだろう。
●レンズ下部に黒く薄っすらとNikonのメーカーロゴが見える。P-TACTICALのブランド名はよく見えるので、パット見ではニコン製のダットサイトには見えないだろう。
接眼側
●手前にウインテージとエレベーション調節ネジが見える。このネジは付属の調節器具で調節可能。
●レンズ手前には、このダットサイトの名前の由来である歯車(SPUR)のようなデザインの電池収納フタがある。
●電池収納フタは付属の器具で開閉可能。プラスの形状だが、プラスネジでは開かない。電池蓋の締め具合では歯車部分に指を押し当てて開閉できないことはない。
→Burris Fast Fire2のように、マウントを取り外さなくても電池を交換できる点は良い。
●電池は、ダットサイトの電池としてよく使われているCR2032ではなく、一回り小さなCR1632を使用して、軽量化やコンパクト化に役立っている。
●電池は小さめながらも、15000時間もの電池寿命(光量は不明)があり、12時間連続使用でオートシャットダウンの機能もあるので困ることは無いだろう。
●電池フタの手前の六角ネジを外すと、マウントが取れる。こちらは付属品の20mmピカティニーレール用のマウントだが、それ以外の拳銃等にマウントするのは既存のアダプター等では取り付けできないようで、少し面倒みたいだ。もし、拳銃に取り付けたい場合は、C&H Precision Weapons社が販売しているGLOCK MOSに対応したSPUR専用アダプタープレートを付けるのが唯一の簡単な方法で、それがダメならカスタムする必要があるようだ。(2018年10月現在)
●マウントネジには中程度のネジロック剤が塗布されており、緩みを防止している。
●マウントの作りは結構良く、ネジが緩んでいてもレールへの噛み付きが良いらしく変なガタツキやハズレやすさは少ない。
●保護カバー。チューブタイプに比べるとどうしても耐久性に難のあるオープンダットサイトには、この手のカバーは必須だ。
●説明書は英語とフランス語に二ヶ国語。
●パッケージはニコンお馴染みの黄色と黒。パット見だとニコン製カメラのオプション機器か何かに見えてしまう。
さて、いつも通り基準のAimpoint T-1と比較しながら覗いてみよう。照準は50m先の水色のシャツ。
※画像クリック or タップで拡大可
中心部拡大画像
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●Spurに関しては、TRURCOLORの謳い文句どおり、クリアだけでなく目で見たままに近い色合いだ。T-1は薄っすらと青みがかかっている。
●外縁部に関しては、動かすと若干歪みが見て取れるが許容範囲内で違和感は少ない。
●写真は、ライフルや散弾銃のレール上に載せた時のように、照準器を15cmほど離して撮影したものだが、ゴールポストを見比べるとわかるように、Nikon Spurは1.1倍~1.2倍ほど拡大して見える。
●撮影した時は夕暮れ時で、太陽が大きく傾いている時間帯だったが、Aimpoint T-1は左上から上部にかかって赤いフレアが見れる。そう、Aimpoint T-1はレンズの傾斜の関係上、斜めから光が入った場合にこのようなフレアが出やすい。
●一方、Nikon Spurの方はほとんどフレアやゴーストは出ていない。
●ダットの光量は10段階で切替可能(内二段階は暗視装置用)。日中炎天下でも使えるほど明るく灯るが、夜間や暗所ではあともう一息暗くなってほしいのは同じ。とは言え、この機種はメリハリが付いているほうなのでそこまで環境変化によるストレスはない。また、最大光量で灯しても、大きな乱反射が起きにくくしてあるのも地味にポイントが高い。
より深く検証するため、たいへん眩しい逆光下でも覗いてみた。ターゲットまでの距離は倍の100m。
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中心部拡大画像
●どうしても撮影に使ったカメラのフレアやゴーストも出てしまっているので紛らわしいが、まず全体を見るとチューブ内部が反射しているAimpoint T-1とそうでないNikon Spurとでは視認性の良さは段違いだ。
●また、両者のダットが灯っている付近の拡大画像を見てもらいたい。Aimpoint T-1は、発光素子の周辺に3つの金色の小さな金属端子が使われている。この部分が、光の特定の入射角度により、キラっと反射してレンズに映り込む。それが、写真のようにちょうど投影されているダット部に被るため、ターゲットへの照準を妨げることになる。これは、よほどの逆光下の元でしか起きないケースだが、場合によっては正確な射撃ができなかったり、目標を視認できなくなる恐れがある。
●一方Nikon Spurの方は、レンズ横一線に赤い帯状のフレアが薄っすらと出ており一見邪魔に見えるが、ダットが灯っている周辺だけは、発光素子の形状からポッカリと穴が空いたように見えている。少なくとも、目標が完全に見えなくなるということはなく、照準射撃は可能だ。
●こういう細かな状況や、反射に関しても考慮している辺りは流石カメラメーカーだと言わざるを得ない。人によっては、重箱の隅をつつくような指摘かもしれないが、一瞬の判断や認識の違いが命取りになる戦いの現場に置いては大事なことだ。
●このようなフレアやゴーストは、レンズ枚数が多く、チューブ内で乱反射等を起こしやすいチューブタイプのダットサイトに多いが、それを考慮してもNikon Spurのレンズ性能はなかなか優秀だ。
●ARに取り付けた様子。大変軽いボディなので、射手の負担を増やすことなく、射撃能力を向上させることができる。3MOAのダットの大きさなら、100m程度なら頭を撃ち抜くこともできないことはない。
●防水性能は、IPX-7で30分間1メートルの水槽に入れておいても大丈夫みたいだが、オープンダットサイトの構造上、基本的に浸水させるのはあまり良くないようだ。
●オープンダットサイトなので視野が広く、ニコンのレンズ性能も良いので近接武器である散弾銃との相性は良いだろう。Spurをホームディフェンス用の散弾銃に取り付けているシューターも多いと聞く。強烈なリコイルであるバックショットやスラグ弾の反動でもゼロインが狂ったり、故障することは無いとのことで好評だ。
●ただ前述のした通り、暗い夜間等では場合によって相手からダットが灯っている様子が見える場合もあるので注意していただきたい。
●まぁ何はともあれ、200ドルちょっとの値段でこれだけの良い性能を持っているのは素晴らしい。他社のコンパクトオープンダットサイトと比べて、拳銃用マウントへの互換性は少ないが、20mmピカティニーレールを装備した銃器への選択肢としては、5年間の長期保証も加えてお値打ち品だろう。