REVIEW >> ELECTRONICS & OPTICS| 光学照準器・電子機器類>> ELECTRONS & OPTICS | 光学照準器・電子機器類

ジャンル:スマートフォン・サーマルカメラ

世界的な建設機械メーカーであるCATが、大変面白いスマートフォンを発売した。なんと、FLIR製のサーマルカメラを内蔵しているのだ。いったい何者でどんなポテンシャルを秘めているのだろうか?

※2016年9月現在、日本国内でCAT S60の電波を出して使用することは、技術基準適合証明等の認定を受けていないため、電波法違反等に抵触する恐れがあります。

※2017年10月、オンキョーよりCAT S60の国内版が発売決定しました。こちらは、グローバル版とくらべてネットワーク帯が国内で使いやすい仕様に変更されています。↓ ↓

CAT S60(オンキョー:日本国内仕様バンド)

○4G(LTE):1/3/7/8/19/28

○3G(HSDPA/WCDMA):800/850/900/2100

SPECS | 性能諸元(グローバル版 SIMフリー)

メーカー名(メーカー国・製造国) CATERPILLAR(アメリカ合衆国・中華人民共和国)
サイズ・重量 147.9 x 73.4 x 12.66 mm ・ 223グラム
ディスプレイ(解像度) 4.7インチ(1280×720)
バッテリー容量(連続通話時間・待機時間) 3800mAh(30時間・43日)
カメラ 前面:1300万画素カメラ、FLIR製サーマルカメラ

後面:500万画素

CPU Qualcomm Snapdragon MSM8952-3

(1.5Ghz×4 + 1.2Ghz×4)

 記憶容量 内蔵記憶容量:32GB(Micro SDは128GBまでサポート)
メモリ(RAM) 3GB
OS Android 6.0 (Marshmallow)
Wi-Fi 802.11/b/g/n 2.4GHz
Bluetooth 4.1
GPS GLONASS、GPS、aGPS、Beidou
ネットワーク 2G:GSM/GPRS/EDGE – 850/900/1800/1900MHz

3G:WCDMA/UMTS/HSPA/HSPA+ – 850/900/2100(グローバル版) 、850/AWS/1900(北米版)

4G(LTE):1,3,7,8,20(グローバル版) 、2,4,5,7,12,17(北米版)

防水性能 切替により2~5メートルの完全防水(5mの水槽で60分間の機能不全無し。IP68)
その他耐久性能 (FL1 STANDARD) 耐衝撃性能:1.8m
耐久温度:-25℃~55℃MIL-SPEC810G、防塵
価格(購入価格)  599.99ドル(2016年:米国にて625ドル)

「プロのガジェット」を感じさせる外観

キャタピラー社は、業界シェアトップの世界的に有名なアメリカの建設機械メーカーだ。誰もが一度は、デカデカと「CAT」と書かれたショベルカーやダンプカーを工事現場で見たことがあるだろう。このメーカー、日本ではあまり馴染みがないが、昔から現場で使えるタフな携帯電話を発売しているメーカーとしても有名だ。工事現場等のタフで実用的な機器が求められる環境で、ふつーのやわな携帯電話なんて仕事にならない。そういうニーズから、建設機械メーカーではあるが、工事作業員のみならず、法執行機関、アウトドアユーザー等のユーザーに指示されている携帯電話を作っている。日本でいう、カシオのG’zシリーズ(今は亡き)や、京セラのTorqueシリーズといったタフネス携帯である。

そんなタフなデバイスを作るメーカーが、サーマルカメラを内蔵した異色のスマートフォンを発売した。スマホにサーマルカメラと言うと?と思うかもしれないが、サーマルカメラは、軍や警察等の法執行機関が使うような索敵・暗視装置といった用途だけでなく、温度分布を可視化できることから、電気設備等の検査機器としても広く用いられている。そんな検査機器を、スマホと組み合わせることにより、手軽に携行できる便利さだけでなく、ネットワーク、カメラ等々のスマホの能力と合わせて、今までに無い使い方ができるのである。

まずは外観から見ていこう。

img_5143

こちらは背面である。まずユニークなのは、背面パネルにカーボンファイバーを使用していることだ。スマホ外装に用いるのは珍しく、軽量化と耐久性を両立している。この段階からして男心をくすぐってくれる。ただ、繊維に微細なチリや汚れが付きやすいといった欠点があるが・・・

形状も変わっており、カクカクとした形状に、サーマルカメラを搭載している分、上面がボコッと盛り上がっている。この形状は、個人的にはiPhoneライクなスマホばかりの中では、異色な外観なので私は好きだ。

dscf3513

背面カメラ部分のアップである。上段の黄色いリングのカメラが、FLIR製のサーマルカメラである。このカメラに関しては後の項でレビューしよう。下段は1300万画素のカメラとなっている。特別綺麗に写るわけではないが、実用性は十分だ。更に下段は色温度の違う2つのLEDである。さて、右側のフタはなんであろうか?これがまた面白い。

dscf3514

黄色いタブを引くと、パカッとフタが開き、SIMカードとSDカードが入るようになっている。SIMカードは二枚入れることができるようになっている。(もう一枚はSDカードの下段に入れる。双方ともナノサイズのSIM)

なんでこんな機能があるのか?サーマルカメラで取った画像や動画を即座にSDカードから抜き出してコピーやシェアしたり、様々な国の現場に行く人が、余計な工具無しで即座にSIMを交換できるようにとのことだ。どうしても、この構造を見てると、スパイ映画のように、即座にSIMやSDカードを捨てて、証拠隠滅を図ることを想像してしまうが・・・

面白い機能ではあるが、なんらかの拍子でカバーが開いてしまうと、防水や防塵は台無しとなるので、できればロック機構を設けて欲しかった。

 

今度は前面を見てみよう。画面サイズは4.7インチの、作業性と携行性を両立した調度良い大きさ。側面ボタンは、右上段から、電源ボタン、プログラマブルキー、SOSボタン(!?)、Micro USBポート、イヤホンジャックとなっている。左側は音量ボタンだ。

液晶面は、ゴリラガラス4を使用しており、京セラのTorqueシリーズのように、手が濡れたりグローブをしていてもタッチパネルが反応するようになっている。また、スマホではお馴染みの「戻る」「ホーム」「マルチタスク」の3兄弟ボタンは物理ボタンとなっており、滑り止めのチェッカリングと相まって使いやすい。

ところで、上段と下段にある金色のレバーはなんだろうか?これもまた、この機種特有の機能で、普段は双方とも下段の「2M」の設定となっており、2メートル防水が保証されている。これを、上下のレバーとも上の「5M」にすると、スピーカー機能は使えなくなるが、完全密閉となって5メートルまで防水能力を上げることができる。面白い機能だ。

dscf3510

言うまでもないが、上下段のレバーとも同じ段にセットしておかないと意味が無いし、普段から5メートル防水にしておくと、余計な熱が篭るのでオススメはしない。

dscf3511

さて、右側面を見てみよう。ここにも面白い機能がてんこ盛りだ。電源ボタンの下段の黄色いボタンはプログラマブルキーとなっており、何でも好きな機能を設定で当てることができる。しかも、1タップ、2タップ、3タップ、長押し等で、ボタンを押す動作によって設定ができるので、1タップで通常カメラ、2タップでサーマルカメラ…といった感じでよく使うアプリや機能を即座に起動することができる。Torqueにもこの機能はあるが、大変便利だ。誤動作が心配な場合は、各項目毎に無効にできる。

 

その下の「SOS」と書かれたフタは、中にSOSボタンが仕込まれている。この緊急時に使えと言わんばかりの赤いボタンを1.5秒ほど長押しすると、デフォルトの設定ではロケーションアラートになっており、予め設定しておいたメールアドレス等に、自分の今の場所や事前に設定したメッセージ等を送信することができる。ますます、スパイガジェットに見えてきたが、これも常に危険やトラブルと隣合わせの現場やアウトドアシーンでは命綱になりかねないシステムだ。

dscf3512

ちなみにこのSOSボタンも、設定により、好きなアプリ等の起動に使えるプログラマブルキーに変えることが可能だ。なかなか可能性や発想を膨らませてくれる男の子のオモチャだ。

その下は、充電やデータ通信で使うMicro USBのポートと、イヤホンジャックとなっている。この位置は邪魔だ。また、できればストラップホールも脱落防止のためにも欲しかった。脱落防止の点だが、側面や後面はツルツルとしており、京セラ Torqueのようにラバーコーティングがしてたりという感じではないので、少し滑りやすい。やはりストラップホールは設けるべきだったと思う。

img_5147

周囲からスマホを借りて、大きさを比較してみた。左から「京セラ Torque G01」、「SONY Xperia Z5」、「CAT S60」、「Google Nexus 5」だ。

 

 

img_5148

こちらは厚みだ。上から「Google Nexus 5」「CAT S60」「SONY Xperia Z5」「京セラ Torque G01」である。CAT S60は画面サイズはNexus 5とほぼ同じだが、全体的な大きさは5.2インチのSONY Xperia Z5とほぼ同じだ。ただ、厚みはTorque同様にあるので、持ちにくさはそこまで感じない。重量は223グラムと、スマホの中ではかなり重い部類だ。金属の肌触りも相まって、より重く感じる。

別次元の使い方ができるサーマルカメラ

さて、この機種の一番の売りであるサーマルカメラ機能に迫ってみよう。

この機種は、サーマルカメラの大手である、FLIR製のサーマルカメラを搭載している。プリインストールされている「My FLIR」というアプリでサーマルカメラを起動することが可能だ。

サーマルカメラは、写真撮影、動画撮影、パノラマ撮影、タイムラプス撮影が可能となっている。

また、温度分布の表示も、9種類の中から選ぶことができ、各環境や状況に合わせて切り替えられる。選択画面は、現在映してる映像がライブで表示されるので、わかりやすい。(画像はウサギを映している)

screenshot_20160105-035536

今自分が向けている方向はいったい何度なのか?と言ったことも簡単にわかる。最高・最低・平均温度まで表示され、ターゲットカーソルは最大3つまで表示して、計測したい場所にスワイプして移動させることができる。このように、表示範囲にさえ入っていれば、違う箇所の温度を同時に表示させることもできる。ちなみに、FLIRの安価なサーマルカメラの特徴として、作動による温度上昇を抑えるためと、映像処理等を行うため、一定間隔ごとにリフレッシュといって、1秒以内の一時停止が起きる。S60はそのリフレッシュを手動でもできるので、ここぞという時に撮影がストップしないように事前にリフレッシュさせることが可能だ。

flir_20160106t190106

さらに、写真・動画撮影を問わず、サーマルカメラで撮影中は通常のカメラ映像も同時に記録しており、アルバム内で写真や動画を上から下にスワイプすることで、サーマル映像と通常映像を切替たり見比べることも可能だ。これらの機能は、スマホならではで、実に面白く、新しい可能性を感じさせてくれる。(画像は建物のブレーカーを撮影)

CAT S60は暗視装置として使えるのか??

サーマルカメラの特徴として、周辺の温度分布を昼夜問わず可視化できることから、軍や警察では索敵のみならず、暗視装置としても使用されている。ではこのS60はそれが可能なのか?結論から先に言って申し訳ないが、暗視装置としての使用は難しい。サーマルカメラの解像度が低いので、暗闇だと数メートル先でも何が写っているのか判別ができない。

まずは2つの写真を見てみよう。こちらは昼間に犬と住宅街を写したものだ。解像度は低いものの、何が写っているのかはわかるので、これがそのまま夜間でも使用できるのではないかと思うが…

cats60d1

 

こちらが同じ場所の夜間の写真だ。まるでレンズが曇ったかのように解像度が落ちている。これはいったいどういうことか?

cats60n1

S60のサーマル映像は、通常のカメラ映像とリアルタイムで合成させて写しているのである。そのため、夜間はデジタルカメラが光を拾いきれず、サーマルカメラ本来の解像度の低さがより露呈してくるのである。この夜間の画像は、真っ暗闇ではなく、外灯が付いてる状態でこれなので、光なき暗闇だと、犬が写っていることすら判別が難しくなる。

 

ちなみに、こちらの画像はFLIR製のPS32サーマルカメラの映像をキャプチャしたものだ。夜間で同じ場所だが、より鮮明でわかりやすい。温度分布がハッキリとしている環境だと、このようにモノクロ映像を見てる感覚で暗視が可能である。

vlcsnap-2016-09-10-13h24m15s159

 

よりわかりやすいように、FLIR PS32サーマルカメラと、CAT S60で比較映像をキャプチャしてみた。夜間光が届きにくい木々が生い茂る1本道を対象者の距離100mと5mで昼間と夜間に写している。

vlcsnap-2016-09-10-13h25m20s20

こちらは昼間の画像だ。PS32は、温度分布を表示するだけなので、木々の温度変化がそこまでないこの環境では、周囲の様子はわかりにくい。この点は、通常デジタルカメラ映像と合成しているCAT S60の方がわかりやすい。ただ、肝心のサーマル映像となると、PS32では100メートル先でもしっかりと人間と犬が判別できるが、CAT S60ではかろうじて白い点が写っているにすぎない。

 

そしてこちらは同じ場所での夜間での映像だ。夜間となると、周辺と動物との温度変化がよりわかりやすくなるので、PS32はより遠くの動物が判別できる。近づいた場合は、対象者がメガネをかけていることはおろか、どんな下着(ボクサーパンツ)を着用しているかまでわかってしまう。

vlcsnap-2016-09-10-13h26m11s59

一方、CAT S60は、もはや周囲になにが写っているのかもわからない。対象者が10メートル前後に近づいてきてようやく、何かが近づいているかな?とわかってくる。これでは肉眼のほうがマシだ。これに関してはCAT S60がサーマルカメラとしての専用機ではなく、小さくて薄いスマートフォン内に頑張って詰め込んだ結果なので、仕方がない。やはり餅は餅屋である。

動画で比較もしてみたので、合わせてご覧いただきたい。

 

 

発想次第で新たな可能性を感じさせてくれるスマートフォン

img_5141

パッケージと付属品。キャタピラー社らしい黄色で目立つ箱だ。また、このスマートフォンは、画面保護フィルムが付属している珍しい機種でもある。フィルムは指紋が付きにくいノングレア仕様となっている。タフネススマホらしいサービスだ。説明書はあまりにも簡易で、サーマルカメラの詳しい使い方等はわからない。この点は、キャタピラー社のホームページにより詳しいマニュアルが多言語で公開されているのでそちらを参照してもらいたい。(とは言え、こちらもそこまで詳しく書いているわけではないが)

CAT S60は、監視・偵察・索敵・と言った、軍や警察、セキュリティーとしての使用は難しい。とは言え、サーマルカメラとスマートフォンの出会いにより、検査機器としてや、ユーザーの使いみち次第で新たな可能性を感じさせてくれるガジェットであることに間違いはない。このサーマルカメラとしてのレベルは、FLIRがスマートフォンの外付けに付けることができるサーマルカメラである「FLIR ONE」と同等の性能と思われる。ただ、内蔵しているのと外付けしているのとでは使い勝手が違う。S60は、スマートフォンとしての性能も、ミドルレンジクラスの中では優秀な性能で、使っていてストレスを感じるようなことはほとんど無い。この手のタフネス携帯は、いろいろとハードウェア・ソフトウェアが低スペックなことが多いが、S60は違う。もちろん、タフネススマートフォンとしては、切替で5m防水も保証されているのもあり、他の競合製品よりもレベルは上である。

なによりも、みんな似たり寄ったりのスマートフォンの中で、このCAT S60は、スマートフォンが世に出始めたころのワクワク感を彷彿とさせる素晴らしいガジェットであり、オモチャでもある。キャタピラー社には、ぜひこれからもこのS60をより進化させた面白い製品を作ってもらいたい。