REVIEW >> ELECTRONICS & OPTICS| 電子・光学機器 >> FLASHLIGHT | 懐中電灯
ジャンル:懐中電灯、サーチライト
次世代の照明技術として囁かれているLEPをいち早く搭載し、サーチライトのように遠距離照射を得意とするACEBEAM社のハンディライト「W10」。1000メートル先をも照らせるとの宣伝文句は嘘か真か?
執筆時期:2018年12月
SPECS │ 性能諸元
メーカー名(メーカー国・製造国) | ACEBEAM(中華人民共和国) |
サイズ(全長×ヘッド径×チューブ径) | 14.9×3.1×2.5cm |
重量(バッテリー抜) | 約128グラム |
光量(点灯時間) | 250ルーメン(3.3時間) |
使用電池 | CR123Aリチウム電池×2個 or 18650、21700リチウムイオン電池 |
LED色温度 | 6500K(本製品) or 4000K |
最大照射距離 | 1000メートル |
防水性能 | IP68 |
耐衝撃性能 | 1.2メートル |
価格(購入価格) | 309ドル(36000円) |
射程距離1000のプラズマライト
1984年、アメリカのアラモ鉄砲店に一人の巨漢が現れた。彼は9mmのUZIサブマシンガン、12番ゲージの自動散弾銃、ロングバレルの45口径拳銃に、当時としては珍しいレーザーポインター付きのものを矢継ぎ早にオーダーした。さすがは品揃えの良いアラモ鉄砲店、店主はこの男の要望に臆することなく商品を出す。ただ、この客がこれら以外に要望した射程距離400のフェイズドプラズマライフルに関しては取り扱っていなかったようで、この店はあえなく店じまいとなってしまった。時は流れ2018年、ACEBEAMという中国の懐中電灯メーカーが射程距離1000メートルのプラズマライトを搭載したピーキーな懐中電灯を発売した。これが今回紹介するW10だ。
まず最初に言っておくが、これは従来のLEDを搭載した懐中電灯ではない。プラズマライト、LEP(Light Emitting Plasma)を搭載した懐中電灯だ。従来のLED(Light Emitting Diode)は、PN接合された固体素子(ソリッドステートデバイス)をそのまま光らせる、言わば光を発する半導体(※注:ひどく大雑把な説明)であるのに対し、LEPは第4の物質の状態と言われる、プラズマを作り出す装置としてデバイスが使われている。そこで作られたプラズマを当て、蛍光体を励起(れいき:他からエネルギーを与えてより高いエネルギー状態に昇華させること)させて光を作っているとのこと。このLEPなるものは、国内外で次世代の照明技術としてジワジワと研究や開発が進んでいるものの、まだ一般にはほとんど認知されておらず、なかなかわかりやすくて信憑性の高い文献や情報が少ない。故に私もよくわからないシロモノだ。また、このW10に関しては、プラズマではなくレーザーで蛍光体を光らせている懐中電灯であると説明にある。それでは、LEPではないのではないか??と文系で小さな脳みそを搭載している私は思うのだが…これ以上処理性能の低いオツムを振り絞っても、熱暴走を起こすだけなので、誰か詳しい照明の大先生にでも聞いてみて欲しい。
→公式サイトには、このLEPはLaser Excitation Phosphor(レーザー励起蛍光物質)エミッターとあるので、Light Emitting PlasmaのLEPでは無いようだ。原理としてはわからなくはないが、Laser Excitation Phosphorなんてますます聞いたことないが…?
と、考えてもしょうがないので、百聞は一見にしかずとLEP素子を見てみようじゃないかと覗いたが…
●W10のレンズを覗いてもLEPの素子はほとんど見えない。代わりに、オベリスクのような塔が突っ立っているのが見える。おそらくこれが蛍光体で、こいつにレーザーだのプラズマだのが当てられて光を発しているのではないだろうか?(適当なことを言ってるだけなので、間違っている可能性があります)
●LEPは、LEDの特徴である省エネ、長寿命、信頼性、瞬時の減光能力を持ち合わせ、LEDよりも高い出力と指向性、太陽の光に近い高い演色性(CRI:Color Rendering Index)を持っていることが特徴だ。
→故に、自動車や屋外照明の他にも、漁業や農業への活用にも注目され、米国を中心に研究開発が進んでいる。
●とは言え、一般にはまだ山のモノとも海のモノとも知れない物だ。こんなものを懐中電灯に載せ、遠距離照射重視の極端な性能の懐中電灯を作る辺りがさすが中国だ。挑戦的な野心を感じる。
→値段も中華製ライトとは思えない300ドルを超える価格だ。まぁ、値段が安くて質も年々向上している中国製懐中電灯メーカーが非常に多い現代では、このような極端な製品を出すのも一つの戦術だろう。
●レンズは遠距離照射重視のその他懐中電灯同様のポコンとした凸レンズだ。
●そのレンズとユーザーを脅威から守るようにストライクベゼルが付いている。
●それにしても、近年ではあまり見ない非常に攻撃的なストライクベゼルだ。かつて売られていたシュアファイヤー製のヤマアラシを彷彿とさせる。こんなもので殴られてしまっては、頭の中身を公開することになりかねない。
●攻撃的だが、付け外しのできるストライクベゼルは、カメラのレンズフードのように逆さまにして装着することも可能だ。さっきまでの攻撃的な外観から、何だか可愛げのあるポップなデザインになる。
●ボディ形状は、放熱板やローレット加工がビシッと付いている無骨な形状だ。テールキャップや、後述する充電端子カバーのようなひねって回すキャップ部には斜めのローレット加工が施されている。
●クリップは中華製ライトによく見られる形状。クリップの保持力はそこそこといった感じ。
●ACEBEAMの懐中電灯に多い特徴だが、このライトはよくある1インチ径(2.54cm)のチューブで、CR123Aや18650電池をポンポン入れるものよりも若干太く、2.58cmだ。
●それは、このメーカーが多くの製品で使用を推奨している21700充電池を使うことを前提としているからだ。21700は、懐中電灯用の充電池としてポピュラーになった18650充電池よりも若干長くて太く、大容量だ。
●18650電池を用いるには、付属のスペーサーに挿入して使用する。この手のスペーサーは樹脂製のものも多いが、こちらはアルミニウム製の良い作りのものだ。
●付属の18650用のスペーサーではスカスカになるが、CR123Aリチウム電池2個でも使用可能だ。
●テールボタンは、カチッカチッと小気味良いクリック音で、少し柔らかめだが適度なテンションだ。光量調整やストロボ機能などは一切なく、ONとOFFのみのシンプルなものだ。
●遠距離を照らしだすサーチライトとしての役目のライトなので、このような超シンプルな機能のみに絞ったのだろう。
●放熱板の下のローレットを回すと、Oリングで防水処置をされたUSB Type Cの端子が出てくる。これにより、電池を入れたままでの充電が可能となる。私としては、このような機能は余計な故障の原因にもなるので、あまり好みではないが。
●全長は14.9cmで、ボディ形状と相まって、厚手のグローブをしていても持ちやすいサイズだ。本当にこんなボディから、1000メートルもすっ飛ぶ光が出るのだろうか?
100メートル先の反射板を取り付けた自転車に向けて照射。後ろの森までは150メートル。
中心部拡大画像
●いつもの公園にて照射。凄まじいスポット光であり、こんな100メートルそこらでは余裕すぎる。
→実際はある程度の周辺光や外縁光もあるので、ここまで周囲が暗いわけではないのだが、カメラの設定上(ていうか私の腕の問題か)中心部を実際と同じ明るさにした場合はこう写ってしまうのでご了承を。
●中心光は100mで直径約8m前後に収まるほどのスポット(公称値は10メートルで70cm)。どこまでも飛んでいきそうなスポット光であり、昼間ですら25メートル前後までは視認可能。
●凄まじいスポットではあるが、ルーメン数値そのものは250ルーメンとそこまで大きいわけではない。肌に密着させて照射してもあまり熱く感じない。
●参考までに、同じ条件下のもとで撮影したSUREFIRE XH30ウェポンライト。こちらは1000ルーメン。
●15メートル先のベンチに向けて照射。見て分かる通り、こんな距離で使うようなライトではない。
●写真では凄まじい中心光ばかりで、まったくもって周辺光等のない配光パターンに見えるが、実際はタイトな中心光の周りに2.5倍くらいの大きさの周辺光があり、その外側に明るい日輪が形成され、そこから先はまるでSUREFIREのTIR系によく見られる暗くて広大な外縁光が見られる。その様子は下の写真を見て欲しい。
●この写真は画像編集ソフトで、ブライトネスをいじったものだ。周辺光と外縁光は、実際にはこんな感じで照射される。
→しかいすごい写真だ。まるで、宇宙戦争のトライポッドがベンチを光線で焼き尽くしているような写真である。
●故に、スポット光のみの超使いにくいライトという感じではなく、暗くて広大な外縁光は出ているので、広くて障害物のないグラウンド等ではこれで散歩できる。
●とは言え、こんなもので暗い森や屋内を歩くのは使いにくいことこの上ないのでやめたほうがいい。やはりこれはスポットライトであり、武器だ。
※実際に肉眼で見た明るさに合わせています。見えにくい場合は画面の明るさを上げてください。
15メートルは当然のこととして、100メートルそこらではこんなライトの真価は発揮できない。やはり公称値通り、本当に1000メートル先まで届くのかどうかが気になる。ということで、
●高台に登り、1100メートル先の鉄塔に照射してみた。上の写真は、実際の明るさと同じように設定して撮影したものだ。肉眼ではあるのか無いのかわからない1100メートル先の鉄塔が、薄っすらと照らし出されているのがわかる。どうやら照射距離1000メートルの謳い文句は大げさな表現ではないようだ。
●こんな小さなライトで1000メートルを超える照射距離を出せているのはすごいことだ。従来なら、もっと大きなリフレクターが必要だ。明るい周辺光も無く、暗順応も阻害されにくいので、ハンティングや警備等での使用も運用次第では面白いゲームチェンジャーとなるかもしれない。
→この明るさを21700充電池なら3.3時間、CR123A×2個だと1時間駆動できる。
●目に刺さる強烈なスポットで、こんなものを目に照射するのは非常に危険。現にこのLEPはクラス3Bのレーザーとして扱われている。照射パターンやライト形状を見てもわかるように、これは運用次第で武器に近いものがある。よく軍用やデモ等で目潰しにレーザーを用いることがあるが、夜間においてはレーザーよりも中心光が大きいぶん当てやすく、失明させるには長時間の照射が必要だが、視界を完全に奪う程度には明るく、距離も飛ばすことができる。
●このようなスポット光だと、夜間の近接戦闘における簡易的な銃器の照準装置としても使えなくはない。このようなコンパクトなボディならば、改良とアイデア次第では、次世代のウェポンライトとしての使い道も出てくるだろう。